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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
143/375

第139話 サウスマシナリー


---有栖川琉架 視点---


 何かゆらゆら揺れている……

 この心地いい感覚は最近どこかで感じた事がある……


 あぁ、おんぶされてるんだ。なんでおんぶされてるんだっけ?


 眠りにつく前の記憶を思い出してみる…… そもそもいつ眠りについたんだっけ? え~と……

 ホープに乗って魔王城捜索に来てたら、突然攻撃を受けて墜落…… それで気を失って今に至る……


 あれ?


 何か足りない、何か…… あ、温泉見つけたんだ。

 それで神那と一緒に温泉入る事になって、それ……で……

 それで……


 …………


 あ……あぁぁ……///

 か…神那に裸を見られた! それだけじゃ無い! か……かか…神那の裸も見ちゃった!///


 そう…… 私はもうお嫁に行けない身体にされちゃったんだ……///


 薄っすらと目を開けると、洞窟の中を進んでいるようだった。

 直ぐそこに神那の顔がある…… 体温が一気に上昇した気がする。


 今気付いたけど、私…… 服着てる…… 裸で気を失った私がどうやって服を着たのか…… つまり…… そういう事だ、もう死にたい……

 絆を深めるとかそんな次元じゃ無い、メーター振り切っちゃった感じだ。


「か……神那……」

「! 琉架さん! お気付きになられましたか?」


 神那の口調が変になってる…… そういえば前もこんな感じになってたな……


「え……と、その…… 見た……よね?」

「あ~~…… はい、申し訳ございません、拝見させて頂いてしまいました」


 敬語と言うかしどろもどろになってる感じだ。


「私も…… 見ちゃった……」

「はい、お目汚し失礼いたしました、それにつきましてはいかなる罰を受ける覚悟は出来ております。何なりとお申し付けください」


 え? 罰? 神那は別に何も悪いコトしてないよね?

 お風呂に誘ったのも私だし、お互いの裸を見ちゃったのは事故だし……

 でも男の子と女の子じゃ裸の価値も違うのかな? だったら……


「それじゃ二つだけ……」

「は…はい、何なりと!」

「その…… わたし、お嫁に行けなくなっちゃいました…… 責任…… とって下さいね?」

「へ? せ……責任? あ、わ…分かりました! 何とか致します!」

「それと前にも言ったかもだけど、その変なしゃべり方やめよ? いつも通りがイイです。……ね?」

「分かり…… 分かった、いつも通り」

「う……うん、それで……お願い」


 その後、降ろしてもらおうと思ったけど、まだ足に力が入らなかったので、そのまま神那に背負われていた。

 なんか…… 眠くなるんだよね? 未だに体温も高いまま、自分でもちょっと興奮してるのが分かる。それでも眠くなるのはきっと神那を信頼してるから……かな?

 冷静に考えると「責任とって下さい」って言葉は、私を貰って下さいって意味になるのかな?

 それって一種のプロポーズだよね?


 …………


 今更かな? 前にも私、プロポーズしてるし……

 これがお姉様が言っていた絆を深めるという行為になるかは分からないけど……

 でも、きっと絆は深まったよね? 私が想像してたのとはだいぶ違うけど……

 もの凄く無様だったけど、結果オーライってコトで……


 もっとロマンティックなのが良かったなぁ…… なんでこんな事になっちゃうんだろう?


 そんな事を考えている内に、私の意識は再び闇に落ちていった……




---




【責任】せきにん(responsibility)


 ① 立場上、当然負わなければならない義務。

 ② 自分の仕出かした結果についての責めを負うこと。“特に”失敗や損失による責めを負うこと。

 ③ 法律上の不利益または制裁を負わされること。“特に”違法な行為をした者が法律上の制裁を受ける負担。


 流されるようにユルく生きてきた俺にとって責任とはこの世で最も恐ろしいモノだ……


 責任……


 その言葉が重く圧し掛かる…… 果たして俺にそんなモノが取れるのだろうか?

 女神の裸を拝み、あまつさえ己の恥部を見せつけてしまった…… その罪に対する罰は地獄巡り一泊二日程度では償いきれない。

 つまり死ねばいいのか? いや違う! 俺の女神はそんな事を願う子じゃ無い!


 お嫁に行けない身体にされた…… その責任と言う事は…… 琉架の未来の旦那を探せって事か? 確かに最大級の罰だ、何が悲しくて俺の嫁の貰い手を探さなければならないのか!

 いや、そうじゃない、冷静に考えろ。

 琉架は俺に裸を見られてお嫁に行けない身体になってしまった。

 俺は琉架に裸を見られてお婿に行けない身体になってしまった。


 だったら俺が琉架を嫁にすれば万事解決じゃないか!


 なんだ、責任とか難しく考える必要なかったんだ。

 琉架は俺の嫁! 常々思ってきたことだ。だって第一夫人候補だもん。


 ただ…… お姉様たちにはぶん殴られるかもしれないな、その覚悟はしておこう。それだけの事をしてしまったのだから。

 あと、ギルドメンバーには絶対に内緒にしておこう。特に先輩と伊吹には……


---


--


-


「到着しましたよ、ここが私の住む村、サウスマシナリーです」


 そこはただの洞窟だった…… 洞窟の左右の壁に一定間隔で扉が設置されている、村と言うよりはアパートや集合住宅といった感じか。

 村って言うから大空洞みたいに開けた空間に家が立ち並んでいる所を想像していたが、地下の村ならこんな感じが当たり前だったな。


「もう夜になってしまったので、おじーちゃんも寝てると思うんです、なので聞き取り調査は明日の朝からにしてもらえないでしょうか?」

「え? あぁ、そうか、もうそんな時間か。分かった、俺も老人を叩き起こすつもりは無い、明日にしよう」

「ありがとうございます、え~と……では、この家を使って下さい。私の兄夫婦の家です。どうせ今は誰も居ませんのでご自由にどうぞ。

 あ、食事も缶詰程度しか残っていませんが、そちらもご自由にどうぞ」


 そう言って一つの扉を開く、家ってより部屋と言った方が適当だと思うが…… まぁいい。

 琉架を背負ったまま中に入る。

 その部屋は洞窟の中のただの横穴だと思っていたが、思いの外シッカリした作りだった。

 床も壁も天井も普通の家と変わらないデコボコの無い平面だ、外は岩を掘って作ったゴツゴツの洞窟だったのに、中は立派な居住空間だ。


 …………


 ベッドが一つしかない…… 兄夫婦の部屋だ、当然だな。

 如何に俺と琉架の相部屋率が高くても、一つのベッドで寝るのは流石にどうだろう?

 ふと気になり、緋色眼(ヴァーミリオン)で周囲を見渡してみると、壁の向こう側に覗き少女リュドミラが居るのが分かる…… 壁に張り付いてる…… どうやら聞き耳を立ててるらしい。

 まったく懲りてない…… お年頃と言うヤツだろう。ノゾキ穴が無かっただけまだマシか…… しかし毎夜、兄夫婦の営みに聞き耳を立てていたに違いない。


 音を立てずに琉架を連れて部屋を出る。

 別の空き部屋に移らせてもらった、ちゃんとツインの部屋だ。

 人ん家だけど、どうせ誰も居ないしイイよね?



---



 翌朝、起こされる前に兄夫婦の部屋へ戻り、何食わぬ顔でリュドミラを出迎える。


「おはよう……ございます」


 明らかに寝不足顔のリュドミラが現れた、まさか一晩中聞き耳立ててたワケじゃあるまいな?


「どうした? 寝不足か?」

「いえ…… 貴方達は…… いえ、何でもありません」

「…………」

「?」


 やはりか……


「それではこちらへどうぞ、ご案内いたします」


 憔悴した感じのリュドミラに連れられて、物知りおじーちゃんの元へ向かった。


---

--

-


「ア゛~~~ サチコさんや、朝ご飯はまだかいな?」


「…………」

「…………」


「待って下さい! 言いたい事は分かります、でもちょっと待って下さい!」

「うん、いや、いくらでも待つけどさぁ…… 物知りおじいさんはどこに居るんですか? サチコさん?」

「違うんです! おじーちゃんは朝はこんな感じなんです、寝る前に必ずストレージを外す為、毎朝誰かが接続しなきゃいけないんです」

「ストレージ……だと? まさか記憶を外部に保存してるのか?」

「そうです、この村に代々受け継がれてきた700年分の記憶を管理するのが長老であるおじーちゃんの仕事なんです」


 すると何か? このじーさんは脳の一部を機械化してるのか?

 昨日使ったEMPバーストはこの辺りは影響外のハズだが、そのせいでこうなった訳じゃ無いんだな?


 どちらにしても、機人族(イクスロイド)が地下で暮らしているならEMPバーストの使用は注意が必要だな。

 すでに手遅れなんてことになって無きゃいいんだが…… まぁ機人族(イクスロイド)の機械化は魔力体の代替だし命にかかわる事は無いハズ…… だよな?


「しかし意外でした、ストレージって言葉で意味が通じるんですね?」

「あぁ、俺達はトラベラーだからな」

「! デクス世界からの!? 向こうは機械が発達してるって本当なんですね!」

「人の記憶をバックアップするほど発達はしてないけどな、しかし機人族(イクスロイド)は魔力体の不安定を補う為に機械化してると聞いていたが、脳にまで影響が出るモノなのか?」

「いえ、おじーちゃんの場合は後天的にその処置が加えられただけで、普通は脳に影響が出るコトは無いそうです。大昔にはそういったケースもあったらしいですけど……」


 なるほど…… 規模は小さいがコンセプトは神代書回廊(エネ・ライブラリー)と一緒だな。


「んん…… おはようリュドミラ…… おや? そちらの方々は?」

「おはようございます、え~と……こちらは…… 何と言いますか……」


 おぉ! ストレージを接続したらサチコさんが消えてリュドミラになった。

 てか、サチコさんってどこから出てきた?


「お初にお目に掛かります、自分はギルドD.E.M. の霧島神那と申します」

「あ、同じくD.E.M. の有栖川琉架です」


「ほぅ、人族(ヒウマ)のお客人ですか。サウスマシナリーの長をやっておるテオドールと言います。

 それで? こんな僻地にどのようなご用向きですかな?」

「孫娘さんの賠償の肩代わりにあなたが持つ情報を聞かせて貰いに来ました」

「ちょっ!! それは言わないで下さいよ!!」


 そんな訳にはいかないだろ……


「リュドミラが何かしましたか?」

「覗きです」

「ちょーーーっ!!」

「はぁ…… またやったのかリュドミラ……」


 また? 常習犯だったのか! このノゾキ女!


「あれほどよそ様に迷惑を掛けるなと言っておいただろうに……」

「だって覗ける人が今居ない…… いえ、申し訳ございませんでした」


 兄夫婦が居なくなって禁断症状でも出たのか? 覗きって酒やタバコや麻薬と違って常習性は無いだろ、一体どういう精神構造してるんだ機人族(イクスロイド)って?

 コイツだけが特別だと思いたいな……


「孫が大変ご迷惑をお掛けしたようで申し訳ございません。ワシに分かる事でしたら何でもお答えしましょう」


 まったくだ、大変なご迷惑を被った、本来なら目鼻口を潰してやる所だったんだからせいぜい役に立ってくれよ?


「それでは端的にお伺いいたします。

 第10魔王 “災器” プログラム・プロメテウスについて知っている事があればお教え頂きたい。

 出来ればギフトとか弱点とか実用的な情報だと有り難い」

「なんと…… 戦うおつもりなのですか? 第10魔王と?」

「え? え?」

「えぇまぁ、依頼を受けましたので…… それで何かご存知ですか?」

「ふぅむ…… 残念ながらこれと言ってお話するようなことはありませんな、なにせ1200年も表に出てこなかった魔王ですから」


 やはり無理か…… ここまで情報が少ないと色々不安になってくる。

 そもそも魔王プロメテウスは本当に魔王城に居るのか? アレほど巨大な城だ、魔王の魔力無しには動かせないだろうが……


「それじゃ、あの魔王城…… 確か魔王城・オルターへ入る方法はなにか無いですか?」

「オルター潜入ですか…… オルターは年に一度、資源採掘の為に膝を折ることが有りますが、その時以外正攻法での潜入は不可能でしょう」

「次の資源採掘はいつ頃ですか?」

「氷や雪が少なくなる夏場です。つまり半年以上先ですな」


 おぉう…… 半年も待ってたら第9領域は魔王城・オルターに蹂躙されてるよ。

 こうなると、多少強引でも跳躍衣装(ジャンパー)で乗り込むか…… その場合、突入はD.E.M. だけになるが……


「正攻法以外となると多少強引になりますが、突入するプランだけは有ります。

 大昔に当時の勇者が考案した方法です、その時は条件を満たしていなかったため実行に移されませんでしたが……」

「は? 勇者?」


 その情報に信頼度が全く無い…… それは今世代の勇者がバカ過ぎるからだろうか?

 まぁ話だけでも聞いてみるか、他にアテもないことだし……


「魔王城・オルターは当時から高い防衛力を持っており、通常の方法では近づく事さえ出来ませんでした。

 そこで勇者は乗り物を調達する事を思いついたのです」

「乗り物?」

「はい、要塞龍です」


 要塞龍…… 当時は対空防御が無かったのか? そんなハズは無い、1200年前にウィンリーにフルボッコにされた奴が対空防御を怠る事など有り得ない。


 …………


「そうか…… 陸上種か」

「? 神那?」


 ヴァレリアが言ってたのは要塞龍を探せって事だったのか、ハッキリ言えよアイツめ!


「全10種いる要塞龍の中でも陸上種は特に高い防御力を誇っていると言われています。

 その外皮はあらゆる攻撃を弾き、まさに最強の移動要塞となってくれる事でしょう」

「要塞龍…… そっか、攻撃を無効化できて、更に大きければ直接乗り付けることも出来るんだ」

「確か中央大陸には陸上種が2匹いるハズだよな? どこに居るかは知ってますか?」


「残念ながら1匹は自由気ままに歩き回っております、今は大氷河のドコか……と言う事しかわかりません。

 ただしもう1匹は神聖域に居ると言われています」


 神聖域…… 聞いたコトがあるぞ、確か…… どこだったっけ?


「中央大山脈が交わる場所に神聖域はアリ…… と、言い伝えに在りましたな」


 ここからそんなに遠くない、もちろん山脈が交わる場所って情報だけじゃ、捜索範囲が広大過ぎて分からないんだが…… その心配は必要ないか。

 どうせジークが知ってる。


 そんな事を考えていたらリュドミラが遠慮がちに話し掛けてきた。


「あの…… さっきから疑問だったんですけど、もしかして第10魔王に挑むおつもりですか?」

「もしかしなくてもそのつもりだ、さっきも言っただろ?」

「そ…… そうなんですか…… えっと、頑張ってください!」


 応援された…… やはり機人族(イクスロイド)にとって第10魔王は良くない魔王なんだな……

 人々が逃げ出した村を見れば見当もついたが……


「魔王プロメテウスは圧政を敷くタイプの魔王だったのか?」

「圧政と言うか…… 私たちが大氷河の外へ出るのを2400年も禁止してきた魔王ですから」

「2400年? 確かに機人族(イクスロイド)だけは今まで他の領域で見たコトが無かったな、何か理由があったのか?」

「分かりません、何を考えてるのか全くの不明! それが魔王プロメテウスなんです!」


 案外、技術流出を恐れて……とかだったのかな?

 機人族(イクスロイド)がガイアに移住すれば技術革新が起こるかも知れないな。


 覗き少女リュドミラからも第10魔王を倒せと期待を寄せられてしまった。

 まぁ、コイツにお願いされると、逆に頑張りたく無くなるが……




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