第182話 デルフィラ
エリザベス・カウリー…… 創世十二使 序列第三位……
アルスメリア出身で歳は23、髪はブルネットのロング、タイツっぽいピッチリした黒い衣装を身に着けてる、ただしヘソが見える…… 中々ポイント高い。
かなりの美人だ、まぁウチの天使たちには及ばないだろうが、アダルト層からの支持は高そうなキレイ系の顔立ちだ。
俺は基本的に創世十二使の先輩同僚の顔もプロフィールも覚えていない、覚えているのは会った事のある人たちだけで、それ以外の人たちは気にしたことも無かった。
実際、クリフ先輩やシャーリー先輩、ザックとノーラの事も全く知らなかった。
ただし例外的に彼女の事だけは知っていた。
切っ掛けは師匠が話してくれたから、しかし最大の理由はそこでは無い。
彼女は有名人だ、なにせ世界第二位の能力値を誇っていたから。確か11万くらいだったか?
ぶっちゃければ琉架に次ぐ第二位だからついでに覚えていたんだが……
それ以外にも印象に残ったのがそのギフトだ。
『大気叛整』
どっかの空軍かスポーツシューズみたいな名前の能力だが、創世十二使設定資料を見ながら「俺もこんな能力が欲しかった」と思うほど非常に使い勝手のいい能力だ。
彼女は周辺の空気その物を自在に操作する事が出来る能力者だ。
空気中から酸素と水素を抽出して、火炎魔術の威力を馬鹿みたいに上げたり……
空気中の窒素を液体化して、氷雪魔術の威力をアホ程上げたり……
さっき見せた『惑星衣・零』は紅蓮赤龍の周囲を真空化したんだろう。
恐らくだが武尊の『天五色大天空大神』と同等の空気の壁を作り出す事も出来るだろう。
人間で彼女に勝てる者は殆んどいない、接近戦では彼女のテリトリーに入らなければならないが、その時点で負け確定だ。
遠距離攻撃も彼女の能力を持ってすれば、大抵は無効化できるだろう。
もちろん攻略方法もあるが、それを実行するのは容易ではない。
極めてハイスペックだ、もし俺が魔王として世界を征服する時は、是非尖兵として我が魔王軍に加わって欲しい程だ…… 今のトコロその予定は一切無いが……
……とまあ、べた褒めをしてみたが、これはあくまで人間レベルでの話だ。
デクス世界・最新能力値ランキングではミラと白に抜かれて四位に落ちている事だろう。
ギフトに関してもウィンリーの下位互換といった印象だしな…… いや、魔王と比べるのがオカシイんだが。
「ふぅ…… さて、貴方達はシニス世界からのトラベラー…… で間違いないかしら?」
「「「…………」」」
「ちょっと! 無視しないでよ、責任者はいないの?」
「「「…………」」」
ジ~~~~~~
何故か俺に4000人分の視線が突き刺さる…… こんな若造に責任を押し付けるなよ。責任とはお気楽に魔王をやってる俺が、この世で最も恐れる言葉の一つなんだから。
こんな事なら異世界転移する時は、そのグループのリーダーを決めるってルールも作っとけば良かった……
まぁいい、どのみち後で個別に話をしなきゃいけない相手だ、手間が省けたと思っておこう。
「え~と、エリザベス先輩で宜しいのですよね?」
「えぇそうよ…… ん? そう言えば私名乗ったっけ?」
「先輩の御高名はかねがね聞き及んでおります故……」
下手に会話を切り出す、よくよく考えれば俺達は同僚だからここまでへりくだる必要は無いんだが……
「そ……そう? そんな御高名だなんて…… も~ヤダなぁ♪///」
照れてる…… なんかこの人、俺の想像と違うぞ?
見た目映画女優っぽいのに、反応がコメディー女優っぽい。
「それで? キミがこの集団のリーダーってコトで間違いない? 随分とお若いようだけど……あれ?
キミの顔…… どっかで見覚えが…… 私たち会った事あったっけ?」
お前もか! お前もオリジン機関で金を渡して人の個人情報を買ってたのか!
全くどいつもこいつもモラルの欠片も無い! こうなったら俺もオリジン機関の職員に金を握らせて琉架のスリーサイズの情報でも買おうかな? もっともそれは一年半前の情報、今はもっと実ってるがな、だが価値はある! マジで買おうかな?
「お会いするのは初めてですが、俺達の名前は聞き及んでいると思いますよ?」
「ん? たち?」
「俺の名前は霧島神那、そしてこちらが……」
「は……初めまして! 有栖川琉架と申します! よろしくお願いしましゅ!」
琉架がガッチガチだ、相変わらずだなぁ、初対面の人が相手だと……
「霧島神那と有栖川琉架…… え? それじゃ貴方達が六位と七位!?」
そうです、その六位と七位です。次の昇進であなたを追い越してしまうかも知れませんが…… 世界情勢的にそれ所じゃ無いか。
「てか、この子が世界一位の有栖川琉架!? 子供じゃん!! 知ってはいたけどこんなにあどけないとは……」
お姉さん、僕の事は眼中にないですか? そうですか……
「胸は結構大きいけど…… 貴女、おいくつ?」
「じゅっ……じゅうごになります!」
「15!? まだまだ成長期じゃん、この調子だと後2~3万は能力値増えそうね…… 私の方は完全に成長止まってるし…… 更に離されそう」
おや? この人の情報古いぞ? 今の琉架の能力値は20万を軽く超えてる、つまり2位以下を倍近い大差をつけて突き放してるワケだが…… まぁ、それは言わなくても良いか。
「それよりエリザベス先輩……」
「あぁ、リズと呼んでくれて構いませんわ、先輩・後輩ですからね?」
いきなり愛称呼びか、ちょっと馴れ馴れしく思われないかな? まぁ本人がそう呼べってんなら呼びましょう。
この先輩、チョロ……ゲフン! フレンドリーだな。
現在高質化しているヤンキー崩れのエセセレブに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいよ。
「それではリズ先輩」
「ん? 何かな後輩クン?」
「まず現在の状況を教えて頂きたい、一体何が起こったのか? 何故世界最大の都市がゴーストタウンになりヒュドラが住み着く魔都になっているのか」
「あ~…… やっぱそれよね? ん~……」
そんなに言いにくい事なのか? 確かにケラケラ笑いながら話すような事じゃないだろうけど。
「二人はさ…… いつ神隠しに遭ったの? いつぐらいまでこっちに居たの?」
質問を質問で返された、それは重要なコトなのか?
「半年ほど前です」
「半年…… じゃあ、ちょうどあの頃か……」
「あの頃?」
「うん…… ん、ちょっと待って、この話はやっぱり後にしましょう」
ハァ? 何でだよ?
「どうせなら上の人からきちんと説明を受けてもらった方がいいからね、それにここは危険区だから他の人達を避難させなきゃ」
むむ…… もっともな話だ、個人的にはストーカー集団などどうなろうと関係ないんだが、せっかく守った人達が魔物に殺されるのは癪だからな。
「分かりました、話は後で伺います。それでこれからどうするんですか?」
「まずは助けを呼びましょう、と言っても軍用車を大量に呼び付けるだけだけど……」
そう言うとリズ先輩は魔神器からコンパクトミラーの様なものを取り出した、メイク直しの時間ってワケじゃあるまい……
「リズ先輩、それは?」
「ん? あぁ、通信機よ」
「通信機? そう言えば携帯が全然使えなくなってましたが……」
「もう試したんだ? そうなの、あの赤いオーロラが出てから電波の類は一切使用不能、おかげで衛星も使えないから他国の情報もなかなか入って来なくって」
「他国の情報が? あの…… 大和がどうなったかご存じありませんか?」
「大和? あぁ二人は大和人か、1ヵ月前までは無事だったみたいだけど、今は分からないな」
「そう……ですか」
1ヵ月か…… 早急に戻らねばならないな。
「もしも~し、エリザベス・カウリー特佐です。魔力戦反応の発生源はトラベラーでした、救援部隊を寄越してください」
ずいぶん軽いな…… ホントに23か? いや、23ならアレくらい普通か。
「え? 人数? ちょっと待って、ねぇ後輩クン、トラベラーは全部で何人ぐらい居るの?」
「4000名です」
「ありがと、え~とですねぇ、4000名ですって、はい、戦力になる人もたくさん居ると思います、それと六位君と七位ちゃんも…… はい…… はい…… え? はい…… 分かりました……」
パタン
リズ先輩がコンパクトを閉じた、交信終了か。
「救援部隊が来てくれるって、4000名だから何往復もしないといけないけど、部隊が来るまでは非戦闘員の護衛を手伝って」
「それは構いませんが、向かう先はデルフィラですか?」
「そうそう、私の母校である第一魔導学院がある魔導都市デルフィラよ」
そうかデルフィラは無事か、世界中が世紀末になって無くて良かった、大和も1ヵ月前までは無事が確認されてるなら、既に滅びてるってことは無いだろう。もちろん無事という保証もないが…… ふむ……
「リズ先輩」
「ん? なぁに?」
「今 先輩が使ったその通信機、それで大和と交信できないんですか?」
「コレで? 流石にそれは無理かな、コレは魔導通信機の一種でなんだけど、電波では無く魔力波を飛ばして交信するものなんだ。
使用可能距離は使用者の能力値しだい、私だと1000kmくらい先まで届くけどパシフィックは越えられないから」
その計算だと琉架でも2000kmが限界か、大和本土まで8000kmはあるからな…… 或いは伊吹の『世界拡張』を使えばギリで…… いや待て、ココは東海岸だぞ? もっと遠いわ……
「それにコレ、使うのにも注意が必要なんだ。魔力波を飛ばすと魔物が寄ってくるんだよね、だから危険区から連絡する時くらいしか使えないんだ」
あ、そりゃダメだ…… 危険区からの連絡がハイリスクなのは当然だな。
「ふむ…… その説明だと電波以外の方法、例えば有線だったら使えるんじゃないですか? 海底ケーブルとか?」
「うん…… 残ってれば……ね」
「残ってれば?」
「どうやって知ったのか、世界中の海底ケーブルは既に断たれてるわ、それどころかアイツ等 地上でも積極的に通信施設とか狙ってくるのよ」
魔物が通信施設を? 確かに昆虫系の魔物には電磁波に反応する種もいるって話だが…… やはり作為的なものを感じる……
魔王リリスの狙いが全く見えてこない、一体何を考えてる?
「おい! 霧島! 魔物が来たぞ! 手伝え!」
後方に控えていた伝説君からお呼びがかかった、4000人も人が固まっていれば広範囲を警戒しないといけない、仕方ない、手伝うか。
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一時間ほどで大型の輸送ヘリがやってきた。
更にその30分後、大量の軍用車が到着した。
その間、魔物は引っ切り無しに現れた、かなりエンカウント率が高い…… コッチは止まってんだから出てくるなよ、いや、どちらかと言うと向こうから寄ってくるシンボルエンカウントか…… どちらにしても魔物の分布密度が異常に高い。
ちなみにシニス世界出身組は空を飛ぶ乗り物に驚いていた、ホープは一応生き物だしな。
だがそれ以上に軍用ヘリが発する爆音に驚いていた、まぁアレはうっせーよな。
白は人の耳を両手で抑え、頭の上の獣耳をパタッと閉じていた…… うるさい時 手を使わずに耳を塞ぐ可動ができたのか…… ベリーキュートだ。
4000人のトラベラー全てを運び終わる頃には日が傾いていた。
「コレで最後ね、それじゃ護衛を手伝ってくれた人たちは、ヘリと車の二手に分かれて搭乗して、あ、後輩クンたちはヘリに乗ってね?」
「ウチのよ……ギルドメンバー達もイイですか?」
「ギルド? えぇ、構わないわ」
大型ヘリに全員乗り込む、シニス世界組はおっかなびっくりだったが…… いや、ジークだけは相変わらず威風堂々だ、賢王の辞書にビビりの文字は無い! って感じだ、墜落したって死なないもんな。
デクス世界組でも先輩だけはへっぴり腰だった、高い所苦手だったっけ? もしかしたら俺がホープから落とした所為かもしれないな…… だったらゴメン。
ヘリに揺られて30分程……
窓の外に見える景色に変化があった、薄暗くなった大地に一本の境界線が見える、壁だ…… シニス世界で見た城壁ほど高くないが、遥か彼方から壁が一本伸びていた。
この薄暗い景色の中、その壁を隔てコチラ側とアチラ側は明らかに違う。
明かりの有無だ。
壁のこちら側は既に暗く、一つも明かりが無い。だが壁の向こう側は電気の光が灯されている……
人類の生存圏だ…… 魔物の流入を抑える万里の長城的なモノなのだろう、あんな物じゃ巨人族は防げないだろうが……
そして壁の向こう側には一際明るい場所がある、あそこがデルフィラ…… その中心にあるのが第一魔導学院だ。




