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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
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第155話 魔王討伐隊4


「う……」


 重い……

 私の豊満には程遠いけど少しだけ膨らんでる胸が、ペチャンコに潰れている……

 まるでクマにでも乗られているような気分だ……


 え~と…… ナニしてたんだっけ? 少なくとも近くにクマは居なかったハズだが……

 私の下には金属製の冷たい床…… あぁ、そうだ、第10魔王の城に殴り込みに来てたんだ…… それでどうして私の上にクマが乗る?


「うぅむ…… 無事かイブキよ?」


 クマが喋った!? さすが異世界!! 恐るべし進化論!


 って、そんな訳ない、今の声はジークさんだ。思い出した、メタルロボットが魔法を使ってそれで……

 初めて男の人に押し倒された…… いや、初めてじゃないか、昔ケンカしておにーちゃんに…… 違った、足が縺れて私が押し倒したんだった。

 私の想いでのメモリーにまたしても美しくない1ページが刻まれてしまった。


「ぐぇ……」


 無事を知らせようと思ったけど、こんな声しか出なかった。


「おぉ、スマンスマン」


 ようやく肉の圧力から解放された。


「私は大丈夫ですけど、ジークさんは?」

「問題無い、かすり傷だ。爆発というヤツは上と横に衝撃が広がるからな」


 本当だろうか? 周囲の床には銃弾が撃ち込まれたような穴が無数に見えるのだけれど…… こんなのさっきあったっけ?

 周囲を見渡してみる、何人か怪我をしている様だが、重傷を負っている人は居ないみたいだ。

 とは言え……


 カシャン


 危機は去っていない。

 メタルロボットが歩みを再開した。

 さっきの魔法をもう一度使ってこないのは、自分の城を自分の兵隊で壊したくないからだろうか? それとも私たちを生け捕りにしたいからだろうか?

 マズイ…… どうしよう…… 逃げ道のない空間であんなのと戦うなんて……

 もう一度足止めしてもらって『完全被甲弾(フルメタルジャケット)』を打ち込むのが最善かな?

 しかし同じ手が何度も通用するかどうか……


 おにーちゃんの言う通り、素直に留守番しとけば良かったかな?


 おにーちゃーん! 可愛い妹のピンチだぞー! 妹のデレが欲しければ今すぐ駆けつけて下さい!






---有栖川琉架 視点---


「着いた! このすぐ下あたりにドーム状の空間があって、そこに伝説達がいる!」


 私たちが辿り着いた場所は大量の鉄機兵の保管倉庫のような場所、今現在鉄機兵は起動しておらず、行儀良く棚に並んでいる。そしてその下に原初機関で見たような爆発物実験場のような部屋があり、そこに伊吹ちゃんがいるらしい。

 ここまでくれば私にも見える…… 大きい人のオーラも見える、きっとジークさんだ。


「えぇっと……入り口は…… あの巨大な柱! 中が空洞になっていてそれが入り口になっている! あぁ!くそっ!! 入るにはもう一つ上のフロアまで上がらないと!!」

「皆が居るのはこの真下なんですよね?」

「そうだけど爆破はダメよ! 人を巻き込む!」

「大丈夫です…… くり貫きます」

「は?」


 魔神器から朱作りの儀式刀・天照を取り出す。

 真下に人が居ない事を確認すると……


 ピシュッ!


 私たちが立っている床を丸く切り抜いた。


 ズ……


「は?」

「な…なに?」


 目に映る景色が下方向へズレる、エレベーターに乗った時の感覚に近いだろうか?

 そのまま音も無く床ごと下へ降りていく…… いや、違った、落ちていく……だ。


 ズズズ…… ズルッ!


 ゆっくりと下降していた床が急に支えを失った。

 くり貫いた床ごとドーム状の部屋に突入する。空気の抵抗で落下中の床が傾く。


「なぁ!!?」

「うわわわわっ!!?」

「全員飛び降りた方がイイですよ、下の床にも同じ穴が開いてるハズですから」

「ハァッ!!? ナニ言ってんのアンタ!!?」


 床を真っ直ぐくり貫いたから、少しの傾きで下の穴に引っ掛かると思う、でも運が悪いとそのまま城の外へ落ちる事になる。

 天照は射程が長すぎて、地球を簡単に貫通できちゃう…… 非常に使い勝手の悪い神器だ。

 星の御力(アステル)で多少曲げる事は出来るし、時由時在(フリーダイム)の停止結界に当てる事で無理やり射程を縮める事もできる。

 しかしそれで使い勝手が良くなるわけでも無いし、使用条件も限られる。

 停止結界は目で見える範囲にしか作れない。

 天照は本来なら真上に向かって使いたい所だけど、今は真上の安全確認が出来ない。大氷河の裏側は海のハズだから…… うん、きっと大丈夫。


 部屋の中を見渡すと、少し遠くにみんなが固まっている。倒れているけどみんな生きてる。

 周りには鉄機兵の残骸…… そんな中、初めて見るタイプの鉄機兵が立っていた。

 私たちの斜め下、数メートルの位置だ。


 そして…… オーラが見える。

 本物の第10魔王かは分からないけど、そこを斬れば確実に止められるハズ!


 落下中の床からジャンプし、鉄機兵の真上に飛ぶ。


 ピシュン!!


 慎重に狙いを付けて天照で鉄機兵を瞬断した!



---



「ぅをねぇすぁむぅわぁぁぁ!!!!」

「え? あ、伊吹ちゃん」


 お姉様って言ったのかな? よく聞き取れなかった。


 ダダダダダ! ガシッ! ムニョン♪


「ハァハァ… お姉様ぁ~~~」


 スゴイ勢いで走ってきた伊吹ちゃんが、私の胸に顔を埋めてハァハァ言ってる…… ちょっとくすぐったい。


「伊吹ちゃん大丈夫? 息がすごく荒いけど……」

「ハァハァ… お姉様が来て下さらなかったら私はきっと死んでました! お姉様は私の女神です! 女神様です!!」

「そ……その二つ名はちょっと……」


 それと私の胸に顔をグリグリ擦り付けるのはやめて欲しいんだけど…… よっぽど怖い目に遭ったのかな?


「それで怪我は無い?」

「はい、クマさんのおかげで……」

「クマ?」

「あ、いえ、私は大丈夫です。ちょっと潰れかけたけど無傷です」


 ホッ…… 良かった……


「うむ、こちらはかなり危ない所だった。来てくれて助かったぞルカよ」

「あ、ジークさん、伊吹ちゃんを守ってくれたんですね? ありがとうございます」


 そう言いながら現れたジークさんの上着は、背中の部分がボロボロになっていた。

 きっと伊吹ちゃんを庇ってくれたんだろう。


「気にするな、ギルマス命令だ。それよりもそっちはルカとミカヅキだけか?」

「はい、近くに跳ばされたD.E.M. メンバーは私とミカヅキさんだけでした。こっちは…… ジークさんと伊吹ちゃんだけですか? 神那……達は?」

「残念ながら我ら二人だけだ」

「そう……ですか」


 まぁ、外から見た時、神那のオーラが見えなかったからそうだと思ってたけど…… そっかぁ…… 居ないんだぁ……


「ぅをねぇさま!! 私が居ますからそんな顔をしないで下さい!」

「え? はい…… え?」


 そんな顔って? 私、そんなにガッカリした顔してたのかな? それじゃあジークさんと伊吹ちゃんにあまりにも失礼だよね? 気を付けなくっちゃ……


「心配なのも分かるがきっと大丈夫だ。白はカミナと一緒に居るハズだし、ミラも実力的に問題無いだろう。

 問題があるとすれば…… サクラか……」

「サクラ先輩…… 一人じゃ無ければ良いんですけど……」

「サクラはああ見えて悪運が非常に強い、大丈夫だろう」


 悪運? う~ん…… だと良いんだけど……


「さて…… ようやく合流できたが半数はまだどこに居るのか分からない状態だ。

 これからの事だが…… ルカよ、お前が開けたであろうあの穴の先はどうなっている?」

「あ、はい、鉄機兵の倉庫みたいになってました。場所は中央近くの地下です」

「ならば上に向かい外に出るか。恐らく他の連中も中央塔を目指しているハズだ」


 瓦礫を崩して道を作る事にした。

 みんなが見ている前で堂々と星の御力(アステル)を使うワケにもいかない。


 ちなみに倉庫内で陳列されてた鉄機兵は雷撃(サンダーボルト)で回路を焼き切っておいた。

 ただしメタルカラーの鉄機兵はココには格納されて無かった…… 結局アレは第10魔王だったのだろうか?






---佐倉桜 視点---


 中央塔に辿り着いた……

 しかし待ち合わせ場所には誰もいない…… 小学校時代の嫌な思い出が甦る。


 友達と待ち合わせをしたのに何時になっても現れない…… 純真無垢で清い心を持っていた当時の私は、その場で実に5時間待ち続ける羽目になった。

 当然その頃、携帯など持っていなかった……

 周囲は暗くなり、最終的には探しに来た母親に怒られた……

 私は間違って無かったハズだ…… 今にして思えば間違いだらけだけど。


 翌日、友達は「急に用事が出来ちゃったゴメ~ン♪」とか言いやがった……

 彼女にしてみればその程度の謝罪で十分だと感じたのだろう。しかし、私は孤独に苛まれながら5時間も一人で待ち続け、終いには母親に怒られたんだ!

 それほどの苦しみに対する謝罪に「♪」マークとか付けんな!

 純真無垢だった私の心に初めて「イラッ」って感情が芽生えたのがあの時だった気がする。


「大丈夫…… 大丈夫…… 今日は来てくれる…… 来てくれる……」

「あの…… サクラ様?」

「ちょっと遅れてるだけだよ…… 遅れてるだけ…… 5時間…… 5時間…… 私は5時間待てる女…… 5時間…… 5時間…… 5時間……」

「サクラ様!? サクラ様ー!! お気を確かに!!」

「ハッ!?」


 心が闇に飲み込まれていた…… あの頃の感覚がリアルに甦った……


「ミラちゃん……」

「大丈夫ですかサクラ様? 疲れているようなら他の方たちと一緒に休んでください」


 良い子だ…… この魔王様とっても良い子だ。

 美人で優しく気遣いも出来てオッパイも大きい、禁域王(ゲスヤロー)には勿体無い程の良い子だ。


「ミラちゃん…… アリガトウ」

「え? はい、え~と…… どういたしまして?」


 大丈夫、あの時とは違う! 私は一人じゃ無い! 5時間でも10時間でも幾らでも待てる!

 ただ私の予想では、一番最後に遅れてやって来るのはあの男だ……


「まだ他の方々は辿り着いていないみたいですね」

「跳ばされた位置にもよるからね、よくよく考えると魔王城の外まで跳ばされてる可能性もあるし」


 魔王城・オルターの中央塔は巨大だ。その大きさはいつか見た幻の塔よりデカイ。

 高さは200メートル以上あるだろうか? どこぞのタワーとかツリーみたいに展望台のような場所が2箇所ついてる。

 やはり魔王が居るとしたら第2展望台かな? ナントカとケムリは高いほうが好きって言うし。


 そんな塔の外周部を時計回りに少し歩くと入り口を見つけた……

 見つけちゃった……


 さて、どうするか?

 ここはリーダーの判断に任せよう。

 私個人の意見を言わせてもらえば、突入はみんな揃ってからのほうが良いと思うけど……


「中に入ったらいきなり第10魔王が待ち構えている可能性もある、或いは鉄機兵の大軍か……

 しかし外で待っていても敵が襲ってくる可能性もある。

 どちらを選んでも結果は変わらないかもな、ここは敵の居城なんだから」

「ならば突入するのか? 戦力外の怪我人も連れている、一度撤退するのもアリだと思うぞ?」

「撤退するにしても全員合流してからじゃなきゃいけないでしょ」

「そうさのぅ…… ガーランドまで下がるにしても全員一緒に動かなければ各個撃破されるのがオチじゃ」

「ならばこのままこの吹雪の中で待つのか? 敵よりも前にこの厳しい大自然に殺されそうだな?」

「だったら近くの別の塔に入って体勢を…… あぁここは敵地だから安全な場所なんて無いんだ……」

「そもそも他の連中がどっちから来るかわからんじゃろ? 地下から来るかもしれんし、もしかしたら塔の裏側で既に待ってるかもしれん」


 クリフさんとシャーリーさんと王連たちが今後について話し合っている…… この話し合い結論出るの?


「とにかく外で待ち続けるのは愚策だな。吹雪に吹かれて体力を無駄に消耗するし、こんな開けた場所じゃ危険だ」

「合流できるまで塔の周りを歩き続けるとか言うなよ? 体力だけじゃなく警戒心に使う精神まで消耗しそうだ。

 なにより面倒くせー」

「面倒臭いとか言うな、バカ者が」

「この吹雪は年寄りには辛いものがあるんじゃよねぇ…… お迎えが手招きしておる、取りあえず男は吹雪よけの壁になっておくれ」

「嘘つけ、勝手に魔法使って暖でもとっとけよ」


 なんか漫才みたいになってきた。

 王連授受って仲が良いんだ……


 それで? 結論は?


「突入するしか無いでしょ」


 シャーリーさんのツルの一声。

 えぇ~~~…… もうチョット待とうよ、後5時間くらい……

 もちろん思っていてもそんな提案はしない、私の様に心が綺麗な人間じゃ無ければ5時間も待ってる事など出来ないのだから。

 私以外にそんな綺麗な心を持っていそうな人は、この中ではミラちゃんくらいかな?

 ん? よくよく考えれば琉架ちゃんや白ちゃん、ミカヅキも5時間くらい平気で待ってそうな気がする…… 待ち人があの男の場合は……

 私と禁域メンバーに共通点を見つけてしまった…… イヤなフラグが立った。


 いや、大丈夫だ。私の心はとうの昔に薄汚れている、今の私に共通点など無い!

 何か…… 自分で自分の事を貶めてる気分だ…… くそぅ!



 結局、シャーリーさんの意見を採用し突入する事になった……

 魔王は玉座に控えているのが普通だけど、神那クンが言っていた。「第10魔王はナニ考えてるか分からない」って。

 つまり入ったら目の前に魔王プロメテウスがいるかも知れない、少なくとも防衛線くらいは作られてるだろう。


「それじゃ皆行くぞ、覚悟は良いな?」


 はぁ…… 覚悟を決めるか、ホントは後5時間待ちたいトコロだけど……

 取りあえずミラちゃんにくっ付いていよう。また転移で飛ばされたら嫌だし、多分ここが一番安全だから。




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