第152話 魔王討伐隊1
---有栖川琉架 視点---
「第7階位級 火炎魔術『炎弾』ファイア・ブリッド チャージ20倍 拡散誘導」
ドガガガガガガ!!!!
大型工作機械のキャタピラを破壊し、装甲を吹き飛ばし、内側を露出させる。
「ミカヅキさん、中央の丸い装甲板を……」
「畏まりました。角気弾 一点連射!!」
今ミカヅキさんに攻撃してもらっている場所こそが、オーラの塊が見える場所。魔王が乗り込んでいるスペースだ。
でも…… やっぱり気のせいじゃ無い。小さい…… あの装甲の内側に乗り込めるのは赤ん坊くらいじゃないだろうか?
まさか第10魔王は赤ちゃん…… なんてコトは無いよね?
もしそうだとしたら、私には殺す事は出来そうにない。
もちろん魔王は2400歳以上の超年上、分かってはいるんだけどやっぱり無理そう……
バキンッ!!
装甲が破れた…… あれ?
ズシュウウウゥゥゥン…………
「お嬢様? 如何されました?」
「装甲が破れた途端…… オーラが消えた……」
オーラが消えると同時に大型機械も動力を失ったかのように停止した。
「もしかして…… 私の攻撃で倒してしまった…… なんてコトは無いですよね?」
「それは流石に無いと思うけど…… ミカヅキさん、眼、痛くないですか?」
「至って正常です」
「う~ん…… 中がどうなってるのか見てみましょう」
停止した巨大工作機械に登り、装甲内部を確認してみる。
お願いだから血塗れの赤ちゃんの死体とか出て来ないで下さい! あ…… 想像しちゃった…… どうしよう怖い……
「誰もいませんね、血痕なども特に見当たりません」
「ホ……ホント?」
指の隙間からコッソリと覗き見る…… 良かった…… 死体は無かった。
と言うか……
「狭すぎる……」
「そうですね…… このサイズでは赤ん坊はおろか人の頭がようやく収まる程度です」
中にはコード等が無造作に散らばってる。
何かがココに居たのは間違いない、実際にオーラが見えていたから…… しかしこのサイズでは……
可能性があるとしたら…… 精霊…… かな?
ふと、もう一体の巨大工作機械に目を向ける。あちらはまだ交戦中だ。
こちらの機械と同じ位置にやはりオーラが見える…… 精霊にもいろんな種類がいるのだろうけど、やはりあのオーラは魔王特有のモノに見える……
それとも魔王の“オーラ”が込められた人工精霊? そんなモノが創れるのだろうか? そもそも人工精霊には“核”が必要なはず、ところが装甲板の内側にはそれらしきモノは見当たらない…… 謎だ。
「うおおぉおぉぉぉ!!!! 『封魔剣技・音速剣』!!!!」
勇者ネヴィルの剣が、オーラの塊を守る装甲板を切り裂いた。
ズシュウウウゥゥゥン…………
するとコチラと同じくオーラは消え巨大工作機械はその機能を停止した。
「アチラも終わりましたね」
「うん…… 一応調べてみるけど、きっとこっちと同じ感じになってると思う」
「搭乗者のオーラは見えるけど姿は見えない…… ですか」
「調べ終わったらすぐに出発しよう、ここにいてもどうせ答えは出ないだろうし、急がなくちゃいけない状況だから」
「………… どうやら、そう上手くはいかないみたいです」
「え?」
キュラキュラキュラキュラ……
「キャタピラ音……」
破壊した工作機械の残骸の向こうから、またしてもキャタピラ音が聞こえてくる……
これって……
「もしかして、私たちってここに足止めされてるのかな?」
「恐らくこの残骸ごと私たちを押し潰すつもりなのでしょう」
こんなデカいので押しつぶされたら私やミカヅキさんはまだしも、他の人達は一溜まりもないだろう…… いや、私も潰されたくないし…… 早くか……みんなに会いたいし……
「多少強引でも、一気にここを突破しちゃいましょう!」
「宜しいのですか? 人目がありますが……」
「こんな所で足止めを食らっている間に誰かがピンチになってるかもしれない…… それに比べればちょっとくらい目立つなんて気にならないです!」
それにココは薄暗い坑道、更に他のみんなは反対側から来た工作機械に気を取られている。
どうしてもダメなら…… あまりやりたくはないけど、後でミラさんにお願して、記憶操作してもらおう…… 背に腹はかえられないよね?
工作機械の残骸から降り、誰もコチラを見ていないことを確認して……
「星の御力 『極限大斥力』」
星の御力で残骸の重さを消し、斥力で吹き飛ばす、重さが消えてるのは移動開始数メートルだけど勢いさえ付いてしまえば……
ドガァッ!! メキメキ!! ゴガガガガガ!! ドガァァァーーーン!!!!
「…………」
「…………」
やり過ぎた…… 結果的に大質量を音速を超える速度で打ち出してしまったらしい……
こちらに迫りつつあった巨大工作機械を巻き込んでまっすぐ後方へ吹っ飛び、魔王城の外壁を突き破り遥か彼方へ消えていった……
本当にやり過ぎだよ…… コレなら閃光でオーラの位置を撃ち抜いたほうが被害が少なかった。
だ…… 誰も巻き込んでないよね?
「外が見えますね、どうやらココは魔王城地下外周路だったみたいですね。
今まで暗くて気づきませんでしたが、この坑道も緩やかなカーブを描いています」
「い……一番外側なら誰も巻き込んでないですよね?」
「………… 恐らくは……」
きっと大丈夫だ。
そもそもそっちの方向にオーラは見えなかったし、壁の向こうは外だから人がいる可能性も無い。
周囲に人里もない、あっても地下だから大丈夫!
「い……一体ナニゴトですか!?」
「あ…… 外が見える……」
「これは……」
みんなが集まってきた…… スルーはしてくれないか……
「恐らく魔力暴発でもしたのでしょう。私は魔力感知できませんのでよく分かりませんが……」
ミカヅキさんが私の代わりに誤魔化してくれた。
特に隠してないから彼女が鬼族であることを知る者も多い、魔力感知できない鬼族なら余計なことはツッコまれない。
そして私はそんなミカヅキさんの影に隠れている。
本当に彼女が居てくれて良かった。
---ミラ・オリヴィエ 視点---
「雷帝の鉄槌を! 雷槌!!」
ピコン! ……ガガアアアァァァァン!!!!
強烈な雷の槌が敵をかち割る。その見た目は直径数メートルはある巨大な光の柱だ。
そして敵を討ち滅ぼすと、ミョルニル・レプリカは使い手のもとに帰ってくる……
「ミョルニル・レプリカ…… 強力なんですけど、あの間の抜けた音はどうにかならないんでしょうか?」
「ミラちゃん、贅沢は言うものじゃないよ? 私なんて大口径の銃だよ? 私の小さな手にはあまりにも不釣り合いの! 素人が使えるもんじゃないよ!
アイツは私の鼻の骨を砕くのが目的なんだ! そうとしか思えない!
もっと小口径の銃にしてよ…… セクシーな女怪盗が太ももに隠しとける感じの…… 似合わないだろうけど……」
そう言えば…… 先日サクラ様が拳銃を手にしている所を見かけたけど、飛び道具というより鈍器にしか見えなかったなぁ……
今も目の前に迫る2メートル級鉄機兵に対して、決して拳銃は使わず属性付与ナイフの接近戦しかしていない。
今は私もフォローできるし大丈夫だけど、やっぱり遠距離攻撃手段は持っておいたほうが良いと思うんだけど……
ズバアァァ!! バチバチバチッ!!
「フフン! 弱点が判っていて、強さがソコソコの奴に私は決して負けない!」
…………
サクラ様が当たり前のことを言っている……
まぁいいか…… せっかく得意気にしている所を台無しにすることもない。ただ彼女はこんな感じの時、よく調子に乗って失敗するから注意しておかないと……
周囲を見渡してみる。
遭遇したのは2メートル級鉄機兵×5体と、10メートル級鉄機兵×1体。
10メートル級は私が引き受けて、残りの5体を残りの5人で分担してもらった。
その中でサクラ様は一番早く敵を倒している。やっぱり接近戦の実力はかなり高い…… 後は遠距離攻撃力が必要みたい……
エルヴン・アローのローラさん、魔法王団のジゼルさんも2メートル級鉄機兵なら難なく倒せる。
ブレイブ・マスターの妖精族、タリスさんは魔力変換魔法……つまり複製魔法の使い手だ、それはつまり他に魔法攻撃が出来る人が居なければ意味が無い。
ローラさんとジゼルさんは回復魔法を得意とする魔法使いだ、その所為でちょっと手こずったみたいだ……
あとは最後の一人……
「うっ……うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
カミナ様の後輩らしいスザクイン・タケルくん……
二本のロングソードを両手に持ち滅茶苦茶に斬りかかっている。
私は剣に関しては素人だ、そんな私が見ても分かる…… 彼の攻撃は隙だらけだ。それでも彼が無傷で元気いっぱいで戦い続けていられる理由は、彼の持つギフトに拠るトコロが大きいだろう。
鉄機兵の攻撃を完封している彼の能力は完全防御型だ。
遠距離攻撃職に転向すればかなり強くなれると思うんだけど、二刀流に何か思い入れがあるのかな?
あと、その金具とかがいっぱいジャラジャラ付いてる真っ黒なロングコート。ちょっと動くだけで音が鳴るから戦闘の時には着て来ない方がイイと思うよ?
「おおぉ!! 見えざる牢獄!!!!」
あ、ギフトを使った。あのやたらと長い名前のギフトを……
空気を固めて見えない檻を作ったんだ…… 技名? なんだろうけど、そのまんま過ぎる。相手がヒトだったら何をされたのか瞬時に理解できてしまう…… 折角見えない障壁なのに……
もっとも普通では見えない空気の檻も緋色眼を通せばクッキリ見える。魔王には通用しなさそうだなぁ……
「トドメだぁぁぁ!!!! あまねく星の煌き!!!!」
今度は意味不明の技名だった……
そう叫んで、動けない相手に剣を振るいまくる。
ガガガガガガガガガガガガガガン!!!!
……う~ん、あれじゃ鉄の棒で装甲を叩きまくってるのと変わらない…… 彼は一度本格的に剣術を習った方がイイと思う。
もしくは遠距離攻撃職に転向を進める。
聞いた話によると彼はカミナ様の事を尊敬しているという…… それだけで彼は見どころがあると思う。
カミナ様からそちらの道へ誘導できないだろうか? 他のギルドの事に口出しするべきじゃないとは思うけど、勿体無いから……
だって、彼は見どころ有るし……
ギャン!!
あ、偶々か狙ってたのかは分からないけど、剣が装甲の隙間に挟まった。
「我の求めに応じよ! 深淵より来たれ! 地獄を統べる七大悪魔王の一角よ! 闇の雷にて我が敵を滅ぼせ!
第6階位級 雷撃魔術『電槍』エレキスピアァァァ!!!!」
バチィ!!
鉄機兵のボディから小さな紫電が飛んだ。どうやら倒せたらしい。
あれ?
「サクラ様、魔導魔術に詠唱って必要でしたっけ?」
「あ~~~…… うん、思春期の子には時々いるんだよ、詠唱が必要な子って……
しかし仰々しい詠唱だった割には第6階位級って…… ショッパイな~」
「フゥ…フゥ… 貴様の事は我が魂に刻みつけ永遠に記憶に残そう…… 我が糧となり安らかに眠るがいい」
うん、取りあえず彼には後衛職のタリスさん、ローラさん、ジゼルさんを守る役をやってもらおう。
2メートル級が出てくる度に、あんな感じの事されたら時間が掛かり過ぎる。
「彼はちょっと教育が必要みたいだね」
「サクラ様?」
「私が! 先輩として! 彼を更生させてやる!」
何か分からないけど、気合が入っているようだ…… 同じデクス世界出身者だし、サクラ様にお任せしてみよう。
『ぬぉ!? マズイぞ!!』
「? アルテナ様?」
アルテナが突然声を発した瞬間、前方のビルの最上階部分で爆発が起こった。
ドゴオオォォォォォン!!
「!?」
「なっ! なに!? 敵襲!?」
『こりゃマズイな…… 今何人か死んだぞ……』
「え?」
---
「剣王流奥義…… 閂断ち」
迫り来る敵に対し、剣王は上段の構えから剣を振り下ろす。
剣王流の奥義の一つ、閂断ち…… この技は重戦士などの鎧や盾で防御を主体とする相手への必殺技だ、その効果は……
パキィン!
白銀の鉄機兵の前面装甲が落ちた、敵の防御破壊の技だ。
この技自体に攻撃力が無いため、あまり大したことないように聞こえるが、この奥義を使うには正に神業の如き腕前が必要だ。
「今だ! ヤれ!!」
「命令するんじゃない!! 魔弾『螺旋鋼弾』!!」
弓王の放った矢が僅かに開かれた敵の装甲の隙間に突き刺さる!
しかもその矢はそこで止まらず、回転しながら内部の機械を抉り破壊していく。
バキベキ!! ボン!!
敵の急所に当たる部分を破壊できたらしい…… しかし状況は未だに芳しくない。
奥義を使えば対抗できるが、奥義とはポンポン撃てるものでは無い。高い精神集中を要求され、さらに大量の魔力を消費する。
しかも白銀の鉄機兵は魔法を使ってくる。
金属魔法を無詠唱で撃ってくるのだ。恐らく機人族の得意属性なのだろうが、白銀の鉄機兵が放つ魔法は威力が尋常じゃ無い。
そちらにも気を回さなければならない上に、背後には負傷した仲間達がいる。
このままではジリ貧だ…… 今すぐ打開策を立てなければ直ぐに全滅する!
「錆卵! 鉄塊生成!!」
クリフが魔道具で鉄塊を創り出し、磁力円陣で敵を全て押し固める。
「どうだ? 瞬間移動能力者でも無い限り脱出は不可能なハズ……」
ジュオオオォォォォォォォーーー
敵ごと押し固めた鉄塊が強烈な熱を放ち始める。
「チッ!! やはりダメか……」
熱量で磁力が無効化されている…… 魔術攻撃に切り替えようにも、相手は魔術を完全に無効化する上に物理攻撃にもめっぽう強いと来ている…… 手の施しようがない!
バァァァン!!!!
白銀の鉄機兵がドロドロに溶けた鉄塊をまるで火山の噴火の様に周り中にばら撒いてきた!
「ぐあああぁぁぁ!!!!」
「熱っつ!?」
「アイツ!! 自分の城が壊れる事などお構いなしかよ!!」
だ……駄目だ…… 怪我人を庇いながら後退することも出来ない……
こうなったら無事な奴だけ逃がすしか……無い。怪我人を置いて……