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レヴオル・シオン  作者: 群青
第四部 「転移の章」
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第171話 報酬


 魔王城ラグナロクはとにかく広い。

 徒歩で謁見の間まで登ると4~5時間掛かる、ちょっとしたハイキングと思えば耐えられるレベルかも知れないが、上り坂オンリーで景色は基本的に黒のみ、時折り全身鎧を着た20メートルもある騎士に睨みつけられる…… ハッキリ言って苦行だ。

 なので前回 帰る時に使用した擬似飛行魔術を使わせてもらう、これなら僅か十数分で謁見の間へ到着だ。


「あぁ…… もう着いてしまった…… いくら何でも早すぎます……」


 ネフィリムが愚痴ってる、早く着くことの何が不満なのか? ジークと一緒に入られる時間が減るからか? ネフィリム専用にレンタル賢者屋さんでもやってみるかな? 一日8000ブロンドくらいでレンタルするよ?

 ジークにはちゃんとアフターもやらせよう。もしかしたら消費者金融で借金漬けになるくらい入れ込むかも…… 何だったら一ヶ月好き放題出来る権利とかでもイイかも…… 本当は無料でも全然構わないんだけどさ。


「用事が早く終われば空き時間が出来るかもしれないだろ?」

「ハッ!! そうか!! その可能性もあった!!」


 やっぱりアホの子だなぁ…… コチラとしては用が済んだらさっさと帰りたいんだが、二人のために少しくらいラグナロクに留まってもいいかな? むしろ他の四天王がさっさと帰れって言ってきそうだが。


「コホン! それでは皆様、粗相の無い様にお願致します」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 巨大な謁見の間の門が開かれていく……

 正面の玉座には相変わらず偉そうにふんぞり返る第2魔王、今回は時間が早いため強烈な西日に照らされること無く部屋全体を見渡せる。

 そして前回とは違う所が一点ある。

 玉座に座する第2魔王グリム…… その斜め後方に控える四天王の一人ヴァレリア…… 祭壇の下、右側に控える四天王の一人……確かヤクトとか呼ばれてたか…… 俺達の前で魔王グリムに向かって膝を付いて頭を垂れている四天王の一人ネフィリム…… ここまでは前回と一緒だ。


 そして前回は居なかったのに見覚えのある顔が一人、祭壇の下、左側に控えている。


「あ…… あれ? あの人……」

「やあ、D.E.M. の諸君! しばらくぶりだね」


 全体的に暗い城の中でそいつだけがやたら爽やかな雰囲気を纏っていた。

 第10魔王討伐隊メンバーの一人、『勇者』ネヴィル・アーヴィン=セス・エンフィールドだ。


「え? あれ? 第二の勇者さん? なんで?」

「やはりか……」

「んん? 神那、知ってたの?」

「確証は無かったんだが魔王討伐を確認する奴が来ていると思ってた、そしてその可能性があるのは討伐隊の中で一番存在が不自然な奴…… 第二の勇者ネヴィルだと思った。

 そもそも普通に考えて、勇者の名を語る奴なんかまともじゃ無いからな」


 そしてあのポジションに立っているという事は、アイツが四天王最後の一人か……

 もっと勿体ぶって出てくるかと思ってたが、アッサリとネタバレしやがったな。


「なんだバレてたのか、もっと驚いてくれると思ってたのに、新・第11魔王は切れ者らしいね」

「そりゃどーも、そっちこそ監視役ご苦労さん」

「監視役……か、確かにそうだがこっちも真剣に魔王討伐を目指してたんだよ? 万が一討伐隊が全滅した場合は僕が第10魔王を討つつもりだった。

 もっとも結果から言えば僕にはそれは出来なかっただろう、プロメテウスのギフトの正体も掴めず、本体の場所も分からず、まして察知されずに近づく事など出来ないからね」


 どうだかなぁ…… 案外プロメテウスのギフト『鏡界転者(レプリカント)』の事は知ってたんじゃないのか?

 まぁ確かに、察知されずに近づく事は出来なかっただろうが。


「更に第9魔王ジャバウォックだ…… まさかオルターに居たとは想像もしてなかった」


 それも本当か? もしかして…… まぁ、そこは信じよう。隠す理由が特にないからな。真の目的が「俺達を殺すこと」とかじゃ無い限りは。



「そうだったな、ネヴィルから報告は受けている、まさかジャバウォックとプロメテウス、二人の魔王を同時に討伐してくるとは思わなかった。

 これでギルド『機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)』への依頼は完了だ」


 だからその黒歴史を口にするな…… D.E.M. って呼んでよ。


「僅かな情報から敵の能力(ギフト)の正体を掴み、本体の位置を予測・特定し、最も効果的な戦術を組み立て倒す…… 確かに切れ者だな」


 最も効果的と言うか他に選択肢が無かった苦肉の策だ。

 その結果、ミカヅキまで魔王に身を落とすハメになった、決して最善では無かった。

 ミカヅキ本人が気にしてないのが救いだけど……


「お前を見ているとリリスを思い出す……」

「リリス? 第12魔王リリス・リスティスか?」


 似てるとか言われても嬉しくない…… だってアイツ全ての元凶だもん。

 何と言っても二つ名が “原罪” だぜ? 一体何やったらそんな暗黒臭い二つ名が貰えるんだよ、知恵の木の実でも喰ったのか? 確かに暗躍大好きみたいだしな……

 個人的にはレイドやミューズの方が俺の性質に近い気がする…… それも嬉しくないけど。


 そもそも魔王グリムは魔王リリスの事を良く知ってるのか? だとしたら情報を引き出しておきたいな。彼女は何れ敵になるかも知れないし……

 あの恐らく美人であろう魔王とは敵対したくないんだが、もともとアイツからチョッカイ掛けてきたわけだし…… でも泣いて謝るなら許してあげてもイイかな?


 高確率で美人だし。


 いや、ちょっと待て、確か魔王グリムと魔王リリスにはどちらも神様が大っ嫌いという共通点があったハズだ、昔ウィンリーがそんな事を言っていた。

 俺達が七大魔王同盟を組んでる様に、コイツ等もアンチ神様同盟を組んでるのかも知れないな……

 だとしたらリリス・リスティスを敵にする発言は控えた方がいいかも知れない……

 せっかくネフィリムの好感度が少し回復したのに、また睨まれるかもしれん。

 ネフィリムに睨まれるならまだいい、魔王グリムに睨まれたら困る、少なくともコイツとは敵対したくない。


 いや、取りあえず魔王リリスの事はどうでもいい、聞いておかなくちゃいけない事があったんだ。


「魔王グリム、一つ尋ねたい事があるんだが」

「なんだ?」

「アンタが何故…… ジャバウォックはともかく、プロメテウスと敵対していたのかは知らないし、あえて聞かないが…… その力を継承した新しい魔王をどうするつもりか知りたい。

 どうせ誰が継承したのかも報告を受けて知ってるんだろ?」

「あぁ、もちろん知っている。

 新・第9魔王 如月白、そして新・第10魔王 ミカヅキ…… 恐らく既に同盟を結んでいるのだろう? コレで七大魔王同盟だな」


「…………」

「心配しなくていい、お前たちが私と敵対しなければ、私もお前たちと敵対する気は無い」


「…………」

「…………」


「ふぅ~…… 分かった…… いや、分かりました。こちらも敵対する意思は無いです」

「あぁ、こちらも助かる、さすがに7人の魔王を敵に回しては勝ち目は無いからな」


 どこまで本気かは分からないが、例え上位種族出身の魔王でも七大魔王は敵に出来ないか…… 確かにウチの嫁は強いからな。



「さて…… それでは報酬の話をしようか」

「へ?」

「何を呆けている? そちらが言い出したことだろう「浮遊大陸を寄こせ」と……」


 確かに言った、今にして思えば中々命知らずな要求だ…… ネフィリムに睨まれるのも仕方ないな。


「アレからまだ2ヵ月だ、もう用意出来たのか? てか、それ以前に浮遊大陸ってどうやって用意するんだ?」


 手っ取り早く浮遊大陸を手に入れたければ、第1領域を削り取ることだ…… ギルディアス・エデン・フライビの大地主様は寝てて起きてこないらしいが、最強の魔王を敵に回す可能性がある危険な方法だ。

 まさか…… やってないよな?


「使われていない浮遊島に心当たりがあったので、ソレを探した」

「使われてない? そんなモノがこの世に存在したのか?」


 デクス世界では考えられない話だな、アッチには未踏の地なんか殆んど残ってないだろうし…… しかしシニス世界にはかつて浮遊島が幾つも存在してたらしい…… 尤もそれらも1200年前の大戦で失われたと言う。

 そんな浮遊島の生き残りが未だに空を漂ってたのか?

 おぅ! そういうのワクワクすっぞ!


「実際に見たほうが早いだろう、着いて来るがいい」


 そう言うと魔王グリムは立ち上がり、窓の方へと歩いて行った。

 立ち上がった所初めて見た…… ジークよりデカイ、予想通り2.5メートルってところか。


 そのまま第2魔王と四天王に引き連れられ玉座の裏手にあるバルコニーへ出る。

 当然、第2魔王と俺達の間に巨人族・四天王の三人が並び壁を作っている。

 警戒されるのも当然だが、この壁がなんの役に立つのかは疑問だ……


「それで? その浮遊島は何処にあるんだ? そもそも視認できるものなのか?」

「そう、ご想像の通りだ、強力な結界により不可視化されている。

 故に2400年もの間、誰の目にも触れること無く天空を彷徨い続けていたのだ」


 不可視の浮遊島か…… それはそれで安全だからイイんだが…… 新魔王の象徴としては使い途が無いな。

 しかし絶対安全な別荘は利用価値がある、魔王の正体が世間にばれてもバカ勇者が辿り着けないのは煩わしく無くてイイな。


「ヴァレリア、頼む」

「畏まりました」


 ヴァレリアが一歩前に出て何やら呪文を唱えてる。

 聞き取れない呪文、古代魔術だ。


 ヴヴゥン!


 すると突然目の前の空に巨大な影が現れた。

 その影は次第に濃くなり、一定のラインを越えた瞬間、一気に像を結んだ。


 現れたのは高さ数百メートルはある巨大な縦長のクリスタルと、それを囲うように立体的に建てられた神殿のような建物、その周りにはお盆の様な円形のテーブルがいくつもアリ、そこには草原や小さな森、泉なども見える……

 幻想的な光景だ…… 思わず目を奪われるほどの……


「空中庭園ティマイオスだ」

「空中……庭園……」


 てか、目の前にあったのか…… 緋色眼(ヴァーミリオン)でも捉えられなかった。


「すごい…… 綺麗……」

「うわ…… ファンタジー系のゲームの世界から持って来たような浮遊島だね……」


 センパイの溢した言葉は言い得て妙だった。

 そう…… この異世界に措いてもここまでコテコテのファンタジー感あふれる造形はなかなか見られない。

 そして不自然なほどに綺麗だ…… 2400年も放置されてたんじゃないのか?


「ティマイオスはかつて終末戦争時に天使が本拠地としていた浮遊島だ」

「天使が? もしかしてウィンリーの実家か?」

「それは分からん、あの戦争で天使は世界中の空に前線基地となる浮き島を浮かべていた、それらはティマイオスほどの守りの加護を持っていなかったため、1200年前の魔王大戦時にすべて失われた。

 その中にウィンリーの故郷があったのかも知れん、もっともあの子供が終末戦争の最前線にいたとは思えんがな」


 それはどうかな? 戦う為に創られた巨人が居たんだ、最前線で歌うアイドルが居たって不思議はない。

 もっともそれ以前にウィンリーは幼女だ、さすがに最前線はあり得ないか。そもそもウィンリーが当時からアイドル活動してたのか分からん、ちょっと幼すぎる気がする。


「今はヴァレリアの聖龍結界をぶつけてティマイオスを覆う結界を中和している、それにより可視化している状態だ、新生魔王の象徴として使いたいならお前達で結界を発生させている聖遺物を制御するんだな」

「聖遺物? そうか……」

「それともう一つの報酬、城なんだが、まさか二ヶ月足らずで第9魔王まで倒してくるとは思わなかった、なのでこの空中庭園を見つけるだけで精一杯だった」


 城…… そう言えば成功報酬で要求してたっけ? 確かに城なんて簡単に建てられるモノじゃ無い、規模によっては何十年と掛かるモノだ、巨人族(ジャイアント)を工夫にしても年単位の時間が掛かるだろう。

 そんなもん要求するんじゃねーよな?


「いや、必要無さそうだ、建物も見えるしな。ただもしリフォームが必要になったら人手を貸してほしい、人族(ヒウマ)の業者に頼む訳にはいかないからな」

「いいだろう、それも報酬の一部だ」


 良し! 力も耐久力も人族(ヒウマ)とは比べ物にならない巨人族(ジャイアント)の働きアリをゲットした!

 馬車馬のように働かせればピラミッドだって造れるぞ! まぁそんなの要らないけど。


「ではヴァレリアよ、彼らを空中庭園ティマイオスへ案内してやってくれ」

「はい、畏まりました」

「あ! はい! 私も!!」


 ネフィリムが案内役に立候補してきた…… 理由は推して知るべし。


「? ネフィリム、あなたティマイオスへ足を踏み入れた事ないでしょ? 必要ありませんよ?」

「あ~ え…と…… その……」


 ヴァレリアさんがド正論をぶつける、入った事も無い奴に案内役なんかできるハズ無い。ましてや相手はネフィリムだ! あの恋愛脳筋のネフィリムが案内できる場所など地獄の一丁目ぐらいしか無いだろ?

 しょーがない、ちょっと助け舟を出してやるか……


「いや、こっちからも頼む、ウチのギルドにはいつも単独行動ばかりしたがる男が居てな、変な所を触らないかストッパーが欲しいんだ」

「カ……カミナ様!」


 ネフィリムの視線がご主人様を見るワンコのソレに変わった…… 単純な奴。

 それに今俺が言った事は事実だ、アイツ絶対いなくなるからな。


「グリム様?」

「構わん、ネフィリムもついて行くがいい」

「! あ、ありがとうございます!!」


 こうして俺達は未来の魔王城候補地へ足を踏み入れたのだった……


 それはつまり俺の『禁域王宮(ハーレムパレス)』計画の始動を意味するのだ!




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