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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
150/375

第145話 分断


---霧島神那 視点---


 ヤバイ事になった……


 どれくらいヤバイかと言うと、テスト中に腹が痛くなり少しでも動けばダムが決壊しそうな時くらいヤバイ。

 意味不明の例えだが、とにかくそれ程の大ピンチだ。


 足元に現れたあの文様は転移魔方陣だ。

 さすがにディスプレイに映した魔法陣が作動するとは思えない、アレは恐らく元々下にあった魔法陣を目視や魔力探知から隠す為の装置だったんだろう……


 転移トラップに見事にハマり、魔王討伐部隊はバラバラに飛ばされてしまった訳だ。


 そばに居るのは後ろから抱きつき暖を取っていた白だけ…… 少なくとも白の無事を直ぐに確認できたのが不幸中の幸いだ。

 しかし、今自分がいる場所が分からなくなってしまった。分かっているのはどこかの塔の中……という事だけだ。

 窓から魔王城の景色が見える、恐らく外周部に近い塔のどこか、魔王城の外れの位置だろう。

 しかし正確な位置が分かってもあまり意味が無い。全員飛ばされてどこに居るのか分からないんだから……

 緋色眼(ヴァーミリオン)のゲインを最大まで上げてみるが、残念ながら生物のオーラを捕える事は出来なかった。


「おに~ちゃん……」


 おっとイカン、俺が不安そうな顔をしていたら白まで不安を感じてしまう。

 とにかく合流だ。

 もしかしたらガーランドへ向かう奴もいるかもしれないが、この場合、恐らく全員が中心の塔へ向かうだろう。

 みんなの事が心配だが、現状ではどうする事も出来ない。


 とにかく迅速に次の行動に移らなければ…… ってアレ? ちょっと何かオカシイな?

 こんな大がかりな罠にハメといて、ナゼ何も無い?

 転移トラップといったらゲームなんかじゃ最凶の罠の一つだろ? ローグライクじゃ飛ばされた先がモンスターハウスなんてコトもザラだ。

 正直、転移した瞬間そうなるんじゃないかと覚悟していたが…… そんな気配は微塵も無い。


 単純にこちらを分断したかっただけ?

 いや、普通に考えれば各個撃破を狙うハズ!


 ……あ~、普通の考えが通用しない魔王だっけ……


 もしかしたら人手が足りないから魔王プロメテウスが直々に各個撃破に回ってるのかも知れない。


 …………


 モンハウよりヤベェじゃねーか!

 緋色眼(ヴァーミリオン)を開き人を探しながら移動しよう。

 幸い俺は転移能力者、建物の構造など無視して隣の塔へ飛び移る事が出来る。

 魔力の無駄遣いになるからあまり頻繁にやるワケにもいかないが……


 あの時、琉架が警告を発した。事象予約(ワークリザーブ)で跳ばされる未来が見えたんだろう。

 D.E.M. のみんななら、それが何を意味するのか瞬時に理解できたはずだ。

 他の奴らはこの際置いておこう。

 ミカヅキは琉架の側に控えてたハズだ、ミラや伊吹や先輩はどうだっただろう? せめて一人になって無ければ良いんだが……


「行こう白、まずはみんなと合流する」

「うん……」


 素直に建物から出してもらえるか分からないから、取りあえず跳躍衣装(ジャンパー)で外に出よう。

 とにかく今は祈るしかない。


 俺の嫁達よ…… 無事でいてくれ!





---有栖川琉架 視点---


 大変な事になってしまった……


 どれくらい大変かと言うと、神隠しに遭って、たった一人で浮遊大陸アリアに跳ばされるくらい大変だ。

 ………… いや、今の例えは大袈裟かな? とにかくそれ程の危機だ。


 事象予約(ワークリザーブ)で転移してしまう事は事前に分かっていたのに警告が遅れた。

 未来の景色が急に変わった事が一瞬理解できなかったんだ……

 折角の能力も宝の持ち腐れだ、ちょっと緊張感が欠けてたのかもしれない。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

「あぅ…… ミカヅキさん……」


 あの瞬間、ミカヅキさんは私に「接触」してくれた。お蔭で一人で飛ばされるのは避けられた。

 いや、別に一人じゃ無い。周りには数人、私たちと同じように跳ばされた人が居る。


 その中にはエルリアさんと加納先輩もいる…… ちょっと苦手な二人だ。ミカヅキさんが居てくれてよかったぁ。

 他に居るのは剣王連合、魔法王団、エルヴン・アローから各一名ずつ…… それと……

 第二の勇者さんだ。


 第一の勇者さんじゃなくて良かった……


 今私たちがいるのは暗い坑道の様な場所だ。

 かなり広い…… 半円状の通路で幅と高さが10メートル以上ある。きっとテーブル状の土台の地下?って言ってイイのだろうか? そこに当たる場所だろう。


「お嬢様、マスターや他の皆さんが何処に居られるか分かりますか?」


 緋色眼(ヴァーミリオン)で周囲を見てみるが、どうやら近くには誰も居ないらしい……


「ううん…… 近くには居ないみたい」

「そうですか…… とにかく合流を優先に考えた方が良さそうですね」


 神那のコトは私が守るとか偉そうな事を言ったのに、その神那と離れ離れにされちゃうとは…… うぅ…… 心配だなぁ、神那は魔王と戦うと大体酷い目に遭ってるみたいだし……


「問題は……どちらに向かうか…… ですね?」


 そう、自分たちの居場所を見失ってしまったから、向かうべき方向すら分からないのだ。

 せめて飛ばされた場所が外だったら、どちらに向かえばいいか分かったのに。

 ここが地下なら真上に穴を開けて外に出るのも一案だけど、上に塔があったらみんな生き埋めになっちゃう。そもそも神那はこの魔王城を壊したくないって言ってたし……


「有栖川さん」

「え? はい、あ…… エルリア……さん」


 うぅ…… 身体が条件反射的に少しだけ震えてしまった。昔泣かされたことを思い出しちゃった。

 もう大丈夫、昔とは違う、あの頃とは違う!


 …………


 ミカヅキさんもいるし!

 情けないコトに今もミカヅキさんの影に隠れてる…… 魔王になっても私はやっぱり臆病者だ。


「………… どちらの方向が魔王城の中心か分かりますか?」

「い……いえ、残念ながら……」

「…………」

「…………」


 うぅ…… 未だに目も合わせられない…… 何か久し振りに会ったら前より悪化してる気がする。


「それではどちらに向かうか決めてもらえませんか? 勘で構いません」

「え? わ……私が?」

「はい」

「そんな事…… 言われても…… うぅ……」


「ハァ…… 貴女には言わなければならない事が有りますね……」


 ビク!


 な……なんだろ? ため息つかれた。


「私は貴女に……」

「すみません、ちょっと待って下さい。少々お静かに」

「え? ミカヅキさん?」

「しっ! 何か聞こえます」


 ?


 足の裏に微かな振動を感じる気がする……

 耳を澄ませば遠くから何かが近付いてくる音が聞こえる。


 キュラキュラキュラキュラ……


「キャタピラ音?」


 そうエルリアが呟いた……

 言われてみれば似たような音をテレビで聞いた事がある。


「両サイドから聞こえてきますね」


 その言葉通り薄暗い一本道の坑道の先から、それぞれそんな音が迫ってきている…… それはつまり……


「挟み撃ち……かな?」

「どうやらその様ですね」


 暗闇の中から巨大なモノが姿を現す。


「うわぁ…… 大っきい~」


 坑道を埋め尽くすほどの大きさの機械だ。

 しかしどう見ても戦闘用のカラクリじゃ無い、どちらかと言えば工作機械のように見える。

 とは言え、如何に戦闘用でなくとも、あの巨大なアームは人など簡単に握り潰せるだろう。見た感じかなり頑丈そうでもあるし……


「え? あ……あれ?」

「どうしましたか? お嬢様」

「うん……えっと、なんて言えば良いのか……」


 この巨大な工作機械に魔力の塊が見える……

 緋色眼(ヴァーミリオン)が生物特有のオーラを捕えている。

 それはつまり…… コレに…… 第10魔王が乗ってる!?


 チャンスだ! らすぼす(・・・・)がいきなり現れた!

 第10魔王を倒せば使途も力を失うハズだし魔王城・オルターも停止する!


「私がコレを何とかしますので、皆さんで残りの一体を…… って、アレ!?」


 反対側から迫りくる巨大カラクリにもオーラが見えた…… なんで?


「お嬢様?」

「う…んん、何でもない、とにかくアレ壊しちゃお。このままじゃみんな挟まれて潰されちゃうし」


 どういう事だろう? この城には魔王以外の生物はいないハズ…… それにあのオーラ、密度が高くて良く見通せないけど、何か…… 小さい気がする…… もしかして魔王プロメテウスのギフトが関係してるのかな?


 う~ん…… こう言うファンタジーとかオカルトは神那の専売特許だからよく分からないな。


 今はとにかく目の前の敵に集中しよう。

 早く神那に会いたい…… じゃなくて、みんなと合流したい!





---佐倉桜 視点---


 マズイ事になった……


 どれくらいマズイかと言うと、義務教育の途中で異世界に放り出され2年も学校に通ってないくらいマズイ。

 生意気な後輩の男の子が先輩になる…… そんな現実逃避をしたくなるほどマズイ事態だ!


 どうやら転移罠に掛かってしまったらしい…… ウチのギルマスはそういった危険な罠を見極める為に特別な眼を持ってるんじゃなかったのか? まったく役に立たない魔王だ!


 目の前に広がる景色は先ほどとさほど変わらない、外周部のどこかでとにかく寒い。

 違いといえばさっきまで背後に居た要塞龍・ガーランドの巨大な顔面が無くなったくらいか…… 多分魔王城の反対側に跳ばされたんだろう。

 そして重要な事だが、私の他にも何人かこの場所に跳ばされていた。取りあえず魔王城で迷子にならずに済んだ。


 ココに居るのは…… アレは勇者の仲間の妖精族(フェアリア)、タリスちゃんと…… 魔導学院の後輩の平等院武尊…… あれ? 鳳凰院だっけ? とにかく武尊くんだ! 間違っても同学年じゃ無い!

 あとは名前は分からないけど魔法王団の1人とエルヴン・アローの1人……

 そして金髪の美しい超絶美人が一人いた…… てかミラちゃんだ。

 味方の魔王様がいた!


「ミラちゃ~~~ん!!!!」

「え? あ! サクラ様」


 ヒシッ! ムニョン♪


 猛スピードで突っ込み抱き着く。

 あぁ、やわらかい…… 大きいなぁ…… くそぅ、私もこれくらい欲しかった!


「うぅ…… ミラちゃんが居てくれて良かったぁ。肝心な時にいつも役に立たないギルマスより安心感があるよぅ」

「あはは…… 私も一人にならなくて、サクラ様がいてくれて良かったです…… それと、カミナ様はいつだって頼りになりますよ?」


 それはあの男の接し方の差、禁域要員かどうかの差なんだよなぁ…… ミラちゃんは大事にされる子、私は蔑ろにされる子……

 別にイイんだけどね? 禁域要員にされても困るし。


「アルテナ様、皆様が何処にいるか分かりますか?」

『ふむ…… この魔王城の中心方向に人の気配を感じるが、誰が居るかまでは分からんな』

「敵は分かりますか?」

『カラクリは無理じゃ、生物でなければ魔力探知は出来ん』

「そうですか…… 戻るにしろ、進むにしろ、その方角に進むしかないようですね」


 この即席パーティーで魔王城の中心へ向かへと?

 何となく回復職ばかり集められた感じだ。私は違うけど……

 まぁ火力不足ってコトは無いよね? 現役魔王様のミラちゃんが居るから! あぁ、本当に居てくれて良かった! 心に余裕ができる!


「それではサクラ様、このまま中心へ向かいますが宜しいですか? 道すがらアルテナ様に周囲の魔力探知を行ってもらい、誰か発見次第そちらへ向かいます」

「うん、それでいいと思う。やっぱり合流した方が良い」

「えぇ…… 皆様が心配です……」


 …………


「それってホントに皆様の心配? 神那クン限定じゃ無くて?」

「み…皆様の事です! ただ白様はカミナ様と接触していたので無事でしょう。ルカ様もミカヅキ様と一緒に居るハズです。そうなると後は……」

「ジークさんと…… 伊吹ちゃん…… 確かに心配だ!」


 ジークさんは一人でも大丈夫だと思うけど、伊吹ちゃんは……

 せめて神那クンか琉架ちゃんの側に跳ばされてればイイんだけど……





---霧島伊吹 視点---


 深刻な事態になった……


 どれくらい深刻かと言うと、ウチのアホ兄とお姉様が結婚するくらい深刻な事態だ!

 何としても! この命に代えても妨害しなくては…… いや、私の本当のお姉様になるなら……アリかな?


 ……なんて事を考えてる場合じゃない!


 今私は…… 私たちは大量のカラクリ兵に囲まれている。転移トラップにより文字通りのカラクリ部屋へ放り込まれてしまったのだ!

 一緒に跳ばされてきた人たちを見てもお姉様が居ない! それだけでも心が折れそうな状況だ。


 ここはドーム状の空間だ、体育館くらいの広さがある…… ちなみに出口が見当たらない…… 詰んだ。

 周囲には私を含めて8人程の人が居るが、一気に頼りなくなった……


 失礼を承知で言わせてもらえばみんなモブだ。


 敵の強さを見せつける為にアッサリ殺られる役どころだ…… これは幾らなんでも失礼すぎか……


「アレ?」

「む?」


 一際背の高い偉丈夫と目が合った、ジークさんだ!


「ジィィィクさぁぁぁん!」

「イブキもここに跳ばされたのか」


 おにーちゃんがこの人のコトを肉壁肉壁言ってたけど、敵に囲まれたこの状況では途轍もなく頼りに見える!

 その鍛え上げられた筋肉で是非とも私を守って欲しい! もちろん私も援護は惜しまない!


「霧島妹」

「え? あ、伝説センパイ?」


 遠慮がちに話し掛けてきたのは伝説センパイだった。

 チーム・レジェンドのメンバーは一人も見当たらない…… この人は完全にはぐれちゃったんだ。

 今までまともに話した事も無いのに話し掛けてきたのは、一人で寂しかったからじゃないだろうか?


 …………


 たぶん間違いない、この人コミュ力低そうだし……

 もし私が逆の立場だったら同じ事をしたと思うし……


「さて、困った事態になったな。まずは何としても他の奴らと合流したい所だが……」

「どうやってですか? この部屋、出入り口がありませんよ?」

「うむ、上だ」

「上?」


 視線を上に向けてみると、真上の天井にポッカリ穴が開いていた。

 え…… あそこから出ろって言うの? どうやって?


「これは助けが来るのを待つしかないんじゃないでしょうか?」

「現実的ではあるが、それも厳しそうだな。見てみろ」

「?」


 もう一度視線を上に向けると……

 穴からカラクリ兵が落ちてきた!


「ひえっ!!」


 ガシャン!!


 私のすぐ隣に落ちてきた…… 危なく直撃するトコロだった! しかも……


 ガシャン ガシャン ガシャン


 それを合図に周りを取り囲んでいたカラクリ兵が動き始めた。

 えっ! ちょっと! 乱戦になっちゃうよ!?


「どうにか壁際を確保しないと犠牲者が出そうだな。イブキよ、少し気合を入れよ!」

「ひぃぃぃぃ!」


 おにーちゃーん! へるぷみ~!

 妹が…… 貴方の可愛い妹が人生最大のピンチですよー!! 助けてー!!



 こうして第10魔王軍との戦闘の火ぶたは切って落とされた!




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