第185話 第一魔導学院3 ~脱出編~
さて……
たった今から俺たちは逃亡者だ。
二人の逃避行……ってワケじゃない、そもそもそんなに深刻じゃない。
逃げ場が無ければシニス世界に帰ればいいだけ、要するにいつでも逃げ込めるセカンドハウスを確保して家出するようなものだ、不安など微塵も感じない。
ただシニス世界帰還はあくまでも最終手段だ。
現状、安全な異世界間移動が確立されてない以上、どうしても危険がある。
その結果、禁断の地へ足を踏み入れ、世界中のヒトから敵視される ……なんてギャグみたいに厄介な状況に陥る可能性も極々僅かながら在り得るかもしれない。
さて…… 現在三通りの逃走手段がある。
1つ目…… 徒歩による逃走、小回りが利き隠れることに有利な逃げ方。
2つ目…… 車による逃走、軍用車を一台パクって逃げる、スタンダードプラン。
3つ目…… ヘリによる逃走、さらばだア◯チくん!
まず1つ目の徒歩は無いな、俺達は人数も多い上に、公共交通機関が使えるかどうかもよく分からない、更に異種族の美少女も居り目立つ……てか主に白がだ。
ミラは変身してなければ人族と見分けがつかないし、ミカヅキは角を帽子で隠せばいい。
まぁそれとは別にして、どちらにしても服は調達した方がいいな、俺と琉架は高等部の制服を、先輩と伊吹は中等部の制服を持っているが…… 先輩は中等部の制服を着たがらないだろうな、うん、先輩の為にも服の調達は必須だ。
でも白、ミカヅキ、ミラ、の制服姿は見てみたいな…… いずれ手に入れよう。
おっとイカン、話がそれた、とにかく徒歩はダメだ。
そうなると車かヘリだが…… 車だな。
ヘリなら一気に距離を稼げ、他の機体を破壊してやれば追跡自体が困難になる、一応操縦方法もオリジン機関で習ってるがシミュレーターだけで、実際に飛ばしたことはない、琉架も同じだろう。
まぁヘリ破壊はココの人たちも困るだろうからあまりやりたくない、そもそもヘリは化石燃料を主機関とするエンジンを使用している。どこかで給油できる見込みが無い以上、燃料切れを起こし不時着したら後は結局徒歩移動になる、血液変数で燃料は作れるが、血がいくらあっても足りない…… 更に目立つ。
それに対して車はバッテリーを用いたモーター動力、つまり電気自動車だ、これなら魔術でいくらでも充電できる。
「琉架、運転頼めるか?」
「え? 私? 神那がするんじゃ無いの?」
「俺は追跡の妨害をする」
全員をやたら頑丈そうな軍用車に乗せる、確かハ○ヴィーとかそんな名前だったか。
せっかくだから名前を付けよう、要塞龍にもホープとかクラン・クランとかヒンデンブルクとか名前があった、そうだな……今日からお前はパトリシアだ、僕らを乗せてどこまでも走れ。
取りあえず他の軍用車からバッテリーを『強制誘導』する、ただ全ての車からバッテリーを抜き出す必要は無い、校庭には奥から順番に止められてる為、手前の車を動けなくするだけで他の車を使えなくすることが出来る。
幾つかは予備バッテリーとして貰っておこう、ただしこの車には八人も乗ってるからスペースの関係上5~6個にしておこう。
ヘリの方は降着装置の辺りを血糸で繋いでおく、コレで簡単には飛び立てない。
「お姉様、運転できるんですか?」
「う……うん、昔習ったから…… えっと…… ギアをドライブに入れてブレーキを離してアクセルを踏んで…… 手はハンドルの十時十分の位置…… あれ? 動かない…… あ、サイドブレーキ!」
大丈夫だろうか? 絵に描いたようなペーパードライバーだ…… 何でも器用にこなす琉架なら大丈夫だと思ったんだが、ハンドル握ると性格が変わるとか「アハハハハッ! 何人たりともアタイの前は走らせ無いゼェ!」みたいな隠れ属性が顔を出したりしないだろうな?
「よいしょっと」
ガコン
ギャギャギャギャギャギャギャ!!!!!!
「うおおおぉぉぉ!!?」
「きゃぁぁぁーーー!!!」
動き始めて10秒でトップスピードになる程の加速! アクセルべた踏みだ! ちょっと緩めて!
4WDドリフトって素人が意図せずにできるモノなのか!? くお~! ぶつかる~!! ここでアクセル全開、インド人を右に! 違った! ハンドルだ!!
ドガン!! ゴガン!! ドゴォン!!!!
魔導学院の敷地を出るころには車体はボコボコになっていた…… かなり頑丈な車なんだがな……
人を轢かなかったのが不幸中の幸いだな。
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― 第一魔導学院 地下 ―
「逃げられただと?」
「はっ! いつの間にか聖域の外へ、その後車を奪い逃走しました!」
「…… 直ぐに追跡しろ、殺さずに捕えるんだ、生きてさえいればいい」
「はっ! いや、しかし……」
「どうした?」
「はい、その…… 奴ら追跡の妨害をしていて、直ぐには……」
「はぁ…… ならば急がせろ」
「はっはい!! 了解いたしました!!」
報告をしてきた兵士は弾かれるように走り部屋を出ていった。
ダラスはその背を黙って見ていた……
「校長、やっぱりあからさまな敵対姿勢は得策じゃないと思いますよ?」
「………… 何故かね?」
「どうやったのかは分からないですけど、彼らは恐らく空間転移系の神器を所有し、やろうと思えばきっと私たちを無力化だって出来た筈です、しかしそれをせず、被害を出さずに逃げ遂せました。
罪状は精々窃盗って所ですよね?
彼らは敵では無いと思います、って言うか、この上なく頼りになる味方になってくれると思います」
「……言いたい事は分かる、実際に複数魔王を討伐しているというのは紛れもない事実だ。
しかし1%でも疑わしき所があれば、味方として見る事は出来ん」
(霧島神那は魔王と接触していた、それは間違いない、そして魔王を倒す事が出来る実力があるなら何故そこで倒さなかったのか? 何かしらの密約があったと見るべきだ)
「そりゃ~私だって怪しいのは認めますよ? だからと言って敵対は良くないですよ? 唯でさえ第3魔王の対応に追われている時に、もう一勢力敵を作りかねません。
味方にならないならせめて敵にぶつける駒にするくらい、何時もの校長ならするんじゃ無いですか?」
「…………」
「失礼します! カウリー特佐、戦闘機の準備が整いました! 防衛線へご足労願います!」
「は~い、えっと校長?」
「何をしている? 行きたまえエリザベス・カウリー特佐」
「………… は~い、分かりましたぁ」
喉まで出かかっていた言葉を飲み込んで、リズは退室していった。
「キミ……」
「はっ!」
「エリック・シュタインシュナイダー特佐を呼んで来てくれたまえ」
「エ……エリック特佐をでありますか? しかし彼は……」
「無理をさせるつもりは無い、早くしたまえ」
「りょ……了解であります!」
伝令の兵士が部屋を出た後、ダラスは大きなため息をついた……
(駒にする……か、確かに普段ならそうしただろう、しかし彼らが第3魔王と通じているとしたら、みすみす合流を許すことになる……
彼らは拘束するしかないんだ、もしくは……)
「ふぅ……」
(最悪の場合は始末する…… 敵になるくらいなら……な)
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我々は一路西へ向かって爆走中。
深夜のフリーウェイには車が一台も走って無い、道の脇には時折り燃え尽きた車の残骸が放置されてる……
アクセル全開で走れるのは気持ち良いんだがちょっと不気味だ、まるで映画やドラマでありがちな人類だけが居なくなった世界みたいだ……
俺達は敢て首都を迂回するルートを選択している、首都に行く理由も特にないしな…… もしかしたらハゲの目を反らせるかとも思ったんだが…… そんなに甘くは無かった、仮にも天才と呼ばれた男だ。仮にもな……
「神那ぁ、また来たよ」
「またか……」
東の空から飛んでくる炎の塊…… 第4階位級 火炎魔術の『皇炎』だ。
それが遥か彼方から弾道ミサイルの様に飛んでくる。30分に一発といったトコロか。
「反魔術」
天井部分のハッチから顔をだし、飛来する炎のミサイルをキャンセルする。
このやり取り、日付が変わった頃から始まりもう5回目だ、いい加減無駄と悟れ。
本来『皇炎』はこんな超長距離攻撃の様な使い方は出来ない魔術だ、少なくとも俺の知る限りでは目視できない位置に魔導魔術は使えない。俺の第2階位級でもこの距離は無理だ。
それをするには琉架やミラが使っている『対師団殲滅用補助魔導器』のような補助魔導器が必要になる。
だがこの攻撃は違う。
恐らくだが二段階か三段階魔術を駆使し、飛ばしているのだろう。
問題は目視できない距離にも拘らず、こちらの位置を正確に察しているところだ。
「コレどうやってるんだろうね? 電波も衛星も使えないって話だったし、自動追尾かな?」
「いや、恐らく序列九位の仕業だ」
「序列九位?」
「創世十二使・設定資料集に書いてあった、序列九位、ギフトは『千里眼』。
自分を中心に4000km四方を見る事が出来る能力、見えている場所に魔術を放つ事が出来る……ってさ」
この設定資料はリズ先輩の魔神器に入っていた最新版だ、あの人も俺と同じく大して見ないまま放り込んだのかも知れないな。
ちなみに俺と琉架の項目は更新されて無かった。
「4000km? それじゃアルスメリア国内に居る限りどこに行ってもずっと見られてるって意味だよね?」
「そうでも無い 「ただし建物の中などは見えない、屋外で服を脱がないよう注意しよう☆」 って手書きで注釈が入れられてる」
本来は書かれてない弱点まで書かれてる、多分リズ先輩が書いたんだろう…… ヌーディストビーチとか見たらそれはもうスゴイものが見れそうだ…… 生きたスパイ衛星だな。
しかし弱点を書き込んだコレが流出したらどうするつもりだったんだ?
コチラとすればありがたい話だが、むしろあの人は俺達の味方なんじゃないかって気がして来たよ。
「どこか長いトンネルにでも入れば…… でもトンネルだと出口を張ってれば分かるよね? どこかにトンネルの中で何方向にも別れる道があればいいんだけど」
「必要ないよ、どこか人の出入りの激しい地下駐車場とかで、車を乗りかえればいいんだ。
序列九位の人は俺達じゃ無く、車を見てるからね」
問題はそれまでに追いつかれない事なんだけど……
「それでおにーちゃん、そろそろ話してくれないかしら?」
「ん? 何を?」
「何をじゃなくて全部よ! 一体何が起こってるのか!」
そうだなぁ…… 話とかないといけないなぁ……
「それじゃ俺達が置かれている立場と、デクス世界の状況をざっと…… まず半年ほど前、理由理屈は不明だが、第3魔王が浮遊大陸ごとデクス世界に来てしまった。
出現場所は南極、それと同時にαテリブルが大量発生、世界中の都市を襲った。もしかしたら突然現れたアリアからαテリブルが逃げ出したのかもしれない。
そいつ等は『ダインスレイヴ(笑)』の活躍で無事殲滅できた」
ただしアルスメリア西海岸に現れた個体に関しては、アーリィ=フォレストが始末してくれたんだが……
「世界中がαテリブルに掛り切りになってるその隙に、魔王マリア=ルージュは色々やってたみたいだ。具体的に言うと世界中の通信網の破壊、海底ケーブルなんかは軒並み切断されたらしい」
最凶の魔王らしくない戦略的行動だ、俺のイメージでは魔王マリア=ルージュはとにかく力押し、ゴリ押しで物事を進めるタイプだ。
道の真中に木が生えていたら避けずに切り倒して真っ直ぐ進む。
道の向こう側からリア充共が道幅いっぱいに広がって歩いてきたら、隅っこに避難してやり過ごしたりせず全員ぶっ殺して真っ直ぐ進む。
天上天下唯我独尊を地で行く女…… そんな奴だ。
もちろん俺の勝手なイメージだが、それだけにこの行動には少々疑問が残る。
「そして浮遊大陸を3つに分割、一つは南極に留まり、一つは適当にフラフラしてNYに『アリアの雨』を降らせ壊滅させた。
そしてもう一つは真っ直ぐオリジン機関本部を目指し、NY同様『アリアの雨』で壊滅させた」
「え? オ…オリジン機関本部を? え? シルヴィア先生は?」
「消息不明だそうだ」
もっとも彼女は高笑いしながら唐突に現れそうな気がする…… ああいうキャラは画面の外でヒッソリ死ぬタイプじゃない。
……と、思っておこう、現実はかなり厳しそうだが。
「そして第一魔導学院では、魔王マリア=ルージュの手際の良さからオリジン機関に詳しい内通者がいると考えている。
そこで白羽の矢が立ったのが俺と琉架だ、オリジン機関に詳しく経歴が胡散臭いからな」
「ん? 私と神那の経歴って胡散臭い?」
「まぁな、オリジン機関が設立されておよそ300年、今までに何人かの創世十二使がシニス世界に行った、しかし生きて帰った者はいない。
魔王に挑み死んだり、そのまま向こうに居着いた奴もいた。
魔王を倒して帰ってきたのは俺達だけだ、2400年誰にも倒されること無く君臨してきた魔王を倒してだ…… まだ義務教育も終わってない若造がだ…… 普通に怪しいよな?」
「なるほど…… だからおにーちゃん達は慌てて逃げ出したと…… でもそれって事態が悪化しないの?」
「当然するだろうな、少なくともデルフィラでは指名手配されてるだろう」
「へ? って! ふざけんな!! おにーちゃんは遅かれ早かれだからイイけど、お姉様まで巻き込むな!」
遅かれ早かれ……か、コレでもデクス世界では犯罪行為は極力控えて、大人しく善良な一市民を振る舞ってきたつもりなんだが、妹の目にはそうは映らなかったらしい。
「心配するな、今は世界的に通信インフラが破壊されてる状況だ。国際指名手配されてるワケじゃ無い。どんなに広くてもアルスメリアの東海岸一体だけだろう」
「全く安心できない、事態が収束したら改めて国際指名手配されるんじゃないの?」
「それまでに誤解を解けばいい、クリフ先輩の報告書もあるしな……」
とは言え、頭の凝り固まったハゲには効果無いだろうが……
真犯人を捕まえるってのがベストなんだが、未だに生きてるのだろうか? 情報を吸い出した時点で用済みだ、俺だったら向こうの世界に捨ててくるけど、第3魔王なら殺すかな?
こうなると別の手段を考えないといけないな。