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レヴオル・シオン  作者: 群青
第四部 「転移の章」
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第187話 ネアリス


 フリーウェイを降り、ネアリスの街をゆっくり走る……


 其処彼処に戦闘跡が見られ、つい数時間前まで生きていたであろう人型の炭が煙を上げている……

 まるで地獄の光景だ、ココは本当にデクス世界なのか疑いたくなる。


 NYの惨状もだが、こんな光景を以前にも見た事がある、神隠しに遭ってすぐの頃、防魔衛星都市アレスでだ。

 ただアレスの時ほど徹底的に破壊し尽されているワケでは無い、その理由は恐らく雨の降っていた時間の関係だろう。

 浮遊大陸アリアは三つに分かれたらしいが、体積は50%:25%:25%、4分の1だ。その為、雨の降る時間も4分の1、雨の量も4分の1だった。

 そのおかげで建物すべてが破壊されるという事も無かったのだろう。


 ただあの時と決定的に違うのは魔物が残っているという事だ。

 シニス世界では『アリアの雨』が上がった後、魔物は死体すら残さず消えていた、人狼なら灰になって消えたという事にもできるが、降下した魔物の種類は多岐に渡った。

 魔族化した巨人族(ジャイアント)なんかも居たくらいだからな。


 しかしデクス世界では雨上がり後もしっかり魔物が残ってる、降下した魔物全てが残っているワケでは無いようだが、何故戦力を回収しないのだろうか?


 もしかしたら世界を創りかえる為に魔物を野に放っているのだろうか? だとしたら随分とスケールの大きな壮大な計画を立てたモノだ。

 これも一種のテラフォーミングと言えるのだろうか? 実に迷惑この上ない。

 しかし魔物の生態系がデクス世界で定着するにはかなりの時間が掛かるだろう。

 今ならまだ放たれた魔物の殲滅も可能だ、ただし魔物たちが繁殖を始めると手が付けられないが…… 魔物はただの肉食獣とは違うからな、絶滅させるのはかなり難しい、人類が何時になってもGを滅ぼせないのと同じだ…… ちょっと違うか?


 アリアがデクス世界に来て早や半年、すでにこっちで繁殖を始めている奴もいるだろう。

 いや、魔族には生殖能力が無いんだっけ? どちらにしても放たれた魔物が全て魔族とは限らないしな。

 その内NYの地下でルネサンスの巨匠たちの名を冠するニンジャ・ヒュドラーズが誕生するかもしれないな…… 是非とも正義の心に目覚めて欲しいモノだ。



 ウウゥゥン…ゥゥゥウウウン



「なにか…… 車、止まりそうだね?」


 そうなのだ…… さっきからモーターの調子が悪い、人狼の双掌打を喰らった影響か、軍用車(パトリシア)が死に掛けだ。

 もう街に入ってるし、周囲には人っ子一人いない…… 夜が明けるには2~3時間掛かるかな? 盗むなら今がチャンスだ。

 そこら辺に放置されてる車と交換しちまうか? ココらへんの車は電磁波の影響を受けていないと良いんだが、もし駄目ならEMP対策がされてる軍用車をまた盗まなきゃいけない。

 また罪状が増えるな……


 ただし問題はそれだけじゃ無い、さっき一匹の人狼を轢き殺し……てはいないが、アイツを見かけて以降、散発的に魔物の襲撃を受けるのだ。

 軍用車(パトリシア)に瀕死の重傷を負わせる事が出来る人狼がそこら中ウロチョロしてる、普通の車じゃ簡単にスクラップにされてしまいそうだ。


 ……ウウウゥゥン


「あ、止まった」


 軍用車(パトリシア)が死んだ、おぉ、死んでしまうとは情けない…… おのれ人狼め!! 良くも俺の足を!!

 仕方ないので乗り捨てる、さらばパトリシア! 次は装甲車を探すか?


 さてどうするか? 今は人狼とのエンカウントエリア内だ、こんな所に突っ立ってたら人狼に囲まれてしまう。

 それに……


 ドオオォォォン!!


 何やら戦闘音も近くなってきた、この街の防衛線は機能してないのか?

 昔の人は言いました『君子危うきに近寄らず』と。

 ベストなのは車だけ盗んで「あばよ~とっつぁ~ん」してしまうことだな。

 しかし押されてるなら助けてやるべきか。点数稼ぎとか言われようとも死人を出すよりはマシだからな。

 まぁこちらに火の粉が飛んできそうだったらだな。


「ねぇ神那ぁ…… 様子見に行った方が良いんじゃないかな?」

「ん?」


 琉架がそんな事を提案してきた。


「私たちは疑われてるけど、助けを求める人を放っては置けない……でしょ?

 それにアルスメリアには小姉様が留学してるし…… もちろんこんな世界情勢じゃ、新学期だからってこっちに来てるとは思えないけど…… 万が一って事もあるし……」


 小姉様…… 琉架の貧にゅ…スレンダーなお姉さんの方か、そう言えば留学が云々言ってたな。


「留学先ってドコ? もしかしてネアリス?」

「ううん、西海岸のサンティアナ」


 西海岸か…… 半年前の時点では特に被害は無かったみたいだが、今はどうか分からない。身内がこっちに居る可能性があるなら不安だろう……

 ただ、俺の予想だと小姉様は大和に居る。

 半年前、アリアが南極に出現する前に帰国してるハズだ。

 理由は琉架の神隠しだ。

 溺愛している妹が行方不明になったら一時帰国すると思う、前回帰還した時もそんな感じだったらしいし、もちろんただの推測だから安心材料にはならない。


「…………」


 ま、我が女神・琉架が助けようと言うなら、ゴキブリだろうが勇者だろうが誰だって助ける。まして今回の救助対象はゴキブリでも勇者でも無いから拒否する理由もない。


「それじゃちょっと様子を見てみよう、ヤバそうだったら手を貸すって事で」

「あっ、うん」


 爆発音がする方へ直ぐに向かわず、近くにある一番大きなビルに入ってみる。

 しかし中はボロボロ、店には商品の一つも残っていない、これも略奪……だろうな、この国には本当にヒャッハァーな人達が住んでるのだろうか?

 アルスメリア人の民度もたかが知れてるな…… まぁ、昨日から魔神器借りパクしたり、車をパクってる俺に言えたセリフじゃ無いが……


「神那、どこに行くの?」

「まずは高い所に登って状況を確認してみよう」


 外はまだ暗いが、緋色眼(ヴァーミリオン)があれば戦場の様子は分かる。

 さらに一度建物の中に入って千里眼から逃れたかったのもある、覗きをするなんて最低だよね? もちろん俺は覗きなんてしたことが無い!


 電気が止まっているのでエレベーターが使えない…… 仕方ないのでエレベーターシャフト内を擬似飛行魔術で飛んでいく。

 あっという間に最上階の展望レストランに到着だ。ここまで来るとそんなに荒らされていない、食料の調達が出来そうなんだが先客がいた為あきらめる。


 パァーン! パァーン!


 スナイパーが戦場に向けて魔導狙撃銃(スナイプ)を撃ちまくってる…… 移動しないのかよ?

 ずっと同じ場所から撃ってると……


 ガシャアアアァァァン!!


 何かが窓を突き破って入ってきた、その何かは煙のように見える……


「なっ!? なんだ!?」


 その煙は一ヵ所に纏まると、少しずつ人の姿に変わっていく、肌は白く長めの金髪、そして何よりも額にある第三の眼…… 妖魔族(ミスティカ)だ。

 その男は紺色の軍服っぽい服を着ている、色は違うが服自体は以前見かけた奴に似ている、妖魔族(ミスティカ)の間では軍服が今のトレンドなのか?


「遠く安全な場所に隠れて我が下僕を撃っていたのはお前だな?」

「な……なんだお前は!!」


 スナイパーがハンドガンを取り出し妖魔族(ミスティカ)の男を撃つ、しかしその弾は身体をすり抜けていく、まだ体を固めていないんだ、霧化している…… あの状態では物理攻撃はするだけ無駄だ。


 パン! パン! パン!


「くそっ! くそっ! バケモノめ!!」

「愚か者め、そんなモノが通じるワケ無かろう?」


 あのスナイパー、妖魔族(ミスティカ)の事を知らないのか? 少なくとも満月の日に半不死身化することは知らないみたいだな。


「くそ!! 第6階位級 氷雪魔術『冷凍』フリーズ!!」


 シュゥゥゥゥゥゥ……


「くだらん…… コレが魔導魔術か? 何の心痛も感じないぞ?」


 そりゃ第6階位級じゃな…… 氷雪魔術のチョイスは悪くないんだが、圧倒的にパワー不足だ。

 そう言えば満月の日は弱点が太陽の光か“(コア)”しか無くなるんだったか? ズルいなぁ……


「ひっ…… ひいぃぃぃ!」

「逃がすと思うか? 人族(ヒウマ)如きが我に牙を剥いたことを悔やみながら死ぬがいい。

 死滅魔法『心臓拘束(ハースト)』」


 パキィィィン!!


「む?」

「……は?」


「あっぶね~、いきなり即死魔法使うとは思わなかった」


 ギリギリで反魔術(アンチマジック)が間に合った、こいつら捕虜とか要らないのかよ?


「なんだ、仲間がいたのか? それよりお前…… 今何をした?」

「何って魔法のキャンセルだよ、俺はどんな魔術も無効化できるんだ」


 また嘘を吐いてしまった、死滅魔法のキャンセルは初めてだが非常にキャンセルし難い、俺は反対属性の生命魔術が苦手だからだ。

 今のもかなり強引に無変換魔力をそのままぶつけて魔法を吹き飛ばしたに過ぎない、理屈としては反魔術(アンチマジック)より反魔術領域(アンチマジックフィールド)に近い。

 緋色眼(ヴァーミリオン)が無ければ上手くいかなかっただろう。

 もちろんこれは内緒だ、連発されても困る。


「ん? 人族(ヒウマ)だけでは無いな? シニス世界からのトラベラーか?」


 てか純粋な人族(ヒウマ)は先輩と伊吹しかいない…… 一人は呪い付きだし、半分以上は魔王の集団なんだが…… ま、いいか。


「あぁ、ご想像の通りトラベラーだ、それよりも聞きたい、お前達妖魔族(ミスティカ)はどうやってデクス世界に来た? 何故積極的に攻撃を仕掛けてくる? 何故こちらの事を知っている?」


 浮遊大陸ごとの神隠しとかあり得ない。

 第3魔王は災厄を撒き散らす魔王だったが、特定種族を積極的に滅ぼしたりはしなかったハズだ。

 そして何故オリジン機関を真っ先に攻撃した? おかげで俺達が疑われたんだぞ? そうだ…… 何かムカついてきた、全部コイツ等の所為じゃねーか。


「何故何故と五月蠅い奴だ、生憎と我にもこちらの世界にやって来た理由は分からん、ただ一つ…… デクス世界は滅ぼすべき…… と言うのが主のお考えだ。

 我等はそのお考えに沿った効率的なデクス世界滅亡を行っているにすぎん」


「デクス世界を…… 滅ぼす?」


 世界を滅ぼすなんて容易な事じゃ無い、魔王マリア=ルージュは何故そこまでしてデクス世界を滅ぼしたいんだ?

 魔王と敵対する組織があるからか? 確かに魔王目線では邪魔な組織ではあるが、世界を滅ぼす必要は無いだろ? 俺が逆の立場だったらこの世界を利用する方法を考える。


 いっその事……

 デクス世界人に詐欺の標的にされて、溜め込んでいた婚活資金を根こそぎ奪われたとか……

 恋人をデクス世界人に寝取られてヤンデレ化したとか……

 そんな理由だったら笑えるのに…… いや、笑えねーか、気の毒過ぎて……


「デクス世界を滅ぼされるのは困る、こっちには俺の実家もあるんだ、お引き取り願えれば有難いんだが…… シニス世界では人に仇なす魔王がようやく居なくなったんだ…… 向こうに帰られるのも困る。

 そんなワケで何も言わずに混沌の海にでも飲まれて消えてくれると凄く嬉しい」

「人に仇なす魔王が? 魔王大戦は終結したのか?」

「知らなかったか? この1年半の間に魔王の半数近くが倒されてる。お前のご主人様にも死にたくなかったらさっさと逃げろと伝えるんだな」


 普通ならこんな事を言っても逃げやしないだろう、しかし5人もの魔王が討たれている事実がある。

 俺だったら逃げるね、身の危険を感じるから。


「チッ…… 結局アイツの予想通りというワケか」

「ん?」


 おい、ちょっと待て、予想通りってどういう意味だ? まさかどこかに魔王が5人も討たれる事を予想していた奴がいたのか?

 中央大神殿(リ・カテドラ)の予言や琉架の予知みたいな、未来を知る事の出来る能力者でもいるのかよ?

 いや、予知じゃ無く予想と言っていた…… つまり魔王が討たれる未来を予測したってコトだ。

 一体誰だ? アイツ呼ばわりしてる所を見ると、親しい相手じゃ無さそうだが…… 気になるな、一応聞いてみるか。


「アイツって誰の事だ?」

「下級種族に教える義理は無い」


 ですよね…… てかまた下級種族扱いだよ、妖魔族(ミスティカ)ってのはプライドが高すぎる。

 巨人族(ジャイアント)龍人族(ドラグニア)はそんな事言わなかったぞ? 不死身の身体じゃ無ければその下級種族(ヒウマ)の先輩に殺られてたクセに。


 まぁいい、知りたい事が増えてしまったが、これ以上聞いても答えてくれそうにないからな。

 下の戦場の事も気になる、とっとと退治してしまおう。




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