第202話 第三魔導学院8 ~攻略・後編~
ワァァァァァーーー!! ワァァァァァーーー!!
第三魔導学院の敷地内の至る所で喧騒が巻き起こる。
炎の渦が薄くなり、結構な数の魔物の降下を許してしまった。
それに伴い学院の其処彼処で戦闘が発生する、魔物の雄叫びに爆発音、そして人の叫び声と悲鳴が聞こえる。
まるで総力戦でも始まったかのようだ。
降下した敵の大部分はココ、校庭に集中している。
その敵の大軍はミカヅキと白が押さえてくれてる。
問題はワイバーンだ、奴ら空を飛んで中央校舎を目指している。
群れで空から襲い掛かるワイバーンはかなり厄介な敵だ、学生レベルでは厳しいかも知れない…… そんな心配をしていた時だった。
突如強烈な下降気流が発生し、空を飛んでいたワイバーンは全て地面に叩き落とされた。
「これは…… 伊吹の超下降気流か?」
ウチの妹はちゃんと仕事をしていたらしい、良くやった! 後でハグしてやる!
ワイバーンが厄介なのはその空中戦闘能力だ、高い機動力を有する飛竜種には攻撃手段が限定され、更に群れで強力なブレスを一斉に吐きかけるのだ、遠距離攻撃力がほぼ皆無な先輩やジークでは歯が立たない相手だ。
しかし地面に落とされたワイバーンは然したる脅威では無い、ワイバーンには前足が無い、正確には前肢が翼と一体化しており、肩から斜め後方に向かって生えている。
要するに鳥っぽいんだ、或いはコウモリか?
しかし鳥と違い、ワイバーンは身体が大きく重い、その為、飛び立つときには高い所から飛び降りる必要がある、つまり地面に落ちると致命的、平地から再び飛び立つ事が出来ないのだ。
後ろ足が発達している為、二本足で立ち上がる事は出来るがその脚力はお粗末なモノだ。
例えるなら…… 空中版のペンギンみたいな感じか?
空を飛んでいる時は凄まじい機動力を誇るが、地上に居る時はヨチヨチ歩き…… ハッキリ言って雑魚だ。
もちろん地上でもブレスは使えるから油断は出来ないが、その戦闘能力は空を飛んでいる時の一割程度だろう。
あっちはD.E.M. の除外メンバーとチーム・レジェンドに任せる。
「対師団殲滅用補助魔導器、超長距離砲撃モード有効射程範囲内の敵への照準固定…… 完了……
射程範囲外への照準…… 座標固定…… 完了」
準備完了、頭がガンガンする…… 超広域で緋色眼を展開したのが脳に負荷を掛けたみたいだ。
くそっ! 妖魔族め! アホになったらどうするんだ!?
理不尽な怒りをドS種族に向ける。
正直二度とやりたくないし変な後遺症があったら困る、しかしアリアはまだ二つ残っている、またいつか同じことをする機会があるかも知れない、その時に備えて魔導器を改良しておきたいな……
もしくはアーリィ=フォレストに頼んで専用の魔道具を作ってもらうのもアリかも知れない、広域センサーっぽい魔道具を探しておこう。
「琉架、ミラ、スタンバイを」
「りょーかい!」
「了解しました」
魔力増幅術式を全開にし、魔術を放った!
「第7階位級 光輝魔術『閃光』レイ チャージ100倍!」
「空の階から至る天の灯火よ、我が呼びかけに応じ闇夜を切り裂く一筋の光を齎せ!
『流星光』 チャージ100倍!」
二人の全力の魔術が魔導器のオーブに注がれる、それと同時に砲塔だけでなく魔導器全体が光に包まれた!
そして……
カッ!!!!
百万本以上の細い光線が放たれる!
その圧倒的な光量によりグラウンドだけでなく第三魔導学院全体が真っ白な光で塗り潰された!
その光線は天へと上る逆向きの光の雨、炎の渦を掻き消し、アリアから降り続ける死の雨を打ち消し、浮遊大陸を貫通して遥か空の果てへと消えていった……
もしかしたら人工衛星が幾つか犠牲になったかもしれないが…… まぁいい、どうせ使えないんだ。
アリアには直径5cm程のくり抜かれたような穴が100万個以上残されていた……
そして雨は完全に止んでいた……
ブシュゥゥゥーーー…… ボン!!
対師団殲滅用補助魔導器が白煙を吹き出し小さな爆発を起こした。
「神那ぁ…… 千年渓谷大橋を思い出しちゃったんだけど…… コレってやり過ぎじゃ無いかな?」
「あわわわわ……」
琉架とミラが狼狽えてる…… 我々が初めての共同作業で生み出した惨劇を目の当たりにして……
確かに状況は似てる、しかしその威力は段違いだ。
琉架の能力値は当時の倍、更にミラとの二重砲撃だ、相乗効果を計算に入れると威力的には数十倍はくだらない。
以前はやり過ぎを咎めたが、今回は俺の指示でやった事だ。コレ位でなければ一発では終わらなかった。
今回は浮遊大陸ごと撃ち抜くため、収束率を極限まで上げたレーザー攻撃を採用した。
その為、学院や街中に降りた魔物にまで気を配る余裕が無かった、校舎を穴だらけにする訳にはいかないからな。
しかし追加の戦力は無い、後は他の奴らに任せておいて大丈夫だろう、俺はもう疲れたよ……
「おに~ちゃん……」
「マスター、こちらの処理は終わりました」
白とミカヅキが戻ってきた、校庭には大量の敵の死骸が転がってる…… 本当に一匹も近寄れなかったな。
「チューオーコーシャの周りに残ってるのも…… 倒しに行った方が…… 良い?」
「いや、必要ないだろ、残ってるのは地に落ちたワイバーンくらいだ、それくらいならみんなに任せよう」
前々から思っていたが、俺達は働き過ぎだ。
デクス世界に帰って来てからも、トラベラーを守ったり、アルスメリア軍を助けたり、浮遊大陸を戦闘不能に追い込んだり……
コレだけやってもボーナスは愚か称賛一つ貰えない…… ヤル気無くすわ!
パラパラ……
魔物の雨は止んだが、代わりに小さな砂の雨が降っている。
いくら5cm程度の穴でも100万個も空けられれば、崩壊する場所も出てくるか……
ボゴッ! ゥゥゥウウウ~~~…… ドゴオオォォォン!!!!
あ…… 5メートル位ある岩が街に落ちた…… ヤバイ、損害賠償請求されるかな?
いや、コレは天災だ、請求書は国へ出してくれ。
もっとも今回の帰還ではD.E.M. 所蔵の財宝を幾つか持ってきている、それを使えば賠償金など簡単に払えるのだが、それがバレるとどこかの宗教から寄付の依頼が来たり、会ったことのない親戚が現れそうで……
やったね♪ 家族が増えるよ! 嬉しか無ーよ!
「ん……?」
白が急にミニアリアを見上げる。
「おに~ちゃん…… 誰かくる……」
「はぁ? この状況でか?」
敵が100万も居たから多少の撃ち洩らしはあったかも知れないが、どちらにしてもまともな戦力は残って無いハズだ。
見上げれば…… 確かに白の言う通り、こちらに向かってくるオーラが見える。
このオーラの密度は…… もしかして妖魔族?
ちなみにミニアリアに居る妖魔族は30人に満たない、予想よりもずっと少なかった。
大半はαアリアに残ってるのかも知れない。世界中にケンカを売りながら移動する船に、民間人を乗せないのも道理だ。
もともと不死に近い妖魔族は、繁殖力も低く数の少ない種族だと言われている、繁殖力旺盛、年中発情期の人族から造られたとは思えない程 禁欲的な種族だ。
ホント妖魔族に生まれなくて良かったよ…… いや、それはどうでもイイ。
問題は数少ないミニアリアの生き残りである妖魔族が何故このタイミングで現れるのか……
ここまでやっておいて、今更停戦交渉の特使とかではあるまい……
相手は無駄にプライドが高い妖魔族…… ならば……
バサッ! バサッ! スタッ!
かなりの勢いで飛んできたのはやはり妖魔族だった……
てか、背中にコウモリの羽みたいなのが生えてるぞ? 妖魔族ってあんなの生えてたの?
龍人族は部分変身解除であんな感じの羽を生やす事が出来るって噂は聞いたコトがあるが……
もしかしてアレも古代魔術かな? 便利そうだな…… ウチの嫁にも覚えさせたい、ウィンリーみたいな真っ白な天使の翼を生やしたい……
「お前達か……!?」
おっとイカン、天使たちの事を考えてたら目の前の悪魔っぽい奴の事を忘れてた。
現れたのは妖魔族の……少年と言っても差し支えない見た目の男だった。
年の頃は十代後半、俺達より少し年上って見た目だ。
しかし見た目通りの年齢ではないだろう。上位三種族には寿命は有って無いようなモノだ、この少年も恐らく三桁は齢を重ねているハズ。
見た目はこんなだけどジークより年上かも知れないな。
少年は最近の妖魔族のトレンドである軍服チックなおべべを着ている、肩のあたりに何本も紐が垂れ下がり、左肩にマントを羽織っている…… 今まで見た妖魔の中で一番偉そうな格好だ。
もしかして三大貴族の関係者か? だったら我々が取る行動はただ一つ!
「お前達がヤッたのかと聞いているんだ!!!!」
え? 何を? 聞きたい事があるならちゃんと聞けよ。
と、言いたい所だが、聞くまでも無いよな? この状況じゃ……
「なんの事だかさっぱり分かりませんな、一体何をヒートアップされてるのか?」
いつもの癖でついすっ呆けてしまった…… こういう暑苦しい奴は小馬鹿にしたくなるんだよ。
「王より賜った兵たちを全滅させたのはお前達かと聞いているんだッ!!!!」
「王…… 王って第3魔王マリア=ルージュの事か?」
「“様”をつけろよ デコ助野郎ォ!!!!」
デコ助…… 誰がデコ助だゴルァ! 俺はオールバックでも無ければ超能力も使えないぞ! コイツ金田か?
なんなんだよコイツ、そんな下らない事を聞きにわざわざやって来たのか?
「神那、神那ぁ……」クイクイ
琉架に袖口を引っ張られる、その仕草が可愛い…… じゃなくって。
「ちょっとスイマセン、相談タイム」
「チッ!! はやくしろ!!」
待ってくれるんだ…… コイツ…… もしかするとバカかも知れない。
『神那ぁ、あの人どうするの? ちょっとオカシイよ?』
『そうだなぁ…… 捕えよう』
『え? そんな事して大丈夫? 何かの罠かも知れないよ?』
罠か…… 確かにあのバカっぽい仕草も罠の可能性がある。
大体コイツは何で一人で飛び出してきたんだ? 子供が衝動的にやった事だとしても、誰も助けにも迎えにも来ないのはおかしい。
まぁ今のミニアリアは大騒ぎで誰も気付いてない可能性もあるが……
『捕まえたトコロで、こちらの不利益になるコトは無いだろう』
もし人質を解放しなければ街を攻撃するって言ってきても、そもそもミニアリアに攻撃するだけの戦力は残されて無い。
仮にミニアリアを着陸させれば町全域を一瞬の内に潰すことも出来る、しかし穴だらけの現状でそれをすれば浮遊大陸は真っ二つに割れるだろう。
流石にそれをするほど愚かでは無いと思う。
つまり安心してGETしていいってコトだ。
『う~ん…… 神那が言うなら…… でもどうやって捕まえるの? 相手は仮にも序列三位の上位種族だよ?』
『そう……だなぁ……』
今日は満月じゃないから実体がある、つまり物理的拘束が可能だ。
捕まえること自体は容易にできる、問題はその後、どうやって拘束しておくか……だ。
普通の牢屋に入れても霧化魔法で簡単に逃げられる、密閉した箱に閉じ込めたとしても…… 相手は上位種族だ、相当頑丈に作らなきゃ破壊されるのがオチだ。
一応、犯罪魔導師専用の刑務所も存在する、機械的に魔力を吸い取り魔術を使えなくするのだ。
まぁどちらにしても、次の満月には逃げられてしまいそうだが。
『それではマスター、アレ使ってみては如何ですか?』
『アレ? あぁ、それは有りかも知れないな』
『では僭越ながら私がアイツを捕獲します』
『あぁ、ミカヅキに一任する』
「おい! まだか!? いつまで待たせる!!」
妖魔族の青年・カネダ(仮名)は痺れを切らしている…… にも拘らず律儀に待っている。
何なんだコイツ…… ホントに。
「大変お待たせいたしました」
「鬼族のメイド? 女! お前がやったのか!?」
「いいえ、私が処理したのはあくまで降下した魔物・魔族に限られます」
「では何故前に出てきた?」
「それは……」
フッ――
突然ミカヅキが視界から消えた…… 否、消えたように感じた。
実際には地面スレスレまで身体を倒し、超低空でカネダ(仮名)に接近してる。
そして……
スパァァァーーーン!!!!
それはそれは見事な水面蹴りを放った、それによりカネダ(仮名)の身体は横方向へクルクルと何回転もしている。
俺が昔、勇者に食らわせた時より回転数が多い…… 免許皆伝だな。
ズダァーーーン!!
カネダ(仮名)は受け身も取れずにそのまま強烈に地面に叩き付けられた。
完全にノビてる…… 目を回した所為か…… 衝撃の所為か……
ま、後者だろう。
両手両足を広げ大の字で倒れている男を前に、ミカヅキが懐から徐に光の珠を取り出す…… 呪魂だ。
それをカネダ(仮名)の胸の上にそっと置く、すると光の珠は吸いこまれるように消えていった。
《カネダはのろわれてしまった!》
気のせいだろうか? どこからか禍々しいメロディーが聞こえた気がした。デロデロって感じの。
これでカネダ(仮名)は死ぬまで魔法を使えなくなった、冷静に考えるとちょっと可哀相な事をしてしまった気がする…… 憐れなり……合掌。