表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
158/375

第153話 魔王討伐隊2


「『天五色大天空大神(アマゴシキダイテンクウダイジン)七撃の壁(セブンズ・ウェーリング・ウォール)!!!!」


 突如目の前に壁が出現した。

 その壁は目には見えなかったが確実にそこに存在している!

 その証拠に、白銀の鉄機兵が放つ熱波が遮られ、繰り出されたパンチが食い止められていたからだ。


 バキバキバキバキバキバキ!!


「うぉあ!? 嘘だろ!? 俺の七撃の壁がたった一発のパンチで六撃まで破壊されるとは!!」

「お……お前は……」


 確かギルド・レジェンドの朱雀院武尊?

 助けてもらってなんだが、もう少し頼りになる援軍が良かった……

 もちろん口には出さない、コイツが来なければかなり危険な状態だったのは間違いないのだから…… でも…… もう少し…… せめて治癒魔法を使える人材が……


「クゥオルァー! おい! 階段係! 何一人で突出してるんだ! こっちはオメーの作った透明な階段を慎重に登んなきゃいけねーんだぞ!」

「ウスッ! スイマセンシター! サクラ大先輩!」


 外から元気な声だけが聞こえてくる……

 サクラ大先輩? D.E.M. の佐倉桜か?


「うむ、ただし今回だけは許してやる。かなりヤバイ状態だったみたいだからな。

 しかし次はねーぞ? 坊主! 先輩様の言うことは絶対遵守だからな!」

「ウスッ! スイマセンシター! サクラ大先輩!」

「うむ、良い返事だ、忘れるな! 年上は敬え! たとえ仮に、カ!リ!に! 同学年だとしても! いいな? 絶対だぞ?」

「ウィーッス!」


 何やってるんだコイツら…… そういえば第三魔導学院の先輩後輩だったか?


「よし! お前は壁を張り続けみんなを守れ! 全力でだ!」


「ウッス!! うおおぉぉぉーーー!! 『天五色大天空大神(アマゴシキダイテンクウダイジン)

 極限封印奥義!! 見えざる無限監獄(インビジブル・アルカトラズ)!!!!」


 その瞬間、見えない壁が何重にも発生し、二体の白銀の鉄機兵とこちら側を分断した。

 しかし白銀の鉄機兵もそんな事では止まらない、見えない壁を一枚ずつパンチで破壊しながら少しずつ近づいてくる。


「サクラ大先輩! 持って2分程であります!」

「それだけあれば十分! 気合入れろよ小僧!!」

「ウッス!! 命に代えても2分食い止めます!!」


 何だこの体育会系のノリは…… いや、不良のノリか?


「クリフさん、こっちは無事…… では無さそうですね、大丈夫ですか?」

「あぁ、助かったよ、そっちは無事で何よりだ、それより回復魔法を使える奴はいないのか?」

「三人ほど居ます、直ぐに登ってきますよ。それよりもアレは……」


 視線の先にはサクラが初めて見るタイプの鉄機兵が猛烈な勢いで空気の壁を破壊している。


「厄介な奴だ…… 物理も魔法も殆んど効かない、その上攻撃力も高い、正攻法で倒すのは難しい……」

「それならきっと大丈夫です、火力持ちが一人いますから」


 火力持ち?


「『神曲歌姫(ディリーヴァ)』 超振動!」


 イィィィィィィィ!!!!


「この音は……!」


 聴き覚えのある高い音、以前にも聞いた事がある超振動特有の音……


「キュィン」


 音の発生源が背後であるコトに気付いた白銀の鉄機兵がそちらに向けてパンチを放つ。


 ヴヴゥン……


 迫りくるバスケットボール程度の球状空間に触れた瞬間、腕全体がブレて見えた。


 プシュゥゥゥ…… ボン!!


 白銀の鉄機兵はすぐさま右腕をパージし、超振動を放った人物から距離を取る。

 その人物…… ミラ・オリヴィエが静かに舞い降りたかの如く現れる。


「あら? 直ぐに腕を切り離されてしまいましたね、随分と判断が速…… アレ?」

(オーラが見える…… アレが第10魔王? でも、もう一体の方にもオーラが見える…… どういう事?)


「ミラちゃん、どう? 倒せそう? かなりヤバイ相手みたいだけど……」

「あ……はい、本体に超振動を当てる事が出来れば、問題無いと思います」


「本体に当てるか…… ならばこちらで何とか動きを止めて……」

「あ、いえ、本体に直接でないと意味が無いので、タケルくんの空気の壁や、クリフさんの鉄塊越しでは意味が無いんです。

 大丈夫です、接近して直接放射すれば問題無いですから」

「なに? 接近? チョット待て! そいつは見た目よりずっと……!」


 それだけ言うとミラ・オリヴィエは魔神器から短刀を取り出し逆手に構える。

 そして反対の左手に超振動の込められた珠が創り出された。


神曲歌姫(ディリーヴァ)円舞曲(ワルツ)』、剣の舞……」


 鼻歌の様なものを唄いながら無造作に敵との距離を詰めていく。

 当然、それに反応するように白銀の鉄機兵が迎え撃つ。しかし……


 フワッ―


 ミラは円の動きで全ての攻撃から逃れている…… まるで羽根が舞っているかのようだ。

 決してスピードが速い訳ではない、それでも白銀の鉄機兵はその動きを捉えることが出来なかった。

 そしてミラは左手を軽く触れるように敵とすれ違うと、次へ向かう。


 残された鉄機兵は体からケムリを上げその場に崩れ落ちていった……



「………… 彼女は…… 接近戦も出来たのか……」

「私も初めて知りました……」



 三体目の白銀の鉄機兵は迎え撃つように金属魔法で弾丸を作り出し撃ってきた。


 ダダダダダダダダダダッ!!!!


 まるで機関銃の様に弾丸をばら撒いている、映画などなら無傷ですり抜けるのが当たり前の光景だが、遮蔽物のない現実ではミンチになるのは必至だが、しかし……


 フワッ―


 一発たりともカスリもしない。

 それを見た白銀の鉄機兵は戦法を変える、腕の中に折り畳まれ格納されていた剣を展開する。

 回転刃付きのチェインソードだ。


 シュイイィィィィィィィン!!


 ミラと同様に敵は体をコマのように回転させて斬りかかる!

 そんな激しい剣閃の中をスルリと潜り抜け、あっさりと間合いの内側に入り込み高速回転している胴体に、触れるか触れないかのギリギリの距離に手をかざし……


「超振動……零距離放射!」


 ヴヴゥン!!!!


 白銀の鉄機兵の体がブレた。

 次第に回転は弱まり、完全に止まり切る前に崩れ落ちたのだった。


(う~ん、オーラが消えた…… 超振動を入れた直後……かな?)


 二体の鉄機兵に見えていたオーラは完全に消失している。


「ミラちゃ~ん、治療お願い! 怪我人がたくさんいるの!」

「あ、はい、ただいま……」



---



 怪我人が三人並べられて寝かされている。

 その中でもシャーリーさんは脇腹を大きくえぐられ一番重症のようだ……

 すでに治療が始められている、しかし傍目に見ても大怪我をしているとは思えない程オーラが安定している様に思える…… この分ならきっと大丈夫だろう。

 この三人の中で一番軽傷者の女性が放置されてる…… 軽傷といっても手首の辺りで右手が取れかかっている。早く治療してあげた方が良さそうだ。


「あれ? 出血が少ないですね?」

「あぁ、磁力円陣(コン・パス)で血中鉄分を操作して重症者の出血をおさえていた。

 どうだ? 助かるか?」

「はい、命は…… ただ……」

「ただ? なんだ?」


 右手のオーラが殆ど消えている…… これはもしかすると……


「手に障害が残る可能性があります」

「そうか…… 構わない、命が助かるならな!」

「そうですね…… 治療を開始します」


 魔法治療を開始する、しかし…… 少し離れた所に寝かされている二名のオーラが完全に消えてしまっている人がいる…… 手遅れだったんだ。

 アルテナ様がおっしゃっていた様に即死だったのかも知れない……


「ミラ・オリヴィエ」

「え? はい」

「キミは完全後衛型の魔術師タイプだと思っていたが近接戦闘スキルも持っていたんだな」

「あ、そうそう、ミラちゃんあんなこと出来たんだ、コレでますます私のアイデンティティーが……」

「いえ、覚えたてなんです、新しいギフトの使い方をカミナ様にご教授して頂きました」

「さっきの立ち回りがギフトに拠るモノ? 確か歌のギフトだったよな?」

「えぇ、手に刀剣の類の武器を持たないと使えない、ちょっと特殊な歌なんですけど、今は間に合わせにただの丈夫なナイフを持っていますが、いずれカミナ様が私に合うモノを見繕ってくれるそうです///」


(惚気た?)

(あ~……ノロケだよ)


「だったら服のコーディネートも一新してもらった方が良いね? そのロングスカートじゃ接近戦はやり辛いでしょ?」

「え? あ…… そ…そうですよね、もう種族を隠す必要もないし、きっとカミナ様はもっと露出度が高いほうが好みだと思うし…… うん……」ブツブツ


「ミラちゃん…… 心の声がダダ漏れだよ……」

「神那は相変わらずのフラグメイカーみたいだな……」

「まだまだ、こんなモンじゃないですよ、少なくとも後一人まだ見ぬ美少女が彼のハーレムに加わります。コレは予想じゃなく予言です」

「上手く回ってるなら口出しする気はないが、程々にした方がいいと思う……」

「アイツはいつか痛い目にあったほうが良いんですよ…… てか、遭え!」



「うっ…… ク……クリフ……?」

「!? シャーリー!!」

「ハア…… ハア……」


 シャーリーさんが意識を取り戻したようだ、まだ完治して無いようだけどもう大丈夫そうだ。


「ありがと、もう良いわよ、後は自分で治すから」


 まだ痛みで体を起こすことすら出来ないだろうに…… 大丈夫かな?

 でも精神はだいぶ安定しているみたいだし、素直にお任せしよう。


「それでどうするんですか?

 まともに戦えない人も居ますが……」


 周囲には魔力切れを起こした者や、重傷を負い完治にまだしばらくかかる者もいる。


「そうだな…… 負傷者はガーランドに戻すか…… このまま負傷者を連れて進軍するのはあまりにも危険だ」

「それはダメよ、敵がウヨウヨいるのに負傷者だけを戻す事なんて出来ない」


 シャーリーさんがそんな事を言った。

 確かに…… さっきの鉄機兵みたいなのがそこら中にいたら、ガーランドに辿り着く前に全滅しかねない。

 それこそ戦力を2つに分けるとかしないと……

 それは困る、私はカミ……コホン、みんなと合流したい、大丈夫だとは思うけど無事を確認したい。


「罠に注意しながらみんな一緒に動くしか無いわ、これ以上犠牲者を出したくないならね?」


 それはそれでかなりリスクが高い…… しかしそうするしかないのだろうか?


 剣王連合のセドリック。

 魔法王団のチェスターが犠牲になった……


 もしD.E.M. の誰かが犠牲になったら…… そんなの嫌だ。


「しかし進むにしても方向が分からなければ…… 誰か味方の位置が分かる奴居ないか?」


 少なくともオーラが見える距離には誰もいない…… だったら……


「アルテナ様、どうですか?」

『うむ、中央の塔の方角からヒトの気配がする。

 少なくとも何人かはソコにいるだろう』


「そうか…… ならば合流を目指そう、戦闘できる者は周囲の警戒を、できない者は集団の中央へ、他の者と支え合ってくれ」






---霧島伊吹 視点---


「『世界拡張(エクステンド) 3:7』魔術技能拡張!

 第5階位級 雷撃魔術『雷槍』サンダーランス × 第5階位級 風域魔術『乱流』ダウンストーム

 合成魔術『雷嵐』サンダーストーム」


 ズガガガガァァァァァァン!!!!


 周囲を埋め尽くさん勢いの鉄機兵をまとめて処分する。

 私の放った雷の嵐は視界内に存在した全ての敵兵をガラクタに変えた…… 私ってもしかして強い?

 アホなおにーちゃんが私を褒めていたのはただのシスコンだからだと思っていたけど、アレってお世辞じゃ無かったのかな?

 よくよく考えればアホなおにーちゃんに出来た事が、優秀な妹の私に出来ないはずが無い!


 しかし油断は禁物だ。

 この世界に来てからおにーちゃんにも決して油断するなと何度も言われた。

 確かにおにーちゃんはアホだけど、確かに強い。僅差だけど私を上回る強さだろう。


 しかしおにーちゃんはアホだから魔王戦の度に油断して怪我を負っているみたいだ、真の強者なら無傷で魔王を倒してみろ!

 そして私はアホじゃ無いから兄と同じ愚行は侵さない!


 霧島伊吹は決して増長しない!


「ふ~~~…… 第三陣は殲滅できましたね、でもいい加減ここからの脱出を考えないと、いずれ殺られますよ? 私の魔力だって無限じゃないんですから」

「うむ、確かにこのままでは殺られるのは時間の問題だ。さて、どうしたモノか……」

「霧島妹、お前の魔術であの穴から全員を外へ飛ばす事は出来ないのか?」


 あの穴…… さっきから敵が補充される天井の穴か…… 簡単に言ってくれる……

 確かにおにーちゃんくらいの魔力コントロールスキルがあれば不可能じゃないだろう…… しかし魔力コントロールの技術に関しては、残念ながら私はおにーちゃんの足元にも及ばない。

 多分『世界拡張(エクステンド) 1:9』を使ってもあのレベルには到達できない……


 つまりそのアイデアは実行不可能と言う事だ……


「流石に無理です、仮に出来たとしてもあの穴の先が鉄機兵の倉庫になってる可能性だってあるんですよ? 登ってる途中にあんなのが降ってきたら死にます」

「そうなると…… 他の出口を作るしかないか」


 それも難しい、私はさっきから部屋の被害など考えずに魔術を使ってる、しかし壁も床も全然壊れてない。せいぜい表面が少し歪んでる程度だ……

 壁が薄くなってる所が分かれば最大火力で破壊することも出来るだろうが、生憎と私はそんな便利な眼は持っていない……

 アホおにーちゃんが居れば、一発で分かったのに! もう! 役に立たないなぁ!


「来るとも分からない救助を待っていられるほど、俺達には余裕は無い」


 伝説センパイはそう言うが、時間を気にしなければ救助は確実に来るだろう。

 おにーちゃんにお姉様にミラさん、三人も壁の向こうを見通せる眼を持ってるんだから。それに確かアルテナちゃんにも人の気配を探る能力があったハズだ。


 問題になってくるのはやはり時間か……



 ヒュゥゥゥ~~~


 ガシャン! ガシャン!

    ガシャン!

  ガシャン!   ガシャン!


 うぇっ! もう来た!


「第4陣の御出ましか」

「それじゃぁ皆さん! さっきと同じ手順で行きましょう!

 申し訳ございませんが、未熟な私が魔術を使うまでの間、時間稼ぎをお願いします!」


 そう、私はおにーちゃんみたいに瞬時に合成魔術を使う事が出来ない、他の人に時間稼ぎしてもらわなければならないのだ……


 霧島伊吹は決して増長しない!


 と、言うより、増長なんて出来る立場じゃ無い……

 とにかく今は脱出の糸口を見つけるか、助けが来るのを待つしかない。

 おにーちゃん! 可愛い妹が助けを待ってるぞ! つーワケで早く見つけろや! 助けてくれたらホッペにチューしてあげるから!


 …………おぇ


 ゴメン、今のナシで……


「アレ?」


 最後に降りてきた鉄機兵…… 初めて見るタイプだ。

 全身メタリックって感じの…… 経験値いっぱい持ってますって感じの…… 直ぐ逃げますって感じの……

 何だろう…… すごく嫌な予感がする……




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ