第204話 新装備
最近、毎日のように学校へ行ってる。
未だに授業が再開されてない学校へだ、理由は実に単純だ。自宅に居たくないからだ、リビングではジークがウチの親にシニス世界の話をしているのだ。
ジークじいさんの話は長い…… 流石に500年も生きていれば話は簡単には尽きない。
そういえば前回の帰還時、俺は家族に向こうの世界のことをあまり話さなかった。
いや、正確に言えば話せなかった……だ。シニス世界のことを語ろうとすると、向こうに残してきた嫁達のことを思い出して涙が止まらなかったからだ……
今回の帰還ではみんなを連れてきた、今は俺の側におらず、その代りに何故か汗臭い筋肉がウチに居座っているが、今なら涙を流すことなくシニス世界の話をできる。
まぁわざわざ俺が話す必要ないか……
かつての俺と違い心の傷を持たないジークはシニス世界のあらゆる事を伝えている、世界情勢、魔物関連、12種族の特徴、そして魔王のこと……
まるでファンタジー小説を読み聞かせしてるかのようだ。あんな創作小説みたいな話を一緒に聞いていたら俺は寝てしまうだろう。
もちろん一方的に話している訳ではない、ジークはウチの親からデクス世界の話を聞いている。
この世界の常識・非常識、世界情勢、文化……
ジークには早くこの世界の常識を身に着けてウチから出て行ってもらいたいトコロだ。常識を身につければ適当なホテルにでも放り込んでやればいいんだからな。
そんな訳で賢王のデクス世界・常識学習講座を親に丸投げし、俺は俺の調べ物を優先している。
ちなみに伊吹は毎日友達に会いに行ってる、毎日訪ねて行ったら迷惑だろ? と、思ったが、もしかしたら毎日違う友人の元へ行ってるのだろうか?
そんなまさか…… もう七日目だぞ? ま…まさか、アイツは友達が7人以上居るというのか!?
バ…バカな…… 信じられん……! 友達ってドコに売ってるんだ!?
と、冗談はさて置き、学院の敷地は昨日から一般生徒にもようやく開放された。俺は特別生だから一般生とは違い、自由に出入り出来ていた。
但し西校舎だけは今だに全面立入禁止だ。俺の研究室は中央校舎にあるので問題ないが。
俺がわざわざ学院にまで来て何を調べているかといえば、この半年ほどの世界情勢についてだ。
なにせネットが世界と繋がってないからアナログな方法で調べないといけない。つまり新聞だ。
学院のサーバーには世界中の新聞のデータが保存されている、もちろん世界各国の新聞は特定の日を境に更新が途絶えているが、国内分に関しては問題ない。
但し学院の新聞部の過去の壁新聞データにアクセスすると、何故か『気持ち悪い壁新聞』のページに飛ばされる、しかも妙にアクセス数が多い…… この学院、一度滅んだほうが良かったんじゃないかって気がする……
一応新聞部の部長に教えておいてやるか、第三魔導学院で起こった出来事も知りたいし。
新聞部の部室は西校舎にあったため、外部からページの修正ができずデータも手に入らなかった。
但し部長が個人的に持っていた過去半年分のバックナンバーを貸してくれた、その新聞を受け取った直後、部長は女の子の名前を叫びながら走り去った…… きっとあの『気持ち悪い壁新聞』の犯人を捕まえに行ったんだろう。
多分あのミューズ・ミュースと同じ色のオーラを持つ女の子だ。
あんなのに学院が支配されないよう是非とも頑張って欲しいものだ。
ちなみに半年前の壁新聞は、4回に渡って『特別生失踪事件』特集だった。
『特別生の2/3が消えた!! 神のイタズラか悪魔の罠か!? 彼らは無事なのか!? そしてドコに行ったのか!? この事件の真相に迫る!!』みたいな見出しが踊っていた。
いや、神隠しだよ、記事にするために謎の失踪みたいな書き方してるが、あの状況はどう考えても神隠しだろ?
およそ2ヵ月にわたって一面を飾っていた神隠しの記事は、その次の号からは綺麗サッパリ消え失せ、アリア関連の記事に差し替わった。
大和人は熱し易くて冷め易いからなぁ…… 何となく負けた気分だ。
とにかく新聞を端から読み進めていく、とは言え世界中の新聞を全て読んでなどいられない、なので信頼性の高い新聞社と、南極に近い南半球の国の新聞をより抜き読んでいく。
すると一つの記事が気になった……
半年前、αテリブルが活発化した直後、南極を調査するために国際連合が部隊を出したらしい。
ダラス校長の話には出てこなかったが有人探査も行っていたのだ、しかし帰って来た者は一人もいない……
ただカメラだけがアウスレイリアの海岸に流れ着いたそうだ、そしてそこにアリアの姿が映されていた……
その直後、アウスレイリアの全ての街が音信不通になってしまった……
…………
なんか…… ワザとらしくないか?
如何にもシナリオ通りの展開って感じがする。
カメラに映されていたのは本当にアリアだけだったのだろうか?
その時アウスレイリアに居たはずのザックとノーラはどうなってしまったのか?
結局、新聞からは疑問の答えを導き出す情報は得られなかった。
こうなってくると、全ての事態を把握しているであろう人物との接触が必要になってくる。
ただし現状ではこちらからコンタクトは取れない、仕方が無いので向こうからの接触待ちだ。
「ふぅー……」
これ以上読んでも大した情報は得られそうにない、分かった事と言えば世界中が危機的状況にあるという事だけだ。
もう親戚連れてシニス世界に移住した方が良いんじゃないか?
あぁ、そう言えばこの情報をシニス世界に伝えるべきかな? 新天地を求めてこっちへ移住してきた人にとっては詐欺もいい所だ、居なくなった筈の第3魔王が居るんだから…… まるで『地上の楽園』と言う名の地獄だ。
コンコン……
その時、研究室にノックの音が響いた。
この部屋に客? 可能性があるとすれば琉架か伊吹かレジェンド大好きクラブのサポーターくらいだが…… 教職員はこの部屋へ来ることを極力避ける傾向があるからな。
伊吹がわざわざノックするハズ無い、普通に入ってくる。
天瀬先輩・真夜コンビもこの忙しい時期に尋ねては来ないだろう。
ならば……
ガラ……
「あ、神那みつけた♪」
女神降臨、6日ぶりの琉架成分を補充しなければ!
見れば琉架の頬も心なしか赤くなってる、そうかそうか、琉架も神那成分を存分に補給してってくれ。
「電波使えないのって……不便だね、携帯が使えないから神那の自宅の有線回線に電話に掛けちゃった…… 神那のお母様と初めて話しちゃった///
こ……今度ご挨拶に伺ったほうが良いかな?」
顔が赤かったのはそれが理由か…… ご挨拶って…… それが上流階級の常識なのだろうか? そんなの気にしなくて良いんだが、女神が我が家にやってくるのを拒否る理由はドコにもない。
つまり何時でもオイデマセだ、歓迎パーティーを催すより、女神降臨を祝う神事として厳かに迎えよう。
ただしその前に実家を1億ENくらい掛けて神殿風にリフォームするかな? 神を迎えるにはあまりに見窄らしい家なので……
「そう言えば俺が琉架の家に行ったことはあるけど、琉架をウチに招いたことって無かったな。
挨拶とか気構えなくていいからいつでも来てくれ、ただし先に言っておくけどウチは琉架の実家と比べると物置みたいなものだから」
「い…行ってもイイの? そ…それじゃあ今度、お…お邪魔させて頂きましゅ///」
琉架の口の端がピクピクしてる、ニマニマしたいのを我慢してる感じだ…… 実に可愛い。
そして俺も顔がニヤけそうになるのを我慢している。俺の顔はきっと気持ち悪いだろう。
「それで琉架、みんなはなんで入ってこないんだ?」
そう、廊下には他に3人分のオーラが見える、その全てが魔王のモノだ。
「あ、うん、どうせなら一斉にお披露目しようと思って」
「お披露目?」
琉架がみんなを招き入れる……
なっ!? こ…こ…ここ…… これはぁーーー!!??
「「「…………///」」」
三人とも第三魔導学院の制服を身に纏っていた!
見た目は完璧にJC、JK、JKだ! いつか皆に制服を着せようと思っていたがこんなに早く夢が叶うとは! コレも俺の日頃の行いがイイからだな。
何が良いって琉架も含めて全員ミニスカなのだ!
ウチの女の子(シニス世界組)たちは基本的にミニスカを履かない、白は足首近くまである着物だし、ミカヅキもヒザ下まであるメイド服だ、ミラに至っては俺のせいで引き摺る勢いの超ロング。
御御足が素晴らしい、しかも全員装備品が違う!
白は足首丈下のスニーカーソックス、生足を惜しげも無く晒している!
ミカヅキは膝下丈のハイソックス、一番オーソドックスにして一番安定感のある装いだ!
琉架は以前から愛用している膝上丈のオーバーニーソ、いわゆる絶対領域が発生する超人気商品だ!
そしてミラはパンストだ、一番露出が少ないのに妙な色気があるアレだ!
例えるならRPGなんかで稀にみられる三人娘の法則だな、一人は年上、一人は同い年、一人は年下、タイプを分ける事により万人の需要を網羅する事が出来る! 最終幻想の女性仲間キャラに見られる法則だ。
実に素晴しい! ありがたや~! ありがたや~!
ちょっとそこに並んでもらえるかな? 携帯の待ち受けにしたいんで……
「あの…… カミナ様?」
はっ!? イカンイカン、ガン見してた。
俺は禁域王として、新しい衣装に身を包んだ彼女たちにコメントを出さねばならん立場だった!
「うん、良いと思う、きっと似合うだろうなと思ってたけど、想像以上に似合ってる。あぁもう! 超可愛いよ!」
俺の口からは絶賛の言葉が淀みなく出た、先輩や伊吹に言ったらキモがられる言葉だ。
「ぁう…… ありがと……///」
「光栄ですマスター///」
「あの…… ありがとうございます///」
三人ともテレてる…… うむ、その顔が見れて俺も満足だ。
「むぅ…… 神那、私の時にはそこまで行ってくれなかった……」
おぉう、琉架が拗ねてる、今の言葉は4人に向かって言ったつもりだったんだが……
俺の想いは口にしなくても伝わると思っていたが、それは思い上がりか…… 言葉にしなければ分からない事なんて幾らでもある、それに女の子って褒められるのが好きだよな? いや、女の子に限った話じゃ無い。ちょっとくらいオーバーでも褒められるのは気持ちいいモノだ。
なので今度は琉架個人に向けて褒め殺しを行う。
すると案の定、琉架は直ぐに顔を真っ赤にして「もう分かったよぅ///」と小声で訴えてきた。
実に可愛い…… 今後も殺してしまわない程度に褒めていこう。
ちなみに琉架は当然だが、ミカヅキとミラは高等部の制服だ、白は先輩や伊吹と同じ中等部の制服を着ている。
年齢的には正しいんだが、この姿を見せた時、先輩がどんな反応をするか予想できない…… 白とお揃いの事に少なくとも喜びはしないだろうな。
「それにしてもこの服ってどうしたんだ?」
「うん、お姉様たちが何か張り切っちゃって、全員分の服を何処からか仕入れてきたの。
まるで着せ替え人形でもしてるみたいでちょっと困ってるんだ、私は慣れてるから良いんだけど……」
どうやら琉架は以前から日常的にお姉様たちの着せ替え人形にされてたらしい……
俺もそのお人形遊びに是非とも混ぜて欲しいモノだ。
遊ぶ方でも、遊ばれる方でも、どっちでもOKだぞ。
「シニス世界のファンタジー風の服はコッチでは目立つから……」
確かに俺もみんなの衣替えは考えた。
しかし目立つという事は改善されていない気がする……
ミラは人族と見た目が変わらないからまだマシだ、しかし大和では目立つ美しい金髪、何より誰もが振り向くほどの美人だ。
ミカヅキは水色の髪と角だ、ついでにその豊満なボディーも男の目を引く。
そして何と言っても白だ、真っ白な髪と真っ白な肌、そして獣耳とシッポ、街を歩けば10メートルおきに「写真撮らせて下さい」って声を掛けられる…… 俺だってそうするだろう。
彼女たちが一人で街を歩くのはずっと先の話だろうが、なるべく集団で行動する事を進める。
出来れば俺が一緒に居る時…… 最悪、ジークを連れて出歩くのもアリだ。あの巨大筋肉が隣にいれば常に威圧感が垂れ流されるからな…… その状況でナンパする奴が居たら褒めてやるよ、その後で半殺しにするけど。
既にシニス世界からの入植者も存在するが、その数はまだまだ少ない。
目立つのはどうしようもない。
そう言えばジークにもデクス世界用の服を与えないといけないな…… タンクトップでイイか?
コレから秋だけど…… まぁ奴ならタンクトップで冬を越せるさ。
目立つのはどうしようもない。
こうしてみんながデクス世界用の新装備を手に入れたのだった。
ちなみに俺の装備はいつになっても据え置きのままだ、伝説の剣が見つかる見込みは無い。