第195話 第三魔導学院3 ~帰還編~
街の中心部へ降り、嫁達と別れ学院に向かい走りだす、隣りにいるパートナーは筋肉賢者…… あ、やる気がみるみる減退していくのが手に取るように分かる……
あぁ!コラ! 歩くんじゃない! 走れって! 結構な緊急事態なんだから!
気合を入れ直せ! 大丈夫だ! 女の子たちは後で合流するんだ!
その時に敵の先発隊くらい倒しておかないと失望されるぞ?
「おい! 霧島! なんでお前たち二人なんだ? 他の奴らはドコに言った?」
あぁ…… そう言えば伝説君達がいたっけ…… 一応女の子も二人居るんだよな…… 厚化粧の先輩と呪いの人形っぽい後輩が…… 全然やる気が回復しない。
「D.E.M. のデクス世界出身組は全員この街に実家がある、だから様子を見に行ってもらった。
ついでに街に降りた魔物の退治も頼んであるがな、そう言えばお前らはどうなんだ?」
「ウチは先輩方が…… 黒田先輩、加納先輩、天瀬先輩が確か実家通いだったハズ…… あの……」
「僕は別にいいかな? ウチの親はどうせ研究室にいるから家には居ない、そもそも魔物が普通に跋扈する街中を僕一人で歩くのは死ににいくのも同然だ」
さすが天瀬先輩、ちょっと情けない心情も躊躇なく漏らすとは…… 確かにこの先輩、戦闘能力ゼロだから一人でいったらきっと死ぬ。
「ただ黒田先輩と加納先輩は一度戻ったほうが良いんじゃないか? 二人は確か幼なじみで家も近所だろ?」
「天瀬…… なんでそれを知ってる?」
へぇ~…… 幼なじみなのか…… 俺の人生に全く必要のない情報だったな、超どうでもいいよ。
「黒田先輩、加納先輩、行って下さい。学院の方は大丈夫ですから」
おぉ! 伝説君の発言が男前だ! しかし学院の方が大丈夫って何の根拠があるんだ? 戦闘員の半分が欠けたらチーム・レジェンド的には、かなり厳しいと思うが……
もっともウチも戦力の殆どをバラけさせたから人のコトは言え無い……
「しかしそれじゃあ……」
「大丈夫ですよ、先輩方が戻るまで俺と武尊で学院を守ります!」
「……分かった、それじゃ少し頼む、気を付けろよ!」
「はい! お二人もお気を付けて!」
そんなやり取りの後、黒田先輩、加納先輩は去っていった……
「お前ら大丈夫なのか? チーム・レジェンドは連携が強みだろ?」
「問題無い、オルター戦後、個々の戦闘能力を上げる訓練もしてきた」
あぁ…… オルターではいきなり分断されたもんな、個々のレベルアップは集団戦の戦力強化にもつながる、なかなか勤勉な奴らだ。
「そうか…… だったら頼りにさせてもらおう」
「あぁ! 任せろ!」
実際、伝説君と武尊のギフトは防衛に役に立つ。死なない程度に頑張ってくれ。
通い慣れた道を走ると前方に魔物の背中が見えた、進行方向は同じく第三魔導学院へ向かっている。
サルに似た獣がそのまま二足歩行している感じの魔物だ、亜人種にカテゴリーされる奴だな、毛むくじゃらのクセに鎧まで身に着けてる。
せっかくこちらに気づいてないんだし、一匹づつ減らしておくか。
「む? アレは『将獣』か?」
「『将獣』? ずいぶん偉そうな名前の畜生だな?」
「あぁ、ある意味偉いぞ、『将獣』は『兵獣』を統率する立場だからな。
また魔物にしては頭が切れる、挟み撃ちに不意打ち、囮作戦なんかを効果的に使ってくる。
ある程度の数が揃うと、かなり厄介になる魔物だ」
魔導学院は基本的に個々の能力を高めるための場所だ、組織立った動きが出来る学院生など殆どいないだろう、せいぜいチームを纏めても分隊くらいの人数が限界か……
しょうがないか…… 魔導学院は軍人の育成学校じゃ無いんだから。
「だったら早めに見つけられたのは幸運だったな。
今のうちに片付けちまおう」
「ふむ…… まぁあまり意味は無い気がするがな」
「あぁん?」
「アレは魔物を統率するのに都合のいい魔物だ、自分より弱い魔物は大抵操れる。
人型種族や使徒より運用しやすかろう。
きっと他にも何十匹と来ている筈だ」
チッ…… もっともな話だ、しかし優先して倒す価値がある敵だ。
せっかく背中向けて走ってるんだし、サクッとヤッてしまおう。
魔神器から分断剣を取り出す。
「珍しいな、魔術じゃ無いのか?」
「節約だ、念のためな」
魔王化後、俺の能力値100000を超えてる、余程燃費が悪い戦い方をしない限りは魔力枯渇になったりしない。
しかも俺は魔力をケチるのが世界一上手い、なのであくまでも念のためだ。
そんな時だった、先を走る将獣が一瞬だけ首をひねり、こちらをチラ見した……
そう言えば数秒前にジークが言っていたが、コイツは囮も使うんだった、と、言う事は……
案の定、周囲の建物の上から兵獣が飛び降りてきた。
カチ! ギュィィィィィン!!
回転刃が派手な音を出しながら起動する。
「ふん!」
その場で二回転しながら分断剣を振り回す、時間差をつけて飛び降りてきた兵獣を全て斬り捨てた!
「ほう、噂通り伏兵を用意していたか、タイミングも悪くないしなかなか厄介な敵らしいな」
「ふんっ! 畜生の分際で人間様の裏をかけると思ってたのか?」
将獣はその場で立ち止まり、奇襲が失敗した事を確認すると、倒れている兵獣の事など気にする様子も無く、そのまま走り去った。
亜人種ってのは仲間意識が低いのだろうか? それともアイツが将獣だからか? どちらにしても逃げるしか道は無いが…… 当然逃がしはしない。
即座に魔神器からスローイングナイフを取り出し転移投擲!
「ガッ……ッ……!?」
兜の下の首筋辺りにナイフが深々と突き刺さった。
「ふむ、まんまと魔力を消費させられたな?」
「やかましい! しかしジークの言う通りだな、実戦経験の少ない奴ならヤバかったかも……」
こんな奴らが既に学院に入り込んでるんだ、避難が遅れたりしたら犠牲者が出るぞ?
「おぉ! 神那君、キミ凄い剛腕してるな! 時速200kmぐらい出てたんじゃないか? 全く見えなかったぞ、キミならメジャーを狙えるよ」
「さすが霧島先輩! まさに『見えざる銀の弾丸』!!」
勝手に名前つけられた……
てかどっちもハズレだ、速いワケでも見えないワケでもない。
もちろんネタばらしをする気もないが……
「仕方ない、街に落ちた突撃艇から出てきた敵を倒しながら行こうと思ったが、こいつ等の処理は後回しだ。
最短距離で学院に行くぞ! 擬似飛翔魔術を使う……全員…… くっ…ぐぅ… 近くに……寄れ!」
「たったそれだけの言葉になぜそれほど葛藤する?」
男だらけだからに決まってんだろ!! くそぅ! 早くも女の子成分が枯渇してきた!
唯一の癒しが真夜だけだからなぁ…… 未だに素顔を見たコトが無いが美少女だったらいいなぁ。
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― 第三魔導学院 ―
中央校舎臨時司令部では教師陣が何とか事態をコントロールしようと奮戦していた。
「校庭はチーム・デスティニーに任せろ! 軍とはまだ連絡が取れないのか!?」
「ダメです!! 有線回線も反応がありません! 最後の非常事態を知らせる通信以来、音信不通です!」
「くっ! 西校舎の避難状況は!?」
「現在、推定72%程ですが、魔物が押し寄せてきてこれ以上はバリケードも維持できません!」
「仕方ない…… 西校舎を封鎖しろ!」
「し…しかしそれでは取り残された者たちが……!!」
「このままでは防衛線の維持が出来なくなる! 脱出経路を一つだけ残し館内放送で伝えろ、暗号化してだ!!」
「りょ……了解しました……!」
「校外からも魔物が流入してます! そちらにも対処しないと!」
「……! 魔力戦闘判定Dランクの生徒を向かわせろ!」
「しかしDランクは実戦を禁止されてます、戦力には……」
「緊急事態だ! 1チーム15人編成で組ませ、遠距離戦闘のみ許可するんだ!! リーダーに教師を一人付ける!!」
「教頭! 避難住民は!?」
「全員、大講堂へ移動させろ! そこだけは何としても死守するんだ!!」
「ふっ…浮遊大陸接近!! 本校上空到達までおよそ30分です!!」
「くっ!!」
「も…もう限界です!! 全員大講堂へ避難させて防衛させるべきでは!?」
「分かっている!! しかし少しでも敵を減らさなければ一気にやられる!!」
「……もう……無理なのでは……?」
「…………っ!」
臨時司令部は喧騒に包まれていたが、諦めに近いムードが漂っていた。
世界的電波障害の為、事前準備が出来なかった事が致命的だった。
敵の先発隊すらまともに抑えられていない現状では、浮遊大陸本体から降る『アリアの雨』を凌ぐ事など不可能だった。
「これまで……なのか?」
既に第七・第六魔導学院が壊滅したという情報が届いている…… 位置的に第五魔導学院も落とされている可能性が高い。
もはや絶望しかなかった……
一方その頃、校庭では ―――
運命率いるチーム・デスティニーが懸命に敵の封じ込めを行おうとしていたが、突撃艇から溢れ出る敵の群れに押されていた……
戦場は乱戦の様相を呈している、こうなると魔術師による援護も容易に行えない。
「くそッ! だから乱戦に気を付けろと……っ!」
「先輩、無茶です! 敵の勢いが落ちないと対処しきれません!」
「せめて西校舎から敵が来なければここまで事態が悪化することはなかったハズなのにっ!」
実戦経験が少なく大軍相手の訓練をしていない為、全体的にまとまりが無い。
今は個々の戦闘能力で何とか抑えているが、押し切られるのは時間の問題だった……
「せっ…先輩! 後ろ!!」
「!? 西校舎の敵か!?」
校庭を囲んでいる包囲網の背後から魔物が向かってきた!
「こっちは俺がやる! お前達は持ち場を離れるな!! 『業火之鎧』!!」
その瞬間、運命の身体を業火が包み込んだ!
彼のギフト『業火之鎧』…… 全身を業火で覆い尽くす攻防一体の能力。
能力を解除するまで消えることの無い業火を纏う非常に強力なギフトだが、致命的な欠点がある。
業火之鎧発動中、使用者は呼吸ができなくなるのだ。これは小型ボンベなどを使用しても改善される事は無かった……
この欠点の為、彼はオリジン機関の落ちこぼれ判定を喰らったのだ……
ちなみに高位魔術に同様の効果をもたらす魔術が存在するが、そちらには呼吸制限の欠点は存在しない。
「第4階位級 火炎魔術『皇炎』ラヴィス・レイム!!」
業火之鎧の業火を上乗せし、通常ではあり得ない威力の皇炎を放ち敵を焼き尽くした!
「!?」
そんな中、一匹だけ猪の様な魔物がその業火を無視し突っ込んできた!
その魔物は赤炎猪、自ら炎を発し、耐火率100%の毛皮を持っていた……
ドドドドドドッ ドガッ!!
「バッ…バカなッ!!?」
赤炎猪の強烈な突進に弾き飛ばされ、業火之鎧が解除される、すると同時に皇炎の炎の壁も消滅した。
そして西校舎の方角から次々と魔物が迫ってくる!
「くっ……! くそっ!!」
魔物たちは一番近くにいる運命に狙いをつけて襲い掛かってきた!
その時……!!
ピシュン!! ズババババババババッ!!!!
突然現れた何者かが1秒にも満たない時間で、迫り来る敵の全てを斬り伏せたのだった。
その男は未だ倒れている運命の前に立っている……
そして背中を向けたまま話し掛けてきた。
「何をやってるんだ兄さん? 早く立ち上がれよ」
「レ…… 伝説?」
半年ぶりの兄弟の対面だった……
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伝説君が主人公っぽいことをしている……
減速中の擬似飛翔魔術から飛び出して、運命兄さんを助けに行った……
何と言うか…… 実に主人公っぽい。本来なら俺の見せ場になる場面なんだが…… まぁ…… 今回は譲ろう。
何故なら俺には運命兄さんを何としても救おうという気が無い、このタイミングなら多少怪我はするだろうがギリギリ間に合っただろうしな。
普段は兄弟仲が良く無かった気もするが、実の兄のピンチに体が勝手に動いてしまったのだろう。B級ドラマっぽくて、たまにはこういうのも悪くない。
運命と伝説の兄弟の横に着地した。
「どーも運命兄さん、お久しぶりッス」
「き……霧島?(何でコイツがここにいる?)」
「今回は静かな着地だったな、また踏まれるんじゃないかと怯えていたよ」
「天瀬……?(相変わらず不健康そうな顔をしている)」
「フハハハハハァーーー!! 遥かなる旅路の先に ついに約束の地へ帰り着いたぞー!!」
「……朱雀院(なんだよアヴァロンって?)」
「…………」
「白川……だったか?(そんな名前だったような……)」
「ふむ、建物の造りは第一魔導学院とやらに酷似してるな」
「…………!!(なんだアノ筋骨隆々の大男は!?)」
「お……お前達は……」
「失礼、話はちょっと待って下さい。まずは敵を何とかしないとな…… 武尊、突撃艇の周りに空気の壁を作れ、上は開けた筒状の奴だ」
「了解であります! 霧島先輩! 『天五色大天空大神』
極限封印奥義!! 見えざる無限監獄!!!!」
校庭に突き刺さっていた突撃艇の周囲に、目には見えない空気の壁が形成された。
これにより、突撃艇の中に残っている魔物たちは完全に閉じ込められた、そして……
「第4階位級 雷撃魔術『王雷』ライトニング」
カッ!! ガガァァァーーーン!!!!
雷が突撃艇に落ちると、黒焦げになった魔物が数体転がり落ちてきた……
それまで次々と魔物を吐き出していたオブジェは完全に沈黙した。
空気の壁のおかげで周囲で戦っていた生徒たちにも被害は無い、もっともそれは敵の魔物にも言える事だが。
「さて…… 校庭の方は伝説君達に任せてイイか?」
「あぁ、問題無い」
「そか、んじゃ俺は西校舎の方へ行ってくる、学院の外から来るヤツも頼むぞ?」
「任せろ」
「良し、行くぞジーク」
「ん? お前一人でも充分じゃないのか?」
「校舎内は狭いから壁が必要になるかも知れないだろ? それにケガ人が居たら誰が運ぶんだよ? 自慢じゃ無いが俺は腕力には自信が無い」
「確かに自慢する様なことじゃないな…… 分かった、行こう」
それだけ言うと、特に打ち合わせをするでも無く、とっとと二手に分かれた。