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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
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第159話 第10魔王 ~終局~


「うおおぉおぉぉぉ!!!! 『封魔剣技・奥義・斬鎧剣』!!!!」

「はああぁあぁぁぁ!!!! 『封魔剣技・奥義・斬鎧剣』!!!!」


 ダブル勇者がそれぞれ別の鉄機兵を切り裂いた。


「天地に響け! 敵を喰らえ! 雷獣牙(ライトニングファング)!!」

「天地に轟け! 敵を撃て! 雷獣牙(ライトニングファング)!!」


 ダブル勇者の雷撃魔法がそれぞれ別の鉄機兵を内側から焼いた。


「きっ…貴様っ! さっきから人のマネをするんじゃない!!」

「イヤだなぁ、僕は勇者として出来る事をし、人々を守ってるだけです」

「お前にだけは絶対負けん!!」

「いや、変な対抗意識を燃やさないで、協力して戦いましょうよ?」


 ダブル勇者は最前線で言い争いを始めていた。




「ナニやってんだアイツ等……」

「神那、あの人たちの事はいいから私たちの方は大丈夫なの?」

「まぁ…… 大丈夫だ、それより打ち合わせ通り行こう。キラキラの鉄機兵はミラに任せて大丈夫か?」

「はい、お任せください」


 そう言ってミラは力こぶを作るポーズを取る…… 不安だ。

 この御嬢さんに鉄機兵駆除をまかせて本当に大丈夫か? 相手は台所のGじゃ無いんだから……

 いや、仮にも新・第6魔王。ブリキの兵隊程度 物の数じゃないか……


「よし、それじゃ第10魔王討伐を開始する!」

「お~~~!」

「はい!」



 まずはキラキラ鉄機兵の掃除、サクラ先輩の話だとアイツ等が熱線の最終反射板替わりを務めているらしい、つまり先に倒しておけば少なくとも精密射撃は出来なくなるワケだ。


「それでは行きます」


 ミラが言い争いをしているダブル勇者の後方に立つ。


神曲歌姫(ディリーヴァ) 神曲『煉獄(パーガトリー)』」


 ミラを中心に力場(フィールド)が展開される。数百メートルある塔をスッポリ覆い尽くすほどの広さだ。

 神曲『煉獄(パーガトリー)』…… その能力は……


 ヴン!


 目の前に立っていたミラが消えた……

 ミラは瞬時に移動し、一体の鉄機兵の背後に回り込んでいた。そして……

 物理にも魔術にもめっぽう強い装甲を素手で破壊しボディを貫通していた。

 その手からは砂のような細かな粒子が零れ落ちている。


 そして次の鉄機兵の背後に回る。まるで瞬間移動でもしているかのように……

 神曲『煉獄(パーガトリー)』、それは特定領域内限定で自らの体そのものを超震動体に変化させるモノ。触れたモノを塵に変え、音速での移動を可能にする。

 コレこそが魔王の力により進化した強化ギフト『神曲歌姫(ディリーヴァ)』の真骨頂だ。


 神曲『煉獄(パーガトリー)』…… 名前から察するに他にも天国や地獄が存在するのだろう。

 超強い…… もちろんノーリスクというワケにはいかない様だが……


 ………… アレ? コレってもしかして俺より強くね?


 ヤバイ…… 俺のハーレムがいつの間にかカカア天下ハーレムになろうとしている!

 コレは由々しき事態だ! ちょっと…… 修行でもしてこようかな?

 しかし俺は由緒正しき一般人の血筋、ちょっと修行したところで野菜の国の人たちみたいに劇的に強くなれるとは思えん…… どこかに一日で一年分の修業が出来る部屋とかないかな?


 そうこうしている内に、ミラはキラキラ鉄機兵を全滅させていた。

 ダブル勇者と王連授受も目を剥いて驚愕している。


「ふぅ…… けほっ」

「大丈夫か? ミラ」

「はい、ちょっと喉が痛いですけど……」

「酷いのか?」

「いえ、無理をすれば神曲歌姫(ディリーヴァ)は使えますが、威力や精度は多少落ちると思います」


 思ったより大したリスクじゃないが、対魔王戦で仕留めきれなかったら致命的だ。

 とは言え流石に連続で神曲を詠う事は出来無いだろう。

 もっともそれをフォローするために俺達がいる訳だが。


「そうか、いや、無理しなくていい、休んでてくれ」

「はい…… では後はお願いします」



 ミラを下がらせ蜘蛛型鉄機兵の正面に立つ。

 取りあえず、他のヤツと材質が違う蜘蛛型に魔術が効くか試してみるか。


「第3階位級 雷撃魔術『建神御雷』タケミミカヅチ!」


 雷撃を限界まで圧縮し、宙に浮いてるイケメンヴィジョン目掛けて放つ!

 決してイケメンが嫌いとかじゃなくて…… まぁいいか、雷球はヴィジョンを掻き消し貫くと、蜘蛛型のボディに直撃する!


 カッ!!!!

 バシュゥゥゥゥゥゥン!!


「お? 何だ? 消えた?」


 放たれた雷撃は、蜘蛛型鉄機兵に触れた瞬間、弾かれるでもなくその場で消滅した。


『無駄ダ、このアラクネは魔力を吸収する魂魄鋼(アニマタイト)で出来ている…… このボディはあらゆる魔術を無効化すル』

魂魄鋼(アニマタイト)? 伝説の未確認物質…… 実在したのか……」


 魂魄鋼(アニマタイト)…… 魔力を吸収するだけじゃ無く、非常に高い熱耐性を持ち、そして恐ろしく硬い。


『愚か者に死を…… 熱線照射』


 蜘蛛型鉄機兵・アラクネの背中に赤い光が見えた。例の熱線攻撃か…… しかし甘い。


「第7階位級 金属魔術『徹甲』アーマー・ピアシング チャージ10倍 拡散誘導」


 熱線が放たれるより先に、琉架の徹甲(アーマー・ピアシング)が塔の内壁を討つ。


『!?』


 ドドドドドン!!


 その攻撃により塔の内壁に小さな穴が開く、そしてアラクネの背中から放たれた熱線はその穴に吸い込まれるように消え、塔の外へと排出された。


『コレは……』

「まぐれかどうかもう一回試してみるか?」


 琉架の『事象予約(ワークリザーブ)』で熱線の反射ポイントを先行して潰したのだ。アイツがバカじゃ無ければそれが何を意味するのか分かっているハズだ。


『確率予測か? しかしコレは…… ならばコレならどうダ?』


 今度は数百発ものマジックミサイルが放たれる、見たトコロ火と風の複合魔術に見える…… 無詠唱だろうか? しかし魔法攻撃は俺には通用しない。


 パキィィィン!


 数百発のマジックミサイル全てを反魔術(アンチマジック)で迎撃した。

 例え数千発でも一種類の魔術なら容易くキャンセルできる。


『ぬゥ…… おのれ!』


「あ! 神那、追加のキラキラが降りてくるよ」

「そうか、それじゃ打ち合わせ通り、琉架は天照で落ちてくる前に全部切り捨ててくれ」

「え~と…… イイの? 塔が穴だらけになっちゃうけど?」

「構わないよ、この塔は飾りだ」

「へ? 飾り? う…うん、分かった」


 事象予約(ワークリザーブ)を駆使し、天照を最小限のふり幅で切り捨てていく、その度に目に見えない程の上部から真っ二つに切り裂かれたキラキラ鉄機兵の残骸が落ちてきた。


『ムウゥ!!』


 今度はアラクネが二本の前足を高く掲げた、魂魄鋼(アニマタイト)製の足を使った物理攻撃か。

 その足の先端は鋭く、刺突剣の様になっている……


『この足は斬れまイ!』


 前足を俺と琉架目掛けて振り下ろしてきた……

 いや…… 天照なら余裕で斬れるよ? ただ被害が出るからやらないだけで……


 ビタッ!!


 俺達の目の前でアラクネの足が止まる。

 さっきと一緒だ、強制転送(アスポート)で前足の関節部分を輪切りにしてやる。


 ズズズ…… ドォォォン!!


 やたら重そうな音を立てて、アラクネの足は床に落ちた。


『…………!』

「どうした? もう終わりか?」


 この魔王は弱い……

 いや、そもそも今俺達が相手をしているのはあくまでも魔王が操る機械に過ぎない。

 実物の魔王に比べればこんなモノはガラクタに過ぎない……

 そして実物の魔王が直接出てこないのにも、それ相応の理由が有るのだろう……


「ならそろそろ、こっちから行かせてもらうぞ!」


 アラクネに向かって飛び出す!

 頭の中心部に見えているオーラを破壊するために……


「弐拾四式血界術・壱式!!」


 霧状に変化した血液が皮膚から滲み出し、右腕全体を覆う!


「『超絶破壊』!!!!」


 ビシッ!!!! ……ドゴオオオォォォオオン!!!!


 霧状の赤い粒子に覆われた右腕で、鉄機兵アラクネの顔面部分を殴りつける!

 アラクネのボディには、突き出された拳の直線状に風穴が出来ていた。

 これは血液変数(バリアブラッド)により“超弦震動子”という、オリジナル分子を創り出し、それに振動を与え超高速で打ち出したものだ。

 理論上どんな物質でも破壊できる俺の切り札だ。


 ただしかなり魔力を消費する技で、魔王化以前だったら一発で魔力枯渇寸前にまでなっていただろう。

 アラクネが巨大すぎて強制転送(アスポート)で破壊できなかったから仕方ない。


 ガラガラガラ……


 アラクネは風穴から崩壊が全身に行き渡り、僅か数秒で瓦礫の山と化した……



「「「「お…… おぉ…… おおおぉぉぉおおおーーー!!!!」」」」


 一瞬の静寂後、塔の中は喝采に包まれた。


「神那ぁ、今のが魔王プロメテウスの本体だったの?」

「まさか、本番はこれからだよ」


 取りあえず第一フェイズ終了。

 引き続き第二フェイズに移行する。


「神那、や……やったのか?」


 クリフ先輩とその他、俺と面識のある人たちが一歩前に出て問い詰めてくる。


「まだですよ、アレはあくまでもただの鉄機兵です。魔王本人を見つけて倒すまで終わりません」

「それじゃまだ、あんな奴らが次々出てくる可能性があるのか?」

「いえ、相手が無限の物量を有しているならまだしも、数で押しても俺達には通用しない事は理解できたと思います」

「ならば魔王本人を探さなければならないな」

「はい、だから本人に直接聞いてみようと思います」

「? なに?」


「血糸・影縫い」


 何の前触れも感じさせずに突然、その場にいた一人の人物を拘束する。


「ぐっ!? ちょ……ちょっとアンタ! 一体何のつもりよ!!」


 拘束されたのは…… シャーリー・アスコットだ。


「何を……! お前一体何をしてるんだ!?」

「クリフ先輩…… 彼女は偽物です」

「な……なんだ……と?」


 血糸により拘束された彼女は、一切抵抗せず、一言も喋らず、ただ静かに目を閉じていた。


「入れ替わったのは転移魔方陣の時か? 本物はどうした?」


『………… よく…… 分かったな? 何故バレた? どうやって見破った? 何かミスを犯したか?』


 こちらの質問は完全に無視し、逆に質問してきた…… 厚かましい奴……


「声も姿も仕草もほぼ完ぺきだ、しかし行動に違和感があった。お前は全員を誘導してこの塔に閉じ込めようとしていただろ?」


 そこに違和感を感じた。ついでに言えばシャーリー・アスコットという女は、言動がもっとヤンキーっぽいのだ。良く演技で来ていたが、彼女に視線は敵を射殺さん勢いがある。


「さて、もう一度聞く、本物はどうした?」

『生きてはいる…… 無事かどうかは分からんがな』

「!! き……貴様!!」


 生きてはいる……か、生きているだけマシ……と考えるか。


『お前達…… コレで勝ったつもりか?』

「あ?」

『宣言しよう、お前達は3分以内に全滅する! 新たな神に逆らいし愚か者共に死を!』


「そうか、ならば俺もお返しに予言しよう。魔王プロメテウスは3分以内に死ぬ」


 そんな事を堂々とドヤ顔で言い放った!


『……ハッ 出来もしない事を……』

「トコロがそうでも無い…… お前が俺達を全滅させる手段は“この”大砲を使う事だろ?」

『……ッ!?』

「この大砲? 神那、一体どういう事だ?」


 クリフが代表して疑問を口にする。


「この塔は巨大な大砲の砲塔なんですよ、今俺たちのいる場所から遥か下まで続いている…… つまり俺達は巨大大砲の砲身の中にいるんです。

 コレは恐らく浮遊大陸を破壊するためのモノ、そこに魔王討伐隊を誘いこんで一網打尽にする計画だったんですよ」

「こ……この巨大な塔が…… 砲身?」

『何故……分かった?』

「たまたまこの塔の地下構造をこの目で見れた事と、1200年前にお前がそんな大砲を作っていたという情報を得ていたからだ」

『そうか……しかし少し遅かったな』

「あん?」

『浮遊大陸破壊兵器『執行官鉄槌(エクスキューショナー)』の発射準備は整った』


 ヴゥン――― バリバリバリバリ!!


 周囲の壁が発光しだし、帯電し始めた…… あぁ、発射の最終段階か。


 この現象により、出入り口は通行不可能になる。


『あえてもう一度宣言しよう、お前達はここで全滅する!』


「お……おい! これって……!!」

「ま……不味いんじゃないか!?」

「ぅおい! 普段あまり役に立たないギルマス! 何とかしろぉ!」


 そこに居る全員が慌てだした、それも当然だろう…… 浮遊大陸破壊兵器の直撃を受ける事になるのだから。


「魔王プロメテウス、お前は機人族(イクスロイド)出身の魔王だったな?」

『?』

「全12種族の中で最も能力値の高い機人族(イクスロイド)、その魔王であるお前は12魔王の中でもずば抜けて高い能力値を誇っているのだろう」


 それでも琉架には及ばないだろうが……


「しかし如何に高い能力値を誇っていても、果たして浮遊大陸を破壊できるのだろうか?

 アリアやギルディアス・エデン・フライビは生物の力でどうこう出来るレベルじゃ無い。

 一番小さなラグナロクですら、至る所に魔法陣が刻まれていて絶対的な対魔防御を誇っている……って噂だ。

 そんな浮遊大陸を破壊するには普通の魔力では到底足りないんじゃないか?」

『…………』


「そこで考えたんだ、普通じゃあり得ない兵器を使うには、普通じゃ無い魔力を使うんじゃないか?と……

 つまり…… 『純粋魔力(ハーティリー)』を使うんじゃないか? それ即ち、お前自身が『執行官鉄槌(エクスキューショナー)』の動力源になってると……」

『き…貴様っ まさか!!』


「チェックメイトだ」



---


--


-



 ― 魔王城・オルター 最下層 ―


 そこに一人のメイド姿の少女が降り立った。


「見つけた……」


 メイド姿の少女ミカヅキが降り立った場所、そこはオルターの動力炉。

 透明な床の下は蜂の巣の様な小部屋に分かれており、そこには何かの液体が満たされていて、プールの様になっている。

 そしてその小部屋の中には人が裸で沈められていた。

 種族は様々、機人族(イクスロイド)耳長族(エルフ)が多い気がする。恐らく全員女性だ。


 そんな部屋の中心に、一つだけ高さ2メートル程の水晶の柱が立っていた。

 その水晶の中には人のコブシ大ほどの心臓が封印されている。


 この心臓こそが『第10魔王 “災器” プログラム・プロメテウス』の本体である。


「マスターが仰ったとおりのモノを見つけました」


 ミカヅキが念話通信を行う。


『有ったか…… やはり心臓だけだったか?』

「はい、マスターの予想通りです」

『そうか…… なぁミカヅキ、本当に良いのか?』

「お気になさらないで下さい、コレは私自身が望んだコトです。私は自らの意思でココに居ます」

『………… 分かった』


 キュイイイィィィィィィィン


 突然、部屋全体が発光し始めた。


「どうやら準備が整ったようです」

『そうか、それじゃミカヅキ…… 頼む』

「はい」


 そう言ってミカヅキは愚か成り勇者よ(フーリッシュ・ブレイブ)を構え、『気』を刀身に纏わせる。

 こうする事により高密度の魔力を無視して攻撃できる。


「魔王プロメテウス…… ご安心を、貴方の魔王の力は私が責任を持って引き継ぎます……

 ですので、さっさと渡して安らかにお休みください」


 ミカヅキは水晶の柱ごと、心臓を断ち切った。




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