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レヴオル・シオン  作者: 群青
第四部 「転移の章」
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第174話 神術 ― カスタマイズスキル ―


『ようこそ御越し下さいました、魔王カミナ様』

「あぁ、久しぶり……じゃ無いな」


 俺は数日振りにキング・クリムゾンを訪れていた。

 ついこの間アーリィ=フォレストを送り届けたばかりだ。

 箱に詰め直して送り返すのはあまりにも忍びなかったので、わざわざ送ってきたのだ。


『この度の事、誠に有難う御座いました』

「ん? この度って、そのお礼は何に対するモノだ?」

『貴重な人工知能のご提供の事です』

「え? もしかしてもう複製して運用してるのか?」

『はい、その手の作業はアーリィ様が最も得意としている分野ですので、まだまだ人工知能の学習には時間を要するトコロですが、すでに私の仕事の一割ほどを請け負ってもらっております』


 この優秀な精霊さんの仕事の一割…… ほんの数日で大したモノだ。


「そうか、でも感謝は要らないぞ? 俺も人工知能プログラムを手に入れたのはタナボタだから」

『そうですか、しかしそれでも感謝は致します』


 うむ、義理堅い、実にイイ事だ。「あっそ」とか言って態度を変えられたらどうしようかと思った。


「それでその人工知能について相談があって来たんだが、アーリィ=フォレストは?」

『それが…… 少々困っておりまして……』

「?」

『何なんですか? あのガラクタの山は?』


 あぁ、あのレトロ家電か…… こうなるんじゃ無いかと思ってた。


『一刻も早くカミナ様の所へ嫁いで、あのガラクタの山を嫁入り道具として持って行って欲しいですね!』


 え!? あのガラクタ空中庭園に持ってくるの? 美観を損なうからやめて欲しいんだけど……

 まぁ取りあえず、4Dラボにでも放り込んどけよ。

 後、何気に結婚すること前提で話さないでくれ。


『とにかくアーリィ様の所へご案内いたしますね?』

「あぁ、よろしく」



---



 アーリィ=フォレストがレトロ家電たちに囲まれて悦に入ってる光景を目撃した…… 見てはいけない乙女の秘密を見てしまった……



---



「お見苦しい所をお見せしました…… コホン、それで本日はどういった御用件で?」


 今更取り繕ってもなぁ…… 数秒前までヨダレ垂らしながらハァハァ言ってたじゃん。

 まぁいい、彼女の名誉のためにもそこから先は忘れよう。レトロ家電を使って角オ……ゲフンゲフン!




「人工知能で空中庭園の聖遺物制御…… ですか……」

「どうだろう? 出来そうかな?」

「そうですね…… 聖遺物を使えるのは基本、人のみです。知性を持たない動物はもちろん、何故か精霊にも使えないんです」


 そうなのか? 魔力も人格もある上位精霊ならイケそうな気がするんだが……


「それ故に試してみない事には分からないのですが…… 個人的にはイケる気がします」

「ほう? それは何故?」

「大した理由じゃないんですが、魔王城・オルターに対応していたというトコロが大きいですね」

「ふむ、続けてくれ……」

「魔王城・オルターは終末戦争の頃、『空中城塞プロメテウス』の名で呼ばれていました。その事についてはカミナ君もご存知ですよね?」

「あぁ」


 アーリィ=フォレストが提出してくれたオルターの記憶書のレポートにも記載されてた。


「つまり『空中城塞プロメテウス』は魔人の本拠地だったのです」

「あ、なるほど、つまり魔人と天使は同じく次代神族(ネオ・ディヴァイア)陣営、魔人の本拠地『空中城塞プロメテウス』と天使の本拠地『空中庭園ティマイオス』には……」

「はい、システム上の互換性が高い可能性があります」


 おぉ! 素晴しい説得力だよアーリィ=フォレスト! さっきの痴態は忘れよう、アレはきっと目の錯覚だったんだ。


「とにかく一度試してみて下さい、もし上手くいかない様なら私が見てみますので」

「おう、その時は頼りにさせてもらうよ」

「っ! 頼りに……! はい! お任せ下さい!」


 何か気合が入った様子だ、もしかして人に頼られた事が無いのかな? 俺は結構このダメ魔王っ娘を頼りにしてるんだけど……

 ハッキリ口に出すと調子に乗りそうだから言わないけど。


「あ…… カミナ君、もう帰っちゃうんですか?」


 何かモジモジしながら可愛らしい事を言ってきた…… 実年齢2400歳を超えてるのに……

 まぁ精神年齢が15~16歳で止まってるから仕方ないが。

 それにもう一つ用事がある、つまりアレだ、今日は帰りたくないの……だ。


「いや、実は今日はもう一つお願いがあって来たんだ。

 随分前に教わる約束をしたんだが、色々あって先送りになってた神術についてだ」

「おぉ! とうとうカミナ君も神術を収める時が来たんですね!」


 うん、最近ウチの女の子たちがどんどん強くなってて、ここらで一発パワーアップイベントでも起こさないとヤバいんだ…… 立場的に……


「そうですね…… では初めに神術について大まかな説明から始めます」

「はい、アーリィ先生、よろしくお願いします」


「先生…… いい響き…… 教え子に秘め事を見られ、それをネタに脅され奴隷のように扱われる女教師…… グヘヘ……♪」


 おい、エロ漫画みたいな妄想すんな! 俺は素行の悪い不良学生じゃない!

 忘れるって言ってんだから忘れさせてくれ!


「はっ! いけないいけない、妄想が花を咲かせてしまった」


 頼むから自重してくれ…… ホント頼むよ……


「コホン、では神術…… 上位神術と下位神術についてです。

 まずは下位神術、コレは刻印を用いた物理改変現象全般の事を言います。

 カミナ君が習得している魔導魔術なんかがこれに含まれますね」

「物理改変現象ってのは一言で言うと……」

「はい、魔法の事です」


 そう、魔導と神術がほぼ同一のモノという事は以前にも聞いてる。それは下位神術の事を指していたワケだな。

 つまり今回俺が教わるのは……


「今回カミナ君にレクチャーするのは上位神術です、上位神術と下位神術では出来る事が全くの別物です」

「完全に別の技術という事なのか? なのにどっちも神術なんだ」

「そうですね、しかし共通点があります、それは『刻印』です。

 魔導では術式と呼ばれてるんでしたっけ? 精神に刻印を施すことにより、呪文詠唱などを簡略化・ショートカットできる技術ですね」

「それはつまり神術の刻印を施すだけで誰でも上位神術を習得できる…… なんてお手軽なワケじゃ無いんだろ?」

「刻印を施すだけなら誰にでも出来ます、しかしそれで上位神術が使えるかは別問題です」


 以前アーリィ=フォレストは俺なら直ぐに神術を使いこなせるようになるだろうと言っていた、その理由は……


「条件は極めてシンプルです、「高い魔力値」と「高度な魔力コントロール技術」、その両方を持ち合わせている事です」


 なるほど、確かに今の俺ならその条件に当てはまる、そして世界中を探してもこの二つの条件を満たせる者はまず居ないだろう。

 何故ならこの二つの条件は本来共存できないからだ。

 能力値が高ければ高い程、そのコントロールは難しくなっていく。


 魔王であるアーリィ=フォレストが高い能力値を誇っているのは当然の事だ、耳長族(エルフ)という種族柄、魔力コントロールは元々得意だったのだろうが、それでも神術を習得できるほどの技術を身に着けるには長い習練を必要とした事だろう……

 半不老不死の魔王だからできた事なんだろうな…… また一つこの子の事を見直したよ。コレで変態奴隷妄想癖が無ければどれほど良かったことか…… 実に勿体無い……


「そう言ったワケで、カミナ君ならすぐに神術をマスターできますよ。

 さて、ココで本題に戻ります。上位神術とは何か? です」


 上位神術と下位神術は全くの別物……か、パワーアップできるモノだと良いんだが。


「上位神術とはカスタマイズ技術です」

「カスタマイズ?」

「はい、ある物を別の働きをする物に作り替えたりする技術です」


 物質を自由にカスタマイズできるって事か? あれ? ちょっと待てよ、それって……


「対象は物質に限りません、もっと本質的なモノをカスタマイズできると考えてもらってもイイです」

「それはつまり…… 例えば?」

「私が習得している上位神術は魔道具をカスタマイズできるスキルです」

「魔道具を…… つまり『4Dラボ』や『緋色眼機能拡張鏡(ミッシング・グラス)』みたいな……」

「4Dラボは空間歪曲の魔道具をカスタマイズしたものです。緋色眼機能拡張鏡(ミッシング・グラス)は魔力視認の魔道具の機能を拡張しました。

 神器と全く同じ効果を持つ魔道具作成はさすがに難しいですが、理論上はあらゆる魔道具の作成が可能です」


 おぉ! すごい技術じゃないか! つまり俺専用の最強剣は自分で作れってことだな!


「ただし、カミナ君の技術が私と同じになるとは限りません」

「あ? どういう事だ?」

「神術には適正があり、それをコチラで選ぶことは出来ないんです」

「適正…… つまり……」


「3600年前、古代神族(レオ・ディヴァイア)は衰退していく自分たちに変わり、次の世代に世界を譲り渡すことにしました。

 そして神術を駆使し、あらゆるモノを生み出し、作り変えていきました。

 上位神術とはその名の通り神の御業です、その力はあらゆるモノをカスタマイズする事が出来るんです。

 ある者は12種族を…… ある者は要塞龍を…… ある者は魔法を……

 きっとそれぞれ『担当』が存在したんです」


 なるほど、一神教では無く多神教の考えか…… 考えてみれば納得できる話だ、唯一神による創造より、古代神族(レオ・ディヴァイア)全員による国家的プロジェクトみたいな感じか……

 本物の創造主的な神様ならいざ知らず、世界を創りかえるなんて大事業を一人でなんて出来っこない、ワークシェアリングして当然だな。


「今の世界で担当というと、ちょっと違う気もするんですが…… とにかく私の担当神術は『魔道具創造(クラフトクリエイター)』と言った所でしょうか?」

「なるほど…… 『魔道具創造(クラフトクリエイター)』か…… あれ? それじゃ魔導魔術ってのは?」

「恐らく魔法をカスタマイズして創られた下位神術ですね、創ったのは……」

「第12魔王 リリス・リスティスか……」


 もしかしたらコレが『魔導の祖(オリジン・ルーン)』の『魔術創造(スペルクリエイター)』の正体かもしれないな。てかその可能性が高い。


「魔王リリスに使えるということは、他にも上位神術を使える奴って居るのか?」

「そうですね…… カミナ君が知ってる人となると…… 前・第10魔王 プログラム・プロメテウスですかね?」

「え? アイツも使えたの?」

「記憶書の情報では不確定だったんですけど、恐らく金属変換系の錬金術っぽいのが使えたと思いますよ?

 そうでなければ伝説の未確認物質・魂魄鋼(アニマタイト)を大量保有していた説明ができません」

「あ~~~…… 確かに……」


神聖銀(シルラル)に関してもそうです、大氷河は地下資源が豊富だと言われてますが、その恩恵を受けられるのは地面の下の大空洞側だけです。大氷河は9割以上が永久凍土、資源採掘できる場所も限られてたみたいですし……」


 そう考えると惜しい人材をぶっ殺してしまったことになる…… まぁ他にやりようが無かったんだが、貴重な神術の使い手が……

 いや、オルターを探せばオリハルコンやヒヒイロカネが見つかるかも……


 またアソコに行けってか? 勘弁してくれ。


「その他の上位神術習得者と言うと…… ノエル=グラスランド・ノースブルックくらいでしょうか? 私の知る限りでは」

「ノエル=グラスランド・ノースブルック?」

「神族と魔王以外で唯一上位神術を習得できた天才です。未だになぜあの人が魔王に選ばれず、私が選ばれたのか不思議でなりません」

「もしかして2400年前の人物か?」

「そうです、あ、すみません、説明不足でしたね、彼女は地形を…… 土や岩なんかをカスタマイズできる神術を習得していました。

 その力を用い、戦争で住む場所を失った人たちの為に世界中で街を創り出したりしてたんです。

 この塔の周りに広がる古代の町なんかもその一つですね、古代エルフ族の遺産なんて呼ばれているのは大体ノエル=グラスランドが創造したモノです」


 古代エルフ族の遺産…… たまに聞く単語だ。

 千年渓谷大橋みたいな現代の技術でも再現できないような構造物について来る単語だ。

 もしかしたら、1200年も海の底にありながら、未だに朽ちず残っていたアトランティスの街なんかも古代エルフ族の遺産に含まれるのかも知れないな……

 なるほどな…… そりゃ現代技術を駆使しても再現できないハズだ。


「そんなワケで今、上位神術を使えるのは私と泥棒女くらいですね、ノエル=グラスランドは耳長族(エルフ)でしたので既に亡くなっています」

「そうか…… 龍人族(ドラグニア)は?」

「確かに龍人族(ドラグニア)も神族の一部ですが、彼らも古代神族(レオ・ディヴァイア)が創り出した一種族に過ぎません。高い魔力値を生まれ持っていても、それを使いこなす技術はお粗末です」


 おぅ…… 厳しめの評価だな、確かにヴァレリアも魔力コントロールは苦手だって言ってたな。

 そうなると、他に上位神術を習得できそうな人は居ないな…… 可能性があるとすれば伊吹くらいのモノか。しかし『世界拡張(エクステンド)』は時間制限があるし、現状では無理だろう。


「さて…… 上位神術についてはこんな所です。後はカミナ君に刻印を施し、どの担当に変化するかですね」


 魔導の術式と同じで、自分の精神に刻み込む訳か…… それなら自力で出来そうだな。


 ついに来たぜ! この時が! 神隠しに遭って苦節2年…… ようやく主人公のパワーアップイベントだ!(魔王化は除く)

 これでショボイ能力だったらどうしよう……




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