第169話 大空洞&大氷河ツアー 4 ~結果編~
---霧島神那 視点---
ツアーの最終目的地、魔王城・オルターの保管庫に到着した。
ここになら主人公専用の「振るとビームが出る聖剣」や「催眠術が使えるようになる魔剣」や「神様と交信できる神剣」なんかが眠っている!
……なんて思ってたんだけど、予想を大きく裏切ってくれた。
俺の頭の中では宝物庫をイメージしてたんだが、開けてみればレトロ家電ミュージアムって感じだった。
要するに初期型のシロモノ家電みたいなのが並んでた……
「おぉ~! これは世界初のトルネード式掃除機! 現代技術では再現不可能と言われているオーパーツですよ! こっちはモノトーン専用ディスプレイ! これは二層式洗濯魔導器! 氷精霊捕獲器まで!」
アーリィ=フォレストのテンションが高い…… ナニが楽しいのかさっぱり分からん。
現代ではもっと便利な魔道具が幾らでもあるんだが…… 旧世界へのリスペクトか、ただ単に昔を懐かしんでるのか……
飾られてるのがせめて兵器の類だったら、俺のテンションも上がったんだろうが……
取りあえずアイツは放っておこう……
「え~と…… レーザー術式刻印装置は…… そもそも見た目が分からないんだよな、やっぱり顕微鏡のレンズみたいなのが付いてるやつかな?」
保管庫に展示されてる道具たちは床にしっかり固定されてる、オルターが傾いた時に部屋の隅に滑り落ちて壊れてないか心配だったが、しっかり対策が取られていた。
普段から歩く城だったから、時々岩盤を踏み抜いてコケる事があったのかな? こんな巨大な城がコケたら大惨事だな。
「カ……カミナ君! コレ!! コレ見てください!」
「ん? 見つけたのか?」
アーリィ=フォレストが興奮気味に見ているのは、酸素カプセルの様な円筒状の物体だった。
「これは?」
「細胞活性化装置です! これに一年間入り続けると、半年分若返ると言われています!」
それ結果的に半年分歳取ってねぇ? 半年若返るというより寿命が倍に伸びると言うべきだ。
うん、ゴミだな。
半不老不死の魔王である俺達にとっては何の価値も無い。
「アーリィさんや、レーザー術式刻印装置を探してはくれませんか?」
「え? …………あ! ゴ…ゴメンナサイ! あんまりにも懐かしいアイテムの多さに我を忘れてました!」
まぁこの引きこもり魔王が外出して現地へ赴く楽しさを思い出すなら悪いコトじゃ無い。
「ここには現在でも使えそうな便利アイテムってあるのか?」
「そうですね~…… 例えばコレ、携帯用魔導通信機です」
携帯用? この肩に掛けて持ち運ぶような重そうな箱がか? これを常時携帯するのはかなりの苦労を強いられそうだが、確かにシニス世界には携帯魔導通信機は無いが……
「これは発せられる魔力波が強力で、他の通信を妨害してしまうんです」
ジャミング装置じゃねーか、本来の用途と違うぞ…… 確かに使い道はありそうだが、戦争終結後に見つかっても遅いよ…… 使い所がない。
「それとコレ! コレは本当にスゴイですよ! 魔導式磁反発飛行装置です!
現在のシニス世界で唯一空を飛べる道具です! 最大高度は30cmですけど……」
飛行機というよりリニアモーターカーだな、ソレはソレでスゴイんだが…… なぜか残念な感じだ。
「それでこっちが…… あ、ありました! カミナ君ありましたよ! レーザー術式刻印装置です!」
「なに?」
そこにあったのは思ったよりずっと小さい箱…… 電子レンジに瓜二つだ。
「コレがそうなのか?」
「ハイ、他の道具と比べてこれだけは少し新しいですね…… きっとプロメテウスがちょくちょく使ってたんですよ」
そうなのか? ぶっちゃけコレもレトロ家電にしか見えん……
まぁ、見た目はともかく目的のモノを手に入れた。これでゲートの自動制御に大きく近づいた。
---有栖川琉架 視点---
一般人には決して見つけられないような、隠れ家的な店にジークさんが先回りしていた……
さすが賢者の王! 一般人じゃ無かった!
「お? ブレイブ・マスターのグレイアクスか、皆を連れてきてくれたのだな、感謝する」
「あ……あぁ、いや、人族が良くこの店を見つけられたな? さすがはD.E.M. だな」
D.E.M. で一括りにされると、迷子になってた私の立場が無いからやめて欲しい…… あくまでも個人の能力だから。
「それでジークさん、使えそうなのは見つかりましたか?」
「うむ、条件に合いそうなのがこの三つだな、予備を考えると全部購入すべきだろう」
そこにはこぶし大もあるエメラルドが三つ並べてある…… 大きいなぁ、透明度も高くサイズも申し分ない。
お幾らなんだろう…… 安くは無いよね?
この一年の間にD.E.M. の財宝を少しずつ現金化していたらしいけど……
「結構なお値段しそうですけど、手持ちで足りるんですか?」
「うむ、全然足りん、手持ちの額ではせいぜい一つ買うのがやっとだな」
それじゃ私たちも勇者さん達みたいに金策に走らないといけないのかな? 大空洞にもギルドセンターはあるハズだし、みんなで手分けしてSランクのクエストを受けまくれば……
「だから手持ちの財宝と物々交換の交渉をしようと思っていたのだ、ルカの魔神器にも幾つか入っているだろ?」
「あ…… そう言えば……」
万が一の時の為に、現金じゃ無く貴金属を持つようにって神那に渡されたんだった…… 転移事故でデクス世界に跳ばされた時、お金が無くって困ったから。
でも私に交渉なんて出来るとは思えない、ジークさんにお任せしようかな?
「値引き交渉なら私に任せて!」
「え? 佐倉センパイ?」
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佐倉センパイが意外な才能を発揮した。
物々交換だからどれくらい値引きできたのかは分からないけど、店主が泣いて謝って来たからかなりのモノだったと思われる……
とにかくセンパイのおかげで無事エメラルドを入手できた。
---霧島神那 視点---
「カミナ君! ココにある子たち、私が貰ってもいいですか!?」
アーリィ=フォレストがそんな事を言いだした…… てか、“子”? このレトロ家電たちの事か?
俺にはガラクタにしか見えないんだが、こんなの持って帰ってどうするんだよ?
「何で俺に聞く…… あ、所有権は俺にあるのか」
俺に言わせればこんなのはゴミなんだが、本人が欲しがってるなら好きなだけ持ってけばいい。
ただしガラクタを持ち帰ってドリュアスに叱られても知らないからな?
「あぁ、好きなモノを持ってっていいよ、ただしゲート自動制御用無機物使徒作成を手伝ってくれよ?」
「ハイ!! 全身全霊を持ちましてお手伝いさせて頂きます!!」
結局、保管庫に収められていたアイテムの八割を俺の魔神器とアーリィ=フォレストの4Dラボに突っ込んだ。入れられないほど大きいモノは後日、改めて取りに来るという……
え? またココまで取りに来ないといけないの? ちょっと気が重い……
あとはシステムを回収して、動力炉を解放するだけなんだが……
「動力炉の解放って…… 解放したら囚われてた人たち、一斉に死ぬってコトは無いだろうな?」
「大丈夫……だと思います、死に難くする為の結晶化ですし…… たぶん…… きっと…… 恐らく……」
どうしよう…… 凄く頼りないお言葉をもらってしまった……
もし死んでしまったら俺の手で止めを刺した様なものだし…… そんな事になったらシャーリー先輩が化けて出そうで…… 夜な夜な枕元に立って火の付いたタバコを押し付けられたり、朝が来るまで正座で説教受けさせられたり…… 想像しただけでも恐ろしい!
「そうだ、聞いてみればいいじゃないですか!」
「ん? 聞くって誰に?」
「ここの人工知能ですよ、確かケーツーでしたっけ?」
KⅡ…… そう言えばディスプレイにそんな文字が表示されてたな、それがオルターの人工知能の名前なのか?
ケツ…… シリじゃ無いんだ。
「扉の所にコンソールがあります、それで呼び出してみて下さい」
呼び出すってどうやって? あぁ、音声認識機能も付いてるから話し掛ければいいのか。ちょっと体育館裏まで来いって。
「コホン、え~と…… オルターの人工知能、応答せよ…… で、良いのか?」
『……ッ……ザザ…… ヨウコソ、マイマスター、ワタシハ魔王城オルター操作支援インターフェイスシステム・KⅡ』
おぉ! 答えた! モロ合成音声だけど女性の声だ。
「こちらの質問に答えられるか?」
『………… イエス』
「動力炉を解放した場合、囚われていた人たちの生命はどうなる?」
『………… 生命機能維持ニ支障ハアリマセン』
どうやら問題無さそうだな、しかし動力が無くなった場合オルターは……
「それをした場合、オルターはどうなる?」
『………… 予備バッテリーデ機能ヲ維持シタ場合、72時間デ全機能ガ停止シマス』
「よし、それじゃ動力炉に捕えられてる人たちを全員解放してくれ」
『………… 動力源ヲ開放スルト、オルターハ機能停止シマス、本当ニヨロシイデスカ?』
「あぁ、やってくれ」
『………… 了解致シマシタ』
シュウウゥゥゥゥゥン……
何かが停止するような音が聞こえた、これでこの城は72時間後に完全停止する。
「この保管庫に残っている道具を予備バッテリーを使って72時間以内に外周開口部へ移動しておいてくれ」
『………… 了解致シマシタ』
今気が付いたけど、予備バッテリーじゃ昇降機とか使えなくなるかもしれないな…… 何十人も捕らえられていた人たちをガーランドまで運べるかな?
いや、クリフ先輩がいたな、磁力円陣を使えば問題無いか。
「それと…… お前、え~と…… 魔王城オルター操作支援インターフェイスシステム・KⅡを持ち出したいんだが可能か?」
『………… 私ノ全データハ核ニ収メラレテイマス、ソチラヲオ持チ下サイ』
これであの脳無し魔王の遺産は粗方頂いたな、結局俺専用武器は見つからなかったが……
まぁいい、後は帰ってゲートの自動制御システムを作り上げるだけだ。
「カミナ君、なんか動力炉の方が騒がしいですけど……」
「ん?」
動力炉ではカチカチに固まったお姉さんたちが大量に打ち上げられていた……
解放ってそのまま放り出す事なのか…… あ、シャーリー先輩のフルヌードを見てしまった! 後で殺される!
「い……一体何が起こったんだ!!」
「どうすればいい!? このまま放っておくワケには!!」
みんな慌てふためいてる…… いつもの如くすっとぼけておこう。
ただしここの女性たちを全員連れて帰るようにそれとなく意識誘導して……
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こうして我々はゲート自動制御システム作成に必要なモノを手に入れ、ガイアへと帰還した。
その後、二日遅れで帰還した大空洞探索チームからエメラルドを受け取る…… てか、何でそんなに時間掛かったの? 別に時間が掛かってもイイんだけど、ジークがハーレム状態だったのが気に喰わん。
腹いせにジークを人工精霊作成に協力させ、扱き使ってやろう。
まぁ、元々精霊魔法の権威であるジークには手伝ってもらうつもりだったが……
こうして禁域王と探究者と賢王の合作、「異世界間ゲート自動制御システム」が完成した。




