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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
155/375

第150話 第9魔王 ~過去~


「自分を殺せる人を…… 2400年も待ってたんだ……よ?」


 は?


 白が何を言ってるのか分からない……

 可愛い妹の言う事が理解できないとは…… おに~ちゃん失格だ!


 落ち着いて考えろ! どういう意味だ?

 相手が本物の不老不死ならば、真の望みが死にたい事ってのは理解できる。大昔のゲームのラスボスにはそういった思想の持ち主も確かに居たしな、ついでに道連れに世界を滅ぼそうとする迷惑な奴とか……

 三大ガッカリなラスボスの真の目的に選ばれそうだが……


 しかし、魔王は決して不死では無い。

 俺の知る限りでも既に三人の魔王が死んでいる……

 つまり、死にたいなら勝手に死ねよ!


 ちなみに俺が知ってる本物の不老不死者は、死にたいとか考える奴じゃ無い。

 そいつの真の望みは男性機能の復活だ。


 コイツが勇者に止めを刺さなかったのもそれが原因だろうか?

 勇者ならば自分を殺してくれるかもと期待して…… 思いっきり期待を裏切られてたけど…… 色んな意味で。


 いや…… それ以前に……


「白、何でそんな事が分かるんだ?」

限界突破(オーバードライブ)…… だと思う……」

「?」

限界突破(オーバードライブ)を使った後は…… グチャグチャだった思考が…… 安定した……のかな?」


 限界突破(オーバードライブ)後に思考が安定した? 精神が活性化した所為か?

 それはつまり…… 今の魔王ジャバウォックは狂って無いってことか……?


「意思疎通できるのか?」

「分からないけど…… 精神は安定してると……思う」


 ジャバウォックの目を見てみる……

 確かにさっきまではカメレオンみたいにどっちを見てるのか分からない、狂気の目をしていた気がするが、今は何かを語りかける様な真面目な目をしている……

 なるほど…… 目は口ほどに物を言うとは正にこの事だな。白で無ければ分からなかっただろうが……


「魔王ジャバウォック、こちらの言葉が分かるか?」

「グッ…… グガッ……」


 ダメだな、会話にならない。

 精神は安定していても、身体とのリンクが出来ていない。


「大丈夫…… 落ち着いて……」


 白が一歩前へ出る。不安でならない……

 如何に目に理性の光が宿っていようとも、グガグガ言ってる奴に大事な白を近付けたくないんだが……

 万が一に備えて強制誘導(アポート)の準備だけはしておく。

 もし白に手を出そうものなら望み通り死を与えてやる! 地獄を見せた後にな!


「大丈夫……」


 一歩足を踏み出す、更にもう一歩…… ジャバウォックは相変わらずグガグガ言って、小刻みにカクカク動いているが、白に攻撃するつもりは無いようだ。

 少しの間隔を開けて俺も白の後に続く、油断せず直ぐに対処できる距離で。


 そして手を伸ばせば触れる距離まで来た。ジャバウォックの伸びきった仮想体の腕が自分の後方にあるのが怖い。

 しかし本当に二人とも真っ白だ、兄妹には見えないけど親戚くらいには見える……


「大丈……夫」


 白がそう呟きながらジャバウォックの胴体に触れた。


「グッ!!!!」


 ジャバウォックの身体が大きく震える! まるでイッたみたいだ…… ロリコンに死を!!


「ハ……白弧…… か……」


 喋った…… ジャバウォックが意味のある言葉を喋った!

 今まで「グルル」とか「ウォォン」とか「ハァハァ」とか「グヘヘ」とかしか言ってなかった奴が、白を見て白弧という言葉を口にした…… やっぱりロリコンだ。


「そうか…… 限界突破(オーバードライブ)がバラバラだった精神を膨張させて繋ぎ合わされたのか……」


 ジャバウォックが予想外の言葉をこぼす…… さっきまで涎を垂らしながら唸ってた奴とは思えない、現状を正確に分析し非常に理知的な言葉を発した…… アンタ誰?


「白弧の娘と…… お前は初めて見る顔だな……」


 俺を見て初めて見る顔と言うのは当たり前だが、これは「初めて見る魔王」って意味だろう。

 槍王が健在だからあまり余計な事は言って欲しくないんだが…… まぁ最悪の時は、ミラに脳みそをコチョコチョって弄ってもらえばいいだろう。


「まぁそれはいい…… それよりも……」

「殺してくれ……か?」

「そうだ…… 私が自我を保っていられるのは限界突破(オーバードライブ)中のみ…… 頼む……」


 一人称が「私」だと? マジで誰だよお前?

 “破壊獣”の二つ名を持つなら一人称は「我」だろ? もしくは「吾輩」で……


「そんなに死にたければ、自殺でも何でもすればいいだろ」


 誰も止めねーよ。


「それは出来ない…… 魔王の力に保存されている人格を初期化しなければ、いずれ他の生物の身体を乗っ取り復活してしまう…… それは私の望む所では無い……」

「なに?」


 今何か怖い事言ったぞ? ミストには前魔王の人格が保存されてるのか? 俺の中にもあの性格の悪いクソガキの人格があるのか? いや、俺の性格の悪さは元々だ! 心当たりなど無い!

 琉架にウォーリアスの性格が混ざっているとは思えん! そうでなければ“女神”なんて二つ名が与えられるはずが無い!

 ミラだって淫乱糞ビッチの性格が受け継がれてるなんてことは…… あ~……いや、こっちは少しだけ心当たりが…… 酔っ払いミラが……

 そもそもお前は何故そんな事を知っている? 魔王になった時にそんなレギュレーションブックが配られたのか? 俺にも寄越せ!


 いや、待てよ?

 そうならない為に「殺してくれ」って言うなら、魔王の継承によって保存されている人格の初期化がされるのか…… ビビらせるなよ!


「ふぅ…… お前が死にたいと言うならその望みは幾らでも叶えてやる、つい今しがたお前に三人も殺されてるからな」

「そうか…… 済まなかったな……」


 そう言って“破壊獣”ジャバウォックが頭を下げた……

 何だろう…… 今まで出会った初代魔王達の中で一番まともだ……

 常識人揃いの二代目魔王達の中で一番まともじゃない俺が言うんだから間違いない。


 殺されたのは俺の部下ってワケじゃないし、殺される覚悟のある奴らだったから謝罪の必要も無いのかも知れない…… 少なくとも槍王はそんな事望んでいないだろう。

 謝ったって死んだ人は戻らないんだから……


 ただ謝罪する気持ちがあるなら情報は引き出しておきたい。色々聞いておきたい事もあるし、もし第10魔王の事を知ってるのなら……

 しかし限界突破(オーバードライブ)という時間制限がある。何を聞くべきか……


「あの…… 何があった……の? 心があんなにグチャグチャに……なるなんて」

「それは……」


 俺が迷っている隙に白が質問した。

 そうだな、確かにそれも知りたい。このまともな魔王が狂った理由……


 優しい奴ほど悲劇で狂うってイメージがある。例えば俺だったら…… 大事にしていた女神像を捨てられたら怒り狂って世界を滅ぼすだろう。

 コイツもきっと家族にロリ系エログッズを捨てられたんだろう……

 …………

 あ~…… うん、真面目に聞こう。


 第9魔王の昔語りを…… 巻きで……




「あれは…… 神代の時代が終った年のことだ…… 神々の戦いは終局を迎えようとしていた。

 古き神々に属する我々の陣営は敗北寸前、新しき神は終焉の子に王手をかけようとしていた」

「??」


 創世神話の最終章か? 白が若干困ってる、予備知識がない人が聞いても意味不明だろ…… 後でフォローしておこう。


「そんな戦局を打開すべく、私は盟友たるカオスと共に魔人の居城たる空中城塞プロメテウスの破壊作戦に参加していた」


 空中要塞プロメテウス?

 それって第10魔王と何か関係あるのか?


「戦いは苛烈を極め、この空中城塞で2ヵ月以上も休むことなく戦い続けることとなった。

 こちらは獣人族(ビスト)に加え、耳長族(エルフ)鬼族(オーガ)が参戦。

 敵は魔人と天使。

 双方合わせて1億以上の犠牲を出した」


 け…桁違いだ…… 一戦場でそれだけの犠牲が出るとか…… どんな規模の戦いだったんだ?


「しかしそれでも決着はつかなかった…… 双方が全滅するまで続くと思われたが…… ある日突然、何の前触れもなく戦いは終わりを迎えることとなった。

 祝福が世界を覆ったのだ……」


「祝福?」


「進化の種子とも呼ばれているモノだ。

 終焉の子の祝福が世界に、宇宙に、全てのモノに舞い降りたのだ」


 終焉の子の恩恵のことか? 進化の種子? 魔王因子……つまり魔王の誕生か。


「おに~ちゃん…… 理解る?」

「まぁ…… なんとか……」


「そして翌日には空中城塞プロメテウスでの戦いは終局した。

 魔王に覚醒したカオスが突然手に入れた力を制御しきれず暴走、殆んどの敵をたった一人で殺したのだ」

「ちょっ! ちょっと待て! カオスってもしかして……」

「今は第1魔王と呼ばれている男だ。

 龍人族(ドラグニア)・第1龍バハムートのカオス・グラン・ドラグニアだ」


 第1魔王 “原初” カオス・グラン・ドラグニア!

 こいつ第1魔王とマブダチなのか?


 …………


 コイツを殺したら第1魔王がキレるなんてことは無いだろうな?

 ありそうで困る……


「その日、空中城塞プロメテウスは墜落し、最後まで残っていた魔人は殆どが死に絶えることとなった。

 カオスの力は凄まじく、神々を上回る力で戦局を逆転していった。

 そして後に第2魔王と呼ばれる男、グリム・グラム=スルトが他の魔王達と時を同じくして覚醒、新しき神を裏切り、終末戦争は終わりを迎えたのだ」


「…………」

「…………」


 未完の創世神話の続きを狂った魔王が教えてくれるとは思わなかった……

 そうか…… 終末戦争は古代神族(レオ・ディヴァイア)が勝利したのか……


「自分の話……は?」

「ん?」


 おぉ! そうだった! ジャバウォックが狂った経緯を聞いてたんだった。忘れてた……


「空中城塞プロメテウス墜落後、カオスは敵を倒すべく飛び去っていった…… 私は一度国に戻る事にした。

 そこに悪夢が待ち構えていたのだ……」


 悪夢か…… なんとなく予想がつくな……


「私が狼族の隠れ里に帰り着いた時…… 里は黒いモヤのようなモノを纏った一匹の魔物により滅ぼされていた……」


 やはりか……


「そいつは…… 腐乱した村人の遺体を貪り食っていた……! 友を…! 家族を…! 妻を…!

 あの時の私は冷静じゃなかった…… 今にして思えば生存者を探したり、家族の無事を確認することを優先すべきだった。

 しかし私は怒りに任せてそいつと戦った。戦いは三日三晩続いた……

 そして最後にその魔物の心臓を抉り出し、握りつぶして…… 殺した……」


「私はその時になってようやく気付いた、その魔物が自分の娘だった事に……」


「ぅえ!?」

「……っ!!」


「黒いモヤの魔物は…… 魔王に覚醒し、暴走状態にあった娘だったんだ。

 私は三日三晩、殺し合っていながらそんな事にすら気付かなかったんだ。

 そして自らの手で娘を殺したんだ……」


 他の魔王が一斉に覚醒したのにコイツだけ変化がなかったのに違和感を感じてたが……

 そうか…… こいつ二代目魔王だったのか。


「全てを失い、贖いきれない業を背負った私は耐えられなかったのだ……

 そして逃げた…… 事象破壊(ジエンド)で自分の精神を破壊して……

 しかしそれは失敗だった。私の体は私の意思とは関係なく動きだした、破壊されたのは体と精神のリンクだけだったのだ。

 私は自分の体が引き起こす惨劇をどうすることも出来ずただ見続けた……

 そして娘を手に掛けた罪の意識に苛まれ続けることになった……

 コレこそが私に与えられた罰だったのだ」


「…………」

「…………」


 精神リンクの破壊…… そんなことまで出来るのか。

 これが狂った魔王誕生の秘話か。


「いつの日か私に死を与えてくれる者が現れるのを待っていた……

 迷惑なことなのは重々承知しているが…… 頼む」


 本当だよ……

 お前が逃げた所為でどれだけの人がお前の爪の犠牲になって来たことか……

 自分で何とかしろと言いたいトコだが、それも出来ないんだよな……

 コイツの人生はここで終わらせるべきだ、さもないとさらなる犠牲者が出ることになる。

 しかし、一つだけ気になることが……


「お前を殺したら第1魔王が敵討ちにやってくるって事は無いだろうな?」

「それは無いだろう、心を失い獣になった私を見ても殺せなかった甘い男だ」


 甘い男……ねぇ…… 盟友だから殺せなかったってか?

 仮にも神族(ディヴァイア)の一角、龍人族(ドラグニア)の王だった男だ。

 今まで会った他の龍人族(ドラグニア)の印象は、そんなに甘い連中じゃ無いと思うんだが…… それとも魔王だからこそ殺せなかった理由があるのかもな。


「………… 分かった」


 そろそろ限界突破(オーバードライブ)のリミットも近い、今を逃したらコイツを殺すのが困難になる。

 血液変数(バリアブラッド)で対魔血糸を使ったナイフを作り出す。これなら高密度の魔力を纏っている魔王の心臓でも貫けるハズだ。


「おに~ちゃん…… 待って」

「ん?」

「私がやる…… 私にやらせて?」

「! 白! い……意味、分かって言ってるのか?」

「ん…… せめて同じ獣人族(ビスト)の手で送ってあげたい…… それがどういう事かも…… ちゃんと分かってる……」


 白の目は本気だ、D.E.M. のメンバーなら魔王殺しが何を意味するかも理解している…… その上で魔王ジャバウォックに止めを刺そうと言うのか……

 如何するべきか…… ミラの場合は復讐する大義があった。しかし白はコイツに直接恨みがある訳じゃ無いだろうし……


「お願い…… おに~ちゃん……」


 白が俺の胸に額を付けてきた……

 オッケ~♪ 俺シスコンだから妹のお願いは無条件で叶えて上げちゃう♪

 ってワケにもいかない、なにせ人外になるんだからな。


 ジ~~~……


 うぅ…… そんなすがる様な目で見ないでおくれ、あ、そう言えば白も魔王軍に一族を皆殺しにされ天涯孤独の身…… ジャバウォックの話しにシンパシーを感じたのかも知れないな……


 ……

 …………

 ………………~~~っ!


「はぁ~…… 分かったよ、白の望むままに……」

「ぁ…… うん、アリガトおに~ちゃん……」


 白に退魔ナイフを握らせる。僅かだが震えてるようにも見える……

 そんな白の手に自分の手を覆う様に添えてやる。


「おに~ちゃん……」

「大丈夫」


 ジャバウォックの目を見ながら正面に立つ。


「済まない…… こんな役目を押し付けて……」

「気にしなくていい…… コレは私の望みでもある……」


 ? 白の望み? おに~ちゃんのお嫁さんになるコトじゃ無かったのか……残念。もっと好感度を上げないと。

 取りあえず今できる事をしよう。

 白の手をジャバウォックの心臓の位置に導いてやる。


「何か言い残す事はあるか? 第9魔王 “破壊獣” ジャバウォックよ」

「もし……カオスに会ったら「先に逝く」と……」

「わかった……」


 嫌なフラグが立った、余計なコト聞かなければ良かった……


「白」

「はい……」


 白がナイフに力を込める…… 僅かな抵抗の後、刃は音も無く刺さり心臓を貫いた……


「ありがとう…… キミの手で逝けて良かった…… 娘はちょうどキミくらいの歳だった……」


 ジャバウォックが身体に纏っていたオーラが消えた…… 限界突破(オーバードライブ)が終わったんだ。

 オーラで構成されていた右腕の仮想体も消え、眼から光と緋色が失われていった……


 それと同時にジャバウォックの体から赤いモヤの様なモノが抜け出し、白の身体に吸いこまれていった……

 今回はハッキリ見えた……


 白に魔王の力が継承された。




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