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レヴオル・シオン  作者: 群青
第四部 「転移の章」
202/375

第196話 ご自宅訪問


「武尊、まずは『将獣(ジェネルド)』から優先して倒していく! パターンはD! 足場と防御を頼む!」

「了解! リーダー! 『天五色(アマゴシキ)大天空大神(ダイテンクウダイジン)

 空中の破壊壁(ブロック・クラッシュ)!!!!」


 空中に可視化した空気のブロックが幾つも出現した。


自己加速(アクセラレイト)・身体強化魔術併用! 速力100倍!!」


 伝説と武尊は敵味方が入り乱れる戦場へ飛び出していった。



「あ…… アレが本当に伝説か? まるで……」

「まるで別人のように見えますか? 「男子三日会わざれば刮目せよ」ってヤツですね? まぁ実際は半年ですが」

「………… 天瀬、お前と白川は行かないのか?」

「運命先輩もご存じでしょ? 僕と真夜ちゃんはサポーター、非戦闘員ですよ」


「お前達は…… 神隠しに遭ったハズだよな?」

「そうです、半年前にシニス世界に転移しました。それから色々な事を経験し、彼らは強くなりました。

 僕と真夜ちゃんは参加してませんが、チーム・レジェンドは魔王討伐戦にも参加したんですよ?」

「魔王討伐戦……だと!?」


(まぁ実際には本物の魔王を肉眼で見たのは黒田先輩だけだったらしいけど、参加したのは嘘じゃ無い)


「待て、黒田と加納はどうしたんだ?」

「もちろん無事ですよ、黒田先輩は魔王の腕を切り落とすのと引き換えに大怪我を負いましたが……

 今は街に降りた魔物を倒しながら実家を見に行ってます、ココで合流する予定なのでじきに来ますよ」

「魔王の腕を切り落としただと!? ウソ……だろ?」

「神那君と他数名が現場を目撃していたらしいので事実でしょう。

 そうそう、神那君の所の女の子たちも実家に行ってるから、その内ココに来ます」


 半年の間に起こったことを淡々と話す天瀬、目の前では戦闘が繰り広げられいつ流れ弾が飛んできてもおかしくない状況にもかかわらず、平然としている。

 戦闘能力は変化なくても、確実に肝が据わっていた。


(この半年の間にどれだけの修羅場をくぐって来たというんだ?)


「「実戦に勝る訓練は無い」なんて言葉もあります、チーム・レジェンドは半年前とは完全に別物になってます。

 見てて下さい、貴方が蔑んだ弟がどれだけ強くなったのかを……」

「…………ッ!」





---ミカヅキ 視点---


 お嬢様の実家に向かってゆっくりと走っている……

 本当なら全力疾走してもいいところだが、お嬢様の表情が優れない、きっと家で良くないコトが起こっている可能性を想像しているんだ……

 お嬢様は精神的に弱い部分があるから何かあったら支える様に…… と、マスターからも仰せつかっている。

 魔王の中でも最強クラスの実力を誇っていても、その中身は十代中頃の少女なのだ、実際私より年下だし。


 今回の魔王災害、私の見た感じでは現時点での街への被害はさほど大きくない、更にあの有栖川の本家ならば少しくらいの災害など払いのけるのも容易いと思う……

 ここまでナーバスになる必要も無い気がする。それともシニス世界で会った会長だけが特別だったのだろうか?


 ………… その可能性は大いにある、何かあった時には私が支えないと。


「お嬢様、ご自宅はまだですか?」

「あ~…うん、もう見えてるんだけどね……」

「ドコですか?」

「さっきから左側に見えてる……」

「え?」


 先程から左側には鉄の格子と白い石の柱を組み合わせた壁が続き、その向うにはちょっとした森が広がってる。

 時折、木々の間から遠くの方にある真っ白な豪邸がチラリと見えた。

 アレが噂の魔王城ホワイトパレス……


「公園か何かだと思ってました…… なるほど、リアル魔王城サイズ……」

「うぅ……」

「お嬢様、ココを飛び越えて入ってしまえば幾分は早く着くのではありませんか?」

「ううん、ダメだよ、今動いてるか分からないけど防衛システムがあるから、外からじゃ解除できないの、100メートル位飛べば話は別だけど……」


 防犯じゃなく防衛なんですね……


 その後5分ほど走り巨大な門へ辿り着く。


「あれ? 開かない…… 電波が飛んで無い所為か…… 屋敷に誰も居ないのか……」

「いかが致しますか?」

「手動で開けましょう、電気は来ているから指紋チェックと網膜スキャンで、一応緋色眼(ヴァーミリオン)も登録してあるから」


 デクス世界の常識は分からないけど、一般家庭のセキュリティーレベルじゃ無いのは分かる。

 私はこのお屋敷に入って大丈夫なのでしょうか? いきなり遠距離から心臓を撃ち抜かれたりとか……

 分身だけ中に入って本体は外で待ってる……って訳にはいかないだろうし……


 ガゴン! ゴオォォォォォン……


 巨大な門が自動で開かれた……


「それじゃ…… 行きましょう」

「は……はい」


 本当に魔王城に赴く気分になってきた……


 目に入ってきたのは手入れの行き届いた庭園、花壇には美しい花が咲き誇り、芝は一律の長さに刈られ雑草が顔を覗かせることもない、ちょっとした森に囲まれてるのに道には葉っぱ一枚落ちてない……

 庭園としての完成度の高さはティマイオスに匹敵する。

 精霊無しでコレほどの庭園を維持するとは…… ホントにスゴイ。


「あ……」

「?」


 お嬢様の呟きと同時に気配を感じた。

 何かが私たち目掛けて降りてくる? 咄嗟にお嬢様をかばう様に前へ出る。


 シュタッ!!


 目の前に突然老紳士が現れた、片膝をつくポーズを取っている…… この人今どこから降りてきたの?


「セバス!」

「もしやと思いましたが、やはり琉架お嬢様でしたか、お帰りをお待ちしておりました」


 セバスと呼ばれた老紳士は、優雅に立ち上がると深々と頭を下げた。

 黒の執事服に身を包んだバトラー…… 有栖川家の執事で間違いないだろう、そしてその纏う雰囲気は……


 ……只者では無い! そう感じさせるものだった。


「ミカヅキさん大丈夫です、ウチの執事のセバスチャンです」


 そう言われ警戒を解く…… 表面上だけは。


「こっちはミカヅキさん、メイドさんの格好をしてるけど大切な仲間の一人なの、失礼の無い様にして上げて?」

「左様で御座いますか、畏まりました」


 その言葉で私に対する警戒は解いてくれた。


「それでセバス…… その…… みんなは?」

「現在旦那様と奥方様は首都の方へ赴いておりますが、もちろん全員ご無事であります、皆様 琉架お嬢様のお帰りを待ち望んでおりました」

「無事…… ほ…… 良かったぁ~」

「それでは屋敷の方へ、大奥様、美影お嬢様、静香お嬢様もお喜びになる事でしょう」

「う~ん…… それじゃ少しだけ、私まだこの後 行かなくちゃいけない所があるから」



 執事に連れられて屋敷に向かって歩き出す。

 途中、私とは少しデザインの違う服に身を包んだメイドを3人見かけた。


 一人はホウキを持ち何かを掃除している……

 一人は剣を持ちその様子を眺めている……

 一人は何か板の様なモノを持ち操作している……


 ちなみに掃除されてるのは魔物の死骸だ…… 数は10匹くらいだろうか? 箒で掃くというより無理矢理転がしてる、防衛システムを飛び越えて入り込んだのだろう。

 やはり彼女たちも有栖川流メイド術を習得しているのだろう、立ち姿に隙が無い。

 きっとSランククラスの実力者なんだ…… コレだけの人員なら心配するだけ無駄な気がする、お嬢様は一体何に怯えていたのか? 謎です。



---


--


-



「「琉架ぁぁぁ~~~!!」」

「むぎゅ! お姉様……苦し……」

「無事で良かった…… 本当に良かった……!」

「プハッ! ご心配かけて本当に申し訳ございませんでした」


 お嬢様が二人の女性に揉みくちゃにされてる、話には聞いていたけど、あの方たちがお嬢様の二人のお姉様。

 髪の長い方が上のお姉様、有栖川美影。

 髪の短い方が下のお姉様、有栖川静香。


 上のお姉様とお嬢様はとてもよく似ている、逆に下のお姉様は二人とはあまり似ていない。でも顔のパーツは近いモノを感じるし、お姉様二人のオーラは似ている、やはり姉妹なのだろう。

 お嬢様のオーラは全く別物だけど、魔王になるとオーラが変質すると言っていたしその所為だろう。


「それで貴女は琉架のお友達の方?」

「私はマスターとお嬢様に仕えておりますミカヅキと申します、以後お見知りおきを」

「仕えてる?」

「ミカヅキさんは以前、お爺様の所でメイド修行を受けたんです、でも主従関係と言うより仲間とかお友達の方が正しいと思います」


 仲間…… 確かに私は同格の魔王になった、その認識はある意味正しいと思うけど…… でもそれは主従関係とは関係ない気が……


「それじゃあお客様としてもてなさないといけないわね、妹の大切な友達として」

「だったら服は着替えた方が良いわね、ちょっと紛らわしいし」

「い……いえ、私は……」

「琉架が同年代の女友達を連れてきたのって初めてだしね」


 何も言えなくなってしまった…… そう言えばマスターもお嬢様も友達がいないって……

 よくよく考えたら私も友達っていなかったな……


「お姉様、小姉様、それはまた後で…… 私達まだこれからしなければならない事があるんです」

「それって浮遊大陸の事?」

「ご存じだったんですね? このままではこの街ごと滅ぼされてしまいます、止められるのは私たちだけなんです」


「………… 分かりました、本当は行かせたくないけど仕方が無いコトなんですね」

「はい、ゴメンナサイお姉様」


「それより琉架ぁ、彼氏クンはどうしたの? 一緒に戻って来たんでしょ? 貴方達って神隠しに遭うのもいっつも一緒だもんね?」

「か…か…彼氏って! ……え~と、神那の事でしたら先に学院へ行ってます。

 1/4アリアの目標は第三魔導学院ですから!///」

「そっかそっか、彼もいるなら一先ずは安心かな? 別の不安は残るけど……」

「別の不安?」

「彼に伝えておいて、ウチの妹をよろしくお願いします、ただしかすり傷一つ負わせたら大変な事になるよって」

「うぅ……///」


 大変な事って何だろう?

 マスターに危害が及ぶような事じゃ無ければ良いんだけど…… まぁかすり傷一つ負わせなければ良いだけの話だし、1/4アリアには魔王は居ないから大丈夫でしょう。





---霧島伊吹 視点---


 帰ってきた…… 半年ぶりの我が家だ…… 何も変わって無い……

 当たり前か、半年しか経って無いんだ。


「ココが私とおにーちゃんの生まれ育った実家よ!」

「おに~ちゃんの……」

「そう、私とおにーちゃんの!」

「おに~ちゃんの……」


 うん、まぁイイんだけどね…… 全ての真実を映すという白ちゃんの摂理の眼(プロビデンス)にはどうやら私は映って無いらしい……

 白ちゃんにとってこの家は禁域王の生家であって、私の存在は置き物程度なのだろうか?

 くそっ! おにーちゃん死ね!


 ガチャ ガチャガチャ!


「あれ? 鍵締まってる、もう避難したのかな? まさか家に閉じこもってやり過ごそうとしてないよね?」


 カチャ、カチン。


「一応中を見てみないと、白ちゃんも入って?」

「ん…… お邪魔……します」

「おとーさーん! おかーさーん! 可愛い可愛い愛娘が半年振りに帰って来たよぉ! 居ないのー?」


 返事は無く人の気配も無い……


「一通り見て回ろっか、10分で終わるからちょっと待ってて?」

「ん……」


 一階から順番に見て二階の自室に至る…… 5分も掛からなかった。

 取りあえずお仏壇に私の写真が飾られてるとか無かったから、死んだとは思われていないらしい、そういえばおにーちゃんが『門を開きし者(ゲートキーパー)』の実験の時に私の無事を知らせたって言ってたけど、私の心配とかしなかったのかな?

 まぁ心配掛けるくらいなら、気に留めずに生活しててくれた方がイイけど。


 家の中を一周して玄関に戻ると白ちゃんが居なくなってた、あれ? トイレにでも行ったのかな?

 白ちゃんを探して家の中をもう一周すると、白ちゃんを見つけた…… おにーちゃんの部屋で……


 白ちゃんはおにーちゃんのベッドに潜り込んで丸まってる、もし私のベッドで同じ事をしてたらきっと襲いかかっていた…… 性的な意味で。


「…………」クンクン


 何かクンカクンカしてるよ…… 何と言うか…… 獣人族(ビスト)だなぁって感じだ。

 きっとアレも自分の匂いをマーキングしてるんだ、私のベッドにも白ちゃんの匂いをつけて欲しかった。


「白ちゃん?」

「…………」ピク


 モゾモゾ


「終わった?」

「あ~……うん、どうやら避難したみたい」


 白ちゃんが布団から顔を出し、平気な顔をして訪ねて来た……

 もし私が同じ現場を人に見られたら、相手の記憶が無くなるまで殴り続けるだろう……


「じゃあおに~ちゃんの所へ…… 戻ろう」


 白ちゃんは何事も無かったかのようにベッドから出てきた……

 なんて強いハートを持ってるんだろう、さすが魔王様!





---佐倉桜 視点---


「ハァ、ハァ……」

「大丈夫ですか? サクラ様」

「うん…… 大丈夫…… アリガトね?」


 私たちは休むことなく走り続け、一軒の民家へ辿り着いた。

 途中出くわした魔物は足を止めることなく斬り捨てて進んだ、傍目から見てもその姿には鬼気迫るものがあったと思う、滅多に見れない佐倉桜の本気の姿だ。


「スゥゥゥ…… ハァァァ……」

「?」


 ここまで休まず走って来たのに、実家を前にして足が完全に止まった。


「…………」

「あの…… サクラ様? 入らないんですか?」

「あ~うん、なんてーかね? 2年半も行方不明だった娘の顔 覚えてるかな?って…… 忘れられてたらショックだから……」


 何故か急に嫌な予感がしてきた、そんな事ないだろうし、根拠も無い。

 なのに嫌な想像が頭の中に渦巻いている。


「大丈夫です! 私のお母様でも娘の顔を見たらすぐに思い出したんです!

 あの悪名高い先代・第6魔王でも!です!

 普通の母娘なら絶対に大丈夫に決まってます!」


「…………」

「…………」


「う……ん、ありがとミラちゃん、それとゴメンナサイ」

「いえ…… 謝らないで下さい……」


 何となくミラちゃんに悪いコトをしてしまった気分だ、今度何か奢ろう……


 そんな時だった、私が玄関扉を開くより先に突然扉が開いた、そして……


 ガン!! ポキ……


 ドアノブ付近で止まっていた右手に衝突、痛ったぁーっ!?


「ぅおおおぉぉぉ~~~!!」

「あら? 何かに当たっ……え?」


 そこには2年半ぶりに見る母が居た……


「お……お母さ……」ウルッ

「え? え? ウソ…… チェリーちゃん?」


 ブウゥゥゥゥゥゥゥーーー!!!??


「………… チェリー……ちゃん?」


 ミラちゃんが得体の知れないモノを見る目をしてる、ああぁぁぁ~! ちょっと待って!


「ちょっ! 違っ! ミラちゃん待って!! お母さん!! その呼び方ヤメテって何百万回も言ってるでしょ!!」

「あぁ!! その返し! 本物のチェリーちゃんだ! うっ…帰って来たのね? うわぁーーーん!!」


 母に抱き着かれて泣かれた…… 泣きたいのはコッチだ。


「え~と…… サクラ様?」

「ミラちゃん…… この事は誰にも言わないで…… 特に禁域王には…… マヂで、お願い……します」


 とんだ帰郷になってしまった…… だから帰りたくなかったんだ。




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