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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
149/375

第144話 魔王城・オルター

 獣衆王国・王城

 オルフェイリアの私室 ―


 ガーランドから逃げ出した我々は、城へ帰る所だったオルフェイリアを拾い一緒に王都へ戻った。

 現在彼女の所に厄介になっている。


 魔王城との距離や快適性を考えるとココがベストだ。

 半日前に旅立った奴があっさり戻ってきて少し呆れられたが、それでもしっかり饗された。オルフェイリアは案外良い嫁になりそうだ。


 そして予想ではそろそろ要塞龍・ガーランドが魔王城・オルターと接触する頃だ。

 今度こそホントに行ってきますだな。

 そうそう、その前に……


「伊吹、お前留守番してても良いんだぞ?」

「は? なに? どうしたの突然?」

「いや…… 伝説君達を見て思ったんだが、お前にはまだやっぱり早い気がするんだよな…… 魔王討伐って」

「私より小さい白ちゃんが参加するのに?」

「白はお前より戦闘経験も豊富だし、素の身体能力も高い。なにより魔王討伐経験者だ」

「まぁ、確かにそうかも知れないけど、私は後衛型だから大丈夫でしょ? おにーちゃんもお姉様もミラさんもいるんだから♪」


 コレは深刻だ…… コイツ、魔王をあまく見すぎだ。それもひとえに俺と琉架とミラに魔王の威厳が欠片ほども無いのが原因だろう。ついでにウィンリーもか…… 完全に魔王をナメてる。

 さらに味方に魔王が複数人居ることが安心感につながってる感じだ。

 確かに伊吹の潜在能力は伝説君達を上回るだろうけど、彼らより経験が少ない…… いや、実戦経験は痛い方のシルヴィアが叩き込んでくれたのだが、ハッキリ言って苦労してない。そして危機に陥ってない……

 果たしてこのちょっと危機意識低い系の妹を魔王討伐戦に連れてって良いものか……


「神那クンってシスコンだね? 不安なのは分かるけど伊吹ちゃんって私より強いよね? 大丈夫! 私が生き残れるんだから!」


 ぶっちゃけ先輩も居残りの方がイイ気がするんだが、無駄な説得力がある……

 シスコンの俺としては妹にあまり危険な事はして欲しくないのだが、先輩と違って伊吹には才能がある。

 その才能は出来るだけ伸ばしたい……


「う~ん…… 後衛型なら前衛型の人とセットで行動するように心がけろよ? 兄としてはあまり勧めたくは無いんだが、それでもやっぱりジークがおススメだ」

「お姉様じゃダメなの?」


 ダメじゃないけど魔王と戦う時に足手纏いがいたら邪魔になる。


「ジークは壁役の専門家だからな」

「確かに慣れているが専門家になった覚えは無いぞ?」


 いいんだよ、この際お前の意見なんかどうでも……


「ジークの影に隠れてればかなり安全が保障される。強制はしないが覚えておけよ?」

「…… まぁ、せっかくの忠告だから聞いておくよ」


 俺だってこんな筋肉の側に妹を置きたくないが、身の安全には代えられない。幸いジークは男性機能に難アリだしな、そっちの意味でも安全が保障されてる。


「さて、それじゃそろそろ行きますか……」


「あっあの! 今度は行方不明になったりしないでね! イイ!? 絶対だからね! もし行方不明になったら許さないんだから!」


 オルフェイリアのお手本のようなツンデレ台詞に見送られ、魔王討伐に旅立つことになった……


---

--

-


 要塞龍・ガーランドから魔王城・オルターが肉眼で確認できる距離まで来た……


「アイツ等まだ戻ってこないんですけど…… 何なのよアイツ等! ホントに!」

「落ち着けシャーリー、前の時もそうだっただろ? ピンチには駆け付けてくれるさ…… きっと……」


 遠目に見える魔王城・オルターは報告にあった通り、巨大なテーブルと無数の足で自走している。

 そして城自体は巨大な竜巻に覆われていた。


「神那の話だと、超大型鉄機兵に搭載されていた荷電粒子砲に似た兵器も配備されてる。

 しかしこの要塞龍・ガーランドならそんな攻撃をものともせずに特攻を駆けられるらしい」

「それ…… 本当なの? 鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)と砦をまとめて一撃で吹っ飛ばす兵器よ?

 いかに巨大な要塞龍とはいえ、生物が耐えられるの? そしてそれを言い出した本人がココに居ないんですけど?」


「…………」

「…………」


「大丈夫だ、信じるしかないだろ?」

「せめてアイツがココに居れば信憑性も上がるんだけどね……」


 キュイイイィィィン


「こ……この音は…… 撃ってくるぞ!!」


 巨大な竜巻の向こう側に光が見えた。


「全員衝撃に備えろ! 頼むぞ! 要塞龍・ガーランド!!」


 カッ!!!!


 先日見たのと同じ、強烈なレーザービームが竜巻を突き破って飛び出してきた!

 その眩しさに目を閉じ、衝撃に備える!


 バシュゥゥゥゥゥゥーーーッ!!!!


 魔王城より放たれた強烈な閃光は、ガーランドの大きな襟飾りに直撃!

 しかし全て弾かれ消えていった…… ガーランドはビクともしなかった。

 空気は震えたがガーランドはグラつく事すら無く平然と歩みを進めている…… 恐ろしいまでの頑丈さ。


「お…… おぉぉ! イケるぞ!!」

「まて! 気を抜くな! 第二・第三射が来るぞ!」


 カッ!!!! バシュゥゥゥゥゥゥーーーッ!!!!


「良ぉし! 完全に無効化できている! このままぶちかますんだ! 体当たりをし魔王城へ乗り込むぞ!!」


「「「おおおぉぉぉーーー!!!!!!」」」


 敵の超兵器を無効化した事により味方の士気が上がる。

 もちろん無効化したのは討伐部隊では無くガーランドの功績なのだが、ここは勢いに乗らせてもらう!


 その後も近づくにつれ砲撃は激しさを増すが、ガーランドは一瞬たりとも怯むことなく進み続ける、順調だ。

 しかしあと数歩という所まで近付いた時、変化が起こる。

 竜巻の中でキラキラと光っていたモノが飛び出してきたのだ。


「!?」

「報告にあった鳥型の自動人形(オートマタ)か!?」


 自動人形(オートマタ)は竜巻の勢いを借りる様に飛び出し、要塞龍の側面に弾丸の様なスピードで突っ込んできた!

 そのコースは要塞龍本体を無視し、乗組員室目掛けて飛んでくる…… つまりココだ!

 如何に要塞龍の防御力が高くても窓部分のフィールドはあの特攻を防げるモノでは無い。


 しかしコレは予測済みだ。


磁力円陣(コン・パス)!!『反発磁界(レジリエンス)』!!」


 自動人形(オートマタ)達は空中で見えない壁に突き刺さったように縫いとめられていく!


 しかしそれでも突っ込んでくる敵の勢いは落ちず、自動人形(オートマタ)はどんどん溜まっていく……

 そして数が増えるたびに熱を発するようになった。

 その様子を見てネヴィルが呟く。


「これは…… マズイぞ」

「? 何がだ? この程度の重量なら問題無く防げるぞ?」

「そうじゃない…… コイツ等ある程度溜まったら自爆する気だ!」


 自爆? そうだ、今までの鉄機兵と違い明らかに特攻を目的として作られた自動人形(オートマタ)なら当然その機能が付いている。失念していた!

 自動人形(オートマタ)達はどんどん熱量を上げ、自らの装甲すら熔けはじめた。

 その輻射熱の影響で乗組員室の温度が上昇する。


「こ……これはっ!?」


 磁界により縫いとめられていた自動人形(オートマタ)達が、じわじわとこちらに迫ってきた。


「ちょっとクリフ! 押されてるわよ! 気合入れなさい!」

「さっきからやってる! な……なにか磁界が弱まってきているんだ!」

「冗談ヤメテよ! あんなのが突っ込んで来たら、この部屋は火の海よ!」

「分かっている! しかしこのままじゃ……支えきれない! え…遠距離攻撃部隊は自動人形(オートマタ)をそぎ落とせ!」


「無茶を言うな、あれほどの熱量を発していては生半可な魔法では届く前にかき消されてしまう。仮に届いたとしてもそれが起点となり大爆発を起こしかねんぞ?」


 確かに…… しかしこのままじゃ……!



「第7階位級 風域魔術『空圧』コンプレス チャージ100倍」


「第3階位級 氷雪魔術『白冷神楽』ハクレイカグラ × 第3階位級 風域魔術『鳴風神威』ナリカゼカムイ

 合成魔術『絶対零度』アブソルート・ゼロ」


 !?


 突然空気の断層が生まれ自動人形(オートマタ)達を閉じ込めた。

 そしてトンデモナイ熱量を放っていた自動人形(オートマタ)達が、一瞬の内に冷やされ凍りついた!


 一体何が起こった……


 いや、考えるまでも無い、こんな真似ができるのは世界中を探してもアイツ等だけだ。


「良し! 俺の合成魔術が第10魔王の熱攻撃に勝った!」

「さすが神那! スゴイ!」

「第3階位級の合成魔術は今の私にはまだ使えそうにないなぁ…… くそぅ!」


 ガーランドの乗組員室の屋根の上から話し声が聞こえる。いつの間にか戻って来たらしい。


「はぁ…… 神那、もうすぐガーランドが魔王城へ突っ込むから早く中に入ってこい」

「おっとそうだった、みんな急げ」


 D.E.M. の面々が乗組員室に入ってきた。


「随分といいタイミングで現れたな? まさかとは思うがピンチになるのを待ってたのか?」

「半分正解ですけど誤解です。敵の主砲攻撃が止むまで近づけなかったんです。あの荷電粒子砲モドキを喰らえばホープは撃墜されますからね」


「ならもっと早く帰ってくればいいだろ?」

「そのつもりだったんですが、出発間際にジークがトイレに籠ったモノで……」

「おい、事実を捏造するな。お前が王女殿下に捕まったのが原因だろ?」

「チッ!!」


 今から魔王戦だというのに緊張感がまるで無い、頼もしいと言えば頼もしいのだが……


「そうそうクリフ先輩、先輩の磁力に対策が取られてましたね?」

「なに?」

「アイツ等の熱量攻撃ですよ、磁石は熱によって磁力を失うんです」

「な……あ…… そう言えばオリジン機関で注意を受けていた、完全に忘れてた。そんな手段を取られた事が無かったからな……」

「クリフ先輩が北方砦で防衛していた時にデータを取られたんでしょう。熱には注意したほうがイイですね。もっとも自分の城であんな熱量迂闊に出せないと思うけど……」

「あぁ、熱量が上がる前に魔術攻撃に切り替える事にするよ」


 見ている所はちゃんと見ているんだな…… まったく頼もしい後輩だ。


「さあ! いよいよ魔王城へ突っ込むぞ! 全員衝撃に備えろ!」



---



 シャーリー先輩が何か言いたそうにこちらを睨んでる…… この分だと全部終わった後に説教してきそうだ。相変わらず面倒臭い人だ。

 ちなみにバカ勇者にも睨まれた。

 お前はもう一人の勇者の方を気にしてろよ。


 自動人形(オートマタ)による攻撃に失敗した魔王城・オルターは自らの歩みを止め、要塞龍・ガーランドの突撃に備えた。

 大量の足の爪を大地に突き立て踏ん張ってるのだ、如何に魔王城が巨大でも、それを上回る巨大さがあるガーランドの突撃は無視できるハズも無い。


 ズドオオオォォォオン!!!!


「うおっ!?」

「キャッ!!」

「どぁぁ!!!!」


 ガーランドの鼻先の角が魔王城・オルターのテーブルに深々と突き刺さった。

 その角が、テーブルの外周部に描かれていた魔法陣を破壊し、竜巻が消え失せた。

 それと共に魔王城の全貌が露わになる。

 いくつもの塔が建ち並んでいる、いや、塔と言うよりビルの様に見える…… まるでデクス世界のような光景だ。

 中央に巨大な塔が建ち、外周部に近づくにつれ塔の高さも低くなっている。


「侵入者に対する兵隊はいないのか?」

「鉄機兵が全くいないってコトはあり得ないですが…… さて、どうしますか?」

「ガーランドから降りた途端、荷電粒子砲を撃たれる可能性は有ると思うか?」

「有り得ないですね、アレは威力がデカすぎる。ただし狙撃には注意した方がイイですが」


「よし! 乗り込むぞ! 全員注意は怠るな!」


 クリフ先輩が率先して動き、全員がそれに続き魔王城・オルターへ上陸した。


 クッソ寒い!

 周りに遮蔽物が無いため冷たい強風に思いっ切り吹かれる…… 今すぐ建物の中に入りたい気分だ。

 取りあえず白を後ろから抱きしめて暖を取ろう。


「静かだな…… 風の音しかしない……」

機人族(イクスロイド)の話では、この城に住んでいる生物は魔王だけらしいですからね」

「とにかくこんな開けた場所に居たら撃ってくれと言ってるようなモノだ。全員注意したまま移動を開始しよう。

 魔王プロメテウスはどこに居ると思う?」

「普通に考えれば真ん中の塔でしょう……」


 そう、普通に考えれば……だ。

 しかし覗き少女リュドミラも言っていた、魔王プロメテウスは何を考えているのか分からない!って。

 果たしてそんな魔王に「普通」が通用するのか?


 そもそもあれほどの防衛を敷いていたのに、城に入られた途端沈黙する…… 何考えてるか分からないと言えばそれまでだが、何かしらの罠がある可能性もある。

 固まっていたらその罠に掛かって全滅って事も有り得る。しかし手分けして探すのも不安だ。

 どうしたモノか……


 コッ……


 ? 足の裏に伝わる感触が変わった、今までは真っ黒な石だったのが、今は真っ黒なガラスのような感触だ。

 どちらも鏡みたいに磨きこまれていて、見た目の違いは殆んど無いが……


「あ……! いけない」


 琉架がそう言葉を発した瞬間、足元に光の文様が映し出される…… まるでディスプレイの様に……

 おい! ちょっと待て! この文様、ついこの間も似たようなの見たぞ!?


「全員接触し……!」


 ヴン!


 その瞬間、魔王討伐隊は全員その場から消え去った……

 その文様は転移魔方陣だったのだ。




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