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レヴオル・シオン  作者: 群青
第四部 「転移の章」
192/375

第186話 満月


 ― 第一魔導学院・大時計塔屋上 ―


 一人の男が西の空目掛けて魔術を放っている……


「第4階位級 火炎魔術『皇炎』ラヴィス・レイム」

 +

「第7階位級 風域魔術『空圧』コンプレス」

 +

「第4階位級 風域魔術『風爆』エアロバースト」


 目の前に発生した大量の炎は圧縮され、凄まじい勢いで飛んでいく、魔術により構成されたミサイルだ。


 彼こそがエリック・シュタインシュナイダー特佐、創世十二使・序列九位、『千里眼(リモート・ビューイング)』の能力者である。

 しかしその身体は全身傷だらけ、普通なら絶対安静にしていなければならない状態だった。


「そちらの様子はどうだね?」


 そこへ禿げ上がった男が声を掛ける。


「司令、ご苦労様です、例の逃走車はこちらの魔術攻撃を的確にキャンセルしてます。

 コレが序列六位・霧島神那の反魔術(アンチマジック)と、序列七位・有栖川琉架の予知能力でしょう。

 足止めにもなりません、この分だとミサイルや空爆よりも長距離砲撃のほうが効果がありそうですね」

「……そうか」


 直接的な攻撃力がないから軽く見られがちだが、やはり反魔術(アンチマジック)と予知能力は厄介だ。

 しかしだからといって魔物に注意を向けなければならない現状で長距離砲撃はできない。


「それと悪い知らせです、彼らは真っ直ぐネアリスへ向かっています、後2時間もかからないでしょう」

「なんだと?」


 アルスメリア東部の北寄りの場所、大都市ネアリス、そこは今 正に戦場となっている場所だ。


「あの街はちょうど今「月一侵攻」を受けているところです……

 目的は何でしょう? 合流か防衛軍の殲滅か……」

「もう馬脚を現したか? しかしアレだけ関わりを否定しておいて、真っ直ぐ魔王軍に向かって移動するだろうか?

 ただの偶然か…… 或いは……」


 当然、ただの偶然である。

 しかしソレを容易に信じるわけにもいかない……


「私とエリザベスも行ったほうが良いでしょう、今ならまだギリギリ間に合うかも知れない。

 彼らが味方であるなら、敵の進行を食い止められるでしょうが、敵であった場合、このままでは防衛線も押し切られ、ネアリスは確実に壊滅します」

「ダメだ、君は防衛の最後の切り札だ、前線に出ることは認められない。

 そもそも君の力は遠距離でこそ意味がある、前線に出れば次は命を落とすぞ?」


 エリックはNYにアリアの雨が降った時、運悪くその場に居合わせた。

 何とか人々を守ろうと戦ったが、元々彼は接近戦を苦手としていた、その為大怪我を負ってしまったのだ。

 エリザベスの到着があと十分遅れていたら死んでいただろう。


「しかしこのままでは……」

「どのみち月一侵攻は今まで止められた例がない、今からではどうにもならん……

 君は奴らを見ていろ、その動向を逐一報告するんだ」

「クッ…… 了解!」



---


--


-



「をねぇさまぁーーー!!!!」

「わっ! 伊吹ちゃん! 運転中は危な……!!」


 キキキキキキーーーーー!!!!


 このアホ妹、何してくれてるの?

 危うく軍用車(パトリシア)が横転する所だった…… 今事故ったら死ぬのはお前と先輩の二人だけなんだから気を付けろよ。



 結局、琉架と運転を代わった。

 アホ妹が琉架に抱き着きハァハァ言い出したからだ…… 運転中にエロいことしてて事故死とか死んでも死にきれない、妹じゃ無ければここで捨てて行ったとこだ。


「大丈夫です! 例えお姉様が国際指名手配されようとも! 例え世界中を敵に回そうとも! 私だけはずっとお姉様の味方です!!」

「あ……ありがと、伊吹ちゃん……」

「お姉様の逃亡を手助けします! 取りあえず私の部屋に潜伏してください! 身の回りの世話は私が責任を持って行います! お姉様の身を守る為にも夜は一緒に寝ましょう!」


 アホな妹がまたアホな事を言ってる…… 少しは欲望を隠せ、丸見えじゃねーか。

 大体、琉架が指名手配される時は俺も指名手配される、俺の実家に匿ってどうする? 真っ先に調べられるに決まってんだろ?

 そもそも魔王 琉架を伊吹が守れるハズが無い、だって琉架の方が何百倍も強いんだから。


「ねぇ神那クン、ちょっと不安になっちゃったんだけど、私たち(・・・)は大丈夫なの?」


 先輩が質問してきた、この「私たち(・・・)」ってのは俺と琉架を除いたメンバーの保身…… つまり自分たちは指名手配されてないかということだろう。

 俺達のことはどうでもいいのか? とか怒ったりはしない、先輩が気にするのも当然だ、逆の立場なら俺だって気にする。


「大丈夫でしょ、あのハゲが疑ってるのは最初のアリアとの接触時、俺と琉架が神隠しに遭ってすぐの事です、その頃はまだ先輩に会って無いですから。

 もし逮捕されても、先輩はすぐに釈放されますよ…… きっと」

「きっととか言わないでよ、まったく安心できない……」


 確かに説得力は無いが、まぁ大丈夫だ。

 先輩って人畜無害だから。


「それで神那、私たちはこれから如何するの?」

「とにかく大和に帰る方法を探す、アルスメリアに留まるのは百害あって一利なしだ。

 向こうの事も心配だしな…… 幸か不幸か通信インフラは破壊されてるから、俺達の情報は簡単には広まらない」


 逆を言えば一度広がってしまったら、取り消すのも容易では無いと言える……

 その時は一回、シニス世界に帰ろう。ほとぼりが冷めるまで……


「アルスメリアは放っておくの?」

「あぁ、何せ人を裏切り者扱いする奴らだ、自分たちの事は自分たちでしてもらおう」

「逆にアルスメリアを助ける行動をとった方が、疑いも晴れるんじゃないかな?」

「いや、この状況では人助けしてもポイントにはならない、その行為自体を勘ぐられるのがオチだ」


 ハゲに俺達を疑ってると目の前で宣言された時点で、その手は使えなくなった。

 たとえ善行ポイントを積み上げても「何かやましい事があるから」とか「その行為を隠れ蓑にして何か企んでる」とか言われるよ。

 まぁ、全く効果が無いとは言わないが、俺みたいに捻くれてる奴にはむしろ逆効果だ。


「そっかぁ…… そうだね、私も家の事が心配だし……

 でもどうやって帰るの? 大和は遥か海の向こうだよ? ホープが呼べれば一っ飛びなんだけど」


 そうなんだよ…… アレ○ガルドにラー○アを連れて行けないのと同じだ、連れて来れれば海の向こうに見える魔王城など5秒で到着するのに……

 大体、浮遊大陸がこっちに来れるんだから、要塞龍の一匹や二匹…… はぁ…… 無い物ねだりしてもしょうがないな。


「私たちって飛行機に乗れるのかな? そもそも飛行機って飛んでるのかな?」

「飛行機が運航してるなら乗るのは難しくない」


 俺の『超躍衣装(ハイ・ジャンパー)』で忍び込んでもイイし、ミラの『神曲歌姫(ディリーヴァ)』で乗ってる人間全員操るのもアリだ。

 ぶっちゃけ飛行機を盗んだって…… いや、それは止そう、さすがにジャンボジェットの操縦なんて習って無い。飛ばすだけなら出来るだろうが、着陸させるのは無理だ。


 ただ…… 恐らく飛行機は運行していない、戦闘機や爆撃機ならまだしも、旅客機は無いだろう。

 だって紅蓮赤龍(レッドドラゴン)が空飛んでるんだもん。


 ただしその飛行機に俺達が乗っていれば話は別だ。

 魔王のオーラを隠さずにいれば、魔物は容易に襲っては来ないだろうし、迎撃も出来る。その代わり別の奴が寄ってきそうではあるが…… 紅血姫とか呼ばれてる奴が……


 しかし航続距離の長い爆撃機を奪うのもアリだな、これなら一気にパシフィックを飛び越せる、問題は操縦できるかどうかだが……



 ドォォン……


「ん?」


 その時だった、進行方向、真っ暗な空が一瞬明るくなり微かに爆発音が聞こえてきた。

 一瞬「待ち伏せか?」とも思ったが、ドコの世界に待って伏せてる奴が爆発音を響かせるんだよ、確実に何かあった、この先はネアリスの大都市だ、まさかこのタイミングで交通事故での爆発とかは無いだろう、ならばやはり魔物関係だ。

 またドラゴンっぽいのが街を襲っているのか…… 俺たちを待ち構えていた軍が、たまたま現れた魔物に襲われたか……


 どうする? ネアリスを迂回すべきか?


 俺の予定では、あの街で食糧と服と車を調達するつもりだった、そろそろトイレにも行きたいし……

 例え千里眼に見られていても、極力目立たずにやるつもりだったんだが、あんな爆発が起こったら理由はどうあれ警察なり、マスコミなり、近所の野次馬なり、そういった連中が集まってくる。

 まぁ食糧と服はある程度 魔神器に入れてある。無理にココで調達する必要はないな。

 むしろこの混乱に乗じて車だけでも替えてしまうか?


「神那、誰か道の真ん中に立ってるよ」

「は?」


 外灯の消えたフリーウェイの先は暗闇だ、しかし遠くに僅かにオーラが見える…… 確かに誰か立ってる、道の真ん中にだ…… 自殺なら他所でやってくれ? 幽霊のヒッチハイクもお断りだぞ?

 ……てか、これ人間のオーラじゃねーぞ? 何だコレ? 動物? 魔物? 本当に幽霊?


「神那ぁ、このオーラ…… 人狼のモノじゃないかな?」


 答えが解らずにいると、琉架が答えをくれた。

 人狼…… そうか、妖魔族(ミスティカ)の兵隊だ、俺はスカイキングダムから遠目に見ただけだが、琉架は狙い撃ちしたんだったか。


 第3領域アリアには殆んどの妖魔族(ミスティカ)が住み着いていたと言われている、当然三大貴族も…… あぁ、アリアの三分割って貴族毎に分けられたのか。

 一番大きいαアリアが“天席”であり、大陸の支配者 第3魔王のブラッドレッド家。

 ふらふら飛び回ってる残り2つが “右席” ルストナーダ家と、 “左席” サダルフィアス家か。


 …………


 つまり南極に行かなきゃ魔王マリア=ルージュにエンカウントする危険はないという訳だ。

 ホッとした。少なくともアイツとの遭遇戦はない、これは朗報だ。

 そしてアレが人狼なら……


「? 神那? あのスピードを……」

「みんな掴まってろ、このまま突っ込む」

「うぇぇえ!? ちょっ! まって……!!」


 アレは敵なんだ、このまま轢き殺していこう。そうしよう。ヒャッハー☆


「グルルルルゥ」


 人狼がこちらに気付き、両拳を腰溜めにしカウンター狙いの姿勢を取る、双掌打の構えか?

 所詮は獣…… 無謀にも俺の軍用車(パトリシア)に挑むつもりか? 面白い! ギャグ漫画みたいにふっ飛ばして地面に人型の穴を開けてやる!


 あれ? でもコイツ、何かオーラの密度が濃くないか?

 人狼はまるで正拳突きでも放つように両の拳を突き出した!



 ズドン!!



 想定していたより遥かに強い衝撃が来た、もちろん俺は人を撥ねたことなど無い、だがこの衝撃は明らかにおかしい……

 多少の衝撃の後、そのまま走り抜けると思っていたが実際には急ブレーキのようなGを感じ、車体後方が浮き上がってる。

 危うく車ごと前転する所だった…… 何だコイツ?


 人狼は生きていた、両腕はフロント部分にめり込みグシャグシャに潰れている……

 内臓にもダメージがあったのだろう、血を吐いている……

 衝突地点から20メートル以上移動している…… 恐らく足の骨もイってるハズだ。


 だが生きてる…… 恐ろしい程の頑丈さ、人狼ってこんなに強かったのか?


「おに~ちゃん…… アイツ暴走してる……」

「暴走?」


 もはや動けない状態にあるのに、それでも闘争心は少しも失っていない様子だ…… 届きもしないのにさっきから噛みつこうとガブガブしてる……

 そこでようやく思い出した、今日が満月だったことを…… 月の満ち欠けはデクス世界もシニス世界も変わらない、ゲート開放は満月に行われるんだった…… 自分で設定したのに忘れてた。


 それだけじゃ無い、コイツ魔族化してる。

 魔族の強化は使途に比べると微々たるモノと聞いている、しかし突然変異が起こりやすいとも言われていた…… たまたまコイツがそうだったのだろうか?


 とにかく邪魔なので閃光(レイ)で心臓を打ち抜き、灰に変えてやる。

 おぉ…… 軍用車(パトリシア)のバンパー部分がグシャグシャだ、まだ走れるだろうけど、事故車は目立つ、ただでさえ軍用車なんだから……

 まぁ逃走する時に既にボコボコになってたんだけど……


 どこかで新しい車を見つけて乗り換えなければ、しかたない……


 明らかにヤバそうな雰囲気が漂ってるネアリスに立ち寄るか……




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