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レヴオル・シオン  作者: 群青
第四部 「転移の章」
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第164話 箱入り娘


 俺は今危機を感じている……


 我がギルドD.E.M. には現在、5人もの魔王が在籍している……


 ギルマスであり、リーダーであり、みんなのダーリンでもあるこの俺。

 “禁域王” 霧島神那


 そして俺の未来の嫁達……

 “女神” 有栖川琉架

 “人魚姫” ミラ・オリヴィエ

 “神眼” 如月白

 “夜叉姫” ミカヅキ


 全員、見目麗しい美少女達だ。

 こんな美少女達に囲まれて、俺は三国一の果報者だぁ。


 そしてこの魔王少女たちはとってもお強い…… 俺はそこを危惧している。

 この禁域で、もし夫婦喧嘩が勃発したら、一体どうなってしまうのだろう?


 未来予知能力を持っている琉架に勝てる要素が見当たらない……

 超震動体となり音速移動できるミラを止める術は無い……

 魔王になりたての白とミカヅキなら…… 一対一なら何とかなると思う……


 白が『摂理の眼(プロビデンス)』を完全制御に成功したら何が起こる事やら……

 ミカヅキが『鏡界転者(レプリカント)十重奏(デクテット)』を習得したら、俺一人では手が足りない……


 今日も今日とて二人の新米魔王は訓練に励んでいる。

 白は観賞用の小さな鉢植えを並べ、緋色眼(ヴァーミリオン)摂理の眼(プロビデンス)を交互に切り替えている。

 今はまだその切替もまともに出来ていないので、まずは慣れる事が重要なのだろう。

 ミカヅキは現在三人に分かれ、料理と掃除と洗濯を同時に行っている…… 元々優秀なメイドさんの仕事量が一気に三倍になった。

 コレで家事に掛かる時間が短縮され訓練の時間が取れる、それどころか家事そのものが訓練になっている。


 俺が追い越されるのも時間の問題だな。


 コレは由々しき事態だ。もしかして俺って新世代魔王の中で最弱なんじゃないか?

 フェミニストである俺は女の子たちとケンカすることなど無いだろう。

 仮にケンカになったとしても、彼女たちに手を上げることなど俺には出来ない。


 いや、そもそもケンカなどしなければいいだけの話だ。

 問題なのはリーダーである俺の威厳の話だ。


 俺は関白宣言などする気も無いし、威厳などどうでもいいと思っていた。しかし日々訓練に明け暮れる白とミカヅキを見ていると、このままではいけない気がしてくる。

 しかし今の俺に一体どれほどの伸び代が残されているのだろうか?

 ギフトは結構使いこなしているつもりだ。後は第1階位級の魔術でも習得するしかないか? ぶっちゃけ今の俺の能力値でも使いこなせるとは思えない。


 そろそろ俺専用装備の一つでも欲しくなってくる、アーリィ=フォレストの『神杖ケリュケイオン』みたいなヤツだ。

 アイテムに頼るのは情けない気もするが、あって困るモノでも無い。

 問題はそんな都合のいいものが何処で手に入るのか? D.E.M. で所蔵している魔道具の中にもこれと言って良いモノは無い。原初機関にも無かった。

 主人公専用の伝説の魔剣とか通販で売って無いかな?


 何か忘れてる気がするんだよな、伸び悩みの現状を逆転できる可能性のある何かを……



 そんな悩める美少年の下に、ある日一つの箱が届いた……



---



 その日…… ジークがそれを持って現れた。


「カミナよ、お前宛てに荷物が届いているぞ?」

「俺宛て?」


 また不幸の手紙が段ボールで送られてきたのか? もう面倒くさいから一箱で一通ってカウントしようかな? 全く不人気者は辛いよ。


 テーブルの上に置かれた一つの箱、大きさはランドセルくらいか、いつもの不幸の手紙が詰め込まれた段ボールより二廻りくらい小さい、俺の人気にも陰りが見えてきたのだろうか? 握手券にCDでも付けた方がイイのかな?

 差出人は…… ドリュアス・グ=リーフ。

 第7魔王を影から操る大森林の真の支配者、上位精霊(ハイ・スピルト)のドリュアスからだった。


「もしかして…… 記憶書の解析結果か?」


 いや、解析できたら知らせてくる手筈になってたハズ、わざわざ郵送なんてしたら時間の無駄だ。

 ホープを使えば数時間で行ける場所だが、郵送では3~4週間は掛かる。

 一応この荷物は速達指定されていて、差出日は2週間前…… ナマモノでは無いだろう。


 ………… 何だろう、爆発物かな?


「どうした? 開けないのか?」

「あぁ、いや……」


 ドリュアスがそんなモノを送ってくるとも思えないが、開けた途端、老化ガスが噴き出しておじーちゃんになるとか…… ピンク色の媚薬ガスとかが噴き出してアーリィ=フォレストと結婚したくなるとか……

 まぁ、魔王には毒耐性があるから平気なんだが……


「ジーク、ちょっとコレ開けてみろよ?」

「俺がか? 別に構わんが……」


 良し、我が家の爆発物処理班ジーク隊員の出動だ。


 例え爆発物でも不死のジークなら問題ナシだ。

 例え老化ガスでも不老のジークなら問題ナシだ。

 例え媚薬ガスでも不能のジークなら問題ナシだ。


 うむ、これ以上ない程の打って付けの人材だ。


 ジークが包装を剥ぎ取ると、そこには木製の箱と一枚のメモ書きが添えられていた。

 そこにはこう綴られている……


『開封はカミナ様が行って下さい』


 ……と。


 あの精霊さん…… 相変わらず優秀だな、こちらの考えを読んでやがった……


「名指しされてるな、ではカミナがやれ」


 ジークは融通が利かないから、こんなメモ書きが添えられてたらもう代わりにはやってくれないだろう。

 こうなったら先輩に500ENでやって貰おうかな? しかし何かあったら確実に死ぬだろうし……


 まぁ、ドリュアスが七大魔王同盟を反故にし、俺と敵対するとは思えない。開封者を名指しで指名されてる所は気になるが、別に危険は無いだろう。

 仕方ない、開けるか。


 箱を持ってみる、すると非常に軽かった。

 木製の箱の重さしか感じない、中身はカラじゃ無いのか? 或いはガスとか?


 ギシ……


 かなり頑丈に密閉されてる、一体何が入っているのやら、お宝でも入っているのかな? だったらパソコン部品って書いといてくれよ。

 そんなもの郵送してこないか……


「よっと」


 バコン!


 箱上部の蓋が勢いよく開かれた。

 中を覗きこんでみる…… すると……


「…………」

「…………」


 誰かと目が合った……!


「うぉあっ!!?」


 ガシャン!


 思わず箱を放り出してしまった、え? ナニ? 箱の中に誰かいるよ?

 一瞬だったがその眼は確かにオッドアイだった……

 右眼は美しい緑柱石(エメラルド)、そして左眼は紅緋色(ヴァーミリオン)…… アレ? この組み合わせって……

 恐る恐る箱を覗き込んでみると…… そこには目を回したアーリィ=フォレストが倒れていた……


 ナンダコレ?



---

--

-



 箱の中は広かった…… 六畳ほどの空間に以前に見た引きこもり部屋の中身が再現されていた。

 出入り口はランドセルサイズで、俺がギリギリやっと通れるほどしかない。

 コレは完全に小柄な女性用だな。琉架やミラ辺りは胸がつかえて通れないんじゃ無いか? ミカヅキレベルになると完全に通れない…… 要するに貧乳用……ゲフンゲフン! スレンダーバディ用だ、もちろん口には出さない……


 これは…… 魔神器の様なモノなのだろうか? しかし魔神器に生物は入れられない、この箱は魔神器より高性能なのだろうか?


「うぅ…… 酷いですよカミナ君…… いきなり放り投げるなんて……」


 俺が箱を放り投げたせいでアーリィ=フォレストは頭を思いっきりぶつけたらしい。

 涙目で頭を撫でながら恨み言を溢す。


「悪かったよ、まさかアーリィ=フォレストが入ってるとは思わなかったんだ」


 まさに箱入り娘だな、心情的にはビックリ箱入り娘だが…… もっともアーリィ=フォレストは以前から引きこもり部屋という名の箱に籠りっぱなしだったが……

 しかし……


「何なんだ? この移動式ヒキコモ部屋は?」


 どうしてこの世界の魔王は引きこもりにココまで命懸けなんだ? この箱が郵送中に海にでも落ちたらどうするつもりだったんだ?


「ヒキコモ言わないで下さい、コレこそが私のリハビリ目的に創り出した『移動式四次元万能研究室・4D(フォーディー)ラボ』です!」

「い……移動式四次元万能研究室・4Dラボ……! だと!?」


 アーリィ=フォレストがドヤ顔で説明するからノッてあげたが、どう見ても引きこもり部屋です。


「研究室かどうかは置いとくとして、俺、思いっ切り放り投げちまったが、この荷物、ワレモノ注意と書かれて無かったしココに来るまでの間にも乱暴に扱われてたんじゃないのか?」

「扉……というより、蓋が閉まっている間は、内と外の空間は断絶してます。どんなに振り回しても中には影響が無いんです」


 なるほど…… そこは魔神器と一緒なんだな、どんなに振り回しても中身がバラバラにはならない。


「コレは空間を圧縮…… 或いは歪曲されてるのか?」


 魔道具か? 神器クラスの技術だ。


「私が上位神術で創ったんですよ」

「ナニ!? アーリィ=フォレストが自分で創ったのか!?」

「そうですよ、さっきから言ってるじゃないですか? 私が自分で創り出したって…… もっともゼロから創ったワケでは無いですが」


 そ……そんな事が出来るのか?

 忘れていたのはコレか…… 俺は神術を習うつもりだったんだ。

 こんな事ならもっと早く習っておけばよかったぁ!


 コレは何としても習得したい所だ、最近伸び悩み気味の俺には朗報だ。


 ハーレムの主として、みんなを守れるくらいの力は欲しいからな。



 それはさておき、魔王様のお部屋拝見だ、この部屋…… やたらと大袈裟な名前が付けられてる『移動式四次元万能研究室・4Dラボ』だ…… なんだろう…… ドコか違和感がある。

 いや…… 部屋自体は普通の引きこもり部屋だ、ただし天井だけが異常に低い、俺が普通に立てば頭がぶつかる、恐らくアーリィ=フォレストの身長に合わせてるのだろう。

 出入口が天井部分に付いてるせいだな。

 窓は無く光源はディスプレイに頼っている所なんかが非常に目に悪そうだ。

 おかしな所だらけだが、引きこもり部屋としてはおかしな所は無い、この狭く閉塞的な感じは個人的に結構好きだ。

 ではこの違和感は一体…… 気になるのはせいぜい冷蔵庫が無い所か……


 そこでようやく違和感の正体に気付いた!


 この部屋! 風呂もトイレも無いんだ…… おい! アーリィ=フォレスト! お前…… まさか落ちるところまで落ちたのか?

 イヤだぞ? 俺の嫁候補がボトラーとか……


「お話は後でするとして…… 申し訳御座いませんが、何か食べさせて頂けないでしょうか?

 かれこれ2週間ほど飲まず食わずだったもので……」


 もしかして出さない為に飲まず食わずの修行僧みたいな事したのか? 如何に半不老不死の魔王とはいえ無茶しすぎだろ…… 命賭けすぎ……

 取りあえず良かった…… 命に別状が無い事と、ギリギリの所で踏み止まっていた事が。引きこもりのリハビリも大変だなぁ……


---

--

-


「イヤァー!! ヤッ…ヤメテッ!! 出さないで!! こ…こんな…… 出されたら死んじゃいます!!」

「やかましい! 抵抗しても無駄だ、観念しろ!」


 激しい抵抗を見せるアーリィ=フォレストを4Dラボから無理やり引きずり出す。

 「飯を食わせてやるから取りあえず部屋の外へ出よう」……と、促したら、「あ、ココに持ってきて下さい」とか言いやがった……

 リハビリ用に創った部屋に籠もっていてはリハビリにならない…… なので実力行使する。

 奴隷志望の彼女は命令すれば言うことを聞くだろうけど、それを繰り返したら本当に奴隷になってしまいそうなので腕力に物を言わせてみた。

 まぁ、腕力に自信なんか無いが、俺よりもっと細いアーリィ=フォレストなら捻じ伏せられる。


「うぅ…… グスッ ヒドイ……ヒドイよ…… こんな強引になんて……」

「フン! 初めてってワケでもあるまい、野良犬にでも噛まれたと思って諦めるんだな」


 そんな時、背後に複数の視線を感じた…… あれれ? 確かこの部屋にいたのはジークだけのはずだが……


「神那クン…… 遂に……」

「おにーちゃん…… 死ね!」


 先輩と伊吹がいた、何故このタイミングで現れる?


 先輩は「とうとうヤりやがったか」って目をしている……

 伊吹は本気で俺の死を願っている……


「違うんだ」


 日頃の行いの所為だろうか?

 俺の弁明はちっとも受け入れて貰えなかったのは言うまでもない……




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