第167話 大空洞&大氷河ツアー 2 ~探索編~
---霧島神那 視点---
魔王城・オルターの地下通路を歩く…… 討伐戦の時より寒い気がする。
魔王プロメテウスというメインエンジンが居なくなったせいで凍結防止の暖房が止まってしまったのかも知れない。
補助動力にされてた女性たちはどうなったのか? 救出できたという話は聞いてないが……
「カミナ君…… 床が斜めで歩きにくいんですけど……」
そんな事言われても困る、俺にどうしろってんだ? おんぶでもすればいいのか?
アーリィ=フォレストを背負って得られる恩恵は少ない…… しかし合法的に女の子とくっ付けるのはアリかも知れない、暖かいだろうし。
「せめて角度だけでも戻しませんか? 多少疲れるかもしれないですけど、歩きやすくはなります……」
「ん? どうやって戻すんだ?」
「あれ? カミナ君がオルターの管理権を譲渡されたんじゃ無いんですか?」
「管理権?」
確かに『オルターの全てを譲渡する』みたいなコト言ってた気がする……
「え? この城、俺が動かせるのか?」
「多少 純粋魔力を消費すると思いますが、動かせるはずですよ?」
マジかよ…… 魔王城・オルターは俺の城だったのか。
「どうやってやるか分かるか?」
「どこかにコンソールがあるハズです。ちょっと待ってて下さい」
アーリィ=フォレストはそう言うと、片眼鏡を弄り周囲を見渡した。
「あそこ、あそこの壁に埋め込まれてます。手動式のレバーで開けます」
彼女が指差した場所は壁に僅かな段差があり、何か蓋がされてるようだった。その下側には確かにレバーが付いている。
言われるがままレバーを引くと……
プシューーー!
蓋が開きコンソールが姿を現した。
「アーリィ=フォレスト…… その片眼鏡って……」
「片眼鏡でなくモノクルと言って下さい。コレは私が作った『緋色眼機能拡張鏡』です」
『緋色眼機能拡張鏡』…… またシンプルな名前だな……
「本来見る事の出来ないモノを見れる緋色眼、その機能を更に拡張できるんです」
その説明、要らなくね? 緋色眼機能拡張鏡って名前で大体わかる。
「音や風、紫外線や赤外線も可視化できるんです、今のは電磁波の流れを読みました、まだ補助動力は生きてるみたいなので」
「なんとも便利なアイテムがあったモノだ…… 「私が作った」ってコトは、それも……?」
「はい、上位神術で作ったモノです」
あ~、もしかして頼めば白の能力制御デバイスも作ってくれるんじゃないか?
いや、わざわざ能力のデチューンをするより、使いこなせるようになった方がイイ。『緋色眼機能拡張鏡』より『摂理の眼』の方が性能は上だろうし。
なによりせっかく延長された眼帯美少女タイムをわざわざ放棄する事は無い。
あの医療用の飾りっ気のない眼帯が良いんじゃないか!
「さて…… それでどうすればいいんだ?」
「コンソールに触れて姿勢制御を命じれば、後は自動で水平を保ってくれる筈です」
なるほど、そりゃ楽でイイ。
ディスプレイには『KⅡ』と表示されている…… ケツ?
「魔王城・オルター、姿勢制御を実行しろ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
微振動と共にゆっくりと床の角度が戻っていく。
1分程でオルターは水平状態を取り戻した。
「コレは恐らく無機物使途を応用した人工知能なのでしょう、非常に興味深いです」
「無機物使途を? ちょっと待て、使途は魔王が死んだらその力を失うハズだろ? 実際クレムリンの転移の間は機能を失ってたぞ?」
「えぇ、ですから機人族…… いえ、魔人特有の技術が使われているのだと思います。コレは是非研究したいですね」
人工知能か…… 確かに便利そうだ。
「カミナ君、ついでですから帰る時にこのシステムも持って帰りましょう。
このシステムを複製できればドリュアスのキング・クリムゾン管理がより簡単に、より完璧になります!」
精霊任せにしないで自分でやるって選択肢は無いんだな。
しかしドリュアスに恩を売るって意味でもアリかも知れない。確かに便利だ。
「そうだな、帰る時に頂いて行こう。何かに使えるかもしれないし」
「ハイ♪」
---有栖川琉架 視点---
根の国から鉄道で東へ向かう……
窓の外には様々な景色が映し出され、それを見ながら一行が目指すのは大空洞の首都・エメス。
「うわぁ…… スゴイ景色……」
「広…… ここが地下だって忘れそうになる……」
「大空洞って魔宮と違って日が暮れないんですね? ずっと明るいままなんだ……」
数十分おきに車窓から見える景色はガラリと変わり、それをみんなで眺めている。
前に来た時も思ったけど、何か旅をしてるって気分になる。
「そう言えばジークさん」
「ん? なんだ?」
「さっき言ってた…… え~と…… エメラルドマウンテンさん?」
「『緑峰のエメマン』な」
緑峰のエメマン…… その孫が青峰のブルマンなら、エメマンさんの子供は赤峰のレッドマンとかかな? まぁ息子とは限らないか…… 別にどうでもいい事だった。
「そうです、そのエメマンさん、その人って有名なんですか?」
「ふむ…… 有名といえば有名だが、今の世にエメマンの名を知る者は殆んどいないだろう。
それこそ英雄視している炭鉱族だけが知る名だ」
知る人ぞ知るって感じなのかな? さすがジークさんは賢王って呼ばれるだけの事はある、大空洞のことまで良く知ってるなぁ。
「その英雄エメマンさんは何をした人なんですか?」
「大空洞内に魔王の知らない領域を幾つも作り、奴隷状態だった多くの炭鉱族を救ったのだ。
もちろん全てでは無い、例のキリマンの様に進んで魔王に従う者も僅かながら居たらしいし、逃げる事の出来なかった者も多かったからな」
「なるほど…… 奴隷解放の英雄なんですね?」
「うむ、そして魔王に挑んだんだ」
「え?」
「もっとも挑んだ相手は魔王ウォーリアスでは無かったがな、遥か昔から魔王の支配に抵抗する者たちは必ずいた、緑峰のエメマンもそんな連中の一人だ。
しかしルカも知っての通り、魔王在位2400年の歴史の中で討たれた者は一人もいない。
いや、白の話では唯一例外的に第9魔王だけは代替わりしていたらしいが、それも2400年前の話だ。
そう言った意味でもお前達は…… 特にカミナとルカは歴史的に見ても魔王以上に異質な存在と言えるな」
「い……異質ですか?」
「そうであろう? 2400年もの長きに渡り、誰にも…… 勇者ですら無し得なかった事を二年足らずの間に何度も成し遂げてきたのだから」
確かに言われてみればその通りだ…… 異質というより異常だよね? 何だか自分がバケモノなんじゃ無いかって気がしてくる……
唯一の救いは神那と二人セットで異質って言われた事か……
一人だけ異質って言われてたらきっと落ち込んでた。
「たとえ異質な力を持っていようとも、お前達のおかげで多くの人が救われたのも事実だ。
願わくばいつまでも穏健派な魔王であってくれ。ルカが居ればカミナは人類に敵対する魔王にはならないだろうからな」
「神那は私が居なくても人類を滅ぼしたりしませんよ、きっと「面倒臭い」の一言で終わりです」
「………… 確かにそうかもしれんな…… 物凄く納得できる話だ」
---霧島神那 視点---
「申し訳ございません……」
「いいよ。こうなると思ってたし……」
薄暗いオルターの地下通路に一人分の足音が響いている…… 何故ならアーリィ=フォレストは俺におんぶされてるからだ。
文化系魔王のアーリィ=フォレストは体力が無いからすぐに歩けなくなった。
正直、こうなるであろうコトは予想していた。
それに外より幾分マシとはいえ、オルター内も寒いからアーリィ=フォレストを背負っていると背中が暖かくていい。
そういえば世界樹の葉っぱに乗って移動って出来ないのだろうか?
う~ん…… 恐らく何らかの理由で出来ないのだろう、そうでなければこの面倒臭がりな魔王が自分の足で歩くハズがない。
「あ、カミナ君、誰かいますよ?」
「ん?」
アーリィ=フォレストに言われ緋色眼で見てみるが、人影どころかオーラの影すら映らない。
もしかして緋色眼機能拡張鏡って幽霊とかも見えるの?
「あ、スミマセン、3kmくらい先の話です。階層もココより下ですし」
「そんな遠くまで見えるのか?」
「はい、最大感知距離は5km程です」
多分オルターの最下層部・中央区画だろう…… 裸のおねーさん達が沈められてる場所、つまり動力炉だ。
そんな所にいるのは原初機関の連中だな、正直 魔王の研究をしているアイツ等にはあまり会いたくないんだよな、でも……
「レーザー術式刻印装置って保管庫にあるんだろ?」
「そうですね…… あ、中央区画だ……」
「行かないといけないな」
「え? ウソでしょ? 見ず知らずの人が沢山いるんですよ? そんな所に行ったら…… そんな所に行ったら…… 死にます!!」
死なねーよ。
魔王がそんな簡単に死ぬなら俺はこんなに苦労してない。
どんなにアーリィ=フォレストが渋ろうとも、俺に背負われていては抵抗できない。
なのでそのまま連れて行く、俺だって出来ればこの子を人前に晒したくないが、コレもリハビリの一環だと思って欲しい。
そんなに心配する事ないぞ、俺達は魔王同盟を組んでいる、アーリィ=フォレストは俺が守る!(キリッ!)
---有栖川琉架 視点---
大空洞首都・エメス
「やっと着いたー! 丸一日列車に乗ってると色々と凝るね」
佐倉センパイが肩をコキコキ鳴らしてる、この人はたまにお年寄りっぽいことをする。
「ここが首都かぁ~、それであの岩の塊っぽいのが……」
「アレが大統領府、旧魔王城・エメスです」
「なんだろう…… 何となく見覚えがある気がする……」
「え?」
周りを見渡すと、みんなどこかで見たって顔をしている。
違うのは私と伊吹ちゃんだけ……
「……古代人形に…… 似てる…… ちょっとだけ……」
白ちゃんがそんな事をポツリと呟いた。
「古代人形って確か…… 古来街道を一年掛けて歩いているって言う巨大ゴーレムだっけ?」
「おに~ちゃんとルカが帰ってくるちょっと前…… 大要塞で見た……」
「あぁ~アレかぁ…… 見たってより私たちが守ってた大要塞を悠然と破壊していったアイツね。
あそこまでボロボロじゃ無かったけど、確かに似てるわ。
アイツの所為で巡り巡って私は妖魔族にお腹を刺されることになったんだよね…… 思い出したらムカついてきた」
そうか…… 旧魔王城・エメスから街を真っ二つに割り遥か彼方まで続いている大通り…… どこかで見た気がしてたのは古来街道に似てたからか。
うん、後で神那にも教えて上げよう。
「さて……」
街をざっと見渡して考える。
ここでなら目的のモノが手に入るだろうと言われ、やって来たのは良いが…… 果たしてどこに行けばイイんだろう?
宝石を手に入れるなら卸問屋とかオークションハウスとか? 普通に宝石屋さんを探すべきかな?
神那なら情報収集から始めるよね? でもこれだけ広く土地勘も無い街で手分けして探すのは危険かな?
「お嬢様」
「はい?」
そうだ、ミカヅキさんなら分身体を放って情報収集できるんじゃないかな? 瞬時に回収することも出来るし、でもどれくらいの広さまで放てるんだろう? 魔王城・オルターの広さからして、半径5kmはイケると思うけど…… 魔王プロメテウスとミカヅキさんが同じ射程距離とは限らないけど……
「お嬢様、事件が発生しました」
「え? 事件?」
「一瞬目を離した隙に筋肉が消えました」
? ミカヅキさんは全然筋肉質じゃ無いよね? あ…… 違う、ジークさんの事だ。え?
「き……消えたって?」
「いつもの単独プレーです、あの筋肉は孤独を愛しているんです」
ミカヅキさんは相変わらずジークさんに対して辛口だ。
でもどうしよう…… 集合場所も何も決めてないし……
「あの人のコトは放置しておきましょう、仮にも賢王と呼ばれる筋肉です、その内何事も無かったかのように合流してきますよ。心配するだけ無駄です」
う~ん…… でも確かに、しばらくするとひょっこり現れるんだよね。
神那もジークさんの単独行動には何も言わずに自由にさせてたなぁ……
隊長を任された身としては心配だけど、ジークさんはD.E.M. 唯一の大人だから、未成年で臆病者でバカな小娘が心配するのも烏滸がましいよね?