第205話 接触
暇だ……
アレから2週間経ったが一向に接触がない……
誰がって? 当然第12魔王だ。
いずれ向こうから接触してくると思ってたんだが、いつになってもやって来ない。
してこない筈はないんだ、俺達にβアリアの処理を頼んできたんだ、これで終わりの筈がない。
もしかしたら復讐を恐れているのかもしれない、俺は以前、魔王リリスの使徒を発見した時、肩と手を壊し思いっ切り脅した。
俺と対面したら同じ事されると思ってるのかもしれない……
確かに俺は魔王リリスのせいで多大な苦労を強いられた。
それはもう対価としてどんな願いでも叶えて貰わなければいけない程だ。
例えばギャルのパンティーを貰うとか…… 一夫多妻制を認めさせるとか……
まあ、見ず知らずのギャルのパンティーなど欲しくも無いし、一夫多妻制も彼女の許可を貰う必要など無いのだが……
確かに以前なら、魔王リリスを捕まえたらエロゲのような展開を期待していた…… 地下室に監禁して18歳未満は立ち入り禁止の甘美で淫らな大人の拷問をする……なんて想像もしてみた。
しかし今の俺に魔王リリスに対する恨みはない。
神隠しに遭わなければ、未来の嫁達に逢えなかった…… それだけでも感謝してるくらいだ。
もちろん接触してくるという事は、相手にも何かしらの思惑があるってコトだ。
だからといって彼女の手の平で踊るつもりはない、第三魔導学院防衛はお互いの利害が一致したから良い、それについて報酬を要求する気もない。
むしろ向こうから別の要求をしてくるのは確実だ、今の状況に困窮してるのは魔王リリスの方だからな。
αアリア…… γアリア…… 妖魔族…… そして第3魔王マリア=ルージュ・ブラッドレッド……
一人の魔王にどうこうできるレベルじゃない。
相手も一人の魔王だが、保有する戦力の質と量が違いすぎる。
魔王リリスは今まで正体を隠してきたことが裏目に出たな。
せめて創世十二使が動かせれば…… いや、ダメだろう、少なくとも俺と琉架は自由に動かせない。
彼女にどれだけ手駒があるのか分からんが、使徒リーマンを見る限り大して役に立ちそうにない。
魔王同士の一騎打ちならば、或いは可能性はあるだろうが、相手が南極に引きこもっていては、手の出しようがない。
そんな訳で第三魔導学院は今局所的に平和だった。
少なくとも突然、魔王軍がやってくることはないだろう。
しかしいくら平和だと行っても、能天気に遊んだり、人目を憚らずイチャイチャデートをするワケにはいかない。
先の事件では被害も出てる、イチャイチャするなら密室が望ましい。
そんなワケで俺の研究室には5人の魔王が入り浸ってる、別にイチャイチャしてる訳じゃ無いが。
余暇の過ごし方は人それぞれだ。
白とミカヅキはギフトのトレーニングを行っている、コレはシニス世界の時と同様だ。
二人とも完全制御はまだまだ先の話だ。
ミラはこちらの世界のお勉強、大和各地の美味い物、特に魚介系の特産物の予習に精を出してる…… まぁ、勉強と言えないことも無い。その内皆で何か食べに行こう。
そして俺と琉架はここ半年余りの新聞を読んではいるが、正直に言えば暇つぶしだ。
完全に暇を持て余してる。
そう言えば昨日、俺達に護衛の依頼が来た。
なんでも船の護衛だそうだ、島国である大和はどうしたって海を渡らなければ貿易できない、しかしアリア出現後、海には魔物が出るようになった。
数はそれほど多くない、海は広いからな。しかし現れる魔物の種類によってはタンカーですら沈められる事があるらしい、特に厄介なのは巨大タコの魔物らしい……
またか…… どうせ期待外れに終わるんだ…… アイツ等はいつもそうだ。
しかし納得いかないのは鉄製の船を沈められるタコの存在だ、シニス世界では基本的に船は木製だった。にも拘らず船が魔物に沈められたなんて話は聞いたコトが無い。
それも恐らく対策の差だろうな、シニス世界には船の護衛専門のギルドなんてのもあった。
デクス世界で船の護衛と言えば、小銃やロケットランチャーで武装した海賊からか…… シニス世界を見習ってほしいモノだ、あっちの海には海賊なんか出なかったぞ? その代り海は淫乱糞ビッチに支配されていた、下手な事をしたら戦争になりかねないからな。
まぁ海賊の事はどうでもイイ、寿司屋に滅ぼされた海賊も居たなんて噂もあるからな。
当然 俺はこの依頼は断った、我々D.E.M. は既に解散している、名目上は活動休止だが、D.E.M. は分解され俺のハーレムとして再構築されたんだ、除外メンバーは当然除外される。
例え第2魔王の依頼でも請ける必要は無い。
俺達の代わりにチーム・レジェンドを勧めておいた、彼らが水上戦をできるかは知らないが…… まぁ大丈夫だろう。
「ねぇ神那、どうして護衛依頼断ったの?」
「ん?」
「私たち、今は特に忙しくも無いし、請けても良かったんじゃないかな?」
確かに暇を持て余してる、だったら世の為人の為に働くのも悪くないかもしれない、アルスメリアでは俺達はお尋ね者になってるだろうし、少しでも善行を積んでおくのもアリだろう。
しかし……
「いや、今は待ってる状態だから、仕事を入れるワケにはいかないんだ。
そもそも俺に船の護衛などできるハズが無い…… 酔うに決まってる」
「あ~~~…… そっか、それがあったね、船酔いでダウンしている神那も可愛いんだけど、護衛の任は務まらないよね」
可愛い? この世界を統べる十二魔王の一角 “禁域王” 霧島神那が可愛いとな?
ならば俺もまばたきする度にバッサバッサ風が起きそうなくらいタップリつけまつけて、やり過ぎってくらいゴテゴテのネイルを付けてみるか。
…………
なんかイメージが貧困だな、止めよう、ウチの娘達が真似したら大変だからな。
みんな元々まつ毛長いし、爪も健康的なピンク色だ、素材が極上だから手を加える必要が無い。下手に素人が手を出して、目が毬藻みたいになったり、爪がクリスマスツリーみたいになったら困る。
みんながデクス世界の文化に触れて間違った方向へ行かない様、俺が常に目を光らせないといけないな。
俺の好みは可愛い娘の薄化粧だ、もっとも全員 素が良いから厚く塗る必要が無い上に、魔王化による副産物でお肌の悩みは永久に無縁になった。
自己再生機能のついている魔王の肌とは美しい物なのだ…… 女魔王に限るけど。
男魔王はその限りでは無い、ブサイク生物がいたり、全身毛むくじゃらだったり、魔王グリムは顔に傷があったな。
つまり魔王になる前の素材が悪かったり痛んでたりすると、魔王化後もその特徴が受け継がれる……
ん? そう考えると少しおかしいな? 俺が魔王レイドを倒した時、手首を切った傷跡が残ってたハズだが…… 当然俺の手首にはリストカットの痕など残って無い、完治後の古傷だけが残るのか? うむ、分からん。
まぁそれはどうでもイイ。
つまり何が言いたいのかというと…… みんなは琉架や、琉架のお姉様を目指すのが望ましいってコトだ。
スポーツ少女系の小姉様も…… アリなんだけど、ウチの子達は性格的に向いてない。
あれ? 何の話をしてたんだっけ? ずいぶん脱線してしまった。
「神那は誰か来るのを待ってるの?」
そうだった、その話だった。
「あぁ、第12魔王からの接触を待ってる」
「第12魔王…… あのスーツ着てた使途?」
「アイツが来るとは限らないんだけど……」
……ィィィン
「ん?」
「あれ?」
遠くから大きな音が近づいてくる、と言うより真上から近づいてくる……
ィィィィィイイイイイイン!!!!
「ウルセェーーー!! 何だコレ!!?」
俺と琉架のお喋りタイムを邪魔する様に、突然轟音が響き渡る!
あ、白がクッション被ってる、まるで大地震でも起こった時みたいだ。その気持ちはよく分かる。
尋常じゃない程の音だ、それだけじゃない、窓ガラスが今にも割れそうなくらいガタガタ言ってる!
「ちょっ!? ナニコレ!?」
「ぅるさ……!!」
「ノイズキャンセリング」
突然轟音が消えた。
「これは…… ミラ?」
「部屋の外から来る音波を相殺してみました」
神曲歌姫か、こんな使い方もできたんだ…… そうだよ、第6魔王の唄だってキャンセルできるんだ、ただの音を消すくらい訳無いよな。
「助かったよミラ」
「いえ、私もこんな使い方ができるとは思いませんでした」
しかしなんだったんだ今のは? 校庭の方か? 研究室からは直接見えないが、校庭で何かが起きているようだ。
「あ~~~耳が…… 今のなんだろ? また第3魔王が何かしたのかな?」
「いや…… 今の音はエンジン音だ、それもジェットエンジン…… 恐らく……」
念の為、見に行ってみる。敵の可能性は低いが万が一と言う事もある。
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校庭には巨大な箱型の物体が止まっていた。
その様子を学院に来ていた生徒と教師が遠巻きに見ている……
初めて見る機体だが…… 垂直離着陸機(VTOL)か? それにしてはかなりデカい、30メートル近くあるんじゃないか?
見た目はティルトローター式のオス○レイっぽいが、ローターは使ってない。
そう言えば昔見た新世紀アニメにあんな感じの垂直離着陸機が出て来たな。
「あんなの昨日まで無かった…… おに~ちゃん…… アレナニ?」
「あぁ、飛行機の一種だよ、アルスメリアで見たヘリコプターよりお高いヤツだ」
ローターも付いてないしシニス世界出身組にはUFOにしか見えないだろう。てかデクス世界出身者でもあの機体は誰も見たコト無いんじゃないか?
実際、教師も生徒も誰一人近付こうともしない。アポなしで突然現れたのか? 電波通信が使えない状況ではそれも仕方ないが……
あのVTOL、もしかしてアルスメリア軍の機体か? よくよく見れば機関砲にミサイル多数、完全武装している。
あの装備に加えて風域魔術の使い手が乗り込んだら、パシフィックくらい飛び越せるかもしれない…… 例えばリズ先輩? だとしたら…… かなりマズイ。
いや、リズ先輩は今頃、虫探しで忙しいハズ、わざわざ俺達を捕まえに大和まで来るとは思えない。
まぁリズ先輩じゃなくってもアルスメリア軍はマズイ、俺達の疑いを晴らす証拠は未だ無いからな…… 最悪の場合は乗組員全員の記憶をミラに書き換えてもらうか。
そのまましばらく見ていると、ハッチが開き二人ほど降りてきた、一人は軍服を着ている男、もう一人はスーツ姿の女だ。どちらも大和人では無さそうだ。
その男女に向かって誰かが小走りで近づいていく、頭を押さえている所を見ると教頭かな?
今はエンジンも切られてるし、そこまで慎重にならなくても…… 俺が帽子を飛ばしたのがトラウマになってるのかな? だったらゴメンナサイ。
しばらく何かを話すと二人の男女は教頭に連れられて中央校舎へ入っていった、教頭が妙にペコペコしてたトコロを見るとお偉いさんなのかな?
「もしかして神那の待ち人かな?」
「さぁ…… 俺の思ってたのとだいぶ違う登場だからな」
その言い方はやめて欲しい、まるで俺の想い人みたいじゃないか…… 俺が恋焦がれているのはいつだって琉架なのに、肝心の本人には伝わらない。
よくよく考えたら告白とかしてないからな…… なんか今更な気がするし…… いや、何時かはしよう、男からのプロポーズも無しに嫁に迎える事は出来ん!
プロポーズを断りにくい状況を今の内に用意しておこう、フラッシュモブとか大人数で追い込み漁をして、100人くらいがガン見してる中でプロポーズする! この状況では逃げられまい!
もっとも100人に囲まれたら、琉架はその時点で逃げ出すかもしれないが……
………… てか、前提として友達居ないから無理か?
俺達はその様子を見守った後、研究室へ戻った。