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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
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第148話 第9魔王 ~黒狼~


 目の前に立っているのは真っ黒な獣人族(ビスト)…… 第9魔王 “破壊獣” ジャバウォック。

 色々言いたい事はあるが、まずこれだけは言わせてもらいたい!


「何でこんな所に第9魔王が居るんだよ!!」


 ボスラッシュとか、まるで打ち切りマンガみたいじゃないか!

 「俺たちの戦いはこれからだ!」エンドとか冗談じゃ無いぞ!

 俺はハーレムエンドしか認めない!!


 冗談はさておき、本当に何でこんな所に居るんだよ?

 こういうのはフラグを立てるなり、伏線を張るなりしなきゃダメだろ?


 第9魔王 “破壊獣” ジャバウォックと言えば……


 ……そう、狂った魔王だ。

 遥か昔に自我を失い当ても無く世界中を歩き回る。

 そして自分の視界に入った生物を無差別に殺す、第一級災害指定生物。


 第3魔王以上の戦闘能力を持つという噂の超危険生物だ。


 そんな奴がどうして他の魔王の城に居るんだよ? お客様として滞在してたのか? 狂った魔王が? それこそ有り得ない!


「ん?」


 よく見ればジャバウォックの手足には枷がはめられている。そして千切れた鎖も見える……

 もしかして第10魔王に囚われていた?


 待てよ? 第9魔王ジャバウォックの最後の目撃証言って何時だっけ? 昔誰かから聞いた事がある……

 そう、ライオンキングに聞いたんだ。確か……



『最後の目撃証言はオルフェイリアが生まれる前、中央大山脈を北へ向かっていたらしい』



 おぉう…… マジか…… そんな小さな伏線回収すんじゃねーよ……


 それじゃなにか? 20年近く前からここに捕えられてたって事か? ナゼ殺されもせずに?

 もしかして、いつの日か俺達みたいなのが魔王城に攻め込んできた時の為の保険としてか?

 魔王プロメテウスは予言者か? 素晴しい先見の明を持っている。確率予測といった方が当たってるかも知れないが……

 いや、ここに魔王ジャバウォックが居る理由なんかどうでもイイ。

 実際に目の前に居るコイツをどうするかが問題だ。


 魔王ジャバウォックは野生動物の様にこちらを観察している。

 恐らく俺が魔王である事を本能的に察しているんだろう、威嚇したら逃げ出したりしないかな? するワケ無いか。

 第10魔王同様、コイツに関する情報も全く無い。せっかく向こうがこっちを観察してるんだ。こっちも向こうを観察させてもらおう。


 真っ黒な獣人族(ビスト)…… 恐らくは狼族の者だろう。


 獣人族(ビスト)の外見的特徴とは本来、人族(ヒウマ)に獣耳とシッポを付けた程度だ。

 種類によっては髭が生えていたり、ネコ目だったり、爪が自由に出し入れ出来たり、鋭い犬歯を持っていたりするが、全体的なシルエットに殆んど差は見られない。


 だが目の前にいる魔王ジャバウォックは、随分と動物寄りだ。


 ボロボロのズボンしか身に着けていないが、腕から肩にかけて真っ黒な毛で覆われている。正面からだと分からないが恐らく背中もだろう。

 足も同様に毛で覆われており、常に爪先立ちをしている様に見える…… 足の形状自体も人類よりも動物寄りだ…… 毛で覆われてないのは胴体前面部と顔だけ、肌は褐色、そこだけは髭も胸毛も生えてない……

 何だろう…… こんな感じの生き物を前にもどこかで見た気がする……


 あぁ、ミノタウロスに似てるんだ。


 もしかしてアイツ等みたいに臭いのだろうか? ヤバイな、可愛い白を見て盛ったりしないだろうな?



「あれは…… 黒狼(コクロウ)……」

「ん? 白?」

獣人族(ビスト)には…… 部族によって数百年……或いは1000年に一度…… 特別な子が生まれる事があるの……

 狐族の白狐(ハクコ)…… 狸族の紅狸(コウリ)…… 獅子族の金獅子(キンジシ)…… そして狼族の黒狼(コクロウ)……」

「特別な獣人族(ビスト)……か」


 狸族にも特別な子がいるのか、緑じゃなくて良かった……


 え? ちょっと待てよ? まさかとは思うが、アイツには魔王のギフトの他に白みたいな特別な恩恵があるのか? ふざけんな!

 いや、落ち着け…… 取り乱すな…… それはあり得ない。

 ギフトとは魔王因子を多くもつ者に発現する能力。アイツが魔王になった2400年前の時点では、そもそも魔王因子が存在していなかったんだ。

 あれ? そうすると白弧(ハクコ)とか黒狼(コクロウ)ってのは何なんだ? ただの突然変異かな?



「アレックス…… フランク…… ロイ……」


 槍王の呟きでようやく気付いた…… 三弟子が倒れているのに……

 いくら魔王ジャバウォックに意識を集中していたからと言って、今まで気付かなかったのにはワケがある……

 三人とも既に死んでいるのだ…… オーラが完全に抜け切っている。だから暗闇の中に倒れる三人が見えなかった。

 一体何があった? 例え命を落としても、オーラが完全に抜けきるには多少の時間が掛かる。

 この僅かな間にオーラが消えるなど有り得ない……

 何か特別な事があったんだ、つまり魔王ジャバウォックのギフト……


「白…… 頼む」

「う……ん…… 見てみる」


 ん? 白が目口物言(ディープ・サイト)を使った瞬間、一瞬だがアイツのオーラが揺らいだ?


「う……」

「白?」

「あの人のギフト…… じ……『事象破壊(ジエンド)』……

 どんなモノでも破壊できる爪を…… 発生させることができる……」


 『事象破壊(ジエンド)』? どんなモノでも……だと? コト破壊に関しては最強能力じゃないか! ヤバすぎる!


「それにあの人…… 精神がメチャクチャで…… 考えてる事が殆んど読み取れない……」


 これ程の能力(ギフト)を持っていて、更に狂ってるとか…… そりゃ第一級災害指定生物とか呼ばれるワケだ。

 てか本当なのか? 別に白を疑ってる訳じゃ無いが、『事象破壊(ジエンド)』って……

 槍王の三弟子はその爪を受けてしまったのか? その結果「生命を破壊された」ってコトなのか?


 そう言えば勇者は? まさかアイツも殺られたのか?

 いや、坑道の奥の方にオーラが見える、どうやらアイツは無事らしい。


 ……ん? バカ勇者が音を立てない様に走り始めた…… まさかこちらに意識を集中しているジャバウォックの背後から奇襲を掛けるつもりか?

 勇者に有るまじき行為だが…… 成長したな!

 お前は昔っから勇者らしくない行動ばかり取ってたし、今更だよな?


 別に背後から隙をついて襲い掛かる事は卑怯でも何でもない、ゲームでもこちらに気付いていない敵は先制攻撃のチャンスだ。わざわざ声を掛けて気付かせるバカはいない。

 そういうのはルールの決められたスポーツでやってろ。


「うおおぉおぉぉぉ!!!! 喰らえ魔王!!!!」


 …………


 やっぱりアイツはバカだ。俺の感心を返せ。

 何で背後からの奇襲で声を掛けるんだ、このバカッ!!


 ジャバウォックは気怠そうな感じで後ろを振り向くと、右手の三本の指に光る爪を発生させた。

 あれが『事象破壊(ジエンド)』? 爪がせいぜい2~3cm伸びた程度だ……

 ジャバウォックは二本の爪を軽くくっ付け、ピン!と弾いて見せた。すると……


 ドォン!!


「!?」


 衝撃波が発生した! 距離のある俺達ですら吹き飛ばされそうになる程だ。

 当然近距離でくらった勇者は数メートル後方へ飛ばされ転がる。


 今のは何だ!? 空間を破壊し潮汐力を利用して衝撃波を生み出したのか?


「くっ!!?」


 何とか体勢を立て直した勇者の目の前に、既にジャバウォックが迫っている!

 右腕を大きく振り上げ、その手には光の爪が五つ見える!


「う…うおおぉおぉぉぉ!!!! 『封魔剣技・音速剣』!!!!」


 アイツ!? そのまま迎え撃つつもりか?


 予想外の攻撃を繰り出す勇者!

 そして、ジャバウォックの爪と勇者の剣がぶつかった!



 パキィィィン!!!!



 勇者の剣ブレイブ・ブレイドの刀身は粉々に砕け散っていた……


「そ……そんな…… バ…バカ……な……」


 勇者とジャバウォックはそのまますれ違う様に通り抜ける、そして数歩歩いた所で勇者は力を失ったように崩れ落ち、顔面から倒れていった。

 まさかあの爪を喰らったのか?

 いや、オーラは抜け出してない…… ショックのあまり気絶したのか?


 勇者がまたしてもカマセになった…… コレで対魔王戦三回目だ…… 憐れなり……

 まぁコレも歴代勇者の宿命みたいなモノだ。


「ウオオオォォォーーーン!!!!」


 ジャバウォックは再び狼のような雄たけびを上げ、こちらに駆け出してきた。


「みんなアイツと距離を取れ!! 絶対に近づくな!! あの爪はかすり傷でも死ぬぞ!!」


 素の身体能力の高い獣人族(ビスト)は速い! とにかくアイツを止めなければ!

 魔神器から魔力微細制御棒(アマデウス)を取り出し魔術で牽制を掛ける。


「第4階位級 流水魔術『激流』トレンヴュート!!」


 坑道一杯に水の壁を作り出し敵にぶつける! 勇者がちょっと溺れるかもしれないが気付け薬代わりになるかも知れないからな。

 しかし……


 パキィィィン!!!!


「なぁっ!?」


 ジャバウォックを押し流さん勢いだった濁流が一瞬で消された!

 まるで反魔術(アンチマジック)みたいな事をしやがる……


 しかし今の隙に黒田先輩と槍王が左右の壁際まで離れた。

 それでもジャバウォックは真っ直ぐ進んでくる…… 俺を狙ってるのか、白を狙ってるのか……


「だったらコレならどうだ!

 第7階位級 金属魔術『散弾』リード・ショット!!」


 敵に向けて散弾をばら撒いてやる。貫通力が弱く単体では殆んど役に立たない魔術だ。

 本来は二段階魔術や増魔(チャージ)と併用して使うモノだが、今回はそんな事をしている時間が無いのでそのまま放つ。

 一粒一粒が独立している散弾を、濁流と同じように消せるか?


 するとジャバウォックは右手の指全ての爪を光らせた、そしてさっきと同じく軽く弾くと……


 ドゥン!!!!


 強烈な衝撃波が発生し、散弾は全て弾き飛ばされた。

 消すどころか跳ね返してきた…… 狂ってるクセに何故ここまで的確な返しが出来る?

 だが見えてきたぞ『事象破壊(ジエンド)』がどういったモノか……!


「おに~ちゃん……!!」

「分かってる!!」


 ジャバウォックは一切足を止めずに近づいてくる、だったら……


「第7階位級 光輝魔術『瞬光』フラッシュ!!」


 強烈な光を放つ目暗まし、この暗い坑道になれた眼に、この光はキツかろう。

 もちろん相手は魔王で緋色眼(ヴァーミリオン)持ち、あまり効果は無いだろうが……


「くっ……!」

「クソ餓鬼め…… 瞬光(フラッシュ)を使うなら声を掛けろよ……!」


 槍王と黒田先輩の目を塞ぐ事は出来た。その隙に跳躍衣装(ジャンパー)を使いジャバウォックの背後、土下座のようなポーズでゴメン寝をしている勇者の傍らに跳んだ。


「おい仮勇者、生きてるか?」

「…………」


 返事は無いが別に屍になってるワケじゃない。命に別状は無さそうだ、まぁ顔は見えないがきっと死んだ魚のような目になってるのだろう。

 ジャバウォックは何故かコイツに止めを刺そうとしない。取りあえず放っておいても大丈夫だろう。


 そして少しだけ分かった、『事象破壊(ジエンド)』の性能について。


 まず射程範囲、コレは当然だが爪の届く範囲だけ。非常に短い、コレは朗報だ。

 恐らくだがミカヅキの角みたいに、爪を伸ばしたり、飛ばしたりは出来ないのだろう。


 そして事象破壊の効果範囲だが、コレが厄介だ。

 検証しないと正確な事は言えないが、どんなに広範囲でも一つの事象をすべて破壊できるようだ。


 一番重要な事は、物理的に繋がっているモノは一度に破壊できるが、散弾の様に一つずつ独立しているモノはまとめて破壊する事は出来ない。

 この性質は跳躍衣装(ジャンパー)と近いモノがある、もちろんそれが弱点になる訳じゃ無いが……


 この特性さえ理解っていれば……


「グルルルゥゥゥゥゥウ……」


 ジャバウォックが右を見る、その方向にいるのは黒田先輩だ。

 あれ? アイツは俺か白を狙ってたワケじゃないのか? 単純に近い奴に反応しただけか?

 相手は狂った魔王だ、そっちの方が自然だ。


「ちっ!!」


 黒田先輩は巨大なバスターソードを構え、タメ斬りの体勢に入る。

 迎え撃つ気か!? アイツ今まで何を見てたんだよ!! 俺のすぐ脇で生きた屍になってる勇者の悲劇を忘れたのか!?


「バカ! 逃げろ! 接近戦はするなって言っただろ!」

「憶えてるよ、だが俺は伝説と違ってスピードが全く無い。お前みたいに魔術で牽制しても止められる気がしない…… だったら最大威力の攻撃を叩き込んで返り討ちにする!」


 ジャバウォックが狙いを定め飛び出していく! クソッ! 少し遠い!

 他に手段がないのも分かるが、いくら何でも無茶だ! 黒田先輩は勇者と違ってバカじゃない、しかし少しの小細工でどうにかなる相手じゃない! ならばせめて……!


「第7階位級 光輝魔術『閃光』レイ!!」


 光線をジャバウォックの顔面に直撃させる。

 増魔(チャージ)未併用の閃光(レイ)では魔王にダメージは与えられないが、数秒だけでもヤツの視界の半分は潰せるハズだ。


「グォッ!!」

「霧島…… 礼は言わんぞ!」


 礼なんていらん、これ以上被害が出る前に魔王を倒せるならそれに越した事は無い。

 黒田先輩は体をずらし死角になっている右側へ隠れる。


剛力(ストロングス)・身体強化魔術併用! 腕力100倍!!」


 ボゴン!! ボゴン!!


 黒田先輩の腕から肩にかけての筋肉が数倍に膨れ上がった!? キッショ!!

 それに伴い胸部鎧の金具がはじけ飛び装甲が落ちる。この能力ならノースリーブばかり着るのも納得だ。


「金剛力!! 一刀唐竹!!!!」


 そして死角からジャバウォックの頭部目掛けて縦一文字斬りを放った!



 ドゴォォォン!!!!


 グラグラ……


「うぉっ!?」


 魔王城全体が揺れたぞ!? アイツ床をぶち抜きやがった!


 ゥゥゥー ドス! ゴロゴロゴロ……


 いつの間にか天井近くまで飛ばされていた何かが落ちてきた。今のは……?

 そこに落ちていたのは毛むくじゃらの腕…… 魔王ジャバウォックの腕だった。

 おぉ! スゲェ! ヤッたのか!?

 いや待て、腕? という事はまだ生きてる!


 二人の衝突位置には破壊の為ケムリが渦巻いている。もしかして下に落ちたか?


 ボフッ!


 そんな事を思い煙を観察していると、何かが勢いよく飛び出してきた……

 ジャバウォックだ…… 宙返りの体勢で飛び出し、10メートルほど離れた位置に着地した。

 その右腕は斬られていた。


 黒田先輩は? まさか相打ちになって無いだろうな?


「うっ……くぅ……」


 晴れてきたケムリの中に薄っすらと人影が見えた…… しかし……


「くそ…… 何なんだ……コレは……」


 黒田先輩は右腕を押さえていた……

 その隙間からは物凄い勢いでオーラが抜け出していた……




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