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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
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第157話 第10魔王 ~合流~


「超振動……零距離放射」


 ミラは分子結合を崩壊させる振動波を、敵の間合いの内側に潜り込み直接打ち込む。


「剣王流奥義…… 鋼通し」


 剣王は逆手に持った剣の柄を敵の鎧に叩き付ける、その衝撃は鎧の最も硬い部分を通り抜け内側に到達した。



 現在、白銀の鉄機兵と単体で渡り合えるのはミラ・オリヴィエと剣王・レヴィンだけ……

 他の討伐隊メンバーはその様子をただ見守る事しか出来ない。精々自分たちの身を守りながら。


 そう…… 白銀の鉄機兵の後ろに控えている蜘蛛型は戦っている二人を無視して、私たちに攻撃を仕掛けてくるのだ。

 攻撃法は小型のマジックミサイル。アレは一体何属性の魔法なんだろう?


「魔弾『流星群撃(メテオストリーム)』!!」

「炎弾よ、我が命に従い敵を撃て!『魔炎乱武(ブレイズアロー)』」


 弓王・シルヴィアと魔法王・ラケシスの二人が攻撃を撃ち落としてくれる。

 魔法攻撃なら私も反射できるんだが、これはあくまで切り札だ。ギリギリまで見せない事に意味がある、使わずに終わるならそれに越した事は無い。

 それでも二人の弾幕を抜けてくるマジックミサイルは……


「『天五色大天空大神(アマゴシキダイテンクウダイジン)七撃の壁(セブンズ・ウェーリング・ウォール)!!!!」


 ドドドドン!!


 私の痛々しい後輩が止めてくれる。間違っても同級生じゃ無い。

 問題は…… 効かない攻撃を魔王プロメテウスがいつまで続けてくるか……だ。

 この攻撃は、明らかにこちらの実力を測るためのモノだ。さっきから空中に浮かんでいる第10魔王のイケメンヴィジョンも黙ってコッチを観察している。

 その観察が終わった時、こちらが防御できない攻撃が始まるんじゃないだろうか?


『解析完了…… 熱線照射』


 いきなり蜘蛛型の攻撃が変わった!?

 蜘蛛の背中から何本もの真っ赤なビームが放たれた! しかし…… 明後日の方角に向かって…… どういうつもり?

 そう思ったのも束の間、熱線は塔の内壁に反射して角度を変えた。

 熱線は反射を繰り返しながら少しずつ寄り集まって一本に収束し迫ってくる! マズイ…… 射角が読めない……!


 バシュゥゥゥン……


「え?」

「は?」


 気が付いた時には熱線は武尊の腹を貫通していた。

 よく見れば一体だけ戦闘域から外れていた白銀の鉄機兵がいる。そいつが最後の角度調整をして、真横から熱線を放っていたのだ。


「熱っ…… な…何だ…コレ……?」

「た…武尊!! 誰か治癒魔法を!! 急いで!!」


『空気密度が流動してイた為、ターゲットよりコンマ03%の誤差……』


 マズイ! 防御の要がやられた!

 どうやら心臓を狙っていたらしいが、空気の壁のおかげで致命傷は避けられたみたいだ。

 しかし致命傷が避けられたからと言って何だというのか…… この傷では直ぐにギフトは使えない、仮に使えたとしてもあの熱線は空気の壁を容易く貫通する、そして次は誤差を修正してくるに決まってる。


 あぁ…… ダメだ、終わった。

 アレは魔法じゃ無いよね? うん、きっと『龍紅珠輪(カーバンクル)』でも跳ね返せない。そして『鉄筋骨(スチカル)』を使っても貫通されるだろう。

 つまり防ぎ様が無いってコトだ。

 私は何番目にやられるんだろう? 多分最後の方だろうな、脅威度低いし…… まさか次ってコトは無いよね?


 ガラにもなく辞世の句でも読もうかと考えていたその時だった……


 ガガガァァァァアアアン!!!!


「うわっ!? 何コレ!!?」


 鼓膜が破れるかと思った! 直ぐ近くに雷でも落ちたかのような轟音だった!

 いや、実際に落ちたのだろう。

 空気の震え、衝撃波、出入り口のトンネルから凄まじい光が射し、それと同時に床がビリビリと震えていたのを感じた……

 私の人生の中で、至近距離に雷が落ちた事など無かったが、直感ですぐに理解できた。

 間違いない…… コレは我がギルドで最強と言われる魔王様がやったんだ。


 あぁ、肝心な時に役に立たないギルマスの事じゃ無くってね?

 “女神”有栖川琉架が降臨なされたんだ!


 今ハッキリと見えた! 私の生存フラグが!

 もう第10魔王なんて怖くない!


 そう思い、振り返り宙に浮かぶイケメンヴィジョンを睨みつけた瞬間……

 熱線の第二射が放たれていた……


 先ほどと同様に、塔の内壁に反射しながら一本に寄り集まっていく……

 そして気になるコトが一つ……

 最終反射板の代わりをしていた白銀の鉄機兵が私を見ている気がする…… まさか…… 気の所為だよね?


 カッ!!!!


 私の視界が赤い光に包まれた…… どうやら気の所為では無かったらしい。

 何がいけなかったんだろう? 私よりも先に倒すべき人なんて沢山いるでしょ? それとも痛々しい後輩に偉そうに指示を出していたから指揮官だと思われたのかな?

 失敗した、次に生まれてくる時は謙虚に生きていこう…… 贅沢は言いませんが出来れば人間に生まれたいです…… せめて哺乳類、昆虫は勘弁してくださ……


 バチィィッ!!!!


「うわっ!!?」


 私の目前にまで迫っていた熱線は、何かにぶつかり弾かれていた。

 恐る恐る目を開けると、目の前には10cm程の小さな黒い板が浮いている…… しかしそれは1秒もしないうちに消えていた…… 前にもどこかで見た気がする、獣衆王国でだったかな?


「危ない所でしたねサクラ先輩、お怪我は有りませんか?」

「る……琉架ちゃん……」


 すぐ後ろにはいつの間にか琉架ちゃんが立っていて、腰が抜けて倒れそうになっている私を支えてくれていた。

 更にその後ろ、トンネルの出入り口から続々と助っ人が入ってくる…… 助かったぁ……


「えっと、サクラ先輩、神那と白ちゃんは?」

「………… そっちにも居ないの?」


 やはりあの男が最後だったか…… 予想通りだ。

 もし5時間後に現れたら積年の恨みを込めて今度こそぶん殴ってやろう!




「武尊! しっかりしろ!」


「伝説先輩…… 加納先輩…… か…家族に……お…弟に伝えて下さい…… 「お前が二代目だ」と……

 俺の後を継ぎ…… 寒極の支配者(エターナルブリザード)と名乗れと…… 俺の机の上から二番目の引き出しの裏に封印されている禁断の魔導書『真黒文書(リアルブラック)』をお前に託すと……

 それと家族には俺が最後まで立派に戦ったと伝えて下さい……

 それから重要な事なんですが、俺のパソコンは確実に破壊してください。

 あ! あと俺の使い魔の九官鳥のベルゼブブなんですが、何故か自分の名前をピーちゃんだと思い込んでいるので、お前の名前はベルゼブブだと再教育を……」


「もういい黙れ、大丈夫そうだな」

「馬鹿馬鹿しい…… コイツはきっと殺しても死なないわ」


 朱雀院武尊は治癒魔法により一命を取り留めそうだ。




「タリスさん!」

「タリス! 無事か?」

「お主ら遅いぞ! もっとも相手は物理も魔法も殆んど通じない相手…… 我らが揃ったところであまり意味は無いかも知れんがな」

「えっと…… 勇者様は?」

「見ての通りおらん! そっちでも無いようだな…… 一体ドコをほっつき歩いているのやら……」

「はぁ…… あの男は毎度毎度 期待を裏切る」

「ふむ、幸いそっちにはもう一人の勇者が居たようだな…… 最悪、乗り換えるか?」


 三人の視線の先…… そこにはもう一人の勇者ネヴィルがいた。


「まぁもう少し様子を見ましょう。せめてこの戦いが終わるまでは……」


 ブレイブ・マスターは解散の危機に立たされていた……




「サクラ様」

「サクラ先輩!」

「うむ、どうやら無事のようだな?」


「ミカヅキ、伊吹ちゃん、ジークさん、そっちも無事で良かった……

 って、それ所じゃ無いんだった! 琉架ちゃん、ミラちゃんに加勢してあげて!

 あのキラッキラの鉄機兵、物理攻撃も魔術攻撃もほとんど効果が無いの! 多分私たちじゃ攻撃力不足でまともに戦えない!」

「え? 雷撃も効かないんですか?」

「雷撃というか…… エネルギー系の魔術はほとんど効果無いみたい」

「ちなみにお姉様! アイツは私の合成魔術『完全被甲弾(フルメタルジャケット)』でも貫通できませんでした。多分1ポイントくらいしかダメージ与えられてないです」

「そっかぁ…… じゃあ天照 使うしかないか、使いにくいけどしょうがない……」

「あ、あと、出来ればで良いんだけど、琉架ちゃんの予知能力でこっちへの攻撃も防いでもらいたいんですけど…… あの蜘蛛型の攻撃、速すぎて私たちじゃ避けることも出来そうにないんだ?」

(多分ジークさんでも貫通するし……)

「そうですか…… 分かりました、やってみますね」


 おぉ…… さすが頼りになる! どこぞのギルマスより遥かに!

 さぁ! 魔王プロメテウス! 第2ラウンドの始まりよ!

 私はリング脇で応援してるけど……






---霧島神那 視点---


 真っ暗な縦穴に出た。そろそろ魔王城・オルターの中心地点だと思う、もしかしたらこの縦穴がそうなのかもしれない。

 下を覗き込んでみるが底が見えない、最下層まで通じているのだろうか?


 ズズン……


「ん?」


 今なにか聞こえた? 一瞬振動を感じた、上からだ。

 どうやら既に最終決戦が始まっているらしい。またしても出遅れた。

 こうして最終決戦に遅刻すると「俺って主人公やってるんだなぁ」という実感が沸く。

 その代償は、うちの娘たちの心配で胃が痛いコト…… そして後で各方面からお小言を貰うコト……


 どちらにしても急いだ方がイイ、魔王城・オルターを壊したくないという事はギルドメンバーにしか言っていない。

 もちろん魔王城を破壊できる人間は限られている、しかし黒大根ですら頑張れば塔の一つを瓦礫に変える事くらい出来そうだ。まして魔王との最終決戦ともなれば大規模破壊は避けられないかもしれない。

 実際、魔王レイドには核融合まで使ったからな。


「どうやら上では既に魔王との戦いが始まってるみたいですね」

「なにぃ! 急がなければ!! ニセ勇者に活躍の場を奪われてしまう! うおおおぉぉぉーーー!!!!」


 直径数百メートルもある縦穴の壁面には、人が上り下りできる程度の道が螺旋状に付けられている。

 そこには二本のレールと細かな階段が付いている…… しかしこの階段は人が直接使うためのモノじゃ無い。

 にも拘らず、バカ勇者は数段飛ばしで元気よく駆け上っていく…… 目の前には昇降機があるのだが、シニス世界出身者には分からないかな?

 彼が勇者ネヴィルより活躍できる気がしない…… せいぜい周囲に不幸を撒き散らさないでほしいモノだ。


「霧島、お前この昇降機を動かせるか?」

「ふむ…… ちょっと見てみますね」


 白をお姫様抱っこしたままコンソールを見てみる。

 デクス世界のモノに近い作りだ、キングクリムゾンのエレベーターパネルに酷似している。ただし動力は電力では無く魔力、問題無く使えそうだ。


「イケそうです、乗って下さい」

「助かった…… この坂を自力で登るのは厳しそうだったからな」


 彼が失ったのは右腕であって、足では無いのだが…… まぁ結構出血もあったしダルいんだろう。

 俺もこれを自力で登るのはダルい。

 しかしそれでもお姫様抱っこを止めるつもりは無い、さっきからずっと白は頬を赤く染めていてとても可愛いからだ。

 欲望に忠実な男はこの程度、苦労とも思わない。


 全員乗り込んだ所で昇降機を起動し上へ向かう。

 注意喚起の回転灯のようなモノは付いていないらしい、レールを滑る音やモーター音すら聞こえない、非常に静かでスムーズな動きだ。振動すら感じない、オノマトペ風に言うと「フィィィン」って感じだ。

 この昇降機一つだけでも相当高い技術力があるコトが窺える。コレって最近設置されたモノなのかな? それとも2400年前からあったのか?


「あ」

「え?」

「ん?」

「お!」


 気付いた時には遅かった……

 昇降機の進む先3メートル地点、バカ勇者が膝に手を当て上がった息を沈めようと休んでいた……

 当然、音も無く近付く我々には気付きもしない……


「はあ…… はあ…… 待ってろよニセ勇……ゲブッ!!?」


 追突事故発生…… バカ勇者は昇降機の手すりに反り返る様に引っ掛かってる。

 潰されなくて良かったな。

 まぁせいぜい自転車に追突された程度の衝撃だ、コイツは無駄に頑丈だし大丈夫だろう。


「お……おのれキリシマ・カミナ……」


 なんで俺の所為になってるんだよ?


---

--

-


「ハァァァーーー!! 『封魔剣技・奥義・斬鎧剣』!!」


 ネヴィルの放った一撃がメタリックな鎧の一部を切り裂いた。


「天地に轟け! 敵を撃て! 雷獣牙(ライトニングファング)!!」


 そして間髪入れずにその隙間に雷撃をたたみ込んだ!


 バチバチバチッ!!!!


 激しい電流が内部機関を焦がしていった。




「はぁ…… こっちの勇者さんはちゃんと戦えたんだ……」


 あっちの勇者さんがまともに戦っている所は見たコトが無いけど……


「あ、ルカ様、ご無事だったんですね?」

「はい、ミラさんも…… ただ神那と白ちゃんがまだ見つかって無くて……」

「まぁお二人なら確実に無事でしょうし、たまたま遠くまで跳ばされただけかも知れません。

 それより……アレ、どう思いますか?」

「あぁ、アレね……」


 塔の上の方からまた一体の鉄機兵が降りてきた。

 どれだけ倒しても白銀の鉄機兵は次から次へと追加されていく。

 その数は開始時から変わらずに20体をキープ、そしてその全てにオーラが見えるのだ。


「あの中のどれかが本物ってコトなのかな? もちろんアレがホントに魔王のオーラなら……だけど」

「だとしたらあの蜘蛛型に入っているのが本物でしょうか? じゃあ他のオーラは一体…… これが魔王プロメテウスのギフト?」


「「うぅ~~~ん……」」


 二人して唸ってみる…… しかし簡単に答えは出ない。


「こんな時、いつもなら神那が答えを出してくれるのに、あ~ん! どこ行っちゃんたんだろ!」

「お……落ち着いて下さいルカ様……!」


『カッカッカッ、そんな小娘たちに朗報じゃぞ!』

「うん?」

「アルテナ様?」


 ミラの腰に吊り下げられているアルテナが声を上げた。


『お前達がお待ちかねの真なる主様は直ぐそこまで来ておる』

「「え?」」


 緋色眼(ヴァーミリオン)を開き周囲を見渡してみる、しかしそれらしきオーラは見当たらない。


「ど……どこ?」

「え? え?」


 ズバン!!


 その時、部屋の中央部分の床の一部が四角く斬られ吹き飛んだ!


「ふぅ…… 待たせたな!!」


 そしてその穴から顔を出したのは……


「はぁっ!? ル…っ ルカさん!!」


 勇者ブレイドだった……


「アルテナ…… 世の中には吐いて良い嘘と悪い嘘が有るんだよ?」


 琉架は真顔でミラの腰のバインダーを見つめた。


『カッカッカッ 嘘など吐いとらん、勇者が先に顔を出したのはただの偶然じゃ』


「ご苦労、バカ勇者。ちょっと肩借りるぞ?」

「はぁ!? 何故俺がそんな……ヘブッ!!?」


 勇者は声を掛けられ振り向いた所、顔面を踏まれた。


「あ、ゴメン」


 大して悪びれた様子も見せずに霧島神那が現れた。




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