第201話 第三魔導学院7 ~攻略・前編~
―― 大講堂 ――
「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!!!」」」」
大講堂の中はさながらライブ会場の様な盛り上がりだ。
現在モニターに映し出されているのは校庭の映像だ…… 全てのモニターが我がギルドD.E.M. を捉えている、独占配信状態だね。
非常に花のある絵図だ。
見目麗しい美少女4人+α…… その+αの映像が割合的に少ないのはお約束だろうか?
黒の美少女が琉架ちゃん、白の美少女が白ちゃん、金の美少女がミラちゃん、水色の美少女がミカヅキ……
そんな美少女だらけのライブ映像に一人だけ男が混じって歌っていれば…… 出来るだけフレームアウトしたくなるのが人情ってものだ。
神那クンって見た目は……まぁ…… うん、悪くないんだよね? 美少年と言って差し支えない様な……
あの性格さえなければ…… 実に“惜しい”人材だ。
どちらにしても私には関係ないポイントなんだが、そんな男が美少女に囲まれている、ハーレム状態だ。
今だって白ちゃんが神那クンに抱きついて頭を撫でられてる……
さすがにブーイングはおきないが、男子学生にとっては面白くない映像だろう。きっと神那クンはこの学院でも有名人だろうし……
実体を知る私にとってはいつもの事だ…… そう、いつもの事なんだ、白ちゃんはああやって神那クンに甘えるし、神那クンも白ちゃんを甘やかす、そんな様子を羨ましそうな目で見る琉架ちゃんとミラちゃん、ミカヅキはあまり表情に出さないけど、どうせ同じようなコトを思っているのだろう。
アレこそがいずれ世界の歴史に名を残すであろう“魔王の禁域”なのだ。
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空の上にはだいぶ薄くなってしまったが炎の渦、更にその上にはミニアリアの船底ともいえる岩塊が広がっている。
そして死の雨を降らせる天空の大地は、まさに頭の上を押さえつけるかのような圧迫感で人族に自分たちが下位種族と言う事を思い出させる。
人がどうこう出来る相手では無い…… 天災の様なモノ…… 相手が神なのかと錯覚するほどに……
しかし俺に言わせれば妖魔族など魔王の下位互換だ。
アイツ等は産まれついた種族の序列がたまたま高かっただけだ、それだけで自分たちが偉いと思い込んでる子供みたいなモノだ。
更に上の序列の者の事には目を瞑っている…… 要するに現実逃避だな。
まぁ気持ちは分かる、いつも目の上のたんこぶを見ていたら疲れるだけだ、たまに下を眺めて愉悦に浸るのも悪くない。
だが奴らは常に下ばっかり見てる、自分たちの優位性を確かめる為に…… ウザいよ。
ココは上位互換たる我々魔王がキッチリ教育してやろう、ま、それで考えを改めるとは思えないし、教育の対価は人族に敗北したという圧倒的屈辱で支払われることになるのだが……
「琉架、ミラ、『対師団殲滅用補助魔導器』のスタンバイを」
「え? 対師団殲滅用補助魔導器? いくらなんでも範囲が広すぎるよ?」
そう言って琉架が空を見上げる…… 視界内の空は全てアリアの岩塊で埋め尽くされている。
炎の渦のおかげで肉眼では確認できないが。
「ターゲットの識別とロックは俺がやるよ、二人はとにかく全力でぶっ放せばいい」
「え!? じ…自力でやるの!? きっと100万はくだらないよ!?」
もちろん機械的補助も使わせてもらう、これは魔王の中で唯一 緋色眼を完全に使いこなす事が出来る俺にしか出来ない事だ。
しかしミニアリアに居る生物全てを殺せばいい訳では無い。
浮遊大陸アリアにはほぼ全ての妖魔族が住み着いているという、もしかしたら中には平和主義者の妖魔もいるかも知れない。
なので今回の殲滅は魔物と魔族に限定させてもらう。
今日は満月でも無い、手駒が全滅したら流石に逃げるだろうからな。
それに浮遊大陸を制圧しても後処理が面倒になるだけだ。
どこの国があの超巨大空中戦艦を保有するのか?……とか。
そう言うのは俺達と関係無い所で話し合ってほしいものだ。
「実は魔導器のコネクター(※リズ先輩の魔神器から失敬した)を手に入れてな、それで二人の対師団殲滅用補助魔導器をリンクして機能を拡張する」
「?? よく分からないんだけど……?」
「まぁ、さっきも言ったように、二人は深く考えずに全力でぶっ放せばいい。
ただし目標は魔物と魔族だけだ、妖魔族は除く」
そう作戦を説明すると不思議そうな顔をした…… ま、そうだよな。
「うん、分かった」
アレ? 理由聞かないの?
それだけ俺の事を信頼しているのか…… 或いは考える事を放棄しているのか……
恐らく前者だろう、琉架は俺より成績優秀な頭の良い子だ、俺が適当に誤魔化すような事を言っても、きっと自分で考えて結論を出してくれる。
それすらしないという事は、俺に対して全幅の信頼を寄せているという事だ。
その信頼は有難いんだが…… 俺は今後、一切ミスを犯さない完璧人間にならなければいけないらしい。
困った事だ、俺ってチョクチョクうっかりミスをするんだよなぁ……
うっかりバスルームの扉をノックせずに開けて琉架の裸を拝んだり……
うっかり混浴して全裸の琉架を抱きしめちゃったり……
こんな素晴らしいうっかりを今後永遠に封印して生きていかなければならないのか……
…………
いや、違うな。
コレはミスでは無い、ラッキーだ。
かなり無理のある解釈だがある意味真理だ。俺はコレからもラッキースケベイベントが起こる事を心待ちにしながら生きていこう!
そのついでに、せめて致命的なミスを避けられる様に精進しよう。
この作戦、一つだけ問題があるとすれば、対師団殲滅用補助魔導器は確実に壊れるってコトだ、まぁ後でいくらでも直せるから些末な問題だ。
「でもここで使ってもイイのかな? ギャラリーが沢山いるよ?」
チラリと中央校舎へ目を向けると、校舎前と屋上に防衛の為の人員が多くいる。
一番近い位置には伝説君達も…… あ、いつの間にかチーム・レジェンドが集結してる。
しかし今更な気がする…… オリジン機関も既に無い、攻撃対象がこれだけデカいと隠しようも無いしなぁ…… それでも一応 目暗ましは掛けておくか、軍事機密指定兵器だからな。
魔導器本体を見られなければ良いだろう。
「そうだな、一応『偏光』は掛けておくよ、それで使う魔術は琉架は『閃光』で、ミラは…… 光線系の魔法って使える?」
「はい、一つだけですが……」
「うん、じゃあそれでお願い」
「分かりました」
「それでマスター、お嬢様とミラ様、そしてマスターはその砲撃にあたるとして、私と白様は何をすれば宜しいのでしょうか?」
「もちろん仕事はある、目標の識別・照準固定に時間が掛かる、魔力充填に関しては琉架とミラなら直ぐに終わるだろうが、その魔力目掛けて敵が寄ってくる可能性が高い」
「つまり私と白様の仕事は邪魔者の排除……と言う事で宜しいですね?」
「そう言うコト、10分以内には終わらせるから」
「畏まりました」
「ん…… 任せて」
実に頼りになる…… 俺は良い嫁を持った。
「それじゃ始めよう。
第6階位級 光輝魔術『偏光』ミラージュ」
周囲半径5メートル程の範囲に目暗ましを掛ける。
「『対師団殲滅用補助魔導器』展開」
「て……展開します」
琉架とミラの周りに巨大な砲塔が幾つも浮かび上がる。
俺はその二人の中央ちょい後方に立ち、コネクターを展開する。
目の前に半透明のディスプレイが現れ、射程範囲内の敵味方識別を自動で開始した。
対師団殲滅用補助魔導器の超長距離砲撃モードの限界射程は5万メートル、正直6000平方キロメートルの大きさを持つミニアリアの全域を捉えるなど逆立ちしたって不可能だ。
しかし1/4サイズのアリアで雨を降らせるために魔物や魔族を浮遊大陸の中央部、進行方向に対して一直線上に配置しているハズ。
つまり全域をカバーする必要などないのだ、それでも直線距離で100km近くある…… そこで俺の緋色眼の出番だ。
現在浮遊大陸を見上げる形になっている為、ギリギリではあるが端の方まで見通せる状況にある。
既に1/6程度は通り過ぎているしな。
射程範囲内の敵に関しては機械任せにする。
緋色眼を限界まで広げアリアを透かし、敵オーラの位置をアリア固定の空間座標としてマーカーを設置していく。
正直この方法では敵が少し動いただけで攻撃が外れてしまうのだが、幸い降下待ちをしている魔物や魔族はその場から動かない。
驚くほどに統制がとれている…… 自由意思を持つ魔物・魔族をここまで制御出来る事に驚きだ。
もっともその統制が今回裏目に出るワケだが……
そして分かっていた事だが数が多い…… 多すぎる…… 目がチカチカする。
まるで夏と冬、年に2回、国中からビッグなサイトに集まって来る亡者たちのようだ。
そして入場を待ちわびるかの如く綺麗に整列している…… きっとチケ組とか徹夜組とか始発組とか居るんだろう。
敵が纏まっている所にはゴン太ビームを撃ち込みたくなるが、それをすると岩塊が崩壊して街に落下する恐れがある。
面倒だが一つずつ設定していかなければならない……
俺が肉眼では確認できない敵と孤軍奮闘していると、薄くなった炎の渦を抜けて次々と魔物が降りてくる。
先ほど全滅させたばかりの混沌猿……大量。
炎の犬っぽいの……大量。
岩の様な肌をしているサイっぽいの……大量。
極めつけは体長1.5メートル程のワイバーン種……超大量。
早速失敗してしまった、こんな事ならもう一回『極紅炎陣』を掛け直しておくんだった。
しかしもう遅い、こちらは作業に入ってしまった。
「それではこちらはお任せ下さい」
「おに~ちゃん…… 行ってくる……」
それだけ言うとミカヅキと白は敵を倒しに向かった、俺達に一匹たりとも近寄らせないために。
厄介なのは空を飛べるワイバーン種だ、アイツ等はきっと中央校舎の方へも行ってしまうだろう、後は防衛に当たる教師や生徒の頑張りに期待する。
伊吹と先輩もいるしチーム・レジェンドもいる、魔王だけじゃ無く皆の…… と、言うより帰還者の実力を信じよう。
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―― 中央校舎 屋上 ――
大時計塔の南側の屋上にD.E.M. メンバーの3人、霧島伊吹と佐倉桜、そしてジークがいた。
「ふむ…… あれはワイバーンだな、俊敏性が高く空から群れで敵に襲い掛かる厄介な魔物だ」
「また厄介なのがたくさん来たなぁ…… おにーちゃん仕事しろ!」
「まぁまぁ、伊吹ちゃん落ち着いて、てか、伊吹ちゃんってダブルスペル使えるよね? 『極紅炎陣』は使えないの?」
「うっ! 第3階位級の合成魔術は……まだ……」
「そっかぁ…… しかし空を飛ぶワイバーンが相手じゃ強力な遠距離攻撃手段が無いとお話にならないよね? どうしよっか?」
「大丈夫です、私にはコレがありますから」
そう言ってカバンから取り出したのは折り畳まれていた大きめのウチワ。
神器『芭蕉扇』だ…… しかし……
「それ…… 折り畳んでも大丈夫なの?」
「えっ!? だっ…駄目なのかな!? ちょっと大きかったから普通に二つ折りにしちゃった……
ヤバイ…… 壊れちゃったかな?」
試しに軽く振ってみる……
ビュオオオォォォ
すると結構大きなつむじ風が発生した、大丈夫そうだ、壊れてない!
さすがに神器を壊したらおにーちゃんに怒られる。
良かったぁ、壊れて無くて…… でも全力で使った瞬間に壊れたらどうしよう?
…………
その時はワイバーンに壊された事にしよう! うん、そうしよう!
「コホン、大丈夫そうなので、ワイバーンを全部叩き落とします!」
「うん、地べたに落ちたワイバーンなら比較的安全に倒せるしね、やっちゃって」
「いきます!! 『世界拡張 5:5』 超下降気流」
ギフトで拡張された強烈な下降気流により、今にも中央校舎に取り付こうとしていたワイバーンを根こそぎ叩き落とす。
ついでに防衛の任に付いていた人たちも強烈な風で残らず潰してしまった……
あぁ…… 味方の事を忘れてた…… やっちゃった、テヘ☆
「伊吹ちゃん……」
「だ……大丈夫ですッ! 超下降気流は飛行生物には絶大な効果をもたらしますが、地上の生物にはちょっと圧力が掛かる程度です!
圧殺息吹に比べれば全然大したことないです!」
「いや…… 私に言い訳する必要は無いんだけど…… とにかく落ちたワイバーンの処理に行こっか?」
「はい…… お供します」




