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レヴオル・シオン  作者: 群青
第四部 「転移の章」
183/375

第177話 帰り支度


 空中庭園ティマイオス


 この美しい庭園の一角にある、築2400年という世界遺産並みの物件が今回のリフォーム対象である。

 依頼人は4人の新米美少女魔王……+α。


 彼女たち若者が満足する新居……になったかどうかは不明だが、巨人族(ジャイアント)の匠の手によりその内部は様変わりしていた。

 懸念していた蛍光ピンクの壁紙は無かった、良かった……


 正面扉を開け中に入ると、そこは巨大な玄関ホールが出迎えてくれる。

 この建物自体、玄関ホールを中心に左右対称に作られており、部屋の配置は学校やホテルの様に綺麗に並んでいる。

 2階からホールの壁に沿ってに二つの階段が曲線を描いて降りてくる、その中央奥、玄関ホールの一番目立つところに何故か俺の黒曜石像(女神像)が堂々と飾られている……

 はっ!? 何で!? アレは俺の部屋の隠し部屋に奉る予定だったのに、この屋敷の顔みたいに正面玄関に飾られてますよ!? ふざけんなよ!? こんな所に飾られたら永遠に黒曜石のフリを続けなきゃいけないじゃないか!!

 責任者出てこい!! ジーーーーィィィクッ!!!!


「おまっ! どういうつもりだ!! お前! あの中身知ってんだろ!!」

「ふむ、巨人族(ジャイアント)の者があの黒曜石が立派だと褒めていた、だからここが相応しいと勝手に判断したんだろう」


 現場が勝手に判断したみたいだ、てか俺達が来る前にお前が別の場所に隠しとけよ!


 ハァ…… 仕方ない…… 俺の部屋に新しいお楽しみ部屋を作るまではココに鎮座させておこう。いずれ血液変数(バリアブラッド)でソックリなモノを作成し、すり替える…… くそ、無駄な作業をさせられることになった。


 この俺のお宝が堂々と飾られてる玄関ホールは3階建ての建物を一番上まで貫く巨大な吹き抜けになっている。以前はこんなじゃ無かった…… 外見はほとんど変化が無かったが、中身はかなり大規模な改装が行われていた。


 1階は右側にちょっとしたパーティーが開けそうな大部屋と、来客用の小部屋が幾つか……

 左側に水回りや使用人用の小部屋などがあった、左側手前の部屋はミカヅキがすでにキープしており、左側最奥の部屋をジークがキープしていた。

 ジークが隅っこの部屋なのはいいが、現魔王のミカヅキはもっといい部屋を選んでいいんだぞ?


 2階は住居用の部屋が並んでいる、左右に5部屋ずつ、計10部屋だ。

 これだけ部屋数があれば家族が増えても安心だね♪ 増やしちゃおうか? それはもう勢力的に精力的に!

 各々が自分の部屋を確保している、配置は屋敷の正面から向かって右手前側から琉架、伊吹、白。

 左手前側からミカヅキ、ミラ、先輩…… あれ? ミカヅキ二つ目の部屋?

 1階の自室の真上に本体用の部屋ってことか、来客があった時は真下の部屋に分身を出現させるんだろう……


 しかしこの空中庭園にどれだけ来客があるのか……

 ココは新魔王城、そして魔王の必修スキルにはボッチ属性が含まれる…… みんな社交性皆無だからなぁ、そもそもここまで自力で来れそうなのはウィンリーくらいだ。


 ちなみに白のとなりの空き部屋をウィンリー用にキープしてある。もっとも伊吹が自分の部屋へ連れ込んでしまうからあまり意味は無さそうだが……

 更にその隣の空き部屋に、アーリィ=フォレストの粗大ゴミを詰め込んでおいた。彼女が遊びに来たらあの部屋を提供してやろう。


 …………あれ? 俺の部屋は?


 いや、分かってる、3階の一番いい部屋が宛がわれているのだろう。

 3階には少し大きめの部屋が4部屋あり、その一つが俺に宛がわれていた。

 嫁達の愛を感じる……のだが、なんか仲間外れにされてるみたいで…… 2階は男子禁制! おめーは入ってくんな! って言われてる気がする。


 とにかくこれから各々が自分の部屋を仕上げる作業に入る、ガイアに必要なモノを買い足しに行くのも少々手間が掛かるが仕方ない。

 全部終わるのに2~3週間掛かるだろう…… そしてその頃には5回目の異世界間ゲート開放だ、つまりデクス世界への帰還が行われる…… 折角の新居なのにゆっくりする暇も無い。


 まぁいいさ、第一の目標を果たしたらこちらに戻ってくるんだ、その時ユッタリマッタリすればいい……


 そう、第一の目標…… 第12魔王 “原罪” リリス・リスティスの捕獲だ。

 待ってろよ! 俺が絶対GET!してやるぜ!!



---


--


-



 みんなが部屋作りに専念している間に俺は関係各所に帰還の挨拶をすることにした。

 お供はリモコン代わりのアルテナただ一人、ジークの持ってた『欲望磁石(オルパス)』に空中庭園をセットする。コレはホープのコックピットに置いておこう、そうすれば空中庭園がドコを漂っていてもすぐに帰って来れる。

 ホープには帰巣本能があるが、空を気ままに漂ってる空中庭園を見つけられるかは不明だからな。


 それでは挨拶回りに出発だ。

 しかしそこで俺の行動はピタリと止まる……


 誰に知らせるんだ?


 いや、何人かはすぐに浮かぶ、しかし数人だ……

 こんな所でも社交性の無さが浮き彫りになる。


 友達がいない…… コレも全部魔王の所為だ。

 魔王のボッチ属性の所為で俺には友達がいないんだ…… そうに違いない!


 現実逃避したところで友達がいないという事実は変わらない、俺の鈍色の脳細胞をフル回転させ挨拶する相手を絞り出す、まるで年賀状を送る相手を無理やり発掘している気分だ。見得はってたくさん買うからだ。

 もうさ、年賀状なんて風習止めちまえよ、正月早々両親が残念な顔をして俺に手渡す年賀状の束の薄いコト薄いコト……

 うむ、正直に言おう、束じゃ無い、ほんの数枚しか来ない。

 不幸の手紙は段ボールに溢れんばかりに届く癖に……


 だが俺は気にしない、俺に友達がいないのは事実だ、だが俺には嫁がたくさん居る! 美少女の嫁一人分の価値は友達百人の価値を上回る!


 圧倒的!

 俺は圧倒的勝者だ!


 だから悔しくなんかないやい!


 そんなワケで複数の嫁を持つ禁域王が圧倒的上から目線で年賀状を送りつける…… 違った、帰還の挨拶をしに行ってやる。

 まずはやっぱりあの人だ! そう、俺の嫁の一人でもある……



---



 第5領域『大空域』 雲の城スカイキングダム


「カミナァーーー♪」


 ガシィ! ペタ~ン……


 うむ、ウィンリー自身は柔らかいんだけど、緩衝剤が存在しないと少なからず骨に響くな……

 いつの日か彼女も成長させてみるか? 正直想像がつかないけど、これだけ可愛ければきっと美しく成長するだろう。

 でもフューリーさんに怒られるかな? 幼女アイドルを成長させたら…… 一部愛好家の間では16歳で熟女、18歳でババアと呼ばれる恐ろしい伝説がある。

 ロリコンは死ね! 俺はロリコンじゃ無いから大丈夫だ。


「カミナ、大丈夫だったか? 怪我は無いか? プロメテウスの所にはジャバウォックまで居ったそうじゃないか、みんな無事だったか?」

「あぁ大丈夫、みんな無事だったよ、少なくともウチのギルドメンバーは」


 そう、俺は今回の魔王二連戦を無傷で乗り切ったのだ。

 もっとも一人は正気に戻ったにも拘らず自殺志願の狂った魔王。

 一人はガラクタをけし掛けてくる脳無し魔王。


 俺の敵じゃ無かったな。


「カミナがアイツ等を倒したのか?」

「いや、止めを刺したのは白とミカヅキだ、つまり魔王の力を継承したのもその二人だ」

「おぉ! 狐族の小っちゃい子と鬼族のおっきい子か!」

「ちなみに二人とも魔王同盟に参加した、つまり俺達は七大魔王同盟になった」

「おぉ!! 七人もか!? スゴイ大所帯になったのぅ!」


 同盟参加が事後報告でも気にしないか、まぁウィンリーだもんな、反対する理由も無い。


「それと報酬として空中庭園を手に入れたんだが……」

「空中庭園? 空中庭園とはもしかしてティマイオスの事か?」

「ああ、そのティマイオスだ、俺達はそこに引っ越したんだがウィンリーは知ってる……よな?」

「うむ、遥か昔の事で記憶がおぼろげだが行った事がある。そうか、まだ空に浮かんどったのか」

「ちゃんとウィンリーの部屋も用意してある、いつか遊びに来てくれ」

「おぉ! 行く行く♪ 絶対遊びに行くぞ!」


 まぁウィンリーはコンサートとかで忙しいだろうから、直ぐにって訳にはいかないだろうが……

 おっと、そうだった、俺は帰還の挨拶に来たんだった、コレをちゃんと伝えとかないと、せっかく遊びに来たのに誰もいなかったなんてコトになりかねない、それは可哀相だからな。


「それから俺達はしばらくデクス世界に帰還する事になった」

「え? 帰っちゃうの?」


 あ、ウィンリーの素が出た、ションボリって顔してる。

 あぁ…… 俺はなんて罪作りな男なんだ女の子にこんな顔をさせるなんて……


「大丈夫! 直ぐに戻ってくるから!」

「ん? おぉ! そうであった、カミナは自力でゲートを作れるんじゃったな! なら安心じゃ!

 デクス世界か…… 余もいつか行ってみたいのぉ」

「そうだな、色々片付いたら向こうの世界を案内してやるよ」

「ハァァァ~~~♪ うん! 約束!」


 うん、向こうの世界ならパパラッチを気にせずウィンリーとデートごっこが出来る!

 ……ごっこだぞ? マジデートだとギリギリアウトかもしれないし……



---



 さて、次は……

 アーリィ=フォレストとは既に打ち合わせも済んでる、わざわざ帰還の挨拶に行くのもおかしな話だ。

 そうすると…… 第3夫人候補のオルフェイリアか。

 しかし門を開きし者(ゲートキーパー)の事を正直に話す訳にもいかないし、う~~~ん…… 何も言わずに居なくなると、あのなんちゃってツンデレさん、また怒るだろうし……

 少しの間、旅に出るって年賀状…… 違った、手紙を出しとくか、魔王リリスの居場所は見当が付いているが直ぐにGET出来るという保証は無いしな。

 せめてライオンキングが居なければ直接話に行くんだが…… アイツが絡むと絶対話がややこしくなる。


 お土産に猫缶とマタタビでも買ってこよう。

 ………… ライオンにマタタビって効くのかな? ネコ科だしイケるか? うむ、実験してみよう。

 上手くいけばライオンキング対策にもなる!



 後はクリフ先輩の所か。

 帰る前に顔を出せって言ってたな、出来ればオリジン機関あての報告書も書いて欲しい所だ。

 それも頼んでおくか、クリフ先輩の所へは帰る直前に琉架と二人で行けばイイ。


 …………


 他に挨拶する人って誰かいたっけ?


 原初機関! ……は、クリフ先輩とセットでいいな……

 マリーナの所! ……は、ミラがいなけりゃ意味が無い……


 おぉぉ…… もう特に残って無い…… 挨拶回りってウィンリーのトコにしか行って無いじゃん!

 社交性が無いと自覚していたが、まさかこれ程とは……


 …………いや!

 一人だけいるぞ! 年賀状は絶対出さない相手だが、筋を通しておかなければならない相手が!


 行くぜ! ラストバトルだ!!



---


--


-



 シルバーストーン財団本部ビル


「ちぃす、お久しぶりッス」

「何しに来た小僧」


 うむ、予想通り全く歓迎されていない。場所は以前、美女と野獣の鯖折り劇場が公演された財団本部ビル一階奥のレストラン。

 周囲には色んな種族、色んな人達が商談やら談笑やらをしている。

 「お前のような若造にウチの敷居を跨がせるモノか!」って言われてる気がする。

 全く無礼な奴だ、今魔王界で一番ノリに乗っている禁域王に対する敬意というモノが見られない。


 まぁいいさ、今日の俺はケンカをしに来た訳じゃ無い、サヨナラの挨拶に来ただけだ。


「え~…… 大変残念なお知らせなんですが、我々D.E.M. は次回の異世界間ゲート開放でデクス世界に帰還する事になりました、もちろんお孫さんも一緒にです」

「………… 知っておる、琉架から聞いておるからな……」

「あれ? 既にご存じ?」


 よくよく考えれば当然だった、琉架はお爺ちゃんっ子だ、真っ先にこのゴリラに報告に来るのが普通だ。

 つまりアレか、来なくていい所に来てしまったのか…… わざわざゴリラの巣穴に飛び込むような真似をしてしまった……


「つまりお前は“ワシの琉架”を連れて行くと報告する為に、わざわざこんな所までたった一人でノコノコやって来たというワケか……」


 こんな所とかノコノコとか…… お爺様の言葉の節々に隠しきれない怒りと憎しみが込められてる。

 今指パッチンしたら完全武装した黒服が俺を取り囲むんじゃないか? ようやく魔王大戦が終結したってのに延長戦が勃発しそうな勢いだ……

 こんな所に来るんじゃ無かった!


「え~と、お爺様は……」

「お・じ・い・さ・ま? だとぉぉぅ?」

「あ~…… 会長は一緒にご帰還なされるの……」

「ワシはまだ半年以上帰れん!」


 どうやら完全に俺が挑発しに来たと思ってるらしい…… 俺達の関係性を考えれば当然だ。

 同じ女神を崇拝しているが、その寵愛を受けられるのはどちらか一人…… 当然俺は譲る気などない、それは向こうも同じ気持ちだろう。


 もちろん俺に挑発する気など無かった、それにどうせやるなら琉架を連れてきてゴリラの怒りを抑制し、その上で徹底的に煽ってやるよ、その方が面白そうだし……

 まぁそんなことしたら脳みその血管がブチブチ切れそうだからやらないけど……


「そうですか…… それは何と言いますか…… うん、それじゃ僕はこの辺で失礼します」

「まぁ待て小僧! そんなに慌てて帰ることも無かろう?」


 ガシッ!!


 いででででで!?

 相変わらずのゴリラパワーで肩を強烈に掴まれる、俺が魔王じゃ無かったら肩の骨が粉砕骨折してる所だ!

 何なんだお前は!? もしかして第三の勇者か!? 今から魔王討伐でも始めるつもりか?


「おぉ、今突然思い付いたんだが、もし何かしらのトラブルが起これば琉架は帰還を一時取り止めるんじゃないだろうか?

 例えば…… お前が行方不明になるとか?」


 ゾクッ!?


 濃密な殺気が周囲を包み込んだ、数メートル離れたところで商談していたリーマンが椅子から崩れ落ちるように倒れた……

 コイツ…… 俺をココで無き者にする気か? 上等じゃねーか!


「いやぁ…… そんな事になったら琉架が悲しみます、俺と琉架の絆は誰かさんのよりも深いですから」

「ほほぉう? 誰かさんとは誰の事だ?」

「え? それは……(チラッ) 口に出すのはあまりにも憐れなので止めときます(チラッ)」


 ワザとらしく視線を送る、お前だよお前。

 俺と琉架は混浴までする仲なんだぞ?

 もっともコレだけは言えない…… こんな事を言ったらこのゴリラは爆発すると思う…… 比喩じゃなくって物理的に本当に爆発しそうで……

 血圧に血管が耐えられずに、こう…… ボンッ!! って……


「ワシはな…… 以前から思っていたんだ…… ある小僧を血祭りに上げれば琉架はワシの元へ帰ってくるのではないかと…… お前…… 一回死んでみる?」

「とうとう本性を現したなロリコンジジイ! 琉架は俺が守る! 貴様には香り粒子の一粒とて渡さん!!」







 その日、第12領域トゥエルヴ、首都ガイアの一角で…… 第三次魔王大戦勃発! ……しかけた。

 謎の生物が大暴れし、国軍やSランクギルドが事態の収拾に乗り出すほどの騒ぎになった。

 被害者は300人以上、その全てが濃密な殺気に当てられ気を失っていたという……


 しかしどれだけ探しても、その謎の生物を発見する事は出来なかった……



 俺は瞬間移動できるからともかく、あのゴリラ…… よくあの包囲網を突破したな……

 アイツ絶対バカ勇者より強いぜ?



 はぁ…… やはり来るんじゃ無かった……




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