第166話 大空洞&大氷河ツアー 1 ~旅行編~
---有栖川琉架 視点---
黄泉比良坂から程近い空き地でホープを降り神那達と別れる。
別れ際、神那がいつもの表情をしていた…… あの不安げな顔だ。
しかし魔王城オルターに、既に魔王はいない、危険はないハズだ。それともまだ自動人形とか残ってるのかな? 制圧部隊が全部片付けたと思うけど、あの城って広いからどこかに……
どちらにしても関係ないか、神那は強いし。
こと機械兵器を相手にしたら、神那は世界最強だろう。
大戦終結後…… 厳密には炭鉱族の第二次魔王大戦参戦後から、ここ黄泉比良坂は開放されている。
彼らが大空洞に閉じこもった時に埋められてしまったその他の道はそのままだが、黄泉比良坂からのみ人々の出入国が認められてる。
もっとも未だに出てくる炭鉱族は軍関係者のみ、それ以外の人たちは殆んど出てきてないらしい。
まだ戦争終わって2ヵ月も立ってないし、これからかな?
そんな炭鉱族とは打って変わって、大空洞にやってくる種族は多い、その中でも人族がダントツで多いらしい。
鉱物などの地下資源の利権を独占しようとしてるらしい…… 戦争終わったばっかりなのに商魂たくましいなぁ……
もっとも世界中から嫌われていると思い込んでいた炭鉱族からしたら、堂々と押しかけてくる人族の存在は救われた気持ちになるだろう。
お爺様の所からも何十人も派遣してるって言ってたし……
正直に言うと大空洞の情報はお爺様に教えて頂いたものだ。そして今回の国境越えの許可はお爺様の部下の人が手配してくれた。
なので今回は堂々と大空洞に入れる。
そしてちょっとした高台に辿り着いた、そこからは黄泉比良坂の全景が一望できる。
「うぉおーーー! デッカイ穴!!」
「これが地下世界の入り口、黄泉比良坂……!」
以前きた時は、遥か上空からしか見ていない…… スカイダイブ中は抱き締められてて景色を気にしているヒマが無かった……
コホン。
前回来た時とは少し様子が変わっている。
螺旋状の道にはレールが敷かれており、そこをスキー場のリフトの様に一定間隔でカゴが昇り降りしている。
アレに乗れば穴の底まで運んでくれる。飛び降りる必要は無い。
今回はゆっくり観光気分で大空洞に突入します。
---霧島神那 視点---
黄泉比良坂でみんなと別れ、魔王城オルター探索隊は一路北へと向かう……
「ハァァァ~~~、楽しみだなぁ~~~、旧世界の遺産オルター! いつか見てみたいと思ってたんです!」
アーリィ=フォレストのテンションが高い…… しかし油断してはいけない、この子は直ぐに電池が切れるから……
「楽しみにしているトコロ水を差すようで悪いんだが、大氷河は今真冬だぞ? バナナで釘が打てるくらい寒いぞ?」
「本当ですか!? その実験やってみたいです!! バナナ持ってきてますか!?」
そっちに喰いついちゃったか…… 寒いって言ったの聞こえなかったか?
「いや…… 無い」
「そうですか…… この近くでバナナが買える場所といったら…… 獣衆王国ですか?」
買いに行く気かよ? 稼働時間短い癖に寄り道しようとするな。
「実験はともかく、鼻水が氷る寒さだぞ? 大丈夫か?」
「むふふ♪ カミナ君! 私の二つ名をお忘れですか!?」
アーリィ=フォレストの二つ名…… なんだっけ? “被扶養者” だっけ? それとも “自宅警備員” だったか?
「第7魔王 “探究者” アーリィ=フォレストです!! 私の熱い“探究魂”はちょっとくらいの寒さになんか負けません! この迸る知識欲は大氷河を溶かす勢いです!!」
なんかオチが見えるぞ…… まぁいい。
「分かった、アーリィ=フォレストの覚悟、しかと受け取った。たとえ何があろうとも俺がお前に大氷河を満喫させると誓おう!」
「はい! よろしくお願いします!」
この勢い、いつまで持つ事やら……
---有栖川琉架 視点---
「うわぁ………… すご……」
目の前に広がる地下世界、私も見るのは二回目だけど…… やっぱりスゴイなぁ……
これ程の大空間がどうやって形成されたのか全く分からない、だってこの上には大山脈まであるんだ…… デクス世界の常識では計れない神の御業ってヤツなのかな?
「この山の麓に見えるのが『根の国』です。ここ大空洞と地上世界を繋ぐ公益の街になっているそうです。
貴重な宝石や、貴金属なんかも自然と集まってくるそうですので、あそこでならお目当ての物も見つかるかもしれません」
「それじゃあそこでは宝石を安く買えるの?」
佐倉センパイが喰い付いてきた、そう言えばセンパイはキラキラ光るモノが好きだったなぁ……
「そうですね、以前来た時は露天で売られてる商品でも凄くクオリティーが高くて、それでいて値段はかなり安かったです」
「おぉ! それはスバラシイ! チャンス!!」
「?」
なんだろう…… 個人輸入でもするつもりなのかな? 既にガイアの企業も入ってるから今からじゃ遅いと思うけど……
「あれ? ケーブルカーがある? それに……鉄道も走ってる? ここって間違いなくシニス世界だよね?」
「ふむ、大空洞の技術レベルは高いと聞いたことはあったが、事実だったか」
全体的に茶色い絶景を眺めた。
---霧島神那 視点---
「カミナ君、寒いよ…… 物凄く寒いよ……」
俺が寒い奴みたいな言い方すんな。
「だから言ったろ? 鼻水が凍るほど寒いって…… ちなみにまだまだこんなモノじゃ無いぞ、もっと寒くなる」
「そっかぁ…… さすがは生物が殆んど住めない大氷河…… よし! それではカミナ君! オルターに到着したら呼んでください!」
アーリィ=フォレストはそう言い残すと箱に入ろうとした……
ガシッ!!
そんな彼女の手をしっかり握り捕まえる!
「あの…… カミナ君……?」
「させねぇよ?」
「いや、その、準備しよーかな? と思って……」
「大丈夫、心配いらないよ、全部俺に任せてくれ」
「そんな、お手を煩わせるようなコト……!」
「さっき誓っただろ? お前に大氷河を満喫させると!」
絶対に逃がさん!
別に俺はこの奴隷っ子をイジメたいワケじゃ無い、こんなクソ寒いトコロに男一人でいたくないだけだ。
俺も女の子だらけの大空洞ツアー(+筋肉)に行きたい所をを我慢して、大氷河ツアー(+本)に付き合ってるんだから、アーリィ=フォレストにも最後まで付き合ってもらう。
死なば諸共だ!
---有栖川琉架 視点---
以前、神那と来た食べ物屋さんに入る。
今回もココで情報収集させてもらう、神那からのアドバイスだ。
「いらっしゃい、おや? 他種族のお客さんか、こんな小さな食堂に来るとは珍しいね」
どうやら私の事は覚えていないらしい、前の時は炭鉱族に擬態してたから当然か。
みんながそれぞれ注文していると、ミラさんがこんな事を言いだした。
「私、カミナ様に敵を討つよう頼まれました、ですので大食いチャレンジに挑戦したいと思います!」
カタキって何の事だろう? 確かに私があんまり食べれなかったから神那に殆んど食べてもらったけど……
「お……お嬢ちゃんがやるのかい? そっちの大きい人じゃ無くて?」
「はい、私です」
「失敗したら5000ブロンドだけど…… いいのかい?」
「大丈夫です、頑張ります」
数分後…… みんなの前に料理が並ぶ、以前よりも少し量が少なくなってる…… きっと他種族用の盛りだろう。炭鉱族用の分量は人族にはかなり多い、ジークさん以外はみんな女の子だからあんなに食べられないので有り難い。
ただし……
ミラさんの前にだけ、巨大な皿に山の様に盛り付けられた料理が置かれる…… その量は私の分の10倍はありそうだ……
「制限時間は30分だよ?」
「はい、いただきます」
そうだった、ボ~っとみてても仕方ない、私たちもいただこう。
ちなみに私の食べ終わるのとほぼ同時にミラさんも食べ終わっていた、むしろミラさんの方が微妙に速かった……
つまり私の10倍の速度で食べていたって事になる…… 普通に食べてたように見えたけど…… そして相変わらず、アレだけの量を食べてもスタイルが一切崩れない…… 人魚族ってスゴイなぁ。
「……………………」
女将さんの目が点になってた。
ミラさんの大食いを始めてみるヒトは大体あんな顔をする。
---霧島神那 視点---
「ズズズ……」
「ズル……」
アーリィ=フォレストと共にカップメンを貪る…… 脇目も振らず一心不乱に……
「カップメンって……こんなに美味しかったんですね……」
「寒いトコロで喰うと、温かいモノはより美味く感じるんだよ……」
コレも旅の醍醐味……と、言えるのだろうか? 少なくともジャングルに引きこもっていたら分からなかった味だな。
折角女の子とのデートでランチがカップメン…… 美味いんだけどさ…… 釈然としない。
『主殿、見えてきたぞ』
「お、ようやく着いたか」
窓の外は一面の雪景色、そんな中にポツンとガーランドだけが佇んでる。
機能を停止したオルターにはガッツリ雪が積もっていて視認できない…… ガーランドが居なければ通り過ぎてたトコロだ。
要塞龍には雪は積もら無いモノなのか?
「さて…… 何処に降りるか? ガーランドの背中は平らじゃないけど、何とか降りられるかな?」
「あ、カミナ君、それなら私にお任せください」
アーリィ=フォレストがそう言うと、窓の外に巨大な葉っぱが現れた。
これは『世界樹女王』? そう言えば神代書回廊でも世界樹の枝葉をエレベーター代わりに使ってたっけ?
お言葉に甘えて死んだ人でも生き返りそうな葉っぱを足場にし、琉架が開けたらしい側面の大穴から中に入った。
---有栖川琉架 視点---
「女将さん、少々お聞きしたい事があるのですが宜しいですか?」
「え? あぁ…… な……なんだい?」
「私たち宝石の買い付けに来たんです、今回求めているのは上質なエメラルド、出来るだけ大きくて透明度の高いエメラルドってどこで手に入るか分かりますか?」
「上質な宝石かい? 確実なのは首都に行く事かねぇ? 大空洞内で産出された宝石は一度首都に集められる」
「首都…… 魔王城・エメスの城下町ですか?」
「おや? 良く知ってるねぇ? ただし今は首都・エメスだ、魔王城は大統領府って呼ばれるようになったよ」
終戦から僅かしか経って無いのにもう選挙して新しいリーダーを決めたんだ……
でもちょっと早すぎる気がする…… ちゃんと選挙したのかな?
「あの…… 大統領って?」
「英雄・エメマンの孫『青峰のブルマン』さ」
暫定統治者に任命したら、いつの間にか真の統治者になってた……
炭鉱族の人たちが受け入れてるなら別にイイか。
新・第8魔王が大空洞に関与するのは戦争終結までって宣言したし……
「英雄・エメマン…… もしや『緑峰のエメマン』か?」
ジークさんが声を上げた、緑峰のエメマン?
「おや? 人族でも知ってる人は知ってるんだねぇ、そうさ500年前の英雄・緑峰のエメマンさ。
その孫の青峰のブルマンが新・第8魔王 “女神” から直接大空洞の暫定統治者に選ばれたんだと」
ギク!
「その後、戦争終結後に選挙で正式に統治者として選ばれたんだ。もっとも内乱の所為で対立候補は残っていなかったけどね」
あぁ…… よくよく考えれば当然だった、大空洞の内乱は新しい支配者を目指した人たちが引き起こしたんだ。
そして最後の二人にまで絞られてたんだ、「統治者になろう」なんて気概のある人は残って無かったんだ。
あれ? でもそれじゃ……
「あの…… 軍を率いて参戦してきた…… えっと…… キリマンジャロさん? その人は?」
「キリマンジャロ? あぁ、キリマンかい? 軍の最高司令官に収まったよ」
どうやらあの人は根っからの軍人だったらしい……
それで良いんだ……