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レヴオル・シオン  作者: 群青
第四部 「転移の章」
203/375

第197話 腐敵


 ― 西校舎四階 新聞部資料室 隠し扉の奥 ―


「ハァ…… なぜ人生最後の瞬間を部長なんかと過ごさなければならないのでしょう?」

「いや、ちょっと待て涼子、この部屋は何だ?」


 新聞部資料室の壁の一角に、部長ですら知らなかった隠し扉があり、その先にあった部屋に、現在二人の生徒が隠れている。

 新聞部の部長と、新聞部で一番可愛いけど一番バカな女子部員がだ……


 そこは元々新聞部が倉庫代わりに使っていた部屋だ、第三魔導学院に新聞部が作られて100年以上もの間、新聞部の先人たちが集めた資料と言う名の歴史が保管されている場所でもある。

 そんな新聞部の魂が込められた部屋が、いつの間にか元の広さの半分ほどになっていた、元々年度末にその年の記事を収めるだけの半開かずの間とかしていたのだが、新聞部部長が気づかぬ内に棚が増設されどこぞのディスカウントストアの様なギチギチの圧縮陳列がされていた…… 新聞部の魂がだ。


 そして元の部屋を半分に区切っている壁の向こう側に真っ暗な小さな部屋が作られていた。

 倉庫の方は無理矢理荷物を押し込んだ感じで散らかり放題だったのに対し、この部屋は陰鬱としたイメージはあるものの塵一つ落ちて無く綺麗に片付けられていた。

 部屋に置かれているファイル一つとっても丁寧さが違う。


「ここは裏新聞部の聖地『腐海の底』です」

「裏新聞部!? 腐海だと!?」


 裏新聞部とは半年ほど前、突如現れた『腐帝』と呼ばれる一人のカリスマにより率いられる学内テロ組織だ。

 その活動内容は新聞部が隔週で発行している壁新聞に対抗する形で、一週ずらした隔週で校内掲示板に生徒会未承認の「気持ち悪い壁新聞」を勝手に貼りだす謎の集団だ。

 その規模、構成員などは謎に包まれており、一説にはその数は新聞部の数倍に及ぶとまで言われている。


 新聞部と生徒会、そして風紀委員が協力してその本拠地を捜索したにもかかわらず、未だ発見には至らない、八番目の学院七不思議とまで言われる謎の組織だ。

 まさか新聞部の隣の部屋、目と鼻の先にあったとは…… まさに灯台下暗しだった。


「ココが裏新聞部の本拠地…… しかし思っていたのと違うな……」

「部長はどんな想像をしてたんですか?」

「もっとこう…… あの気持ち悪い壁新聞の資料に使う気持ち悪い小説や、気持ち悪い同人誌なんかが散らばり腐臭を放っている…… そんなイメージか?」

「部長! 気持ち悪いを連呼しないで下さい! アレは性別に囚われない真実の愛を描いた純文学です!

 そしてそんな愛が生み出されるこの場所は、俗世の穢れから解放された真なる愛に満たされていて当然なんです! 腐海の底に清浄なる空間が広がっているのはお約束ですよ?」

「…………」

「この場所ではうら若き乙女たちが日夜 命と魂を擦り減らしながら愛の物語を紡いでいます。

 新聞部が追い求めている心底くだらないゴシップとは次元が違います!!」

「…………」

「ハァッ…… ハァッ……」


 新聞部員の高槻涼子は身振り手振りを交えた大袈裟な演説を行った……

 隠れているのにも拘らず大声でだ…… やはり頭が悪い。


「なあ涼子…… まさかとは思うが、お前、裏新聞部と係わりがあるのか?」

「…………」

「オイッ! 俺の目を見ろ!! お前新聞部員だろ!? ナニやってんだ裏切りモンがぁー!!」

「なっ! なんですか! 私が作った部屋に匿ってもらってるクセにその言い草は!!」

「……私が作った?」

「あ」


 バカな女子部員は「しまった」って顔をして再び目を反らした。


「お…お前…… まさかお前が『腐帝』……なのか?」

「…………」ダラダラ

「お前と言うヤツは~~~! 覚悟していろよ! もしここを生き延びてもお前には地獄が待ってるからな!!」

「ハッ!! 部長甘いです! 甘々です!! もう遅いんです、何もかも手遅れなんです!

 新年度の生徒会には既に私の「腐海」の手の者が入り込んでます!

 前・総合生徒会長の残した「生徒会役員及び生徒会長は美少女が望ましい」とかいう意味不明な決まりのおかげで!」

「ま……まさか…… お前!?」

「ふっふっふっ…… 今期の生徒会役員の半数は…… 腐ってます!」


 何と言う事だ…… この学院は気持ち悪い集団に制圧される寸前まで追い込まれていたのだ!

 そしてその事実に誰も気づいていなかった…… 学院のジャーナリズムの中心、新聞部部長として失格だ。


 だが今なら間に合う! この悪しき企みを阻止できるのは新聞部だけだ! その為にも絶対に生きて帰らなければならない!


「くそっ!! 何としても脱出しなければ!!」


 倉庫として使われていた為、長年空けられることの無かった暗幕を開いた!

 夕日が差し込む…… しかし窓は魔術結界で封鎖されていて開けることも出来ない。


「私がたとえ志半ばで倒れても、私の意思は第三魔導学院に根付き、そして世界を変えるでしょう!」


 バカが自分の仕出かした事に酔っている、行動力のあるバカは始末に負えない。

 このままでは本当に第三魔導学院が腐ってしまう! 誰か…! 救いを…!!


「ん? アレは……?」

「どうしました部長? 暗幕を開けっぱなしにしてると外から目撃されて魔物がやって来るかも知れないですよ?」

「誰かコッチにやって来る…… 魔物を斬り伏せながら! カメラカメラ!」

「え? ホントに助けが来たんですか? まぁ私も死にたくは無いですからね……」


 涼子が窓から下を覗いて見る、その瞬間、全身に雷が落ちたかのような衝撃が走る!

 そこに居たのは二人の男性…… 一人は見覚えがある! 『愛の伝道師』霧島神那センパイだ!

 そしてその隣には…… ムッキムキの筋肉質の大男!


「キターーーーーーーーーーーーー!!!! 部長!! 写真!! 写真撮って!! 新刊は決まった!!」

「涼子…… お前ホントに死ねよ……」



---



 ゾクゾクゾク―――


 突如身の毛のよだつ感覚に見舞われた。


「うぉぉお!?」

「む? どうしたカミナよ?」

「い……いや、何でもない……」


 嘘を吐いた、この感覚 覚えがある。

 以前新聞部の後輩にインタビューされた時に感じた悪寒、それを数倍に増幅したような感じだ。


 西校舎を見上げてみる…… 見事に突き刺さっている突撃艇……

 南の空から飛来して、五階部分を貫きそこに引っ掛かってた。

 その斜め下辺りの部屋から蛍光ピンクに近い紫色のオーラが溢れ出ている…… あの部屋には魔物より恐ろしいナニカが住んでいる。今すぐあそこに火炎魔術を叩き込んで焼き尽くしたい……

 さすがにそれをする訳にはいかないが……


 突撃艇からは時折り魔物が落ちてくるが、詰め込まれていたにしては数が少ない、空を飛べないタイプの魔物なのか? どうやら校舎の中に降りているみたいだ。

 西校舎の全ての窓と扉は魔術的封鎖がされている、唯一一階東側の男子トイレの小さな窓だけが開かれていた。

 避難し損なった奴らはここから出てこいってコトだな。


 仕方ない事なのかもしれないけど、中に残っている奴の事は見捨ててるだろ?

 既に校舎内は魔物で溢れかえり、例え生き残りがいてもここまで辿り着けるワケ無い……


 緋色眼(ヴァーミリオン)で内部を見てみる、数か所で生徒や教師が纏まって抵抗を続けているが、物量が圧倒的に違う、この分では直ぐに全滅するぞ。

 腐ったオーラを振りまいているヤツは一人か? いや、オーラの影にもう一人分のオーラが見える。

 どうやら魔物から隠れているらしい…… その割には欲望のオーラがダダ漏れだ。


 生き残りが居なければ校舎ごと吹っ飛ばしてやるんだが、そういう訳にもいかない。


 はてさて…… どうしたモノか。

 蚊取り線香みたいに人間には無害だが魔物だけに効く毒とかあれば楽なんだが、生憎とそんな便利なモノは無い。こんな事なら開発しとくんだった。


「これからどうするのだカミナよ? 中にはまだ助けを求める者も居るのだろう?」

「そうだな…… 助けないワケにはいかないな」


 琉架かミラがいれば『対師団殲滅用(ギルバルド)補助魔導器(フォース)』で一気に片付けるコトも出来たかも知れない……が、校舎は穴だらけになる、下手すれば崩れる危険性もある。

 生き残りの数が少なければ『強制誘導(アポート)』で引き寄せる、或いは『強制転送(アスポート)』でどこかに避難させてから校舎ごとぶっ壊す……って手もある。

 もっとも生き残りは100人近くいる、多すぎる。


 ならば睡眠ガスを使って中の生物を全て眠らせるか?

 中にいるのが人間だけなら有効な手段だが、もしガスに耐性があり眠らない魔物がいたらお終いだ。


 結局中に入って一匹ずつ始末していくしかない。果てしなく怠い……

 ジークに押し付けてもいいんだが、肉弾戦で倒していくとなると時間が掛かり過ぎる。

 この場に嫁が一人でもいれば状況もやる気も違ったのに、何故俺のパートナーが肉壁なんだ?


「何者だ!? そこで止まれ!!」


 その時、西校舎唯一の脱出口付近から、スーツ姿の男が近づいてきた。

 手にはブースターロッドを持っているこの男…… あ、教頭だ。


「お…? お前は…… 特別生の霧島神那……か?」

「えぇ、シニス世界から再び帰ってきたのですが、大変な事になってるようなので母校を守りに来ました」

「お……おぉお……! おぉ!! キミが来てくれれば百人力だ!!」


 百人力? 随分と安く見積もられたものだ。万人力はくだらないと思うぜ? セニョール。


 さて…… アリアの雨が本降りになる前に片付けてしまわないといけないな。

 そう言えば試してみたい応用魔術があったな…… それで行くか。

 魔力微細制御棒(アマデウス)を取り出し構える。



「第2階位級 風域魔術『神剣・風舞白姫』シンケン・カゼマイシラヒメ」



「お…おい! カミナ!?」

「第2階位級!!?」


 我が呼びかけに答えるが如く、上空に一筋の竜巻が現れる。

 それに伴い周囲には強風が吹き荒れた…… あ! しまった!


 ピュ~~~!


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」


 教頭のヘアアクセが風に飛ばされた、ゴメンナサイ! これはワザとじゃないんです!


「カミナよ、そんなモノを使ったら建物ごと吹き飛ぶんじゃないのか?」

「もちろんこのまま使わない、この風を極限まで圧縮するんだ」

「圧縮?」


 竜巻を二本に分け、それを小さな円盤状になるまで押し固めていく。

 直径50cm程の円盤が二つ出来上がり、俺達の周りを廻っている。


「これは…… ヒュドラを倒したものと同じか?」

「理屈は一緒だ、あれよりも遥かに高密度な魔力風で構成されてるがな。

 圧縮する事により真空刃の切れ味と魔術の持続時間を上げた、そのぶんコントロールが難しいが魔力微細制御棒(アマデウス)を使えば何とかなる。

 コレで校舎内の魔物を残らず惨殺してやる」

「お前は本当に面白い魔術の使い方をするな? 長い時を生きてきた俺でもこんな事をする奴は初めて見た」


 そうだろうとも、こんな事が出来るのは俺と同等の魔力とコントロールスキルを持ち合わせている奴だけ、そして今のこの世界で同じ事が出来る可能性があるのは…… 魔王リリスくらいなモノか?


「よし、行くぞ……っと?」


 よく見れば脱出口のトイレの窓は小さい…… ジークは絶対通れない。

 教頭は帽子を追いかけてどこかへ行ってしまったし…… うん、壊そう。


 ビシュシュッ!! ボゴォン!!


 風の円刃を使いトイレの外壁をぶち壊した。

 素晴しい威力だ……が、初披露がトイレの壁壊しとは……


「良いのか? 守りに来た母校を壊して?」

「魔物がやった事にすればいい、瓦礫を外側に散らしとけば誰も疑わないさ。

 それじゃ改めて行くぞ」

「ヤレヤレ…… 相変わらず無茶をする」


 トイレから西校舎へ侵入する、二つある階段の一方を壊して封鎖し、校舎内に大量に蔓延っている魔物を端から倒していく。

 オーラを確認し見つけ次第デストロイ、間違ってヒトを切り刻まないように気を付けないとな。


 魔物は数だけは多いが風の円刃に耐えられるヤツは一匹も居ない、当然だろう、第2階位級 風域魔術だ、Sランクの魔物でも一撃で倒せる威力だ。


---


「おぉ!? みんな喜べ! 救助が来たぞ! ……ゲッ!? 霧島神那!?」


---


「はぁ…… 何とか助かっ…… ウェッ!? 霧島!?」


---


「ぎゃーーー!? 霧島神那だー! 誰だよ死んだって言ったの!!」


---


「…………」

「カミナよ、お前はコッチの世界でも自分に汚名が集中する様に工作してたのか?」

「そんな事は一切してない」


 琉架に注目が集まらない様にはしてたけど…… 琉架は目立つからな、あまり効果は無かった。

 それにしても「ゲッ!?」とか「ウェッ!?」とか「ぎゃーーー!?」って何だよ? わざわざ助けに来たのにあの態度…… もう見捨ててやろうかな?


---


「き…霧島センパイ! お帰りになられてたのですね? 助かりました、ありがとうございます!」


 あ、新聞部のちょっと可愛い女の子、確か高槻涼子とか言ったか?

 この子だけは他の連中と違って好意的だ、しかしオーラの色がヤバい。

 そしてその隣に居るのは誰だったか…… 知らない顔だな? 年上っぽいし新聞部の先輩かな?


「それでセンパイ! お隣にいるガチムチのタチっぽい偉丈夫は!?」


 うぉっ!? 毒々しい色のオーラが膨れ上がった!? このオーラを見てると淫乱糞ビッチを思い出す……

 人の身でありながら魔王と同質のオーラを備えるとは…… 腐女子……恐るべし!


「もしかして…… ハァハァ センパイの…… ハァハァ 恋び……」ガン!!

「いい加減にしろ!!」

「痛ったぁ~!! 何するんですか部長!?」

「いいから口を閉じてろ! 出来れば永久に!!」


 おい…… コイツまさか俺とジークをカップリングする気か? フザケンナ!!


「す……済まない、とにかく助かったよ。噂には聞いていたがさすが第三魔導学院最強と言われるだけの事はあるな」

「ちょっと部長! 邪魔しな…ムグーーー!?」


 高槻涼子は部長とやらに口を押さえられもがいている。


「と…とにかくキミはこの学院が腐海に落ちるのを止めてくれた! 心から感謝する!」

「はぁ……」

「それとこれ以上このバカの好きにはさせない! 安心してくれ!」


 だと良いんだが…… 魔王のオーラを持つ腐女子を一新聞部長が止められるのだろうか? 不安だ……


「もし俺の実名でとんでもない新刊が出たりしたら…… 第三魔導学院は滅びるかも知れませんよ?」

「そんな事は絶対させない!! 任せてくれ!!」


 そこまで言うのなら任せよう、もし「ジーク×カミナ」本とか見かけたら、本気でこの学院破壊するからな?




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