第194話 高天
目を閉じている……
いつもと同じだ、ゲートによる異世界間転移と……
目を開くとそこは森の中だった、ドコだよここ……
周囲にはギルドメンバー全員がいる、しかし他には誰もいない、助っ人も使途リーマンも居ない…… 一瞬騙されたのかと思ったが、そう決め付けるのは早計だ。
助っ人が俺達と同じ場所に送られるとは限らないし、最初から期待して無い。
使途リーマンにしても送り届けたら仕事は終了、それ以上かかわる気が無いならさっさとその場を離れるのは当然だ。
街中へ転移して注目を集めるよりも、人けの無い所へ転移した方がいい。
問題なのは本当にココが大和なのかと言う点だ。
周囲の植生を観てココが大和かどうか調べてみる……が、分かる訳が無い、俺は植物学者じゃないんだからな。
ただざっと見た感じシニス世界では無さそうだ。
「ここ…… 何処だろうね?」
前に第三魔導学院の魔宮を調べた時の事を思い出す、あの時も脱出したら近くの山の中だった。
使途リーマンの言った事が全て事実なら、高天の近くにワープアウトしてるハズだ。そうでなければ意味が無い。
白がアイツの言葉は真実だと言っていたが肝心な事を忘れていた、アイツ自身が嘘を真実だと思い込まされていた場合、それを確かめる術がないことを……
大丈夫か? ちょっと不安になってきた。もし魔王リリスが俺達をハメる気だったら、まんまとその罠に掛かってしまった事になる……
やはりアイツの言葉を素直に信じるべきでは無かったか…… 今更悔やんでも後の祭りだ。
悔やむのはハメられたと確定した時にしよう、今はとにかく現在地の確認だ。
空を見上げると日が少し傾いている、大和の標準時で夕方の5時…… そして晴れているのにオーロラは見えない…… 期待は出来ないが念の為GPSを確認してみるか。
………………
…………
……
エラー…… ま、そうだろうな。
なら電話はどうだ? アンテナは立ってる。
………………
…………
……
やはり誰も出ない…… 一応言っておくが着信を無視されてる訳じゃ無い、コールされないんだ、つまり繋がらないと言うべきだったな。
後は移動して自分の目で確かめるしかない。
「おに~ちゃん…… あっちが臭い、それに微かに音が聞こえる……」
白が進むべき方角を教えてくれた、あと「おに~ちゃん臭い」って言われなくて良かった。
白の指し示した方角へ進む、一応テリブルや魔物の襲撃に警戒しながら…… もっとも周囲に大型生物の気配は無い、ただテリブルは突然現れる事もあるからな。
しばらく歩くと急に視界が開けた。
思ったより近くに街が見える、それは見覚えのある街だった…… 俺の生まれ育った街だ。
魔科学都市「高天」
大和のほぼ中央に位置する四方を山に囲まれた盆地にある都市だ。
オカルト的な遺物が多く見つかり、古くからある土着宗教の総本山なんかが置かれている事もある。
大昔にはこの地に首都を移転するなんて話もあったらしい。
ただ海からも遠く、都市の規模からいうと大和のトップ10からギリで外れる。
その代わり、この地は大和でも最も魔科学が発展している都市と言える、その最たる理由はやはり第三魔導学院の存在だろう。
大和の魔科学関連の企業の本社や支店は必ずこの都市にある。
その為、首都の次に多くの防衛力が配備されている……
そんな街が俺達の故郷であり…… 次の戦場でもある訳だ……
せっかくおよそ半年ぶりの帰郷なんだ、ゆっくりと羽を伸ばしたかったんだが…… 今はその街に大雨警報が発令されている、ちょっと様子を見に行ったら命にかかわる程危険な雨だ。面倒な事この上ない。
本当なら平和な街を、女の子たちを案内して回る予定だった……
ショッピングをして、アイスとか二人で食べながら腕組んで歩いたり…… そんな絵に描いたような青春を謳歌する予定だった。
ところがだ。
シニス世界最悪の天上天下唯我独尊女の出現により、俺の甘く切ないキャ♪キャ♪ウフフ♪の青春計画は脆くも崩れ去った…… くそっ!!
そんな最悪な事態でも、一つだけ救いがある。
それはあの天上天下唯我独尊女は南極に引きこもっており、ウチの実家に突撃を掛けてるのは下っ端だという事だ。
あの女が南極で氷漬けにでもなっててくれれば世界は平和になるんだが、とにかくこっちに来ていないだけで有難い。
もちろん簡単に片が付く訳でも無い、ミニアリアが如何に1/4サイズとは言え広さは6000平方キロメートル、小さな島国ほどもある。
さすがにこれは落とせない……
いや、まず心配するのは魔科学都市・高天の事だ。
後の事は後で心配しよう。
空を見上げても島は浮いて無い、どうやら間に合ったらしい…… 久しぶりに見る故郷が焼け野原とかゲームなんかにありがちなイベントが起きなくて良かった。
そういうのは勇者の仕事だ。
そこでふと気づく、久しぶりに見た街に見慣れないオブジェが立っている……
一つは学院の校庭に思いっ切り突き刺さってる、大きさは百メートルを越えるほどだ、俺がかつて校庭に造ったαテリブルの巨大な氷の不気味オブジェみたいだ。
一つは街の真ん中に建ち、もう一つはこの位置からは見え辛いが学院の西校舎に突き刺さっていた…… 幾らなんでもアバンギャルド過ぎる……
「いったい何なんだアレは……!」
意味不明な前衛芸術? だったらまだマシなんだが……
「ふむ…… アレはもしかしたら突撃艇かもしれんな」
ジークには心当たりがあったようで、解説してくれた。てかちょっと待て……
「突撃艇……だと?」
「うむ、第一次魔王大戦時、頑丈に作られた塔に魔族を詰め込んで相手の陣地に打ち込むという戦法が行われたらしい」
「それじゃあの不気味オブジェには魔族が詰め込まれてる……と?」
「確信がある訳では無い、古の大戦の遺物として朽ち果てた突撃艇を目にした事がある程度だ、ただ形は酷似していた。
そしてこの戦法を使ったのが第3魔王マリア=ルージュだという伝説が残っているだけだ」
ほぼ確定じゃねーか! 間に合ったと思ったけどそんな事は無かった!
「か……神那ぁ……」
「ん?」
「あっち…… 南の空…… 見て」
「南…… あ……」
南の空…… そこには遠くに見える山並みの、更にその上に巨大な山が薄っすらと見えていた。
ミニアリアだ…… ミニでもやっぱりデカい!
この距離であのスピードなら、この街の上空に来るまで…… 1時間ってトコロか?
「…………」
「神那ぁ~」
「か……神那クン?」
「おにーちゃん?」
分かってるから焦らせないでくれ、街がすでに戦場と化しているのも理解してる…… クソッ! 分けるしかないか。
「今から俺達は四手に分かれる、ただし最終的には第三魔導学院で合流する」
「うん! それで組み分けは?」
「まず琉架と先輩と伊吹は、それぞれが一番気になっているであろう実家に向かってもらう。既に避難している可能性も高いが、それでも確認しなきゃいけない」
コレだけの非常事態だ、心配事を残して戦わせる訳にはいかない、みんな十代女子、ナイーブなお年頃だ。
「まずミカヅキ、琉架について行ってくれ」
「畏まりました」
「白は伊吹について行ってやってくれ」
「ん…… 分かった」
「ミラには先輩の事を任せる」
「は…はい、任されます!」
「ジーク…… 俺達は二人で学院だ…… ハァ……」
「あからさまに落胆するな、緊急事態なんだろ?」
分かってるよ! しかし何故、禁域王たる我が筋肉王とご一緒しなけりゃならないんだ? 男女比1:3のギルドで何故!
「しかし敵の狙いはその第三魔導学院とやらなのだろう? だったら戦力を分散するなら俺とミカヅキは交代したほうが良いのではないか?
流石に魔王の一角であるミカヅキと俺とでは、戦闘能力に差がありすぎるが?」
「言いたいことは理解る、確かにジークの言う通り学院に戦力を集中したほうがイイであろう事もな、だが……」
「だが?」
琉架と筋肉王を二人で行かせられるか! って理由と……
「琉架の実家はリアル魔王城ってくらいに広いんだ、もし琉架の家族が避難済みだった場合、それを確認するためにもホワイトパレスの中を探さなければならない。
手分けをするにしても一人で数人分の仕事をこなせるミカヅキの『鏡界転者』が最も有効だ」
「あぁ、あの有名なホワイトパレスって琉架ちゃんの実家だったんだ、今更だけど初めて知ったよ」
「魔王城…… ホワイトパレス?」
「あぅぅ~……///」
「それと伊吹と先輩に白とミラを付けたのも、万が一の時の為のだ。
二人とも魔族くらい退けられる実力はあるが、上位種族が出てこないとも限らない。
メンドクセーとは思うけど、ウチのアホ妹と先輩のことをよろしく頼む」
「ん……」
「はい、お任せ下さい」
「誰がアホ妹だ」
まぁ魔王の二人がそれぞれ付いて行ってくれれば安心だ、むしろ戦力の少ない第三魔導学院の方が心配なくらいだ。
くそッ! 助っ人ドコだよ!? この際、師匠でも文句言わないから!
「それで神那クン、まだ家族が避難してなかった場合はどうすればいいの?」
「ん…… 今から街の外へ逃げるのは不可能だな、自宅或いは近所にシェルターが有るならそこへ、無ければ学院に連れて来てくれ、そこで避難してもらう」
「でも…… 狙われてるのって第三魔導学院だよね? それって自分からトラの巣穴に飛び込むようなモノじゃないの?」
「いや、そもそも俺は第三魔導学院を壊滅させる気は一切無い、その為に俺たちが来たんだから。
それに最悪の場合には魔宮に避難する手もある。
魔宮内にも魔物は居るが、これから降ってくる『アリアの雨』に比べれば遥かに低レベルだ、学院生でも簡単に対処できる、ディープブルー・ドラゴンだけは要注意だがこの時間ならお食事タイムは過ぎてる、一般的なシェルターより遥かに安全だよ」
「魔宮! そう言えば地下にそんなのがあるって言ってたっけ、確かに入り口を壊しちゃえば絶対に誰も入れない究極のシェルターになるね」
魔宮は一方通行だからな、出口も学院から遠いし。
「シニス世界組にはデクス世界の都合に巻き込んじまって悪いとは思うが…… スマンが手伝ってくれ」
「…………」「…………」「…………」
「お……おに~ちゃんとルカは、敵を討ってくれたから…… 白は何でもします」
「メ……メイドが主の役に立つのは当然の事です、それに筋肉の呪縛を断ち切ってくれた件もありますし」
「カ……カミナ様には命を助けて頂いたことがありますし、敵討ちにも手を貸して頂きました。
お礼など仰らないで下さい」
エエ子や…… みんなエエ子や、頬をチョット染めてる所なんかもう完璧! さすがは俺の人徳、エエ子が集まって来る!
「お前達は幾多の魔王を倒しシニス世界を救った、ならば我々がデクス世界を救う事も当然の事だ。
そもそも第3魔王はシニス世界の問題だった、ヤツを倒す事は俺の…… いや、人類の悲願でもある」
エエ子は良いけど、エエ筋肉は…… いやいや、折角のご厚意だ有りがたく受けさせて貰おう。
「それじゃミカヅキさん、よろしくお願いしますね」
「はい、お嬢様の足を引っ張らない様、尽力いたします」
ミカヅキが足を引っ張る事は無いだろう、魔王コンビなら例え第3魔王が突然現れても対処できる。
「白ちゃ~ん♪ ヨロシクねぇ~♪」
バッ! スカ!
「……ヨロシク」
伊吹が白に抱き付こうとして避けられた…… この非常事態に何やってんだアホ妹は?
自重しろよ、お前は妄想を発露しすぎだ。妄想とは表に出さないモノだ、TPO考えて! 白とミラは交代した方がイイかな?
「んじゃミラちゃんお願いね? 頼りにしてるから」
「はい、頑張ります」
「それから…… コホン、一つだけ注意点なんだけど、決して私の部屋へは入らないでね? お願いだから!」
「?? はい…… わかりました?」
先輩からの注意点はそこか…… うん、まぁ…… 重要なコトだもんな。
「良し、それじゃあ街までは俺の……」
「うおおおぉぉぉぉぉーーー!!!! なんだ!!? 何が起こった!!?」
その時突然、俺の言葉を遮って、どこかで聞き覚えのある声が聞こえた……
「今の感覚…… まさかまた神隠しか!?」
「いや! 見ろ! 街が…… アレってまさか高天市……か?」
「か……帰って来たのか?」
おい! 助っ人ってもしかしてアレか?
俺達の数メートル先に突如現れた人影は…… アルスメリアで別れたチーム・レジェンドだった……
もう少し他に誰か居なかったのかよ? サポーターの二人は戦力にならないし…… もしかしてマーキングって三回目の神隠しでご一緒した時の事なのか?
「おい……」
「ん? おわっ!? き…霧島!? 何でココに!?」
どうやら説明も無く突然連れて来られたらしい…… これじゃ殆んど誘拐だな。
しかし実家に連れてきてもらったんだから悪い事でも無いか、今の世界情勢じゃいつ帰れるか分かったモンじゃ無いし。
ん~…… 一応話を合わせておくか。みんなに目配せをしてから……
「俺達は気付いたらココに居たんだ、お前達もか?」
「あ……あぁ、突然目の前が真っ暗になったと思ったら…… 気付いたらココに居た」
「そうか…… まぁ詳しい話は後にして、今ちょっとヤバイ状態なんだ、お前達も手伝え」
「な……なんだよヤバイ状態って?」
「南の空を見てみろ」
「南? って!!? なんだありゃァァァーーー!!!!」
ベタな反応だな、こいつらシニス世界で浮遊大陸を見たコト無かったのか。
「半年前に行方不明になっていた浮遊大陸アリアの一部だ、それが今まさに第三魔導学院を攻撃しようとしている、街を守るためだ、手伝え」
正直、猫の手も借りたい所なんだ。チーム・レジェンドなら学院生よりは遥かに役に立つ。
「お…… お…… おぉ!! 俺達はこんな時の為に経験を積んできたんだ!!」
「そ……そうだ! 運命の奴を見返すチャンスだ!!」
運命兄さん! そんな奴居たな! 死んでなきゃいいけど……
「良し、それじゃあ街の中央付近までは擬似飛翔魔術で全員連れてく、そこで散開、後に第三魔導学院で合流する!」