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レヴオル・シオン  作者: 群青
第四部 「転移の章」
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第172話 空中庭園


 空中庭園ティマイオス。

 かつて天使たちが住んでいた天空の楽園……

 今日からは俺の天使たちが住まう理想宮となる……


 下々の者から見れば多くの魔王が集う、世界で最もキケンな場所に見えるだろう。

 ソレは構わない、人類と敵対しない魔王は基本的に放置がこの世界の常識だ、せいぜいビビってくれれば魔王討伐隊とか結成されないで済む。


 むしろ問題なのは、世界情勢を無視して魔王を討とうとするバカの存在だ。

 世界的バカ“勇者”ブレイド@ナントカという奴だ。


 もっともそっちもあまり気にする必要はない、今代の勇者は専用の剣を失い専用の鎧もボロボロ、心も弱い上に、何と言っても空を飛ぶ手段がない。

 そもそもアイツが勇者でいられるのも後6~7年って所か?

 勇者って確か25歳定年だったよな?

 つまり後20年位、次の世代の勇者が生まれて、15~16まで成長し、覚醒して現れるまで安泰ということだ。

 次って記念すべき50代目になるんだよな? 僕っ娘の女勇者希望! 清楚な女僧侶希望! ツンデレ女魔法使い希望! ビキニアーマーの女戦士はお腹一杯だからいらない……


 そう言えば……


 空中庭園ティマイオスに足を踏み入れて僅か1分……

 ビキニアーマーの女戦士とガタイの良い男賢者がいつの間にか居なくなっていた……

 即効だよ、こうなると思ってた。

 二人でシケ込みやがったナ! 二度と帰ってくるな!

 これでもしジークが賢者から大賢者にランクアップしてたら…… うん、その時は言ってやろう「オメデトウ」って…… 後クビね。



 目の前には巨大なクリスタルと神殿、クリスタルと言っても白みがかったヤツじゃ無く、透明度が高く神聖な感じがする青いブルークリスタルだ、よくゲームに出てくる感じのアレだ。

 俺達が今いるのは空中庭園に7つあるテーブル大地の一番下、第一層の草原っぽい場所だ、あまり広くはない、ホープが停まればシッポがはみ出す程度だ。


「うわぁ…… 近くで見るとなんかスゴイね、荘厳というか神秘的というか畏怖を感じるというか……」


 それって全部同じ意味じゃね?

 まぁ言いたいことは分かるが。


 ティマイオスは所々に神殿風の装飾が付けられている、元々が神殿として造られたのか、それをモチーフに造られたのだろう。

 なぜ天使は戦場に神殿を持ち込んだんだろう?

 ラグナロクとは違い武装の類は見当たらない。

 まぁウィンリーの出身種族と考えれば大した理由はなかったように思えてくる、単純に強力な防御力が目当てだったのかも知れない。


「居住に耐えられそうな屋敷は第四層にあります。

 まずはそちらからご案内いたしましょう」


 あの遠目に見えた、曰く有りげな洋館っぽい建物か…… 天使の死体とか幽霊とか出ないだろうな?

 ウチのギルドには聖職者はいないんだからな。



---



 空中庭園中央の神殿の周りには大きめの螺旋階段が設置されている、それを使い階層の行き来を行うのだが一階層の高さが100m以上もあり結構大変だ…… オルターから昇降機をパクってこようかな? アレは俺の城なんだし別に構わないよな?


 第四層はガーデニングがゆきとどいた立派な庭と大きな洋館が建っている。

 まぁ大きいと言っても琉架の実家の魔王城・ホワイトパレスの半分ほどのサイズだ。

 それはつまり俺の実家の魔王城・ローン24年残しの十倍以上あるということだ。

 今日からコレは俺のモノだ。自力で建てた物じゃ無いが、取りあえずオヤジは超えられそうだな。


「おぉ~♪ なかなか立派じゃない!」

「部屋数は幾つくらいあるのでしょう?」

「この広さ…… これは早い所『五重奏(クインテット)』位まで習得しないといけないですね」


 ウチの嫁達が愛の巣たる新居を見て興奮している。

 俺も未来を想像すると興奮しそうになる。

 自重しろ、こんな所で盛るんじゃない、俺は女戦士&男賢者コンビとは違うんだ。


 取りあえず館の玄関ホールに入ってみる。

 意匠は純ファンタジー風とでも言えば良いのか、いわゆる中世風だな。

 天使が使ってた建物にしては天井がバカみたいに高くない、琉架の実家くらいのお屋敷サイズだ。


 少し貴族趣味と言うか、何となくホテルに居る気分になる、ジャージで過ごせるくらいのアットホーム感が欲しい所だ。

 俺と一緒にジャージで過ごしてくれそうな人材と言えば、真っ先に思い浮かぶのはアーリィ=フォレストだ。後…… オルフェイリア辺りも…… どちらもココに永住する訳にはいかないだろうが…… アーリィ=フォレストに関しては時間の問題かもしれんな。


 少々埃っぽいが、建物自体に大した痛みはないようだ…… いくら何でもコレは異常だ。


「解せないな」

「何かお気に召しませんでしたか?」


 俺の呟きをヴァレリアが拾ってくれた。


「いや、そうじゃなくて、むしろ逆だ。何故ここまで綺麗な状態で残っている?

 とても2400年以上前の建物に見えない、空中庭園は外と時間の流れでも違うのか?」


 デクス世界には2400年以上昔の建造物は殆んど残って無い、残っていてもそれは石造りの神殿や寺院跡くらいなモノだ。木が使われてるとなるとせいぜい1500年くらいだろうか?

 とにかくこの建物は2400年以上も放置されてたようには見えない、築50~100年…… それくらいしか経っていないように感じる。


「時間の流れが違う……とは随分ユニークな事を仰りますね? そのような事実はありませんよ」


 ユニークですか…… 俺の女神は時間操作能力者なんだが…… これは内緒の方向で。


「それじゃコレはどういう事だ? 神の御力か? 聖遺物のご加護か?」

「そうですね…… コレは想像になりますが、その二つも少なからず影響してると思います。

 ただ最大の要因は恐らく…… 精霊でしょう」


「精霊?」


 ヴァレリアの言う精霊とは、ドリュアスの様な上位精霊(ハイ・スピルト)では無く、もっと下位の精霊の事を指しているのだろう。

 そう言えばこの空中庭園、エーテル/マナが濃いな…… ミカヅキが魔王化して無かったらゲロってたトコロだ。


「人が足を踏み入れる事が無く、豊かな自然が再現されている空中庭園は精霊たちにとって絶好の住処になっていたのだと思います」

「つまりその精霊たちが、空中庭園を管理する庭師の代わりをしていたと?」

「恐らくは……」


 下位精霊はそんな事が出来るのか。

 もしかしたらジークの呼び出す精霊はココから来ていたのかも知れないな。


「ですので、コレは私の勝手なお願いなのですが……」

「ん?」

「この空中庭園の自然を出来るだけ壊さないようにして貰いたいのです。もちろん私にそのような要求を出す権限はございませんが、この美しい庭を維持して頂きたいです」


 なるほど…… 確かに俺にそのお願いを聞く義理は無いが……


 せっかく美しい庭園があり、更に無料でその維持管理をしてくれる精霊までついて来るんだ。むしろコチラからお願いしたいくらいだ!

 正体を隠す魔王としては庭師など雇えるはずもない、もしその精霊が居なくなったらこの庭はあっという間に荒れ果てるに決まってる。

 当然俺に庭師の真似事など出来るはずが無い! 自慢じゃ無いが俺はサボテンを枯らす男だ! 植物を育てる才能が皆無なんだ、もし俺がこの庭の維持管理をしたら、数ヵ月で荒廃した魔王城を生み出す自信がある!


 やはり『禁域王宮(ハーレムパレス)』は美しくあるべきだ!


「疑問なんだが、魔王が住み着いたりしたら精霊が出てってしまうってコト無いのか?」

「強大な魔力を持つ生物は精霊に好かれやすいですからね、魔王と共生している精霊も多いですよ」


 そうなのか…… アーリィ=フォレストとドリュアスがその関係なのかな? あれ? でもあの最優秀精霊さんは自分の主を自宅から追い出したくてしょうがないって感じだったな…… きっとあの二人が特別なんだろう。


 だったら何も問題無い。

 うむ、ジークやドリュアスに精霊と仲良くやっていくコツでも聞いておこう。

 シニス世界に暮らす者は精霊をこき使っているイメージがあるが、俺はそんな横暴な魔王になるつもりは無い、共存共栄! スバラシイじゃないか!


「そういう事なら善処しよう、荒れ果てた空中庭園なんて俺もお断りだ」

「ご配慮いただきありがとうございます」


 別に感謝される事は何も無いんだが…… それはそれとして……

 この建物がちゃんと使えるか調べてもらおう、如何せん2400年も前に建てられたモノだ、不便な所なんかもあるだろう。

 家のインテリアとかは女の子に任せた方がイイ、精霊の気分を害さない程度にリフォームは必要だ。


「取りあえず皆はこの建物を見て、手直しが必要な所とかをリストアップしてくれ」

「あれ? 神那は見ないの?」

「俺はティマイオスを一通り見てくる、神殿内部や聖遺物も把握しておきたいからな」

「うん、分かった、こっちは任せといて」


 うむ、家の事は嫁に任せよう。男は外の面倒事を引き受ける…… さっさと終わらせて嫁のもとに帰りたいものだな。


「それでは私が引き続きカミナ様をご案内致します」

「あぁ、助かる」


 まずは何は無くとも聖遺物だ。禁域王宮(ハーレムパレス)の愛の巣も重要ではあるが、この空中庭園の根幹でもある聖遺物がどういった物か確認しなければならない。


「聖遺物ですか…… それでは中央の神殿へ」


 ヴァレリアに連れられ庭園を歩く、鳥や昆虫は居ないようだが時折光のオーブのようなものが空中をクラゲのように漂っているのを見かける、アレが精霊が発するオーラなのだろうか?

 オーブは庭園の中でも特に自然が豊かな所に多く現れる、小さな森に花畑、泉や小川…… ん? 小川?


「あのさぁヴァレリアさん…… この小川は何処から来て何処へ行くんだ?」


 なんて哲学的っぽい問い掛けをしてみる。

 空中庭園に地下水が湧き出る場所があるとは思えない、雨水を溜め込める貯水池でもあるのか? さすがにそんなスペースは無さそうだが…… もしかしてまた異次元空間か? アレって何でもアリだよな。


「一番上の第七層に小さな泉があり、そこから湧き出しています。その水は中央の神殿と全ての階層を経由して第一層の大地に消えていきます」

「庭園の中で循環でもしてるのか?」

「いえ、泉の中に転移魔方陣がありました。世界のどこかに繋がっていて水を引いてるのだと思いますよ、水の透明度の高さと石灰分の多さから、地上に湧き出す前の地下水ではないかと……」


 この人、水の分析でもしたのか? しかしそうか、天然水飲み放題だな。

 第一層が水浸しじゃ無かったから、余分な水を排出する転移魔方陣もあるのかもな…… てか、転移魔方陣って生物以外にも反応するのか……

 転移魔方陣を新たに設置する技術が失われてしまったのが悔やまれる、もっとも残っていたらショートジャンプしか出来ない跳躍衣装(ジャンパー)なんかゴミみたいなモノだが……


「カミナ様、こちらが玄室への入り口になります」

「ん? 玄室?」


 しばらく歩くとテーブル大地と神殿が接している場所につく、螺旋階段の裏手側だ。

 そこには神殿の入り口があり、中からは青白い光が薄っすらと漏れ出していた……

 ヴァレリアは特に気にする様子も無く平然と足を踏み入れた…… いや、アンタ今「玄室」って言ったよね?


 少し進むとそこには外からも見えていたあの巨大クリスタルに、空中庭園の根幹をなす聖遺物が収められていた……

 それは人の腕の形をしていた……


「これが……」

「聖遺物『神の御手』です」


 今まであまり深く考えた事が無かったが、聖遺物とはそういう事か…… 強大な魔力をもつ者の身体の一部…… それが聖遺物…… そしてそれが収められる『玄室』か。

 聖遺物『ウィンリーの羽根』もウィンリーの身体の一部と言えるからな。


 みんなには何があるのかだけ教えて、入らない方がイイと言っておこう。

 特に琉架と白は…… 絶対怖がるから。


「この聖遺物により空中庭園の全ての機能が制御されています。重力制御、不可視化結界、物理結界、魔術結界、気温調節、気圧制御…… その他諸々全てです」

「凄まじい能力だな…… 魔王グリムはこの力を欲しなかったのか?」

「無論欲しました、しかしこの聖遺物は空中庭園ティマイオスそのものです、ここから取り出したらその力を失うでしょう。

 そうなると巨人族(ジャイアント)にはココは手狭です、また防御力は目を見張るモノがありますが、攻撃力が一切無いというのもマイナスポイントだったのでしょう。

 私個人としては少々惜しい気がしますが……」


 この人ずいぶん正直だな…… しかし攻撃力ゼロか、確かに “神殺し” には物足りなそうだな。

 禁域王には攻撃力は必要ない、だってウチには超長距離砲撃の使い手が二人もいるし、そもそも魔王が五人も居る、これ以上攻撃力が高まったら俺が窓際に追いやられそうで……


「それで制御ってどうやるの?」

「魔道具と同じです、管理権限を持つ者が命じるだけでいいです、違いは魔力を消費するかしないかだけ…… ただし空中庭園に管理者が誰もいないとデフォルトの状態に戻ります。

 つまり以前と同じく不可視化状態で空を彷徨います」


 それはつまり常に誰かが常駐してないといけないって事か…… ふ~む…… また人工精霊の無機物使途でも作って管理させるか…… しかしプログラム通りの行動しか出来ないとなると、微妙に使い辛いし、不測の事態に対応できない…… 或いはジークを管理人にしてココに置き去りにするってのもアリだな。

 しかしそれをすると、ジークがネフィリムを連れ込んでイチャイチャするかもしれんな…… 俺の禁域王宮(ハーレムパレス)でそれをヤられると流石にムカつく。


 デクス世界への帰還までに解決しなければならない問題が増えてしまった……




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