第198話 第三魔導学院4 ~成長編~
「今ので最後か?」
「あぁ、取りあえずココは終わりだ」
第三魔導学院・西校舎の中は色取り取りのペンキをぶち撒けたように、とてもカラフルなっていた。
それは様々な種類の魔物の体液だった。
そしてその中には茶色く変色した血痕もある…… 人の血だ。
その脇には人の指や、頭皮付きの髪なんかも落ちてる…… しかし遺体の大部分が消えている、どうやら結構な人数が喰われたらしい……
「カミナよ、お前が気に病むことはないぞ?
この者達は我々が学院に辿り着く前には既に死んでいたのだろう」
「別に…… 気にしちゃいないさ。
この学院の知り合いなんて十数人程度、きっとココの被害者に俺の知り合いなんて一人も居ない…… ただな……」
「…………」
「いや、なんでもない。そろそろミニアリアが上空に差し掛かる頃だ、行くぞ」
「あぁ……」
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校庭に戻ると、伝説君が3メートルくらいあるクマと戦っていた、鎧を纏った姿…… 魔族化した装甲熊か、アレで最後みたいだな。
あの手の硬い相手はパワー系の黒大根のほうが向いてるだろうな、ただ伝説君でも倒せない相手じゃない。
ギャラリーも多いしわざわざ横取りする必要もないだろう。
「速力100倍!! ソニックスラッシュ!!」
ズバン!!
おぉ! スピードを上げて鎧ごと強引に斬り裂いた。
まったく無茶な戦い方をする、運命兄さんの前だからか?
しかしどこぞの勇者の音速剣みたいな技だったな…… イメージ悪すぎ。
「「「ゥオオオオオォォォォーーー!!」」」
ギャラリーから歓声が上がる…… 何故だ? 俺の活躍にはとか「ぎゃーーー!?」とか言うくせに、何故こんなに反応が違う? 特別生の好感度なんかドッコイドッコイだと思うんだが。
やはり天才と落ちこぼれの差……か、だと思っておこう、そう思わないとこの学院を見捨てたくなるからな……
「終わったみたいだな?」
「霧島…… お前のほうこそもう終わったのか?」
「コッチは敵が校舎内に固まってたからな、逃げ道を無くせばいちいち追いかける必要がなかった」
コッチには優秀な肉壁が居たしな。
そこでふと空を見上げると巨大な島がすぐそこまで迫ってきていた。
もうじき雨が降る……
「霧島くん、二宮くん」
そこに少々御髪の乱れた教頭先生が声をかけてきた、ちょっとズレてるけどそこには触れないのが礼儀であり情けであり優しさでもある。
俺のせいだしな。
てか、二宮くんって誰だよ? あ、伝説君のことか。
「色々と聞きたいことはあるが、目前の危機について話そう、帰還者であるキミたちに聞きたい、これから『アリアの雨』が降る、我々はどう行動するのが一番正しいのか? 率直な意見を聞かせて欲しい!」
アドバイザーって訳か、ふ~む……
伝説君の意見は?
「生憎と浮遊大陸アリアを見たのは今日が初めてだ。
しかし帰還した時に破壊されたNYを見た……
正直、逃げる以外に助かる道はない……と、思う」
NYは恐らく不意打ち的に雨が降ったのだろう。
しかし今の高天とNYの備えにそれ程の差があったとは思えない、つまりそれは……
「俺はかつて『アリアの雨』によって、防魔衛星都市が滅ぼされる所を見た、その時俺のいた場所にもにわか雨程度の魔族の雨が降ったが、その物量は圧倒的と言わざるを得ない。
今ここにいる人員で『アリアの雨』を防ぐのは不可能だ」
「そうか…… 帰還者であるキミたちが言うなら間違いないのだろう……」
項垂れる教頭…… その動きの合わせてヘアアクセがまた少しズレた。
しかし本人はそんなことを気にしている余裕も無さそうだ。
俺は優しい魔王様、見て見ぬふりだ、たとえ視線が吸い寄せられるように教頭の頭頂部に向かったとしても!
「少々分の悪い賭けではありますが、まだ可能性が有ります」
「ほ……本当か!?」
「今俺の仲間がこちらに向かっています、その中に世界級の能力値を持つものが二人居ます」
俺も能力値100000オーバーだから世界級なんだが、琉架とミラに比べるとどうしても……
「色々と条件がありますが、もしかしたら……」
俺の嫁……つまり魔王が揃えば、単に数だけ多い魔物の群れなど、どうにかなる……かも知れない。
さすがに保証はできないが。
「その条件とは? 我々に出来ることはなにか無いのか?」
「そうですね…… 取りあえず戦闘能力の低い者と避難住民を魔宮へ逃がしてください。
これで全滅という最悪の事態は避けられます」
「魔宮へ? そうか、いや……しかし、あそこは封印区画だ、一般人に知られる訳には……」
「言ってる場合ですか?」
「……! そうだな、すぐに移動させよう」
守る人が多くなればなるほど、防衛の難易度は上がるからな。
「戦える奴は中央校舎を守ってもらおうと思います、極力敵は通さないつもりだが抜けてきた奴は注意して当たってもらう。
基本、敵一匹に対して味方複数で袋叩きにするよう厳命してください、経験の少ない者は接近戦も極力避ける様…… 魔族相手に卑怯かどうかはこの際 置いておきましょう、まず生き残ることを第一に考えるべきだ」
どうせ向こうも卑怯なことをしてくるんだ、気にするだけ無駄だ。
まして相手の大将は妖魔族だ、あいつらって卑怯・卑劣が大好きってイメージがある。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「来たか……」
例え1/4サイズでも、やはりアホほどデカい。
第三魔導学院がミニアリアの影に入った。
パラパラ……
「これは?」
細かい砂や、小さな石が落ちてきた、どうやらこれが『アリアの雨』が降る兆し、前兆現象らしい。
「よし、やるか。ダブルスペルスタンバイ!」
首をコキコキ鳴らしながら一歩前へ出る、そして両手を天に掲げ元気を集めるポーズ。
「第3階位級 火炎魔術『神炎御魂』カミホノミタマ × 第3階位級 風域魔術『鳴風神威』ナリカゼカムイ
合成魔術『極紅炎陣』クリムゾン=ボルテクス!!」
前回アリアの雨に降られた時にも使用した広域殲滅合成魔術、それを学院の上に展開させる。
日が落ちかけ、暗くなった空を炎の渦が埋め尽くした。
「うおっ!? これがダブルスペル…… 合成魔術か!!」
「すっげぇー! さすが霧島先輩!! 炎の支配者!!」
武尊…… 変な名前を付けるな。
「これで敵の8割程度、Cランクくらいまでの魔族は倒せる、問題はこれを通り抜けてくる奴らだ」
更に『極紅炎陣』はあまり長時間展開できない、それまでに次の手を打たないといけない。
そうこうしている内に、次々と魔族が炎の渦を通り抜けて学院に降りてくる。
さすが本降り、以前より数が多い。
ズドオオォォォーーーン!!!!
そんな時、巨大な何かが校庭に落ちた、モウモウと立ち上る土煙の中から出てきたのは巨人魔族だった。
「げっ、またかよ」
巨人はマズイ、巨大地震を起こされて校舎を崩されたら困る、更に反魔術領域がマズイ、もし使われたら人族はまともに戦えなくなる。
魔術主体で戦う俺と琉架にとっても致命的だ、アイツは優先的に倒す必要がある。
さすがにジークやチーム・レジェンドには任せられないだろう。
「む? カミナよ、お前が直にやるのか?」
「仕方ないだろ、巨人魔族は一人で戦況をひっくり返せる力がある。5人そろえばガイア守備隊だって余裕で全滅できる。経験者の俺が行くべきだ」
妖魔族より序列が上の巨人族でも第3魔王の前では戦闘力の高い駒でしかないのか。
「あの巨人は俺がやるから他の奴は任せるぞ?」
「うむ、任された」
「わ……分かった!」
「了解しました!!」
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―― 中央校舎南口付近 ――
神那が巨人魔族と戦闘を開始した頃、学院のあちこちで炎の渦を突破してきた魔物との戦闘が発生していた。
もっとも敵が多くやって来るであろう中央校舎南口では、チーム・デスティニーが奮戦していた。
現れたのは体長20メートルにも及ぶ巨大な蛇の魔物、赤大蛇、運命兄さんにとっては相性の悪い敵だ。
「なんだコイツは!? なぜ炎が効かない!?」
そもそも今学院に降りてきている魔物は全て高い火耐性を持っている、『極紅炎陣』に耐えられるほどの敵しかいない、彼の『業火之鎧』では相性が悪すぎる。
「先輩!! 無理です下がってください!!」
「こんな所で引き下がれるモノか!!」
業火之鎧は仮想訓練装置の中でも再現される希少な能力だ、故にチーム・デスティニーはこの能力を中心に据えた戦闘訓練ばかりを行ってきた。
もちろん相性を考えて別の戦術を組み立てたりもしてきたが、他の戦い方は練度が足りない。
「第5階位級 火炎魔術『炎波』ファイア・ウェイブ」
自らのギフトで強化した炎の波を赤大蛇に向けて放つ!
熱を感知する器官を持つ大蛇にとってこの攻撃は非常に有効だ、温度が高すぎるとピット器官が正常に働かなくなるからだ、しかし赤大蛇だけは例外だ、その赤い体は他の大蛇と比べても遥かに高い火耐性を持つ。そして炎を使う獲物を優先的に襲う習性があった。
赤大蛇は頭を大きく上げ炎の波を避けると同時に獲物の注意を引き付けると、長い尻尾を使い運命を縛り上げた!
「なにっ!? ぐあっ!?」
ギシギシギシ……
「ぐはっ!! く…くそっ!! 喰らえ!!!!」
業火之鎧で身体に炎を纏った、しかし拘束が緩むことは無かった。
赤大蛇はその長い胴体全てを使って獲物を締め付ける。それにより肺が圧迫され呼吸が止まると炎も消えた。
それを確認すると口を大きく開けて丸呑みにしようとした!
「第4階位級 氷雪魔術『氷槍』フリージングランス!!」
突如響いた声、その声と同時に真上から氷の槍が飛んできて、赤大蛇の胴体に突き刺さる!
後10cmずれてたら運命の身体にも穴が開いていた事だろう。
赤大蛇が背後から近づく存在を感知し顔を向けようとした瞬間……
「剛力・身体強化魔術併用! 腕力20倍!! ブレイクハンマー!!」
ボンッ!!
その瞬間、赤大蛇の頭部が吹き飛んだ!
それにより締め上げられていた胴体から力が抜け、獲物は九死に一生を得た。
そして絶体絶命の危機を救ってくれた人物が話しかけてくる。
「ハハッ、二宮、まさかお前を助ける日が来るとは思っても無かったぞ?」
「く……黒田?」
今目の前にいる男は、弟と一緒に神隠しに遭った特別生の黒田大輔。
右腕にはメタリックに光る籠手を着け、左肩からマントのようなモノが垂れ下がっている、見た目はどう見てもカーテンなんだが…… 肩の部分が妙に盛り上がっている…… マントの下に何か仕込んでるのか?
「あの赤大蛇は火耐性が高いわ、相手の属性を見て戦い方を変えるべきよ? まぁこっちの世界で暮らしてた人に魔物の属性なんて中々判らないでしょうけど」
「加納……か?」
黒田の後からやって来たのは加納恵。
こちらは普通の高等部の制服を身に着けてる、しかし手に持つ杖は装飾からして魔道具の類だろう。恐らくシニス世界のモノだ。
「さて、どうやら中央校舎を守らなければならない状況らしいな」
「どうも敵は全体的に火耐性が高いみたいね、運が良いわ、私は氷雪系魔術が得意だから」
「サポート頼む」
そういうと黒田が右腕を差し出す。
「OK、第3階位級 氷雪魔術『白冷神楽』ハクレイカグラ」
驚いたことに、加納は差し出された右腕に第3階位級の氷雪魔術を掛けた。
普通ならこのレベルの魔術を直接浴びたら瞬時に氷り付き、腕は愚か体ごと崩壊する。しかしそうはならなかった……
「よし!」
黒田が腕を振ると、手首から先に2メートルはある氷の剣が形成された。
「二宮、いつまでも呆けてるなよ? 俺達は先に行くからな?」
それだけ言うと黒田と加納は敵に向かって飛び出して行った……
チーム・デスティニーのメンバーは、強大な敵が次々降りてくる戦場を前にして、微塵も恐怖を見せないその姿にかつてない敗北感を味わっていた。