第203話 計算外
ミニアリアによる第三魔導学院襲撃事件から一週間がたった……
街はまだ色々騒がしいが、一応の平穏を取り戻した。
ココでこの一週間に起こった出来事を話しておこう……
まずは何と言ってもミニアリアの件だ。
どうやらアレはβアリアだったらしい、つまりNYを壊滅させた奴だ。
世界中をフラフラ廻りたまたまココに辿り着いた…… のだろうか?
使途リーマンの証言では、明らかに第三魔導学院を狙っていたように聞こえた。
実際、大和には高天市より大きな町はある、海からこの街に至る道筋にだって政令指定都市はある、にも拘らずβアリアはそれらには脇目も振らず一直線にココへ来た。
蹂躙し甲斐のある大きな町には一滴の雨も降らさずに…… どう考えたって偶然じゃ無い。
それも当然だ、γアリアが魔導に関連する地を優先的に破壊している、βだって魔科学都市の近くを通れば壊しに来たって不思議はない。
こうなってくると内通者の存在が気になって仕方ない、誤情報をハゲ校長に流してるって話だが、冷静になって考えてみるとハゲ校長の知り合いなんじゃないか?
全てが明らかになった時は、ハゲ校長にも責任を取ってもらおう。
この件はリズ先輩の調査に任せるとして……
妖魔族の青年・カネダ(仮名)捕獲後、約5時間程で高天はアリアの影から抜け出した。
その間、追加の雨が降ることも無く、そしてカネダ(仮名)を助けようとする者も現れなかった。
当然だろう、もう雨粒は残って無いのだから…… そしてアイツを助けられる弾もない。
見た目お坊ちゃんっぽいカネダ(仮名)は、アッサリと見捨てられたのだった……
仮にアイツが本物の妖魔貴族の公子だとして、100万の魔物・魔族を一瞬で滅ぼす相手がいる地上へ助けに来れるだろうか?
否だ、満月の日だったらきっとドヤ顔で現れ、人族を下級だ最下位だと蔑んできただろうが、不死身のアドバンテージが無ければ途端にチキンになる、それも仕方の無い事だろう。
まぁ、あんなバカな行動をする奴など俺でも見捨てる。
無策で魔王に突っ込み、その挙句アッサリ操られて仲間を全滅の危機に陥れたバカを思い出す……
その後ミニアリアは海へと抜けた、光学観測ではそのまま真っ直ぐ北に向かったらしい。
γアリアと合流して弾を補充するのか、地球を一周ぐるっと回って南極へ逃げ帰るのか…… それは分からないが今のβアリアに戦力は残されて無い、やろうと思えば軍による制圧も可能だろう。
もっとも通信が出来ないから他国にその情報を伝える事は出来ないんだが……
ちなみにカネダ(仮名)は気絶から目覚める前に、レイフォード財団・大和支部の人間が連れて行ってしまった。
なぜレイフォード財団だったんだろう? オリジン機関の大和支部は残っているハズなんだが…… まぁいいか。
次に被害状況について……
住宅や校舎には多少の被害は出たが、竜巻や地震なんかに比べれば全然少ない。
壊れた建物についてもこちらに損害賠償が回ってくることは無さそうだ、どうやら市が全額負担するらしい、被害が少なかったからこそできる救済だな。
しかしコレはあくまで物的な被害の話だ…… 問題は人的被害、つまり犠牲者だ。
俺達が駆けつける前、突撃艇が街と校庭と西校舎に落ちた。
街への着弾地点、その周辺住民にケガ人は居たが死者は出なかった、魔物が出てくる前に直ぐに逃げたのが良かったのだろう。
同じく校庭に着弾した突撃艇では、こちらもケガ人は出たが死亡した者はいない。
問題は西校舎だ……
突撃艇が着弾した時、授業は終わり放課後の時間だった。
その為、校舎内に残っていた人の数はそれほど多くなかった…… が、残っていた生徒・教師の八割、およそ150人が殺されるという結果になった。
この数字はまだ確定では無い、死体は損傷が酷く未だに確認が終わっていないのだ、恐らく行方不明になっている残り20人もここに追加されるだろう。
平時であれば廃校になってもおかしくない程の大量虐殺事件だ。
如何に犠牲が最小限に抑えられたと言っても、遺族にとっては死んだ家族が全てだ。
しかしこんな世界状況だ、納得できなくても無理にでも納得してもらうしかない。
どうもシニス世界の感覚に慣れ過ぎていてピンとこない。
人が唐突かつ理不尽に死ぬことは当たり前な気がする、あくまでも自己責任であり誰かに責任を求める事こそ間違っている気がする……
今回だって悪いのはβアリアの妖魔族であって、学院の責任じゃないと思う……
せめて俺達の所にそう言う輩がやって来ない事を祈ろう…… 「お前達がもっと早く来ていれば!」とか言われてもどうしようもないんだから。
そうそう、学院に関しては未だに授業再開の目処は立っていない。
浮遊大陸アリアがデクス世界に現れて半年、その間も多少のカリキュラムの変更はあったモノの、授業はちゃんと行っていたらしい。
ちゃんと進級できるか確認に行かなければな、後輩な先輩に追いつかれてしまう。
次に世界情勢だ……
と言っても全然情報が入って来ない、テレビも見れなければラジオも聞こえない、唯一ケーブルテレビとネットの一部が生きているだけだ。
ウチはいつの間にかケーブルテレビに加入してた、聞けば大和でも数ヵ月前から電波が使えなくなったらしい。
またネットも、海外にサーバーを置いていたサイトは全滅、国内の情報しか得られなかった。ちっともワールドワイドじゃ無い。
しかしそれでも貿易が完全に停止した訳では無い、パシフィックを越えてやって来る船は無くなったが、近くの国とは辛うじて船の行き来が行われている。
大和は食料自給率が低いし、完全に海が閉鎖されたらかなりマズイ事になるのは明らかだ。
こんな事ならβアリアを制圧して、輸送船代わりに使えば良かったかな? 流石にそこまでしたらマリア=ルージュも黙って無いだろうが……
とにかく現状の大和は危機的状況にある、空も海もいつ魔物が出てくるか分からない、特に空が厄介だ、旅客機が飛行中にドラゴンにでも襲われたら、乗客乗員は誰も助からない。
これはシニス世界と同じ現象だ、ならばせめて海路だけでも安全を確保したい所だ。
なので今、大和では対魔物用の大型貨物船の改修と増産が急がれてる。
つまり他国へ行きたければ船を使えという事だ…… うん、俺は一生大和から出ないで生きていく事になりそうだ。
それとも揺れない大型客船とかなら大丈夫だろうか?
難しそうだ…… 俺の船酔いは筋金入りだからな。
とにかく世界中がこんな状態である為、俺と琉架の裏切り者疑惑の情報が伝わることは無さそうだ。
そして最後にD.E.M. メンバーの事だ……
コレこそがここ一週間での俺の最大の悩みだ。
何故こうなった?
βアリア襲撃事件翌日…… 俺は半年ぶりに自宅に帰ってきた。
ウチの両親は大講堂に避難していたらしく、モニター越しに俺と伊吹の生存・帰還を知ったそうだ。
俺達が教師陣に捕まりいろいろと話を聞かれている間に自宅に戻ったらしい。
シニス世界で俺が所有する屋敷の1/10位しかない…… それでも俺にとっては大切な場所だ。
何故ならデクス世界にはネットがあり、パソコンにはエロ画像フォルダが残されているのだから!
帰って来れて良かった…… 本当にッ……!
そんな我が家を並んで見上げる。
俺の右隣には我が不肖の妹、伊吹が……
そして左隣には…… 何故か筋肉の塊があった。
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「おにーちゃん…… 何でこうなったの?」
俺が聞きたいよ。
半年ぶりに我が家のリビングに四人家族が勢ぞろいした。
両親は伊吹の無事を大いに喜んだ、対して俺の事はあまり心配して無かったらしい…… どうせその内ヒョッコリ帰ってくると思われてたようだ。
扱いの違い、あまりにも温度差があるからグレようかと思ったが我慢した。妹の方が可愛がられるのは宿命だからな。
そんな亜熱帯と極寒が混じり合ったような空間に、招かれざる客が一人……
そう、不能界の生ける伝説! ジーク・エルメライ(500余歳)だ!
「それでジーク…… お前何でココに居るんだ?」
「うむ、デクス世界では行くアテが無いからお前達の所に厄介になろうと思ってな」
「違う…… そうじゃない…… そうじゃないんだよジーク!
俺が聞きたいのは…… なんで!選りに選って!お前だけが!ココに!居るのか!って事なんだ!」
「あぁ、そういう事か、女たちはルカの所で世話になると言っていたぞ? しかし全員で押しかけては迷惑になる、それで一番体が大きい俺は遠慮してお前の家に来たんだ」
何を言ってるんだコイツは? 頭わいてるのか? お前一人で白4人分くらいの体積があるじゃねーか!
つまりお前が出ていけば、白が4人ウチにホームステイできるってコトだ……
家に帰るとお帰りなさいをしてくれる白……
リビングで俺の膝に乗り甘えてくる白……
一緒にお風呂に入っていい?と聞いてくる白……
一緒に寝ようと枕を持参する白……
よし! お前出てけ!
琉架の家に行かなかった事だけは褒めてやる、しかしウチに来るのはミステイクだ!
「お前せめて先輩のとこ行けよ…… そうすれば…… ミカヅキはメイドとして琉架について行くだろうけど、ミラか白…… 或いは両方をウチで引き取れるだろ?」
「サクラは2年半ぶりの帰郷だ、家族水入らずにさせてやろうじゃないか」
やかましい! この際、先輩の都合なんてどうだっていいんだよ!
ギルマスの名において命ずる! この筋肉ダルマをホームステイさせろと! 安心安全のホームセキュリティーになってくれるさ!
くそぅ! やはりこいつは置いて来るべきだった! お前さえいなければ俺の思い描いた、白・ミカヅキ・ミラが狭い俺の部屋にホームステイする『狭いけど幸せな我が部屋』計画が実現したモノを!!
まぁ実際には琉架の家が豪邸だからみんな向こうへ行った可能性が高いけど……
とにかくジークは今すぐ出ていくべきだ、お前なら公園でも橋の下でも、どこでだってたくましく生きていけるさ!
「まぁギルドで二人だけの男同士だ、よろしく頼む」
「やかましい!! 男は庭で寝ろ!!」
「俺は別にそれでも構わんが…… 良いのか? ご近所から丸見えになるが?」
くっ! ウチの庭が狭いせいで! ウチが魔王城ローン24年残しのせいで!
その所為でこんな筋肉の塊をホームステイさせなきゃならないなんて! 悔やんでも悔やみきれない!!
「こら神那、目上の人になんて口のきき方をするんだ!」
ふぁーざーに怒られた……
ってか目上じゃねーよ、生物的にも、男としても、俺の方が格上だ! 俺は魔王でヤツは不能…… 比べるまでも無い!
「スミマセン、息子がお世話になったのに、どうぞ自分の家だと思ってゆっくりしていってください」
「うむ、ご厚意感謝いたしますぞ」
違うよパパン…… お世話になんかなって無いよぉ~…… むしろ俺が助けてやった……ってワケでもないか、基本的に俺はジークを助けない、俺が助けるのは女の子限定だ。
そもそもジークは不死身だし、助ける必要が無い。
せいぜいラビリンス攻略を手伝わされたくらいか……
「おにーちゃんの交渉が下手なせいだ……」
いやいや伊吹よ、人のせいにするくらいならお前が説得しろよ、目的は同じだろ?
俺達はゲスな思考回路までソックリな兄妹なんだから。
それから一週間…… 結局、呪われし筋肉は我が家に居座り続けている……
朝起きれば日課のランニング上がりの汗でテカる筋肉が出迎えてくれる……
外出から戻れば風呂上がりの火照った筋肉が出迎えてくれる……
ここは地獄か?
おぉ神よ! 俺が一体何したって言うんですか?
せっかく実家に戻って来たのに今までと何も変わらない…… それどころか女の子たちが居ない分、状況は悪化している!
何故こうなった?