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レヴオル・シオン  作者: 群青
第四部 「転移の章」
199/375

第193話 復讐しない人


 面倒な事になった……

 アルスメリア軍とは正面からコトを構える気は無かったんだが、お得意の口八丁で切り抜ける事は出来そうにない。

 推して参るにしたって、全員ブチのめす訳にもいかない、コレだから話の通じない輩は……


「君たちのデータは見させて貰ったよ、霧島神那はダブルスペルや合成魔法を得意とし、第2階位級の魔術を駆使する魔術師タイプ。

 有栖川琉架は増魔(チャージ)を使い、魔術の威力を底上げする戦法を得意とする。

 しかしこのマジックチャフの領域内ではどちらも使えないでしょ?

 降伏するなら今からでも遅くないけど…… どうする?」


 優しい先輩だ…… いや、甘いというべきか。


「………… リズ先輩、ホントにちゃんと俺達のデータ見ましたか?」

「………… もちろん!」


 なんか()があったな…… この人 結構適当だな、俺と琉架のギフトの事分かって無いのか?

 俺の『血液変数(バリアブラッド)』は核融合を起こせるんだぞ? まぁこれは師匠が報告してない可能性が高いが、琉架が接近戦最強と呼ばれていたことも知らないらしい。

 正直、魔術を封じられても俺は大して困らない、第2階位級は殺傷力が高すぎて手加減には向かないんだ。


 そもそも反魔術領域(アンチマジックフィールド)ならともかく、マジックチャフなど幾らでも排除できる。


「とにかく命令だから貴方達を拘束させてもらいます、抵抗は……しないで下さい」


 そう言ってリズ先輩がM・ウェポンから飛び降りた。

 その直後だった……


「あ…… 神那、ナニか来たよ」


 琉架の予知能力が何者かの襲来を捉えた。

 その言葉の3秒後、空に突然渦が出来た。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


「なんだ?」


 見た目は合成魔術の『極紅炎陣(クリムゾン・ボルテクス)』の様だが、炎を伴っていない…… そもそも魔術じゃ無い。

 その渦は空気中に漂うマジックチャフを吸引している、トルネード式掃除機みたいだ。


「なっ……なにこれ!?」


 リズ先輩が驚いている所を見るとアルスメリア軍の仕業じゃ無い、てか自分たちで撒いたチャフを自分たちで回収するはず無いか。

 それじゃ一体何が起こってる? 魔術では無い、ギフトとも違う感じだ…… 魔力で引き起こされた現象じゃ無いっぽい。

 だとすると…… 未知の古代魔術を使う奴が来ちゃったのかな?

 全滅した妖魔族(ミスティカ)の様子を見に……? 有り得る!


 ネアリスの街を覆っていたチャフが粗方吸い尽くされた直後、今度は強烈な雷が落ちてきた!


 ズガァァーーン!!!! バリバリバリバリ!!


 その落雷は橋を塞ぐように立ち並んでいたM・ウェポンを破壊した!



「な……なんてコト……!」

「これは……『建神御雷(タケミミカヅチ)』か?」


 第3階位級の雷撃魔術だ。この雷の直撃…… いくらM・ウェポンのコックピットが絶縁処理がされてるからってパイロットは無事だろうか? 少なくともM・ウェポン自体はもうダメだな……

 ……て、リズ先輩がこっちを睨んでる…… ちょっと待て! コレは俺の仕業じゃないぞ!? なんでどいつもこいつも俺に冤罪を被せたがる!?


「キミは…… 許されない事をした!」

「ちょっ! 誤解だ! 今のは俺じゃ無い!」

「じゃあキミ以外に誰がこんな事を……!!」


 もうヤダ、この人完全に俺が犯人だと決め付けてる。

 そもそも俺は常に人死が出ないように気を使ってきた、今回だって人狼と妖魔族(ミスティカ)しかヤッてない、なんでこの人は俺が無慈悲に人族(ヒウマ)を殺せると思ってるんだろう?

 もしかして俺が魔王だって知ってるの?


「あ、神那危ない」

「え?」


 グイ!


 唐突に琉架に引っ張られた、イキナリだった為思わず琉架に寄りかかってしまった…… あぁ、柔らかい…… ワザとじゃ無いです。

 いや、そうじゃ無くって、俺が一瞬の幸せを感じたその直後、今まで俺が立っていた場所に何かが猛スピードで落ちてきた。


 キュン! ドゴォォォォオオン!!!!


 その何かは橋を突き破り、下の河へ激しく飛び込んだ。


「なんだぁ?」


 隕石でも落ちてきたのか? 俺を狙い撃ちしたかのような落下コース…… 俺ってどれだけ神に愛されてるんだ?


「リズ先輩…… いきなり俺のこと殺そうとしました?」

「はぁ!? ちっ…違う! コレは私たちとは関係……無い……ハズ……」

「アルスメリアは神の杖を宇宙空間に配備済み…… なんて噂も聞いた事がありますが?」

「ちっ…違ッ! 本物だったらもっとトンデモナイ威力になって……いる……ハズ……

 そ! そんなのただの噂よ!! 有るわけ無いでしょ!!」


 え? ちょっとカマかけただけだったんだが…… ホントにあるの? 神の杖?

 高度1000kmの宇宙空間から質量体を音速を優に超える速度で撃ち込む兵器…… 都市伝説だと思ってた。

 まぁホントに有ったらとっくに使ってるか、浮遊大陸を攻撃するのにコレ以上適した兵器はないからな…… あ、そうか、オーロラの電波障害のせいで使えないのか。

 肝心な時に役に立たない、まるで勇者みたいな兵器だな。


「…………」


 穴から下を覗き込む、降ってきた何かはすでに水底か…… ヴァン・アレン帯から落ちてきたらこの程度じゃすまないよな?

 いや待て、水底にオーラが見える…… それも生物特有のモノだ。

 と言うより、何か見覚えがある…… 一体ドコでだったか?


 ザザザァァァーーー


「おぉ!?」


 何者かの着水地点を中心に大きな渦が発生した。

 第4階位級 流水魔術『大渦潮』メイルシュトロームだ。使ってる奴 初めて見た……


 渦はどんどん大きくなり川幅いっぱいまで広がり、とうとう川底が顔を覗かせた…… そこには一人の男が立っている、しかしその姿は何の変哲もない、どこにでも居そうなスーツ姿のサラリーマンだ。

 やっぱりドコかで見覚えが…… だがあんなモブっぽいリーマンいちいち覚えてられねーよ、よっぽど印象に残らない限りは。


 男はその場で飛び上がると、器用にも橋に空いた穴から飛び出してきた、素晴らしい跳躍力だ。そのまま空中で一回転すると橋の欄干に着地した。

 橋を突き破って落水とか、微妙にカッコ悪い登場をした癖に随分とエンターテイナーだな。


 そしてその顔は、やはりドコかで見覚えがあった…… 誰だっけ?


「……使途?」


 琉架が小声で呟いた、その言葉でようやく思い出せた。


「あぁ、お前か! やあ! 久しぶり、復讐に来たのか?」

「チッ……」


 男は忌々しいといった顔で視線を逸らした。


「神那、知り合い?」

「知り合いと言うか…… 3回目の神隠しの少し前に俺と琉架と伊吹の事をウォッチングしてたストーカーだ」

「あ、あの顔っておにーちゃんがモンタージュ作って指名手配してた人…… ストーカーだったのかよ!

 ん? ちょっとまって、復讐しに来た? こっちが復讐するんじゃ無くて?」

「いや…… ストーカー見つけたら肩とか手を壊すくらいするだろ?」

「しねーよ! てかやり過ぎ!

 でもお姉様の安全のためならそれくらいは許可します」

「うん、ありがとう伊吹」


 妹様の許可が頂けた、やはり俺の行いは正義だったな。自信を持っていこう。


「それで? お前は本当に何しに現れたんだ? 復讐なら今度は逃がさないぞ?」

「フン! 今回は別件だ、主の命によりお前達を大和へ連れて行くために来た」

「!?」


 何だって? 大和へ? 連れてってくれるの? コイツが? ナニ言ってんの?


「信じられないといった顔だな……?」


 そりゃそうだろ! 魔王の使途でストーカーで復讐者、信じられる訳が無い! 勇者に背中を預けるとの同じくらい信用ならない!


「だがココでゆっくり喋っている時間も無い…… アリアが大和に向かっている……」

「なに?」

「目標は当然、第三魔導学院だ」

「……」


「え? え? ウソ?」

「そんな……」

「光学観測とアリアの移動速度を考えると、そろそろ非常事態宣言が発令されている頃だろう…… 或いは既に上陸した頃か……」


 こちらの不安を煽るような情報…… 本物か…… どちらにしても鵜呑みには出来ない。


「その話…… 証拠は?」

「無い、信じるかどうかは全てお前達次第だ」


 証拠なし…… ただの戯言と思うのは簡単だが、話を聞く価値くらいは有りそうだな。


「何故その話を俺達にする?」

「今現在、デクス世界に措いてアリアを…… 第3魔王を倒せる可能性があるのはお前達だけだからだ」


 また嫌な期待を寄せられる…… 第3魔王とは戦う気は無いぞ?


「それは俺達だけか? 他の戦力は? 例えば創世十二使とか」


 例えば目の前に居るリズ先輩とかだ、この人はかなりの戦力になる。

 手伝ってくれるかどうかは別問題だが……


「お前達の他にも数人、マーキング済みの奴らを送る、しかし創世十二使は無理だ、奴らにはそれぞれ別の仕事がある」


 マーキングって何だ? 小便でも引っ掛けたのか? どちらにしてもあまり期待は出来そうにないな。


「その様子だとシニス世界の情報も仕入れていたのか?」

「詳細までは不明だが、既に魔王が5人まで討たれている事は確認済みだ。

 そしてその全てにギルド『D.E.M.』が関与している事も……」

「これはお前のご主人様の命令か?」

「そうだ、そうでなければお前に頼みになど来はしない!」


 最後のは間違いなく本音だな、やっぱり恨んでるじゃん、ご主人様の命令で頼みに来たくせに俺に攻撃を仕掛ける辺り、やたら人間味に溢れる使途だな。

 いずれご主人様に会った時、こいつに攻撃されたって密告してやる。


 いや、それよりも今考えなければいけない事は…… コイツの話が真実かどうか。そして信じるかどうか。


「白」

「ん…… オーラに不自然な揺らぎは無かった…… 多分…… ホントのコト喋ってる……」

「!?」


 ふむ、白の『摂理の眼(プロビデンス)』が真実と判断したなら真実なのだろう。

 大和が危機ならいつまでもアルスメリアで逃亡者を続けている場合じゃ無い、一刻も早く戻らなければ。


 しかし……

 今から戻って間に合うのか?

 ココから大和までどんなに急いでも10時間以上かかるだろ?

 オリジン機関本部は6時間で壊滅したって話だし……


「どうやって大和まで戻るつもりだよ? 来るならもっと早く来いよ」

「その心配は無い、既に主がゲートを用意している」


 ゲート? 門を開きし者(ゲートキーパー)のゲートか?

 そうか、完全版門を開きし者(ゲートキーパー)ならワープアウトの座標を指定できるんだ。

 しかしコイツの造るゲートに入るのか? いや、ゲートを作るのは魔王リリスか…… どちらにしても信用できねーな……


「待ちなさい!!」


 俺達の会話を脇で聞いてたリズ先輩が声を上げた。


「貴方達が何故確信を持って話してるのか分からないけど、その男が魔王の使途なら放置できない!

 拘束……させてもらいます!」

「リズ先輩…… 確かに今の話を全部信じろって言うのは無理がありますけど、大和がピンチなのは事実みたいなんです、もちろん先輩の立場も分かっていますがココは見逃して貰えませんか?」

「……悪いけど…… それは無理よ、そいつが使途ならなおさらよ!」


 そりゃそうだよな…… 幾ら人の良い先輩でも、許容出来るコトと出来ないコトがある。


「確かにコイツは使途でストーカーで俺に恨みを抱いてる、信用に値しない奴ですが……

 第3魔王の使途じゃ無いんです」

「………… え?」


 今ここで魔王リリスと魔導の祖(オリジン・ルーン)の真実を話して聞かせても信じないだろう、それに全て明かすと後々面倒な事になる。

 だからと言ってゆっくり説得している時間も無い…… ここは…… 眠らすか?

 しかしリズ先輩レベルになると簡単にはいかないだろう…… どーすっか?


「エリザベス・カウリー」

「!?」


 使途リーマンがリズ先輩に声を掛けた。


「なんで…… 私の名前を知ってるの?」

「それはどうでもイイ、お前が今するべきはコイツ等を疑う事でも捕らえる事でも無い、アルスメリアに入り込んだ“虫”を探す事だ」

「む……虫? 何の話?」

「アルスメリアにはアリアから意図的に誤情報が流されてる、恐らくはアルベルト・ダラスにだろう……」


 え? マジ? あのハゲこそが魔王と通じてるってコト? あんのツルッパゲェェェ!! 自分の事を棚に上げてよくも善良な僕に汚名を着せてくれたな!!

 今度会ったら頭頂部に油性マジックでヘリポートマーク描いてやる!!


「ダッ…ダラス校長に限ってそんな事あるハズ無い!!」

「そうだな…… アルベルト・ダラスは正義感の強い男だ、恐らく本人も誤情報を掴まされている事に気付いていない。

 お前がするべきは、その誤情報を流している奴を特定する事だ。

 そしてそいつこそが、この世界の情報を第3魔王に流し、デクス世界への効率的な侵略を企てた犯人だ」

「そんな…… だ…誰が使途の言う事なんか……!」


 リズ先輩の言葉尻が弱い、もしかして心当たりでもあるのだろうか?


「そいつを見つけられなければ、この国は近い内に滅ぶ」

「!!」


 使途リーマンの言葉は本当だろうか? もし本当ならトップが敵に操られてるようなモノだ、滅ぶのも時間の問題だろう。


「…………」

「お前達は良いか? 良ければゲートを開くぞ?」


 リズ先輩が長考に入った…… 正直、俺も長考したい。


「神那ぁ……」


 コイツは信用できない、しかし嘘は言っていない。魔王リリスの指示ってのもある意味納得できる。

 一分一秒を争う事態かもしれないんだ、他に選択肢は無い。

 仮にコイツに変な場所に飛ばされても、俺も門を開きし者(ゲートキーパー)を使えるんだ、最悪の事態は避けられる。

 もはや覚悟を決めるしかない……か。


「分かった…… 行こう」

「おっ…おにーちゃん本気!? だってこの人……敵……なのかな?」


 魔王リリスが敵か味方かはこの際置いておく、ただ魔王リリスにとって魔王マリア=ルージュは敵だ。

 敵の敵は味方……って考えるのは安易かも知れないが、魔王リリスが俺達に敵対する意思は今のトコロ無いハズだ。

 少なくともお互いに利用価値が有ると思っている内はな……


「あぁ、取りあえず、今……だけはな」

「はぁ…… 分かったよ、この人は信じられないけどおにーちゃんのコトは信じる、だから私たちの安全はおにーちゃんが保証してよね?」

「あぁ、任せろ」


 俺は最初からそのつもりだ。


「話はまとまったか? ではゲートを開くぞ?」


 使途リーマンの下腹部の辺りから異質なオーラが膨れ上がってきた。以前と同じだ……

 そうか…… 使途にはゲートを発生させる力は無いが、コントロールする力はあったんだ。

 コイツは自分の体内に極小化したゲートを隠してたんだ、それを自分の魔力で制御していた…… 無機物使途に出来る事はコイツにも出来て当然だな。

 魔王リリスにとってのコイツは、俺にとっての阿吽と同じだ。

 社畜の鏡だな。


「待ちなさい! 一つだけ答えて、貴方が第3魔王の使途で無いなら、一体誰の使途なの?」

「我が主は…… 第12魔王様だ」


 それだけ言うと使途リーマンはゲートに飲み込まれた。


「それじゃリズ先輩」

「うぅ~~~…… 言っておくけどアイツの言った事を信じた訳じゃ無い、ただ…… 貴方たちの事は信じてもいいと思ってる」

「ありがとうございます、この恩は近い内に必ず…… それじゃ皆、接触してくれ」



 リズ先輩を残してゲートに飛び込んだ……




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