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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
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第156話 第10魔王 ~大軍~


 魔王城・オルター 中央塔……

 この塔こそが魔王城の中心、周りに乱立していたビル群は言わば城下町のようなもの、ココこそが本物の魔王城……だと思う。


 私たち魔王討伐隊の一部は中央塔に侵入した。

 巨大な塔にもかかわらず、その入口は極端に狭い、入るのに一列に並ばなければならないほどだ。長さは2メートル程だがちょっとしたトンネルのようだ。

 そんなトンネルの先、ゲームならセーブポイントの一つでも設置されててもいい場所だ。魔宮で見た安全スポットの様な物を期待していた。

 まぁ所詮はゲームだよね? 期待は簡単に裏切られた。


 そこには……何もなかったのだ。真ん中の柱すらも…… 構造物としてはあまりにも脆弱…… 塔の中はがらんどうだった。


 いや、この言い方は語弊があるか…… 柱すら無く、アホみたいにだだっ広い空間、ただし壁面はキラッキラの鏡面仕上げ、下手に光系魔術を使ったら乱反射しそうだ。

 そしてなんかでっかいオブジェが立ってる、大きさは30メートルくらいだろうか? そのフォルムは虫っぽい、恐らく蜘蛛をモチーフにしている気がする。

 なんかママンって呼びたくなる感じだ。ハッキリ言ってキモい……

 やたら長い足が胴体を支えている…… もしかしたら魔王城・オルターを小さくすればこんな感じになるんじゃないかな? もちろん足の数は8本、オルターより全然少ないが。


 嫌な予感が止まらない。え? あんなのと戦えっていうの? 無茶だよ! 生身で体長30メートルの巨大ロボットと戦えるワケ無い!


 もちろん普通に考えればそれほどムチャってワケでもない。この世界には魔術がある。ココには居ないけどウチのギルマスはあのロボットより巨大な魔法の剣を創り出せる。

 ただしそれは魔術が効けばの話だ。

 蜘蛛ロボットは真っ黒な装甲をしていたが、今までのパターンからすると魔術が効かない可能性もある。


「え~と……ミラちゃん、どう?」

「はぁ~…… 大きいですね、流石にチョット大き過ぎるかな?」

「無理っぽい?」

「無理っぽいですね、『鎮魂歌(レクイエム)』を使えば或いは……ですが、そんな余裕が有るかどうか」


 ヴン!


「? なに?」


 そんな時、突然空中に半透明のディスプレイが現れた。

 極大魔術を使う時に現れる魔法陣に似ている。

 そしてそこに一人の男の顔が映しだされた。その顔は人族(ヒウマ)の男性と大差ない、少々面長だけど堀の深い顔だ、私の好みじゃないけど、まぁイケメンの部類にいれてやってもいいかな?

 なんて偉そうに評価してみたが、間違いなくイケメンだ。

 きっと1200年前に第5魔王サマが目撃したのもあの顔だろう……

 ウィンリーちゃんや魔王グラムと同じく右眼が朱い…… ただ左眼が茶色いからあまり差は感じないが。


 神那クンがアレは素顔じゃないだろうって言ってたが、なるほど、納得できる胡散臭い顔だ。

 どこか作り物めいている。

 普通の人と見分けもつかないが、どこか違和感がある、フルCGっぽいんだ。

 いや…… もっとハッキリ言えばホストっぽい!


『我が城へ足を踏み入れシ愚かな劣等種族ヨ、その罪はキサマ達の命で払ってもらうゾ』


 如何にも魔王っぽいセリフを、如何にも合成音声っぽい声で語りかけてきた。

 確かに人族(ヒウマ)は種族序列最下位だが、機人族(イクスロイド)だって第10位じゃねーか!


「待て! 第10魔王 “災器” プログラム・プロメテウスよ!

 こちらはお前の完全消滅を望んでいる訳ではない!」


 クリフさんが代表して喋って……え?


「お前は1200年もの間、大氷河から出てこなかった! もし侵攻を止め大氷河に戻るなら我々は戦闘行為を停止するつもりだ!」


 ここまで来て何言ってるのこの人?

 こっちは既に犠牲者も出てるのに…… あ、だからこそか、魔王と戦えば更に犠牲者が出るかもしれない。

 確かに戦わなくていいならソレに越したことはないよね?

 ミカヅキは怒るかもだけど。


『我の目的は裏切り者と古代神族(レオ・ディヴァイア)に連なル人型種族の殲滅ダ』

古代(レオ)……神族(ディヴァイア)?」

『そしテ神の元へと馳せ参じる事こそ我ガ使命なり』

「何を言ってるのかさっぱり分からん…… 交渉の余地は無しか?」


 古代神族(レオ・ディヴァイア)…… って何だっけ?


『貴様らに望むのハ…… 滅亡のミ!』


 ヒュゥゥゥ~~~……


  ガシャン!  ガシャン!

 ガシャン! ガシャン! ガシャン!


 魔王プロメテウスの言葉が終わると同時に、塔の上の方から何かが落ちてきた……

 白銀の鉄機兵だ。それも次々降りてくる、其の数20体…… これってヤバくね?


「ま……まさか!」

「ある程度は予測していたけど、ここまで大量に居たとは……!!」


 嘘でしょ? アレって聖霊銀(シルラル)合金製なんでしょ? その鉄機兵なんて、一体作るのにも数千万ブロンドはくだらないハズ!

 そんなのが何十体もあるなんて…… もしかして第10魔王って錬金術師?


 今ココに居る人たちの中で、白銀の鉄機兵を倒せるのはミラちゃんと王連授受の一部だけ…… 自分の身を守れる人はともかく、負傷兵や私はあんなのと戦う事なんかできない! こんなの幾らなんでも手に負えないよ!

 やはりみんなで突入は早計だった! だから5時間待とうって言ったんだ! あ、言って無かったっけ?


「一旦下がりましょう! 少なくとも非戦闘員はこんな所に居たら逆に邪魔になります! せめて負傷者は外に逃がすべきです!」

「くっ! 確かにこのままでは…… 戦えない者は全員さがれ! 塔の外に出るんだ!」


 よし! 私もこいつ等とは戦えないから素知らぬ顔で逃げても文句は言われないハズ!


 敵の集団が動き出す前に迅速に撤退する。こうなる可能性も考慮に入れていたからこそスムーズに動ける。


『愚か者共…… 逃がスと思っているのカ?』


 此方の撤退を考慮に入れていたのは向こうも同じようだ、しっかり対策を取られていたらしい。

 嫌な予感がする……


「武尊! 先行偵察しなさい! あんたのギフトなら安全を確保したまま確認できる!」

「ハッ!! 了解であります! 大先輩!」


 偵察係が空気の壁で防御しつつ、全力疾走でトンネルに飛び込む。

 あの子のナントカ大臣ってギフトなら空気の壁を作って偵察できる、あの壁は透明だからね。

 安全を確保したまま外の様子を伺える、まぁ、何事も無く出れればいいんだけど…… あぁ、嫌な予感が……


「ぅおわぁぁぁ~~~!!!!」


 トンネルに入ったばかりの偵察係が情けない叫び声とともに転がり出てきた。


「きょ…巨大な!! 10メートル位ある鉄機兵が……!!」


 10メートル級? 白銀じゃないなら……


「10メートル級大型鉄機兵なら俺の磁力円陣(コン・パス)で蹴散らせる!」


「そ……それが…… 何処にそんなに居たんだよ!?ってくらい大量にいる!! 多分100体以上!!」

「な……なに?」


 あの子、大袈裟だからなぁ…… きっと数なんか数えてないだろうが、大量に居ることだけは間違い無さそうだ。

 まさしく前門の虎、後門の狼状態だ。

 いや、前門の方が危険度が上だ、例えるなら前門の妖魔族(ミスティカ)、後門の人狼って感じかな?

 うん、かなりマズイ。

 神那クンそろそろ登場してもいいんだよ? それともあの時みたいにお腹刺されなきゃ来てくれないのかな?

 アレって痛くて苦しいんだよなぁ…… あんなの二度とゴメンだ。


 …… てか、早く来いよぉ!!


 ♪~~~


「ん? 歌?」


神曲歌姫(ディリーヴァ)輪舞曲(ロンド)』」


 ミラの紡ぎ出した旋律に呼応するように、不可視の結界が発生し全員を包み込んだ。

 その結界が白銀の鉄機兵の歩みを止めた。


「おぉ! ミラちゃん、コレって結界?」

「少しの間なら私一人でも敵を押さえられます。今の内に脱出を」


「…………」

「…………」

「…………」


 ミラちゃんが折角押さえてくれているけど、誰も動かない…… 動けないのだ。

 前に進むことは出来ず、戻る事も非常に困難な状況だ。

 しかしこのままここに留まっていてもいずれ時間切れになる。ナニか手を打たなければ……


「ミラ・オリヴィエ、キミは『対師団殲滅用(ギルバルド)補助魔導器(フォース)』を使えるハズだよな? 今持ってきているか?」

対師団殲滅用(ギルバルド)補助魔導器(フォース)? はい、持ってはいますが……」

「白銀の鉄機兵は無理でも、通常の鉄機兵なら一気に殲滅できるんじゃないか?」


 そうだ! ミラちゃんには必殺のホーミングレーザーが有ったんだ!


「あの…… 私、人魚族(マーメイド)ですので雷撃魔法が使えないんです、他に有効な属性ってナニかあるんですか?」

「な……に? 人魚族(マーメイド)?」


 oh…… そうだった…… 海に暮らす人魚族(マーメイド)は種族的に雷撃魔法が使えないんだった。

 いや、他の属性でも増魔(チャージ)を併用すれば…… しかし試している時間は無いし……


 大型鉄機兵は塔の外で私たちが出てくるのを待ち構えているのだろう。

 こっちがそうしようとしていた様に、あの狭いトンネルから一人ずつ出てくるのを…… 一人ずつ殺そうと……






---有栖川琉架 視点---


「フン!」


 ガゴン! ズズ…ン


 長い階段の先にあった、封印されていた扉をジークさんが力技で押し開いてくれた。

 ……本当に何でこの人、賢者って呼ばれてるんだろう?


 次の瞬間、吹雪が階段に吹き込んでくる。

 ようやく外に出られた、かなり深い地点に飛ばされてたらしい。

 真上を壊しての脱出法…… 試さなくてよかった……


 見上げれば直ぐそこには巨大な塔。

 加納先輩が誘導してくれたおかげで魔王城の中心近くまで来られたらしい。


「か……加納先輩、近くに討伐部隊の人たちは居ますか?」

「チョット待ちなさい…… 吹雪が邪魔で見辛い…… 居た! 中央の塔に沢山人がいる! この距離だとヒトの判別はつかないけど、たぶん14~15人はいる!」

「ふむ、既に突入しているということか。ならば我らも急がねばならんな!」

「はい! 急ぎましょう!」


 ゴゴゴゴ……


「わっ!? な…なに? 地震?」


 中央塔に向かって駆け出そうとした瞬間、突然大きな揺れに見舞われた。


 地面が小刻みに震えている、地震というよりは重いものを無理やり引きずる時のような震動だ。

 よくよく考えればココは魔王城・オルター、大地の遥か上に存在しているテーブル上の大地だ。

 高い建物が沢山立ち並んでいるこの城はきっとショックアブソーバーも優秀なハズ。


 じゃあこの震動は一体なんだろう? 城が再び動き出した……訳じゃ無さそうだし……

 この震動の発生源を探してみる、しかし探すまでもなかった。そこら中に発生源が見えるのだ……

 大きな塔の一部が観音開きの扉のように開く、他にも巨大なシャッターが上がったり、地面に設置されていた扉が開いたり、中には塔自体が真っ二つに割れていたりもした……


 そしてその全てから巨大な鉄機兵が現れた。10メートル級大型鉄機兵だ。


「うわぁ~~~……」


 正しく大軍だ。第9領域に責めてきた敵の中で、10メートル級大型鉄機兵はそれほど多くなかったと聞いた、きっと北方砦でもコレほどの大軍は攻めてこなかっただろう。

 つまりこの大軍こそが第10魔王軍の主力なのだ。

 そしてその内の6体がこちらに向かってくる。ビルとビルの間はそんなに広くないが、道幅いっぱいに広がり迫ってくる。

 私たちを通すつもりはない…… そんな意思が見受けられる。しかし……


(この大軍にはオーラが見えない…… 取りあえず第10魔王が乗っているってコトは無さそうだけど……)


 しかしこうもあからさまに通せんぼされると、かえって急がなければならない気がする。

 これだけの大軍を一気に倒すには…… やっぱり『対師団殲滅用(ギルバルド)補助魔導器(フォース)』かな?

 ミラさんは結構堂々と使ってたみたいだけど、一応アレって軍事機密指定兵器なんだよね……


 まぁいいか、どのみち目と耳は塞がなきゃいけないし。


「伊吹ちゃん、ココに居る全員に『宵闇(ブラインド)』と『空圧(コンプレス)』を掛ける事って出来る?」

「はい! お姉様のご要望とあらば、例え出来なくてもやってみせます!」


 無理にとは言わないけど…… 出来るってコトだよね?


「有栖川…… アンタ一体何するつもり?」

「敵を一気に殲滅します。ただし閃光と轟音で目と耳を壊してしまう恐れがあるので、みんなの目と耳を塞ぎます。

 加納先輩、塔の中以外に近くに人は居ないんですよね?」

「え? えぇ…… 居ないけど……」


「なら良しです。伊吹ちゃん、お願い、私ごと覆って構わないから」

「はい! 任されました!

 『世界拡張(エクステンド) 3:7』魔術技能拡張! ダブルスペル・スタンバイ!

 第7階位級 暗黒魔術『宵闇』ブラインド & 第7階位級 風域魔術『空圧』コンプレス」


「なっ!?」

「ちょっと待っ……!!」


 その瞬間、吹き付ける雪吹も…… その音も…… その景色も……

 全てが消え、暗闇に閉ざされた。


「『対師団殲滅用(ギルバルド)補助魔導器(フォース)』展開!! IFFオート!

 第7階位級 雷撃魔術『雷撃』サンダーボルト チャージ50倍 アクティブホーミング!!」


 カッ!!!!


 魔術により暗闇に覆われているにも拘わらず、その光に周囲は照らし出された。


 砲塔から増幅された雷撃が暗闇を突き破って10メートル級大型鉄機兵目掛けて自動追尾で飛んでいく。

 中央塔の周りに百体以上いた鉄機兵はその強力な雷撃の餌食になっていく。


  ……ォォォオオン!!

   ……ガァァァン!! ……ドォォン!!


 宵闇(ブラインド)空圧(コンプレス)で閃光と轟音をガードしてもなお、その破壊音が耳に届いていた。

 そしてその衝撃は、地面を伝い足の裏だけで僅かに感じられた……


---

--

-


「おぉ~~~! 流石お姉様! スゴ~イ♪」


 暗闇と空気の壁が取り払われると、目の前に映しだされる光景は先程とは一変していた。

 大量の大型鉄機兵は全て機能を停止し、ボディーの一部を融解させている個体まである。


「なっ……な……!?」

「今の一瞬で……一体何をしたらこんな……」

「…………」


「まずは合流しましょう! まずはそれからです!」


 逸る気持ちを押さえて塔へ向けて踏み出した。




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