第154話 魔王討伐隊3
失敗や挫折は人を成長させるという。
しかし全ての人がそうじゃ無い。
大抵の人は一時的に反省しても喉元を過ぎれば熱さを忘れるのだ。
偉そうに言っているが俺だってそうだ、似たような失敗を何度も繰り返している。
あの時ああしていれば……
その時こうしておけば……
つい最近もそんな経験をしたばかりだ。
あの時ノゾキ少女対策をしていれば……
その時にリュドミラのことなど無視して突っ走っていれば……
今頃俺は大人の階段を登っていただろう…… 悔やんでも悔やみきれない人生最大級の後悔だ!
人は後悔や反省から二度と同じ過ちを侵さないと誓い、次に備える、或いは回避しようと努力する。学習するのだ。
次の時はリュドミラを石の中に強制転送するべきだと学習した。
俺の決意はともかく、学習、これこそが成長のもう一つの姿だと思っている。
これは知的生命体に限った話ではない、動物や昆虫、広義の意味では植物や細菌にだってある生命の力だ。それどころか人工知能が自分で学習して暴言を吐く時代だ。
さて……
俺の知っている生物に、このバクテリアですら持ち合わせている能力を欠損している生物がいる。
その生物は世界にたった一種だけの超希少生物なのだが、最近ではニセモノじゃないかと言われている。
とにかくこの生物には成長の跡が見られないのだ、まったく学習しないのだ…… インフルエンザウイルスですらシーズン毎に変異してくるというのに……
そう思っていたのだが……
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉお!!!!」
その生物が目の前の敵を凄い勢いで駆逐していく。
あぁ、そのインフルエンザウイルス以下の生物って勇者(仮)のブレイドなんだけど、彼は本当に俺のよく知るあの勇者なのだろうか?
なんというか…… 結構強い。
もちろん強いと言っても、ミカヅキとタイマンしたらギリギリ負けるレベルだが……
余りにも小物だからてっきりザコだと思ってたけど、アイツも成長しているということかな?
或いは最初からあれくらいできてたのかもしれない。
「くぅらぁうぇえええぇぇぇ!!!!」
え? 今なんて?
それにしてもこの勇者、ノリノリである。
さっきから異常にテンションが高い、まるで憑き物が落ちたかのようにイキイキしている。
ブレイブ・ブレイドを砕かれることにより、勇者リミットの封印でも解けたのだろうか?
或いは解き放たれた……か。
「フハハハハハハハッ!!!! こんなモノか!!!!」
あの心の弱い男にとって“勇者”の肩書は重荷でしか無かったのではないだろうか?
どちらにせよ此方にしてみれば嬉しい誤算である、弾除けにしようと思っていたポンコツがちゃんと戦力になってるんだから。
白をお姫様抱っこしてたい俺にとっては都合のいい存在だ。
槍王も黒田先輩に肩を貸してるし、彼が戦ってくれるのは有り難い。
「お前らのような雑兵が勇者に勝てるワケ無いだろ!!!!」
でもちょっと調子に乗り過ぎかな?
もう少し省エネで戦えよ。さっきっから愚か成り勇者よを無駄に使いすぎだ。
ただでさえ敵が多いんだ、そんな使い方をしていると……
ィィィィイイイン……
バッテリーが切れる。
「あ…あれ? な…なんだ?」
バカ勇者はナイフをブンブン振って再起動を試みる、そんなんで動く訳無い。
貸し与える時にちゃんと説明したんだけどな、そのナイフは魔力起動じゃ無いって、まさか夢の無限動力炉で動いてるとでも思ってたのか?
「ど……どうしよう……」
顔色が見る間に悪くなっていく…… 壊したと思ってるのかな?
しかも借りた相手は普段から敵視している男だ…… 悪魔と呼んだりもした…… 莫大な賠償金を請求されるかも知れない…… そんな顔をしている。
しちゃおっかな? 賠償請求……
「あ…あの…… その……」
なんてな、そんな事する気もない。
ツギハギだらけで不揃いな鎧を見れば分かるように勇者は貧乏だ。
もはや内蔵を売るくらいしか金を作る手段はないだろう。
仮に賠償請求すれば、また落ち込んで使い物にならなくなる可能性が高い。
てか多分逃げる。
コイツはそういう奴だ。
進退窮まると泣いて逃げる…… そんな光景を何度も見た。
「ただのバッテリー切れだ、柄頭を強く押してみろ」
「え? こ…壊れてないのか? 柄頭を強く?」
プシューーー ボン!
外部バッテリーが派手な音を出して飛ぶ。俺が拘ったトコロだ、本来はこんなギミックなど必要なく普通に外れるんだがな……
飛んだ外部バッテリーを見て勇者が不安げな表情を浮かべて見てくる。
いちいち捨てられた子犬のような顔をするな、その顔は女の子がしてこそ価値がある、男がやっても犬の餌にもならん。
予備のバッテリーパックを取り出し投げ渡す。
「こ……これは?」
「予備バッテリーだ、柄頭の同じ位置にはめ込め、そうすりゃまた動く。
ちなみに予備はソレで最後だ、節約して使えよ」
残りの予備バッテリーは本当は後2つあるが、ミカヅキに渡してある。
つまり合流する前にバッテリーが切れたら高周波振動機能は使えなくなる。だから敵に当たる瞬間にだけ起動するのが愚か成り勇者よの正しい使い方だ。
もっともバカ勇者にそんなテクニックがあるとは思えないが……
正直、俺もそんな使い方はしてない、面倒臭いし……
「しかしコレは良い武器だな、魔力を消費しないのに素晴しい切れ味を誇っている。これを作った奴は天才だな!」
う~ん…… お前に褒められても嬉しくない……
俺が作ったって言ったら意見を180度変えるだろうし。
愚かなる勇者と愚か成り勇者よの相性は良いらしい…… 皮肉なモノだ。
「ど……どこに行けば手に入るんだろうな……?」
チラチラこちらを見ながらそんな事を聞いてくる、ちょっと気持ち悪い…… 明らかに欲しがっている。
「いずれはデクス世界で購入できるようになるだろうな…… たぶん」
そうすれば俺にロイヤリティが入るだろう。別に金に困っている訳じゃ無いが。
「そうか…… デクス世界か……
ち…ちなみに、参考までに聞くが…… 幾らくらいするモノなんだ?」
「さあなぁ…… 今はまだ非売品だし……」
200~300万ってトコロじゃないかな?
「最後に一つ、この武器の名前は?」
とうとうその質問をして来たか…… なんて答えよう、嘘言ってもしょうがないし……
「愚か成り勇者よだ」
「勇者の願い? 素晴しい…… 俺にピッタリじゃないか!」
ちょっと早口で言ったら聞き間違えちゃった。ま、いいか。
確かに愚かな勇者にはピッタリな武器だ。
とにかくザコ敵の処理は愚かなる勇者に任せ、他の連中との合流を目指す。
第一目標は嫁の安否確認だ。第10魔王はその次だ。
---有栖川琉架 視点---
先程から暗く狭い通路をずっと歩き続けている。
本当は敵地でこんな入り組んだ場所に入り込みたくなかったんだけど、加納センパイは索敵系の能力持ちらしい、真っ暗な空間でも方角を見失うことは無く、たとえ死角からの不意打ちでも察知できるそうだ。
ならば他の人達と合流するまではお任せしたほうが良い、少なくともこの狭い通路を歩いている限り、巨大な工作機械や、鉄機兵の大軍なんかは出てこない。
「敵……出てこないですね? もうだいぶ歩いてるけど」
「出てこないんじゃなくて回避してるよの」
「え?」
「さっきから何度も此方の道を塞ぐように敵が配置されてるわ、ソレを事前に察知し、遠回りして回避してるのよ」
「そ…… そうだったんですか……」
「どうやら敵にも私たちの位置は筒抜けみたいね、そうでなきゃここまで完璧にこちらの行く先々に敵兵を布陣する事など不可能よ」
そうだったんだ…… どこかにカメラでも付いてるのかな? それらしいモノは見かけなかったけど……
「どうやら敵は私たちをどうしても中央へ行かせたくないみたいね……」
それはつまり、裏を返せば第10魔王本人がそこに居る…… 或いはみんながそこに居るって事になるよね?
神那やサクラ先輩達もそこに向かっているハズ。
「チッ! この道もダメね、そろそろ回避も難しくなってきたわ…… そろそろ戦闘が必要になるから準備しておいて。
それにしてもイライラする、明らかに私たちを足止めする配置! あぁもう! この壁一枚破れれば、中央区画まで直通の大回廊に出れるモノを!」
「え? この壁、壊せばいいんですか?」
「この壁、厚さ1メートル近くあるのよ? そりゃアンタなら壊せるかもしれないけど、こんな狭い場所でやったら全員生き埋めになるわよ」
「大丈夫ですよ、それ用の魔器があります」
魔神器から取り出したのは小さな黒い杭、指向性爆発誘導杭『地下壕潰し』である。
「これを使えば爆破の勢いなんかをコントロールできるんです、向こう側に人が居ると危険ですけど、壁を破壊する分には問題ありません」
「本当にそんな事……できるの?」
「はい、あ、一応さがってて下さい」
緋色眼で壁の向こう側を見てみる……が、壁が厚すぎてよく見えない…… でも壁内に配線などは無さそうだ、ここを壊しても大丈夫だと思う。
「第7階位級 火炎魔術『炎弾』ファイア・ブリッド チャージ10倍」
ドゴォォォン!!
壁に大穴が開いた、ちょっと強かったかもしれない…… でもせっかく指向性爆発誘導してるのに貫通できなかったら爆風がこっちに返ってきちゃうだろうし、やり過ぎってコトは無いよね?
「相変わらず…… 第7階位級で何でこんな威力に…… んん、それより見えた!」
「?」
「この先の中央区画の部屋に人が居る! これは…… 多分伝説がいる、それに…… 霧島妹もいるわね、他にも何人か」
「伊吹ちゃんが!?」
「急いだ方がイイかも! 敵に囲まれてる!」
え!?
---霧島伊吹 視点---
「『世界拡張 3:7』魔術技能拡張!
第5階位級 雷撃魔術『雷槍』サンダーランス × 第5階位級 風域魔術『乱流』ダウンストーム
合成魔術『雷嵐』サンダーストーム」
ズガガガガァァァァァァン!!!!
周囲の敵を一掃する…… ココまではさっきと同じ手順だ。
しかし一体だけ、雷嵐をまともに浴びてもビクともしない個体がいる。
初めて見る鉄機兵・メタルロボットだ。
あのメタリックな体表で雷撃が弾かれたのだろうか? そういえばゲームでもあんな感じの奴には呪文が効かなかったな。
つまりアレだ、物理で叩くか、聖水を掛ける、ドラゴンに火吹いてもらうか、敵を操って攻撃させるか…… こんな時にミラさんが居てくれれば! もっとも操れる敵がいなければ意味が無いが。
「炎帝より賜りし槍よ! その力を持って敵を焼き滅ぼせ! 火炎槍!!」
「敵を貫け! 闇の矢!!」
「付与魔法『金剛力弾』!!」
魔法王団とエルヴン・アローのメンバーが遠距離攻撃を加える、しかしあのメタリックな体表に傷一つつける事が出来ない。
「やっぱり魔術は通用しないのかな?」
でも矢を強化している金剛力弾は物理攻撃に分類されるよね?
単純に物理・魔法防御が高いだけなのかもしれない…… だったら一点突破の高火力魔術でイケるかもしれない!
「少し時間稼ぎお願いします」
「ナニか手があるのか?」
「分かりませんけど、最大威力の一撃を打ち込んでみます!」
伝説センパイが小さく「了解」と呟き、一歩前に出る。
「自己加速・身体強化魔術併用! 速力100倍!!」
伝説センパイがとんでもないスピードで走る、速すぎる…… 多分100メートルを1秒で走れるほどのスピードだ。メチャクチャ速い……
そんなスピードで敵の周りを廻っている、ただし速度は一定では無い、軽く飛び上がったり前触れ無く速度を落としたり、緩急を付けている……と思う、速すぎて良く見えないけど……
伝説センパイが何人もいるように見える、アレだ、残像拳だ。物語の後半では使われることの無い技、残像拳自体に攻撃力が無いから仕方ないが……
「第5階位級 氷雪魔術『雪吹』コールドブレス!!」
伝説センパイが残像拳状態で魔術を放った、見た感じ10人で一斉に攻撃しているように感じる。
実際には一人で一発の魔術を使っているだけなのだが、全方位から放たれた魔術は相乗効果により威力が上がっているようだ…… こんな方法で威力の底上げが出来るとは…… この人…… もしかして結構スゴイ?
メタルロボットはあっという間に氷に閉じ込められていた。
「どうだ?」
ビシッ!!
氷に大きな亀裂が走る、ここは大氷河だから氷結対策はされていたのかも知れない、しかし時間稼ぎには十分だ。
属性魔術はどうにも利かなそうなので、物理的な攻撃力のある魔術で行こう!
相手がメタルならこっちもメタルだ! メタル装備がメタルに有効なのは良くあるコトだ!
「『世界拡張 2:8』魔術技能拡張!
第4階位級 岩石魔術『質量弾』グラビトン × 第4階位級 金属魔術『金属化』メタリカ
合成魔術『完全被甲弾』フルメタルジャケット」
重質量の金属弾を氷漬けのメタルロボットに打ち込んだ!
バギン!! ドゴオオォォォン!!!!
放たれた弾丸は敵を巻き込み部屋の反対側の壁に叩き付け爆発を起こした。
その衝撃波が自分のいる場所まで届いた…… 自分でやっといて何だけど、コレ、凄くない?
壁には大きな穴が開いているが貫通は出来なかったみたいだ、壁を破れていれば脱出口になったモノを…… もう2~3発撃てばイケるかな?
ガラ……
「へ?」
「まさか……!」
「う……嘘だろ……」
メタルロボットが起き上がり、煙の中から出てきたのだ……
嘘でしょ? 戦艦の主砲……は言い過ぎかもしれないけど、個人的にはソレに匹敵する威力があったと思う。
メタルロボットの前面装甲は完全に拉げているけど、致命傷には至らなかったんだ……
「イブキよ、もう一発イケるか?」
「すっ…直ぐには無理です!」
そのとき敵が両手を上げた、まるで降伏のポーズだけど両手の平には何か光っている…… 魔法? ロボットのクセに?
「マズイ!! 全員伏せろ!!」
ジークさんが叫びながら私に覆いかぶさってきた……
どうせ押し倒されるならお姉様にされたかった……