第178話 息抜き6 ~夏の序列編~
次の異世界間ゲート解放までとうとう一週間を切った……
引っ越しの方は大体完了したこの日、我々は過ぎ去ってゆく夏を惜しみ最後のバカンスに訪れた。
リスリゾート……
トゥエルヴ最大の海の大型の複合リゾート施設……
2年前の夏、俺と琉架と先輩と白の四人、なけなしの金をはたいて夏のリゾートに訪れた場所だ。
俺にリア充体験をさせてくれた思い出の場所でもある。
もう夏も終わり、残暑厳しい今日この頃……
しかしこのリスリゾートは未だ常夏だ! 海にクラゲの大軍も現れてない!
第二次魔王大戦も終わり、若者たちがバカ面さらして波打ち際で狂ったように遊びまわっている。
やれやれ…… 品性の欠片も無い顔だな、しかし人生にはそんな時間があっても良い気がする。てか、俺もあんなバカ面さらして遊び呆けたい。
そもそも今回のバカンスの発案者は珍しく俺じゃ無い。
伊吹が帰る前にどうしてもパーリーピーポーになりたいとか言い出した。
渡りに船とはこの事だ。
最愛の妹のお願いを叶えると同時に、俺の欲望を叶えさせて貰おう。
俺達はリスリゾートの一角にある小さな入り江のプライベートビーチとコテージを貸し切った。
実に美しいロケーションだ……
D.E.M. のメンバーはシニス世界では有名人だ、一般人でも知ってる人は知っている。
囲まれたり、ジロジロ見られるのは不快なので、外部から完全にシャットアウトできるこのプライベートビーチを用意した。
財宝の豪華な腕輪一個分くらいの金額が掛かったが、所詮は財宝一個分。我々の懐事情からすれば大した額では無い。
本当はウィンリーやアーリィ=フォレストも呼んでやりたかったんだが、ウィンリーは多忙だし、アーリィ=フォレストは太陽の下に長時間出しておくと酸化が進むみたいだからな。
それは来年に持ち越しだ、ウィンリーはスケジュールを空けてもらって、アーリィ=フォレストは対太陽特訓だな。
まぁ来年のことは来年考えるとして、今は目の前に広がる人っ子一人いない秘密のプライベートビーチでLet'sバカンスだ!
小石一つ転がってない真っ白できめ細かい砂のビーチにパラソルと椅子が並べられている。
俺はそこでみんなの登場を今か今かと待ちわびていた。
俺の装備に抜かりはない、自動でテントが設営されてもある程度余裕をもって隠せるほど大きい丈の長いボクサーショーツタイプの水着、前回に引き続き目線を隠せるサングラスも標準装備、更にこのサングラス、なんと小型カメラが内蔵されているのだ!
顔を向けるだけで映像を記録してくれる、パパラッチに使われると非常に不愉快だが自分で使用する分には非常に便利だ。
この秘密兵器は小型カメラが搭載されていた魔導器を分解し、血液変数で作り出したサングラスにカメラを組み込んだ俺の手作り品だ。
故にデクス世界出身組にもバレることはないだろう、クックックッ!
ザッ―
背後から砂を踏みしめる音が聞こえた、いよいよお出ましだ、エントリーナンバー1番は誰かな?
期待を込めて振り返る、もちろん顔はポーカーフェイスだ、ニヤつきは心の奥に封印して……
「おぉ…… 美しい景色だな……」
エントリーナンバー1番、我がギルドD.E.M. で最大の体積を誇る筋肉男、実年齢は500を超え、不老不死の肉体と引きこもったまま出てこない親不孝な息子を持つ賢者界のレジェンド!
ジーク・エルメライ(500余歳)その人だ。
おっと失礼、コイツはエントリーしてなかったのでノーカンとさせてもらう。
「どうしたカミナよ? 殺気が漏れてるぞ?」
「気のせいだ、それよりジーク、この入江の底の砂地には、どんなEDでも即座に直立不動する、究極の不能治療薬になるボッキ貝ってのがいるって噂だ。
チョット取りに行ってこいよ、10時間位…… 不老不死のお前ならそれくらい海の底に沈んでても平気だろ?
なんなら重しを付けるの手伝ってやるよ、コンクリくらい俺の能力で幾らでも作れる」
「ふむ、そんな噂は聞いたことがないな、それにクスリでどうにかなる問題ではない、この呪いはもっと根源的な理由だからな」
チッ!!
「そうか…… だったらそこに寝そべれよ、砂かけてやるから…… 頭まで全部」
「それは少し泳いでからにしたいトコロだ、その時改めて頼む、後、顔は出しておいてくれ」
顔まで埋めることに意味があるんだろ? 安心しろ、股間部分にはタップリ砂を盛っといてやるから、擬似的復活を体験できるぞ? 砂の中で。
「だったら泳いでこいよ、今すぐに、まっすぐ北に泳げば中央大陸に着く、そこまで遠泳しろ」
「まずは準備運動からだろ? それにそれほどの遠泳、ミラならばともかく、俺ではどれだけ時間が掛ることか…… 恐らく1週間では戻ってこれん」
そうだよ、1週間戻ってくるなって言ってるんだよ、察しろよ。
「それにジーク、その格好はなんだ?」
「む? 何処かおかしいか?」
何処かおかしいかと問われれば、何処も彼処もおかしいと言わざるを得ない……
何でお前…… フンドシ一丁なんだヨ?
更に普段は物理防御や魔法防御を考慮しない、只々丈夫な服とローブを着込んでいるから気付かなかったが、そのムキムキマッチョなバディには刀傷や矢傷、魔法による火傷や凍傷の痕までたくさんある、体だけ見れば正しく歴戦の戦士だ。
恐らく不老不死の呪いを受ける前の古傷だろう…… お前なんで賢者やってるの? マジで。
今度からコイツには巨大ハンマーでも持たせるか? 余裕で使いこなせるだろ?
「この格好のことなら俺の体格に合う水着がなかったから自作した」
自作って…… 水着がなかったなら諦めて部屋で瞑想でもしてろよ! 自力で水着(褌)を作るとか妙に女子力高いことすんな!
くそぅ…… コイツどうやったら俺の視界から消えてくれるんだろう? まだ誰も来ていない…… 目撃者はいない…… 砂浜の深い所へ『強制転送』してやろうか?
後にはジークの形をした砂の像だけが残されるだろう…… それは蹴り壊してやればいい。
「おに~ちゃん?」
おっと、呪いの筋肉を始末する前に女の子が来てしまった。運が良かったなジークよ。
それでは改めましてエントリーナンバー1番!
我がギルド最年少ながら将来有望な白い妖精! 第9魔王 “神眼” 如月白の登場だ!
スポーツウェアに近い形のセパレートタイプの白い水着にチョロっと覗くおヘソが可愛い、2年前は小麦色だったが今は雪のように白い肌をしている…… 正に純白の妖精! 全身真っ白だ! 性悪の妖精族は関係ない。
強烈な日差し対策に日傘を差している姿が実に可愛い。
あぁ…… 本当に可愛い…… 今の白をカーボナイト凍結して部屋に飾っておきたい……
もっともカーボナイト凍結で白の可愛さを留めて置けるとは思えないが……
「おに~ちゃん?」
「あぁ…… 可愛いよ…… 可愛すぎるよ…… 正に大天使って感じだ」
「ぁぅ…… ぁ……ありがと……///」
赤くなってる…… 超可愛い!
良し! 前みたいに二人でカップルドリンクでも飲もうぜ!
「うおおぉぉぉーーー!! 白ちゃん可愛ぅいぃぃぃぃ!!!!」
遠くから何かがバタバタ大音を立てながら駆け寄ってくる音がする……
エントリーナンバー2番の登場か……
鼻息を荒くし騒がしく駆け寄ってきたのは我が不肖の妹、霧島伊吹だ。
腰にフリルをあしらったワンピースタイプのピンクの水着だ、そういえば伊吹の水着姿を見るのって何年振りだ? 前に見た時はズドンって感じだったが、腰のあたりに少しだけクビレができてる、少しずつ、着実に成長してるんだな…… 胸の辺りは今後の成長に期待だ。
「ん? どう? おにーちゃん、褒めてもイイんだよ?」
伊吹はそう言うと、右手を頭の後ろへ、左手を腰に当て、半身を捻ってちょっと古臭いグラビアみたいなポーズを取る…… 褒め言葉以外受け付けないって感じだけど、褒めないといけないのか? まぁわざわざ挑発して気分を悪くすることも無いか。
「あぁ伊吹、ちゃんと成長してるみたいでおにーちゃんは嬉しいよ、マニアが見たら誘拐されそうなくらい可愛いよ」
「………… 褒めてるんだよね? 何となくイラッと来たんだけど…… なんでマニアに限定するの?」
「いやいや、血の繋がった兄妹だからこそ控えめな評価にしたんだ、伊吹の水着姿は確実にマニア垂涎モノだぞ」
「………… ナンか釈然としない……」
う~ん…… 妹を褒めるのって難しい、白の時みたいに心の中身をストレートに表現すると気持ち悪がられるのが目に見えてるし……
「お待たせ♪ あれ? まだみんな揃ってないね?」
この声は! 女神降臨だ!
エントリーナンバー3番、もはや説明不要のビーチの女神! 第8魔王 “女神” 有栖川琉架の降臨だ!!
「お…… ぉおう……」
薄いピンクのビキニだ…… 2年前に見たのと同じロングパレオが巻かれている、こういう所はやっぱり琉架だなぁ、しかし明らかに違う点がある。
一部分が地殻変動により隆起し、深い渓谷が出来上がってる。思わずあそこにダイブしたくなるほどだ!
あぁ…… しかし素晴らしい…… 均整のとれたスタイル、まさに美の女神様だ、アーメン。
「もう、神那…… そんなにジロジロ見ないで、恥ずかしいよ……」
馬鹿な!? サングラスで視線を隠しているのにバレた!? って、このくだり、2年前にもやったよな?
琉架はこんなに成長しているのに、俺は全く成長していない。
「あの…… お待たせ致しました」
来た! エントリーナンバー4番! 海と言ったらこの人! 渚の人魚族! 第6魔王 “人魚姫” ミラ・オリヴィエだ!!
ミラの水着は琉架と同じくビキニにパレオのセットだ、薄っすらと水玉模様が付いている。
しかし腰に巻かれているパレオは随分と短い、見た感じミニスカートだ…… コレはつまり…… アレだよね?
人魚族は海に入れば足が変身して人魚形態になる、つまり水着を着ていても破れてしまうんだ…… それはとても勿体無いことだ、そう言えば先代第6魔王の淫乱糞ビッチも今のミラみたいにミニスカルックだった……
それはつまり…… つまり…… あのパレオの下は……
あ、ヤバイ、鼻血が出そう…… いやはや日光に当たり過ぎたかな?
「うぅ……///」
ミラが恥ずかしそうにパレオを押さえてる…… 神風よ吹け!!
「大変申し訳ございませんでした、準備に少々手間取りました」
この声はミカヅ…… ブフォッ!?
たゆん♪ たゆん♪
エ……エントリーナンバー5番…… ミカヅキが小走りで駆け寄ってくる。
スッゴイ揺れてる! 例えるなら大海原の波の如く、思春期の乙女の恋心の如く、第二次魔王大戦をやっていた頃の世界情勢の如く、大きく揺れ動いている!
普段はキッチリしたメイド服に包まれて、その真の力を封印しているミカヅキの巨乳が、枷から解き放たれたようにそのOPパワーを惜しげもなく披露してくれている!
眼福なり……
さあこれで全員揃っ…… て、あれ? 先輩は?
エントリーナンバー6番の選手が待てど暮らせど現れない…… もしかして敵前逃亡してしまったのだろうか? しかし先輩を責められないな、この状況でトリというか、オチを担当するには鋼の精神が必要だ。
鉄筋骨では心まで鋼鉄に変える事は出来ない。
ザッ!!
その時背後で足音がした。
「フッ、待たせたわね?」
「せ……先輩……?」
そこにはいつの間にか先輩が立っていた…… 逃げたんじゃ無かったのか? つーか、何その恰好?
首から下にタオルを巻いてテルテル坊主の様な恰好をしている…… ちゃんとオチを用意してくれたのか?
「さあ! 見るがイイ霧島神那!! コレが私の生きザマだ!! しかとその目に焼き付けろ!!」
バッ!!
まるでマントの様に大袈裟にタオルを投げ捨てた! そこに現れた先輩の水着は……
スクール水着(旧式)だった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
言葉が出ない…… マジで絶句した。
「さあ見るがイイ! そして笑うがイイさ! この完璧な着こなしを!!」
先輩は滝の様に涙を流してる…… 泣くくらいならやらなきゃいいのに……
彼女は一応、高校生では無く中学生だ…… スクール水着を着たって別におかしくは無い。
しかしこの着こなしは小学生に見間違うほどベストマッチしている。
「さあ、霧島神那! 何か言う事は無いのか!?」
「せ……先輩…… 分かりました、先輩の覚悟、確かに受け取りました! 今日のMVPは貴女です、佐倉桜センパイ!」
未だ涙を流してる先輩の右手を掴むと高らかに掲げた!
今日このプライベートビーチで最も似合う水着を着てきたのは間違いなく貴女です!
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ちなみにD.E.M. 女性メンバー○○比べの序列は以下の通り……
1位 ミカヅキ
2位 有栖川琉架
3位 ミラ・オリヴィエ
4位 霧島伊吹
5位 如月白
そして最下位は本日の主役、佐倉桜先輩でした。