第170話 彼方からの招待状・再び
異世界間ゲート自動制御システムがついに完成した。
材料さえ揃ってしまえば比較的簡単だった。
とにかくコレを魔王城・クレムリンの転移の間に設置し、きちんと作動するか実験する必要がある。
新月はもう過ぎてしまったので、次の満月、4回目の異世界間ゲート開放の時に設置し、半月後の新月の時に自動でゲートが開かれるか確認するしかない。
そこで無事、動作確認が取れれば成功だろう。
念の為5回目の異世界間ゲート開放の時に立ち会い、問題が無ければその時にデクス世界への帰還を行うつもりだ。
本当は後1~2回動作確認をしたい所だが、さすがに先輩がそろそろキレそうだから諦める。
まぁ6回目以降は帰還者の有無で判断するしかないな。数千人規模の帰還なら絶対にニュースになるハズだし、その人たちが南極に飛ばされて全員死亡とかにならなければ……だが。
そこはもう運次第だな、自分だってどこに飛ばされるか分からないんだから。
正しい門を開きし者を習得すれば、或いは安全な自動制御も可能になるかも知れない。
それはデクス世界に戻ってからの話だ。
そんなワケで我々のシニス世界での使命は終わったのだ…… あとはガッツリ夏休みを楽しむだけ!
もちろんやり残したことも多々あるし、帰還に向けての準備も必要だが白とミカヅキのギフト訓練も順調だ、さすがに飲み込みがイイ。ただし白の緋色眼と摂理の眼制御には時間が掛かりそうだがバカンスする暇くらいはあるだろう。
金にモノを言わせてプライベートビーチを貸切にして、みんなで夏の海を満喫しよう! 水着? そんなモノ必要ないさ♪ だって誰も見てないんだから! ……は、さすがに無理だろうけど。
そんなイタイ妄想を思い浮かべていた時だった…… また来ちゃったよ、アレが……
彼方からの招待状だ……
相も変わらず書かれている内容は『後日、迎えを出す』だけ……
決して忘れてた訳じゃ無いんだが、浮遊大陸を寄越せって言ってからまだ2ヵ月も経って無い。
魔王グリムも時間が掛かる様な事を言ってたから半年くらい先だと思ってた。
その頃俺達はデクス世界に居るだろう、その件の対応という名目でジークを留守番させる気でいたのに目論みを潰された。
クソッ! 新たなプランを考えなければ!
いや、それ所じゃ無い。
またあの恐ろしいミス筋肉がガイアの平和を脅かしにやって来るぞ! ご近所さんに警戒情報出しとかないといけないかな?
失敗したなぁ…… こんな事なら次は違う人を迎えに寄こすよう言っておけば良かった。
さすがに今回は手紙と同時にやって来るような失敗はしないだろうが、日付をちゃんと明記しろ! あのビキニアーマー・ウォリアーがいつ襲来するのか分からないのは精神衛生上ヨロシク無い。
せっかくコレから戦勝記念、禁域王と女の子たちのキャッ♪キャッ♪ウフフ♪と楽しい真夏のバカンスに出かけようとしていたのに……
そう言えば前回も旅行計画を潰されたっけ?
もはやワザとやってるとしか思えん。
念の為…… あくまでも念の為、バルコニーから下を覗いて見る。もしビキニアーマー・ウォリアーのつむじが見えたら地面の下に強制転送して、しばらく土の中で待っていてもらおう。
「…………」ドキドキ
いない…… 良かったぁぁぁ~~~!
「ふむ、また第2魔王からの呼び出しが掛かった訳か、いつ頃迎えに来るのだろうな?」
ジークが当たり障りのない事を言う、しかし何故か喜んでいるように見える…… そんな気がする…… 邪推だろうか?
「今回は報酬の話だろう、さすがにお前も行くのを拒むことは無かろう?」
そう、あの魔王からの依頼だった第9・第10魔王討伐は見事に完遂された。
仕事をやり遂げた我々には報酬が支払われて当然だろう。まさか出向いた先で「第3魔王の居所が分かったから殺してきて♪」とか言われないだろうな?
当然断固拒否する、コレは前回の会談でも言った事だ。
余程の理由でも無ければ第3魔王と戦おうとは思わない。
むしろ新たに魔王となった白とミカヅキにイチャモン付けてくる可能性があるんだよな。
七大魔王同盟は第2魔王と敵対する気は無い、向こうが敵対しない限りは…… しかし今まで敵だった魔王の力を継承した新魔王の存在は放っておけないのも分かる。
何事も無ければ良いんだが……
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「緊急会議を始めます!」
「………… どうしたの神那?」
夕食後、全員集まっているリビングにて話し始める。緊急会議と銘打っているが要はまたアイツが来ると告知するだけだ。
「本日13○○時に彼方より召喚状が届きました! 皆さんもご記憶に新しいと思われますが…… あの女版偉丈夫みたいな人物からの出頭命令です」
「いや違うぞ、第2魔王グリム・グラム=スルトからだ…… それと召喚状じゃ無く招待状な」
「あ~…… あの眼光が鋭く視線だけで小型犬とか殺しちゃいそうな魔王……」
「だ……第2魔王…… 体を構成する成分の95%くらいが威圧感でできてそうな魔王……」
「第2魔王…… 何となく核エネルギーで動きそうな魔王……」
今の意見は琉架と先輩と伊吹のモノだ、俺もその意見には同意する。あくまでもイメージであって偏見と言い換えてもいい意見だけど……
実際シニス世界出身組は「ナニ言ってんの?」って顔してる。
「そんなワケで近日中に、またあのヘビー級女戦士がやって来ると思います。今回は流石に無茶な依頼はされないと思いますが、行きたく無いという人が居たら正直に言って下さい。可能な限り汲み取ります」
「え? 不参加オッケー? でも……」
「神那が行くなら私も行きます」
「お姉様が行くなら私も行きます」
「一人で残るくらいなら私も行きます」
くっ…… 誰も行かないって言わなかった……
コンコン!
「!?」ビクッ
「あの……お休みの所スミマセン」
ドアの隙間から顔を覗かせたのはリルリットさんだった。
ビックリした…… てっきりビキニアーマー・ウォリアーが攻めて来たのかと思った。心臓に悪いよ、勘弁して……
「えっと…… お客さんがお見えです」
「…………」
おい! まさか!
「失礼する! 主の命によりお迎えに上がったネフィリム・G・アースブールだ!」
出た…… ちょっとアホの子のビキニアーマー・ウォリアー、ネフィリムさんだ…… またしても手紙が着いた当日に現れやがった、前回の教訓が1mmも生かされて無い! やはり脳筋か……
「おぉ、ネフィリムか、変わり無いようだな?」
「あ♪ ジーク様…… あ、いえ、ジークもお元気そうで何よりです///」
はぁ~~~…… また始まったよ、熟年カップルが思春期フィールド展開して頬染めてるよ…… ベタ惚れじゃねーか。
「え~と、ネフィリムさん?」
「あぁ!? 何か!?」
射殺さんばかりの勢いで睨まれた…… 前回の会談の事まだ根に持ってるのか? それともジークとのイチャイチャを邪魔された事を怒ってるのか?
この場に魔王グリムが居たら絶対怒られてたぞ? 俺は同格の魔王なんだから。
「ハァ…… アンタは何で手紙と一緒にやって来るんだ? 後日って書いたなら後日に来いよ」
「心配ご無用、そちらの準備が整うまで幾らでも待ちますから」
質問の答えになってないぞ、後日に来いって言ってんだよ。巨人族にはアポイントメントの概念がないのかヨ! 人ん家にアポ無しで乗り込んできて幾らでも待つって…… それはつまりお泊り希望かよ!!
え? コイツ本気でバカなんじゃ無いの?
手紙の書き方すら知らないとか巨人族ってバカ種族なのかよ!
第2魔王は部下にその程度の教育も施さないのかよ! 部下がバカだと上司もバカだと思われるぞ!! …………って言いたい。
言いたいけど言わない、もし言ったらネフィリムがブチ切れそうだからな。ジークとネフィリムの恋を応援すると決めた以上、少しくらいのバカ行動には目を瞑らなければ。
なんか…… もうどうでも良くなってきた……
「みんな、今夜中に準備をしておいてくれ、明日の朝一に出発するから。それとジーク」
「む? 何だ?」
「お前のことだ、どうせ既に準備は済んでるんだろ?」
「あぁ、済ませてある」
「だったらお前がネフィリム女史をもてなして差し上げろ、そうだな…… うん、デートしてこい、明日の出発までに帰ってくればいいから」
「!?///」
朝帰りオッケーだ、むしろ推奨だ。二人で存分に大人の階段を登ってくるがいい…… あ、いけね! ジークは立ち上がれないんだっけ? ………… まぁいいや、500年以上蓄積された賢者の王たる悲しみの知識で乗り切ってくれ。
「カミナ様……」
ネフィリムの敵を射殺さん視線が幾分優しくなった気がする…… やらしくなったワケじゃ無い。
なんか…… スゲー感謝されてる。なんて単純なんだ、どうやら彼女は恋愛脳筋だったらしい。
しかし下手に感謝などしないで欲しい、俺が勧めた男は不能不死者だからなぁ…… うん、まぁ頑張って、ジークのジークを立ち上がらせられるのはきっとアンタだけだ。
上手く行かなかったとしても俺に仕返ししないでくれよ? 今夜俺の寝室に泣きながら特攻するとか。
そして二人は夜の街に消えていった…… まぁジークなら上手くやるだろう、アイツは自分の弱点をよく理解しているからな。
きっと今頃健全なデートが行われているのだろう。スポーツジムで徹夜の筋トレデートとか……
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翌朝……
出発予定時間ギリギリに二人は帰ってきた…… ホントに朝帰りしやがった……
そして二人は笑顔だった…… それはもうキラッキラに輝いていた、余程充実した一夜を過ごせたのだろう。
普段なら朝帰りした男女がこんないい笑顔を浮かべている光景を目撃したら、ドス黒い感情が湧き上がってくる所だが、彼らに対してはそういった感情は湧いてこない。当然石を投げたりもしない。
コレは彼らの交際を応援しているからか? それとも清く正しい交際をしていることを知っているからか?
彼らがドロドロの泥沼のような爛れた交際をしていても別に気にならないから前者かな?
ただしウチには年頃の娘さんが多くいるので程々にして欲しいモノだ。
「もう準備が整ってしまったのですね…… 仕方ありません、向かうとしますか……」
ネフィリムはとても残念そうだった、そんなにジークが欲しければ決闘でもするか? その手で掴み取れ! 腕相撲対決なら確実に負ける自信がある。ぷれぜんと・ふぉー・ゆー!
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今回の移動にはホープを使用する、何となくネフィリムが遠回りとかしそうだったから、イチャつくのは二人だけの時にしてくれ。
もっともホープを使っても直接ラグナロクに乗り付けられる訳ではない。
あの城は転移を使わなければ出入りできない、直接ホープで接近しても魔力バリア的なもので弾かれてしまうらしい。もちろんギリギリまで寄って跳躍衣装を使えば入れるが、俺の能力はあまり知られたくない。
従って前回同様、悪魔崇拝の邪教が蔓延る遺跡都市へ向かう。
しかし遺跡の中には邪教徒共が小さな村を作っている為ホープが降りられない、実に迷惑だ。
飛び降りてもいいんだが、先輩がアイコンタクトで「絶対やめろ!!」と言ってくる。擬似飛行魔術なら比較的平気みたいなのに何故スカイダイブがダメなのか? 高度の問題かな? 仕方ない……
駅の近くの広場にホープを降ろし、そこから徒歩で遺跡に向かう。
「ネフィリムよ、ラグナロクへ向かう転移魔方陣はココにしかないのか?」
と、ジークが聞くと……
「いいえ、他にもいくつか存在しておりますが、第12領域で稼働しているのはココだけです。
次にガイアに近い転移魔方陣は中央大陸の第11領域の迷いの森になります」
迷いの森なんてあったのか…… まぁ行く機会も無さそうだが。
「迷いの森か…… ずいぶんと辺鄙な場所にあるのだな、ラグナロクが要塞として存在しているならアリかも知れんが、少々不便ではないか?」
「そうですね、しかしいざという時は停止している魔法陣を強制起動することも出来るらしいです。生憎と実際に見たコトは無いのですが……」
ちょっと待て、他にも道があるのか?
同格の魔王をお客様として招くのにそれを使わないのかよ!
理由は分かる、敵か味方か分からん魔王にその場所を教えたくないんだろうけど、じゃあ「いざ」っていつだよ?
とにかくラグナロクは不便な場所にある、と言うより、難攻不落だな。
第2魔王が人類に敵対して無くてよかった、もし敵対してたら攻め込む事すら出来ない。
…………
仮に出来ても魔王討伐軍が大量の巨人兵をどうにか出来たとは思えないが……
そんな感じで雑談しながら進む、途中、愚かにもこの魔王だらけの集団に襲いかかってきた魔物たちは、前回同様ネフィリムがバッタバッタと切り捨てていく。
相変わらずハイパワーな事で…… まるでラッセル車だ。
昼過ぎには例の正方形のレンガ造りの建物に到着した。
途中、邪教徒共の村の近くを通ったが普通の田舎の村の様な営みがあった。夜な夜なサバトを開催するような奴らには見えなかった…… まぁ24時間あんなクレイジーなお祭りやってられないよな。
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ネフィリムが古代魔術で道を開く、邪教徒共に見られてもイイのだろうか?
別にイイのか、古代魔術を使える奴なんか滅多に居ないし、この先にあるのは魔王城への入り口だ。
「それでは皆様、お進みください」
魔王城ラグナロクへと足を踏み入れる。
第2魔王 “神殺し” グリム・グラム=スルトとの二度目の対談だ。




