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レヴオル・シオン  作者: 群青
第四部 「転移の章」
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第181話 荒廃世界


 第一魔導学院へ向けて出発しようと思ったら、早速問題が発生した。


 橋が全て落ちている、それはもう見事に全部だ……

 フェリーも見当たらない、幾つかは桟橋近くに沈んでいた……


 この分だと、トンネルも全て水没してるんじゃないだろうか? コレは明らかに人為的にやられてる。

 テリブルには多少なりの知能が有ったように感じられたが、コレはまるで皆殺しにする気満々だ。こんな事をあのド低能テリブルに出来るだろうか?

 この半年の間に軍師タイプみたいな新種が現れた可能性もあるが……


 とにかくいきなり道が無くなってしまった、対岸が見えるんだから『超躍衣装(ハイ・ジャンパー)』一発で河を渡れるんだが…… 現在は使用不能だ。

 何故なら4000名のトラベラーが俺達の後を行儀よく付いて来ているからだ……


 カルガモじゃないんだからぞろぞろと付いて来るなよ、俺はお前達の親じゃないんだから保護責任も無いんだぞ?

 しかし彼らの気持ちも分かる、ヒュドラみたいなのがいきなり現れたら、それを倒せる奴にくっ付いてくのも当然だ。


 しかしコレだけの人数の前で堂々とテレポートするワケにもいかん、チーム・レジェンドもいる事だし……

 さて、どうしたモノか……


「あの…… カミナ様、私が道を作りましょうか?」

「え? ミラできるのか?」

「はい、お任せ下さい」


 まさかミラにはあの人みたいに海を割る能力があるのか?

 我々が渡りきったところで海は元に戻り、追いかけてきたカルガモのヒナ達は溺れて死ぬ……と。

 まぁミラに限ってそんな事はあり得ないか。


「白き女帝よ、その無慈悲なる冷たき息吹きで世界を閉ざせ、その美しき姿を悠久に留めん!

 『極零雪吹(ジオ・ブリザ)』 チャージ30倍!」


 ミラの作り出した雪吹が大きな河を全面氷結させた。


 おぉ、コレで歩いて渡れる…… こんな方法があったとは…… 背後に控える4000人のストーカーを巻くことばかり考えてて、一緒に連れて渡るってことを完全に忘れていた。

 さすがミラ、心が美しい、誰かさんとは大違いだ…… もちろん誰かさんって俺の事だが。



---



 日が昇り完全に明るくなった…… にも拘らず、空には薄っすらと赤いオーロラが見えている……

 低緯度でもオーロラが見える事はあるらしいが、どうにもただの自然現象とは思えない、何と言うか…… 禍々しい力を感じる! 魔王の俺が言うんだから間違いない。

 もっともハズレてたらカッコ悪いので口には出さない……


 そんな赤いオーロラを見ながら、みんな仲良く河を渡り終えた。氷結した河は寒かったけど、俺は白のおかげで平気だった。


 さて…… ざっと見た感じ、こっち側の方が破壊跡は少ない、何としても移動手段を手に入れたいトコだ。

 150kmも歩くのヤダぞ? もちろん歩けない距離じゃ無い、大昔の人はそれくらい普通に歩いて旅してた。しかし現代のもやしっ子にこの距離は厳しい。


 何とか車を確保したい、取りあえず8人乗れれば十分だからワンボックスでいいな、いや…… まてよ? コンパクトカーでも良いんじゃないか?

 狭い車内に美少女を詰め込む…… 2時間程度なら十分耐えられる! ジークは屋根に載せるか、ボンネットに縛り付けるか、トランクに折り畳んで入れとけばいい!

 ドリフトとかすれば美少女に押し潰されること請け合いだ! やり方知らないけど。


「まずは動く車を探そう、動けば何だっていい」

「? 車って…… 馬車?」


 シニス世界組にはそこから説明しないといけないのか…… 向こうには鉄道はあっても車は無かったからな。



 4000人のトラベラー全員で、その辺に乗り捨てられてる車や、駐車場なんかも粗方調べ尽くした。

 残念ながら動く車は無かった…… そりゃそうだ、動かないから捨ててったんだ。

 しかし無傷のまま放置されてる車が多すぎる、燃料はあるがエンジンは掛からない、まるでEMPバーストでも喰らったかのようだ…… もしかしたら本当に世界的な大規模磁気異常が起きたのかも知れないな。空のオーロラもその影響かもしれない。或いはアレが原因か……


 もしそうだとすると、大和がどうなったのか心配だ。


 被害がアルスメリア東海岸だけなら、経済的損失だけで済むだろう。しかし世界規模だと何億人も死ぬことになるんじゃないか? 下手したらもっと…… 何十億人もか……

 もちろん経済的損失でも人は死ぬ、よく電車止まるし……

 この状況で大和だけ無事と考えるのは、あまりに楽観的すぎるか…… 無事だと良いんだけど……


「ねぇ神那、どういう事だろうコレ…… 人っ子一人いないよ? こっちに戻ってきて見かけた生き物はカラスとヒュドラだけ……」

「そうだな…… 人の死体が転がって無いだけマシだが……」

「うっ……! こ…怖いコト言わないでよ! うぅ…… 想像しちゃった……」


 琉架が縋り付いてきた…… うむ、荒廃した世界も悪くない。

 いやいや、そうじゃ無くってね? 打ち捨てられ荒廃した大都会…… 映画なんかじゃよく見かける光景だ。そういう場合の理由って何だろう?


 ベタなのは世界大戦に核戦争…… しかし半年でこんな夢も希望もない世界が出来上がるだろうか? さすがに全世界がこんな感じとは思えない。

 或いはゾンビか? アレはネズミ算式に増えていくから短時間で世界を崩壊させかねない、コレなら死体が見当たらないのも頷ける。


 この二つのケースなら大抵 人類は生き残っているものだ、映画ならな…… もっとも現実と映画は違う、今この世界で生き残ってるのはシニス世界からのトラベラーだけだったりして……


 フッ…… そんな事ないよね? だ…だ…だ……大丈夫だよね?


 仕方なくストーカー共を引き連れてデルフィラを目指し歩き出す。

 いっその事、俺達だけ飛んでいっちまうか? 先の様子を見て来るとか、救助を呼んでくるとか適当な事言っとけば大丈夫だろう。


「おに~ちゃん……」


 ピクピク


 白の獣耳が動いてる…… 実に可愛らしい……が、コレは良くない事が起こるフラグだ。

 このフラグは外れた例がない。


「足音が聞こえる…… 大型のケモノ…… いっぱいいる」

「大型のケモノ? βテリブルか…… 動物園から逃げ出した動物とかだったらいいんだが……」


『グルルルルゥゥゥ~~~……』


 現れたのはライオンと狼を足して1.3で割った様な6足歩行の大型生物、体長は一匹2メートル以上ある。

 そんな奴らが何十匹も現れた。


「アレは…… テリブルじゃ無い?」


 テリブルは基本的に虫っぽい外見をしている、それは人型でも同様だった。

 しかし現れた生物は全身毛むくじゃらで、明らかに肉食獣の特徴を持っている……


「あれはイートサルクスでは無いのか?」

「イートサルクス?」

「うむ、浮遊大陸に生息している大型の肉食魔獣だ、その名の通り動物の……特に人型種族の肉を好んで食べる」


 魔獣…… 魔物の一種か、何故デクス世界に魔獣がいる? それに問題はそれだけじゃ無い。


「神那ぁ…… アレって普通の魔物と違うよね? アレってきっと……」

「あぁ…… “魔族”だ」


 魔王の力により強化された生物、魔族……

 シニス世界から魔物を輸入して魔族に変える…… そんな事が出来るのは第12魔王 “原罪” リリス・リスティス唯一人。


 くっそぉー! 可愛ければちょっとお仕置きする程度に留めてやろうと思ってたのに! ここに来て魔王の本領発揮かよ!

 しかし何故だ? 魔王リリスの目的が分からん、何故わざわざ自分で作り上げた世界と文明を破壊するような真似をする?


 いや…… もともとアイツの目的なんか推測だけで、全然分かって無いんだけど。

 それでもこんな大それた事をする理由が無い…… もしかしてアレか? 人類共通の敵を作って世界をまとめ上げる的な? それはテリブルで充分だろ?

 それとも人類全体にストレスを与える事により、より強い人類を生み出そうとしている?

 だったら文明を壊さないやり方の方がイイだろ、文明を進化させる為にも!


 もしかして魔科学文明って行き詰ってたのかな?


「おいカミナよ、いつまで呆けておる?」


 呆けてねーよ、考え事してたんだよ。

 それにあの程度の相手なら……


「良し! チーム・レジェンド出番だ! 敵を蹴散らしてこい!!」

「なっ!? なんでお前が命令するんだ!!」

「イイからさっさと行けって、こんな時の為に経験積んでたんだろ? お前達ならあのレベルの敵でも倒せると思うんだが?」


 魔獣退治をチーム・レジェンドに押し付ける。俺達ばっかり働くのは気に喰わん。


「黒田先輩、行きましょう、霧島たちだけ働かせる訳にはいきません。俺達はアイツに守ってもらう非戦闘員じゃ無いんだから!」


 ナイス伝説君、お前案外イイ奴だな。


「チッ! 確かにお前の言う通りだ、アイツに使われてるみたいで気に喰わないが、今回はリーダーのお前の判断に従おう!」

「まったく…… コレだから男は…… 安い挑発に乗せられて……」

「それでは霧島先輩! 行ってまいります! 敵は俺の寒極の支配者(エターナルブリザード)の二つ名に賭けて殲滅して見せます!!」


 一部、ブツブツ言いながらチーム・レジェンドが戦闘を開始した。はよイケよ。

 それにしても武尊…… 魔王でも無いクセに二つ名なんか持ってるのか。さすが同年代の中でも色々な意味で突き抜けてるだけの事はある。しかし……

 寒極の支配者(エターナルブリザード)…… 誰が呼んでくれるんだ? その「相手は死ぬ」みたいな二つ名を……


「うおおおぉぉぉ!!!!」


 チーム・レジェンドの他に、異世界間転移の指定席予約組も戦闘を開始した。アレだけいれば大丈夫だろう。



---



 戦闘開始から20分経過……


 チーム・レジェンドの戦い方はなかなか様になってる。

 スピードの伝説君が敵を掻き乱し、パワーの黒田先輩が止めを刺す。

 加納先輩は死角に隠れている魔物を魔術で牽制、武尊は防御サポートに徹していて全員無傷だ。


 チームプレイとしてはほぼ理想の形だ。

 ウチのギルドは個々の能力が高すぎて連携が取り辛い、てか、そもそも連携訓練とかした事ない。俺と琉架はオリジン機関で連携について習ってはいるが、やはり実戦では殆んど試した事が無い。


 なるほど、魔王討伐の時、あんな事を言い出したのも連携に絶対の自信があったからか。確かに連携勝負ならチーム・レジェンドの方が上手だろうな。

 もっともオルターに突入した瞬間に分断され、連携を披露するヒマすら無かったが……


 そうなると個人の戦闘能力に天と地ほどの差がある、この差は未完成の連携じゃとても埋まらない。ぶっちゃけ4対1でも負ける気はしない。

 要するにトゲ付き肩パットは避けようのない運命だったといえる。


「ゥオラァァァーーー!!!!」


 黒田先輩の義手パンチ(腕力100倍)が炸裂! イートサルクスの頭を吹っ飛ばした。

 イケ! そこだ! ショルダーチャージしろ! 折角プレゼントしたんだから有効活用しろよ!


 今のでちょうど30匹、ようやく終わった…… 結局ショルダーチャージは使わなかったな。

 倒しても次から次へと仲間を呼んぶ…… マド○ンドみたいなヤツだった。

 経験値はだいぶ稼げた事だろう、レベル上がった?


『ギャオオオォォォーーーォォ!!!!』


「ッ!? 何だぁ!?」

「なに? 叫び声!?」


 声のした方向…… 空を見ると何かが猛スピードで突っ込んでくる!


「ゲッ!? ドラゴン!!?」


 紅蓮赤龍(レッドドラゴン)だ、余裕でSランクの強敵だ。血の匂いに誘われてきたのか? さすがにアレはチームプレイでどうにかなる代物じゃ無い。


「仕方ない、アレはこっちで何とかするか……」

「あ、ちょっと待って神那」

「ん?」


 ――ォォォォォオオオオ ドゴオオオォォォォン!!!!


「なに?」


 遠くから何かが飛んでくる音が聞こえたと思ったら、紅蓮赤龍が大爆発、盛大に炎上し墜落した! ミサイルか?


 キィィィィィン


 おぉ、特徴的なフォルムのステルス戦闘機、アルスメリア空軍か!

 そんな戦闘機がちょうど上空を通過した際、何かを落とした…… いや、誰か飛び降りたんだ! 生身で戦闘機の外側に掴まってたのか? んなバカな!

 あれ? そう言えば前にもこんな事があった気が…… どうかあの女性じゃ在りませんように!


 ヒュゥゥゥ~~~ スタッ!


 結構な高さから飛び降りたのに静かな着地だった。

 俺の知ってるあの人なら、きっと馬鹿笑いを轟かせながら意味不明な名前の必殺技を繰り出し、威風堂々と降りて来ただろう。

 そこに立っていたのは一人の女…… 良かった、師匠じゃ無い。てか、誰だアレ?


「何でこんなに沢山の人が居るの? 全員生き残り? いえ…… その恰好はシニス世界からのトラベラー?」


 ホッ、どうやら人類は滅びてないらしい、場所柄、サルの支配する惑星にでも来てしまったのかと思ってたよ、大丈夫、彼女は人間だ。


 しかし油断するのは早いよ。


「あのぉ、紅蓮赤龍(レッドドラゴン)にミサイルはあまり効果が無い気がするんですけど……」

「なに?」


『ギャオオオォォォーーーォォ!!!!』


 炎に包まれたままの紅蓮赤龍が元気一杯、こちらに向かってくる。


「うお!? 嘘でしょ!?」


 いやいや、相手は紅蓮赤龍だよ? 炎と戯れて遊ぶような奴だよ?


「ふん! 『大気叛整(エア・フォース)』!!」


 爆炎を纏っていた紅蓮赤龍の炎が一瞬で鎮火され、その場で歩みを止めた。

 魔術じゃ無い、『大気叛整(エア・フォース)』…… ギフトだ、そしてこの能力…… 設定資料で見たから知ってるぞ。


「『惑星衣(アトモス)(ゼロ)』そこで干乾びてなさい」


 巨大な紅蓮赤龍はその場で倒れ、動くことも出来ずそのまま干乾びていった……


 彼女の事は知っている、エリザベス・カウリー…… 創世十二使の序列第三位だ。




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