第168話 大空洞&大氷河ツアー 3 ~再会編~
---霧島神那 視点---
俺の説得を諦めたアーリィ=フォレストのナビゲートにより、細い通路や階段を通り、中央の巨大縦穴、執行官断罪剣の砲身へ辿り着く。
今回は昇降機を使って降りていく、下の方では大騒ぎになっているようだ…… 突然オルターが動き水平状態になったらそりゃ驚くよな。
「あれ? このオーラは…… クリフ先輩が来てるのか?」
「くりふセンパイ?」
「あぁ、俺の先輩だ。魔王討伐を目的に結成された創世十二使っていう暗黒臭い集団の……」
「魔王討伐…… あの…… わたし魔王なんですが、そんな人の前に出て行っても大丈夫なんですか? いきなり攻撃されたりしないでしょうか?
耳長族は色々な生き物に襲われる運命にあると聞きました、主にエロい意味で……」
何処で得たんだそんな知識…… きっとトラベラーのオタク辺りが持ち込んだんだろう。
そんな奴らが妄想垂れ流すから耳長族は排他的になるんじゃないか? 全く迷惑な話だ。
「心配するな、俺も魔王だが無事だ。もっと言えば俺と琉架も創世十二使だしな」
「え? カミナ君も?
あ~…… カミナ君になら襲われてもイイかも…… 主にエロい意味で…… ポッ♪///」
オイコラ! 試すようなことを言うんじゃ無い! もし俺がオークだったら今頃お前は汁まみれだ、俺が紳士でなければ襲いかかっていた所だぞ?
ゥゥゥゥンンン……
そんな事を話している内に、昇降機は最下層に到着していた。
「誰だ! そこで止まれ……って、神那か?」
「どーもクリフ先輩、こっちに来てたんですね?」
「まぁな、シャーリーは未だにココに居るから…… それよりお前 何かしたか? 突然オルターが動いたんだが?」
タイミング的に見ても疑われるのは当然だ、しかし正直に言う訳にもいかないよな。適当に誤魔化そう。
「動いた? 何の事です?」
「ずっと傾いたままだったオルターが先ほど突然動きだし水平を取り戻したんだ」
「そう言えば魔王プロメテウスを倒した時に傾いてましたね、俺達が来た時はすでに水平でしたよ?」
「そうなのか? ならばホープにガーランドが反応してオルターを動かしたか…… いや、機械的な振動を感じた…… ここが動力炉なら何かしらの反応があっても良いハズ…… ん? 俺達?」
クリフ先輩はそこでようやく俺の陰に隠れている人物に気付いた。
「神那、お前の後ろに隠れてる子は誰だ? 初めて見る顔だがD.E.M. のメンバーじゃないよな?
耳長族……の様だが、もしかして耳長族の学者でも連れてきてくれたのか?」
「残念ながら違います、ある意味学者と言えないことも無いんですが、ココに来たのは別件です。
彼女は…… あ~…… 俺の嫁候補の一人です」
「!! よ……嫁!?///」
「ハァ…… お前はとうとう耳長族にまで手を広げたのか、もしかして全種族コンプリートとか狙ってないよな?」
そんなつもりは無い、俺の嫁候補は…… あれ? 既に6種族に及んでる?
人族に有翼族に獣人族に鬼族に人魚族、そして耳長族…… これじゃコンプリート狙いとか言われても言い返せないな……
しかし少なくとも巨人族や妖精族は無理だ、サイズが違いすぎる。後、絶滅危惧種の龍人族も無理だろう。
残すトコロは妖魔族と炭鉱族と機人族か…… いやいや、だからコンプする気なんて無いから!
クリフ先輩が変な事言うから意識しちゃったよ、俺は女性をコレクションする気は無い。
「それじゃお前は何しに来たんだ?」
「俺が来た理由は魔王の情報を得るためです。
この城の何処かに魔王という生物の情報が記録されてるハズです、クリフ先輩もゲートが開放されたことはご存知ですよね? 既に倒すべき魔王は居なくなりましたが、いつの日かその情報は必要になるかもしれない、それをデクス世界に持ち帰るために来たんです」
もちろん大嘘だ。
オルターの記憶書は既に確保してあるし、この情報をオリジン機関に渡す気もさらさら無い。
魔王である自分の首を絞める結果になりそうだしな。
「そうか…… ではD.E.M. はデクス世界に帰還するんだな?」
「まだ先の話ですがいずれは」
「え? カミナ君、帰っちゃうんですか?」
アーリィ=フォレストがこの世の終わりみたいな顔をしてる…… しくじった、この結婚願望の強い魔王さまを嫁扱いした矢先に帰還宣言などしたら天国から地獄へ突き落とされた気分だろう。
いや、今俺が大嘘ついたのお前なら分かっただろ? 真に受けるなよ……
「目的の為にもデクス世界には行かなきゃいけないだろ? 忘れたか?」
「目的? あ! そうでした!」
本気で忘れてたのかよ、魔王リリスをぶっ殺して記憶書を取り返したいんだろ?
いや、殺しはしないけど…… 向こうで殺したら指名手配される。
「お前…… もしかして女の子たちを全員連れて帰る気か?
別に文句を言うつもりはないんだが…… 大和に一夫多妻制はないだろ?」
そうなんだよ…… デクス世界では俺の夢は叶わない。
いっそ怪しげな新興宗教でも立ち上げて、教主として嫁を囲うか?
…………
無理だ! 女神以外の神を崇めることなど俺には出来ない!
まぁ、この問題は取りあえず置いておこう。
「クリフ先輩はどうされるんですか? 出来ればオリジン機関への報告は序列二位の先輩にお願いしたいんですが……
俺と琉架の証言は前回も中々信じてもらえなかったですから」
「俺は…… まだ帰れない、少なくともシャーリーを残しては帰れない」
この人達って結局付き合ってるのかな?
昔 違うって言ってたけど、一年半くらい前の事だしなぁ。
「そうですか、俺達の帰還予定日が決まったら挨拶に来ます」
「あぁ、そうしてくれ。オリジン機関への報告で色々頼みたいこともあるからな」
その後、機関のことや、補助動力にされてる女性達の事などを話した後、それぞれの作業に戻った。
クリフ先輩は原初機関の作業を見守りに、俺達は保管庫に移動する。
動力炉から十分距離をとった所でアーリィ=フォレストに話しかける。
「見たか? 床下に沈められてた人たちを」
「はい、耳長族も数人沈んでました」
「あの人達を救う事って出来るだろうか? 俺が命令すれば簡単に出てくるかな?」
「………… 言い辛いんですが…… あの人達を救うのは難しいと思います」
いきなり絶望的なコメントが出た…… え?
「理由は?」
「彼女たちは無機物使徒化されてます」
「はぁ? どういう意味だ?」
「言葉通りの意味です、体を構成する全ての有機物が無機物に変質されて、そこを無機物使徒化されてるんです。
生きてはいますが彼女たちを生物と呼ぶのは難しいですね」
あ……あの心臓だけの脳無し魔王! なんて事しやがるんだ……!
「恐らくですが、そのまま使徒化したのではオルターのエネルギー源として耐えられなかったのでしょう。
何千年とエネルギーを吸い取り続けるために無機物化…… より正確に言うと結晶化させたんだと思います。
既に主である魔王プロメテウスはいないですから、使徒化を解除することは可能でしょうが、解除した瞬間に死んでしまう可能性が……あります」
「………… マジか……」
「も……もちろん、なにか手段があるかもしれません!
ただ、少なくとも私はその方法を知りません。私が知らない以上シニス世界には救う術はないでしょう。
方法があるとすれば神族の知識か、デクス世界の技術くらいですね」
つまりココで調べていても永遠に救い出せないのか……
「そうか…… 分かった…… ありがと……」
「うぅ…… お役に立てずスミマセン」
謝る必要は無い、むしろ感謝している、これ以上大氷河で無駄な時間を過ごさせなくて済むんだ。 “探究者” アーリィ=フォレストでも分からない方法なら、シニス世界には存在しないのだろう。
---有栖川琉架 視点---
どうしよう…… 迷っちゃった……
前に来た時は気付かなかったけど、この街は地下にも迷路のような広大な街が存在する。むしろ上の町の数倍の広さがある。
さすが炭鉱族、地下空洞の更に地下に街を作るなんて…… 地元の人間以外は絶対に迷う三次元迷路だ。
つまり…… 完全にお手上げです。
取りあえず正攻法の宝石店を訪ねようと、街の人から場所を聞いたまでは良かったが…… 今自分たちがどこに居るのか全く分からない。
取りあえず外に出て旧魔王城を見れば位置は分かる、上を目指そうかな? みんなに迷ったって正直に告げて…… はぁ…… やっぱり私には隊長とか無理。
「ん? お主ら…… D.E.M. か?」
「え?」
そんな時、突然声を掛けられた。
声の主は一人の炭鉱族の男性、見覚えのある顔だ。
「えっと…… 確かエルリアさんの所の、グレイアクスさん?」
そこに居たのはあの勇者パーティーのメンバー、グレイアクスだった。
思わず身構えミカヅキさんの陰に隠れる…… この人が居るってコトは……
「心配せんでもブレイドは居らん、エルとタリスを連れて金策と修行に出てる。一週間は戻ってこんよ」
「そ……そうですか…… 良かった…… グレイアクスさんは何故ココに?」
「ココはワシの故郷でな、魔王戦争以来100年ぶりの帰郷だ、ついでにブレイドの剣の修復が出来ないかと思ってきたんだが、やはり刀身が失われていては無理だった」
勇者さんの事はともかく、この人100歳越えてたんだ…… シニス世界には見た目と実年齢が合わない人って結構いるからなぁ、私の友達にも2400歳を超えてる可愛い女の子がいるし。
しかしコレは天の導きかな? 苦手な人が居なくって、土地勘のある人が現れるとは……
「あの…… ちょっとお願いがあるんですけど」
「うん? なんだ?」
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「スミマセン、本当にありがとうございます」
私は申し訳なさそうな顔をしながら礼を述べる。
目的地である宝石店まで案内を頼んだのだ。
「気にするな、お主達のギルマスには海の底で命を救われたからな、むしろこちらが礼を言わねばならん立場だ」
そんな言葉を聞いて、今度はミラさんが申し訳なさそうな顔をする……
ミラさんは悪くないよ。
「ワシは100年前に大空洞から逃げ出した身だ、戻って来れる日が来るとは思って無かった…… そう言えば魔王ウォーリアスを倒したのはお嬢ちゃんだったな? それにも感謝しておる」
「わっ!! こ……声が大きいです! それはいいですから!」
「おっと、そうだったな、しかし心配はいらんぞ? ウォーリアスを慕っていた炭鉱族などおらん。
唯一の例外がキリマンだろう、それも慕っていた訳じゃ無く魔王の右腕という地位に酔っていただけだ」
う~ん…… もし私が第8魔王だってバレたら石投げつけられたりするのかな?
「そう言えばグレイアクスさんは100年ぶりのエメスなんですよね? 街中の様子って変わってたりしないんですか?」
「魔王ウォーリアスの統治下では街は殆んど発展して無かったからな、その宝石店「グリタ」も500年以上前からある老舗だ、今も同じ場所で商売してるだろう」
統治下で発展しなかったってことは、大昔から今くらいの文明度があったのかな?
もしかしてこの文明度は旧世界の遺産によるモノなのかな?
「ほら着いたぞ、ここがグリタだ」
地下都市の一角、その店は扉だけしか無く窓すら無い、それどころか看板すら無い…… こんなの見つけられっこないよ……
宝石を取り扱ってるから防犯の為…… なのかな? 地元のお客さんしか来ないんだろうなぁ……
「こっちだ、着いて来い」
そう言ってグレイアクスさんは店の脇の路地に入っていった…… あれ?
「その店はダミーだ、クズ石しか売ってない、貴重なモノは裏店にある」
「そ……そうなんですか?」
こんなの一見様には無理仕様だ。
グレイアクスさんが薄暗い路地の一角の壁を押す、人一人が通れる程のトンネルが現れ、そのまま壁を押しながら中へ入っていった。
こんな所にこんな入口があるコト自体、肉眼では分からない…… ここまで巧妙に隠されると、何か違法性のあることが行われている気がしてならない。
このお店…… 大丈夫かな?
「む?」
「おぉ、お前達、思ったよりずっと早かったな」
そこには何故かジークさんが居た……
え? なんで? もしかして自力でこの場所を見つけたの?
コレが神那が言ってた『賢者ネットワーク』の力か? スゴイなぁ……




