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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
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第136話 弱点


 一瞬空が光った気がした……


 その直後、目の前に迫る敵の大軍の足が止まった。

 鉄機兵達は体から放電している様に紫電が飛んでいる……

 そして次々とその場に倒れ、二度と動く事は無かった。


 これは…… 何が起こった?

 地平線の彼方まで敵で埋め尽くされていたハズが、今はスクラップ置き場の様になっている……


 空を見上げると見覚えのある影が……


「あれは…… 要塞龍ホープか! D.E.M. が来てくれたのか! しかし……」


 今のは何だ? 魔法……では無い。ミラ・オリヴィエの劣化歌姫(ノイズ)の一部だろうか? しかしそれなら歌が聞こえるハズ……

 魔法でもギフトでも無い…… いや待て、機械だけを効果的に破壊する方法を以前聞いた事がある。


 電磁パルス。


 高高度核爆発を起こすとでガンマ線と大気の相互作用が起こり電磁波を発生させる……だったか?

 詳しくは覚えていないが電磁パルスは電子機器などに致命的な損傷を与える事が出来るハズ……

 今の状況はソレにそっくりだ。


 しかしこの仮説だと、説明できない点がある…… 如何に高高度であろうと、核爆発が起きれば流石に気付く!

 それ以前に核爆発を起こす魔法や魔道具が存在するのだろうか?

 禁呪にはそう言ったモノがあると魔導書(グリモワール)が言っていた…… まてよ?


 一人だけいるじゃないか…… そんな真似ができそうなヤツが……



---



「どうやら上手くいったようだ」


 窓から下を眺める…… 第10魔王の魔王軍はもはやクズ鉄同然だ。

 しかし……

 一際大きい鉄機兵には、なんか荷電粒子砲みたいなのが装備されてた。このファンタジー世界では不釣り合いな超兵器だ。

 もしかしたら核兵器すら保有している可能性がある。

 第10魔王は危険だ。浮遊大陸を落とせる大砲ってのもあながち絵空事じゃ無さそうだ。

 俺の『禁域王宮(ハーレムパレス)』の為にも見つけ次第破壊だな。


「っと、その前に、残った鉄機兵を破壊しなきゃだな」


 効果範囲を絞った為、砦に取り付いていた奴らは電磁パルスの難を逃れている。

 嫁達が働いてるんだから俺も働かなければ!


「よっと」


 ホープから飛び降りると同時に魔力微細制御棒(アマデウス)を構える。

 ココにはキリマンも来ているハズだから第2階位級魔術をそのまま使う訳にはいかない。大空洞で一度見せてるから。

 いや、属性が違えば分からないか? アイツ脳筋だし…… 念の為 分割して使おう。


「第2階位級 雷撃魔術『神剣・雷霆絶刃』シンケン・ライテイゼツジン」


 雷の剣を200分割して北方砦の穴に群がっている鉄機兵に放つ!


「穿て!」


 ズドドドドドドドドッ!!!!


 雷の剣が一発敵に当たる度に、その周囲にいる敵にも雷撃が飛び感電する。

 これで全ての敵を倒せる訳では無いが、群がっていた奴らは殲滅できただろう。

 こちらが体制を立て直す時間稼ぎにはなったか。


「あれ?」


 真下の砦の上に見覚えのある人が…… クリフ先輩か?

 ウィンリーの羽根と風域魔術を駆使し、静かに舞い降りた。


「どーもクリフ先輩、お久しぶりでス」

「か……神那…… 霧島神那か?」

「そうです、貴方の後輩の霧島神那です」

「本当に……生きて…… お前その眼は? いや、今まで何処に!?」


 いきなりのご指摘…… 聞きたくなる気持ちはよく分かるが……


「その話は後にしましょう。今は生き残りの敵兵力の始末が優先ですよ、もっともウチの嫁…… コホン! ウチのギルドメンバーが既に向かってるので問題無いでしょうが」


 北方砦の南側からは雷の音が至る所から聞こえてくる。この分なら大丈夫そうだな。


「神那、さっきの攻撃……か? あれは電磁パルスか?」

「おぉ、さすがクリフ先輩、よく分かりましたね」

「何故全域に使わなかった? デクス世界ならともかくシニス世界ならインフラへの影響などは考える必要も無いだろ?」

「そうですね、ただ、トラベラーの持つ魔器には影響が出る可能性が高かったんです。俺や先輩が持っている魔神器や魔器はEMP対策が施されていますが、それ以外の一般用魔器は全滅しかねなかったモノで」


 今にして思えば魔王レイドは体から強烈な電磁波を垂れ流していたのかも知れないな…… それがマルファクションの正体だったんじゃないか? さすがにそれは無いか? だとしたら魔器を置いて戦いを挑んだのがバカみたいだ。


「そ……それは確かに困るな、なるほど、ちゃんと理由があったんだな…… しかしお前の電磁パルスを使えば第10魔王軍は無力化できるな」


 そう…… 俺はその為にここまで来たんだ……


 まずは後顧の憂いを絶たねばならない。みんなはどんな感じかな?

 あれ? サクラ先輩が近接戦闘してる…… せっかくデザートイーグルを持たせたのに使って無い。

 大したことの無い相手の時に使い慣れておいた方がイイと思うんだが…… とは言え、練習すらしてないのにいきなり実戦で使えというのも酷な話か。

 サンダーナイフと身体強化で十分対処できるなら無理に使うことも無い。


 そうこうしている内に戦闘は終了した…… やはり琉架の拡散誘導が有効だな。

 コレでしばらくは敵の侵攻を止められるだろう。


「クリフ先輩、確認したい事があるんですが……」

「なんだ?」

「魔王城の位置って判明してるんですか?」

「…………そ……それは」


 やはり所在は不明か…… まずは探す所から始めないといけないな。

 しかしあの大軍が移動してきた形跡を辿れば、ある程度の方角は絞れるだろう。足跡などはとっくに雪の下に埋もれているだろうが……


「仕方ない…… 魔王討伐の準備をしている間にホープを使って自力で探しますか。

 クリフ先輩は魔王討伐に参加しますか?」

「当然だろ!」


 良かった…… 磁力操作能力者のクリフ先輩は機人族(イクスロイド)に対して超有効な戦力になってくれるハズだ。頼りにさせてもらおう!

 ただ…… この人がココに居るという事は、セットでシャーリー先輩もココに居るってコトだ……

 絶対ゴチャゴチャ言ってくるよ、あの人…… そこは憂鬱だ……



---



 長さ100kmにも及ぶ北方砦には全部で五ヵ所に扉が設置されている。

 基本的に開かれることの無い扉だが、そこには駐留軍の詰所があり、戦争中の今は一ヵ所の詰所に1000人以上の兵士が暮らしている。

 北方砦の中央の詰所は要塞になっており、5000人規模の軍が駐留している。

 そして状況に応じて左右の砦へ兵を速やかに送り出せるようになっている、万が一砦が破壊され詰め所が孤立したら籠城し、他から助けが駆けつけられるようにできている。


 俺達は中央要塞の会議室に連れて来られた。

 ただしミラだけは負傷者の治療に行っている。そうそうシャーリー先輩もだな、取りあえず危機は回避された。


「それじゃ本当にデクス世界に帰ってたのか?」

「えぇ、そして再び神隠しに遭って戻ってきました」

「第6魔王を倒したのも…… お前か?」

「えぇ…… まぁ……」

「くぅ…… どんどん功績を後輩に奪われる! なんて情けない先輩なんだ!」


 だったらもっと頑張ってください。今回は譲るからさ、なぁに、空の上におわす魔王様には誰が止めを刺したかなんて分かりはしないさ♪

 いや、止めはこっちで刺すべきか、魔王継承しちゃうし…… それとも敢て継承させて共犯者にするか?


「そうそう、そんなクリフ先輩に朗報です。昇進しました、クリフ先輩は創世十二使序列第二位になり、シャーリー先輩は序列第五位です」

「なんて嬉しくない昇進だ…… 何の意味も無いじゃないか……」


 やはりゲート開放の情報はここまで来てないのか…… 帰れなければ確かに何の意味も無い称号だからな。

 教えてもいいけど、他のトラベラーに知られたとして、モチベーションが上がるならイイが、敵前逃亡されると困るからな……

 第10魔王討伐までは伏せておくか。


 ズン!ズン!ズン!


 そんな話をしていると何かが近づいてくる音がする。

 うるせーな! 何だよ一体?


 バーン!! 扉が吹っ飛ぶくらいの勢いで開かれた。


「ガハハハハ!! 援軍が来たそうだな!! コレでようやく第10魔王討伐の目処が立つというモノだ!!」

「あ?」


 入ってきたのは筋骨隆々の声も、態度も、体も、全てがデカい男だ。

 あれ? 前にもこんな事があった気が……


「んん? お前……キリシマ・カミナか?」


 そこに居たのはライオンを擬人化したような大男…… てかライオンキングじゃねーか!


「生きていたなら顔くらい見せに来い!」

「あ~、国王陛下、何故ココに居るんですか?」


 ここ最前線だぞ? 王様がふらりと散歩に来るところじゃ無い。


「戦力が足りないのだから仕方あるまい、自国の有事を人任せには出来ん。幸いワシには大型の鉄機兵を素手で破壊できるくらいの力はあるからな」


 そう言えばライオンキングは鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)を破壊できるようなこと言ってたな……

 あれ、マジだったのか。


「国の事はオルフェイリアに任せてあるから安心だ」


 まったく安心できない…… オルフェイリアに国王代理は時期尚早だと思うんだが…… 冬はこたつで丸くなる奴だぞ?

 それともこの一年で少しは成長したのだろうか?


「オルフェイリアもお前のことを心配していたぞ? 結婚する前に未亡人になったら流石に憐れだからな!」


 …………


「あ~…… そう言えばどこかのお姫様も嫁候補に数えられてるって聞いたなぁ……」


 何故か伊吹が俺の第3夫人候補の事を知っている…… きっと今俺の事を睨んでる、なるほど、俺が尊敬されない理由は女癖が悪いからか…… 完全に自業自得だ。

 それにしてもこんな所でライオンキングに再会するとは、ココにこいつが居る事を事前に知っていれば先にオルフェイリアに会いに行ったモノを……



---



「これより、第10魔王 “災器” プログラム・プロメテウスの討伐準備を始めます」


 と言ってもコレはD.E.M. メンバーのみの話だ。


「まず白に負傷者の見極めをしてもらう、ミカヅキにはそのサポートに着いてもらい患者の搬送などを手伝ってくれ」

「ん……」

「畏まりました」


「ミラは治癒魔法で治療を続けてもらう。伊吹は世界拡張(エクステンド)でミラのサポートを」

「はい、お任せください」

「ん~、分かった」


「サクラ先輩とジークは持ってきた大量の補給物資の受け渡しを担当してくれ」

「うぅ…… 肉体労働は無理だからね?」

「うむ任された」


「………… ねぇ神那、私は?」

「琉架は俺と二人で魔王城の位置特定に行ってもらおうと思ってる」


「異議アリ!! 私たちが仕事してる間、どうしておにーちゃんとお姉様がデートしてるんですか!!」

「で……で……でーと……///」

「異議を却下する。魔王城捜索だって言ってんだろ?」

「おにーちゃん一人で行けばイイじゃん!」


 ヤダよ、そんなの寂しいモン!


「俺一人じゃホープを呼び出せないし、万が一を考えての事だ」

「万が一?」

「大氷河は殆んど人が足を踏み入れたことの無い、ある意味 前人未到の大地だ。

 そして機人族(イクスロイド)の魔王城がどんな場所かも分からない。

 万が一何かが起こっても、俺と琉架の二人なら対処ができるだろうと思っての布陣だ」

「うぅ~~~…… 若い男女の二人だけの旅の方が、別の意味の万が一が起こりそうで嫌なんですけど……」


 本気でそんな万が一が起こると思ってるのか? そりゃ俺だって常々起こればいいなぁと思ってるが……

 伊吹よ…… お前はまだ若いから知ら無いんだ…… 世界はそんなに甘くない!


「それじゃ伊吹も来るか? 強烈に寒いと思うぞ? この捜索に耐えられるのは俺と琉架とミラだけだと思う。簡単に見つけられるという保証も無いし、どれだけ時間が掛かるコトか……」

「う…… わ…分かったわよ…… チクショウ!」


 ようやく折れた…… 何でうちの妹はこんなに聞き訳が無いんだ? 少しはおにーちゃんを信頼しろよ…… するワケ無いか。


「マスター、もし魔王城が見つけた時に運よく奇襲ができそうでも、そのままお二人で突入とかしないで下さいね?」

「あぁ、分かってるよ。決して無茶はしない」


 魔王プロメテウスのギフトが分からない以上、出来れば白に調べてもらいたいからな。

 もっとも本体が出てこないとそれも難しそうだが。



---



 シャーリー先輩にイチャモン付けられる前に出発することに成功した!

 あのヤンキー崩れのエセセレブに絡まれると数時間は余裕で飛ぶからな、クリフ先輩がフォローしといてくれることに期待だな。


 鉄機兵が押し寄せてきたであろう砦から北北西の方角へ向けて飛び立った。

 大氷河に入った途端天候は崩れ吹雪いていて見通しが極端に悪い、案の定足跡などは既に消えている……

 空からの捜索にはかなり条件が悪いと言わざるを得ない、当然目視で探す以上雲の下を飛ばなければならない、吹雪で視界が悪い上に気流も荒れていて乗り心地最悪…… 更に死ぬほど寒い。

 何か…… ちょっと…… 吐きそうだ…… 勘弁してくれ……


 大氷河の広さは約10,000,000平方km…… アルスメリアに匹敵するほどの広さだ。

 魔王城を見つけるのは大変そうだ…… てか、果たして見つけられるのだろうか? プールで落としたコンタクトレンズを見つけるより難しいんじゃないか?


「ねぇ神那、あそこあそこ」

「ん?」


 琉架の指差す先にいたのは、数時間前に殲滅したばかりの鉄機兵の大軍に匹敵する規模の行軍だった。

 第2陣か……?

 どうやら第10魔王はガチらしい、コレほどの規模の大軍を続け様に放ってくるとは、この吹雪の中でもすぐに見つけられる。


「あの先に魔王城があるんだよね?」

「そうだな…… もしかしたら案外近い位置にあるのかもしれないな」


 奴らがやって来た方角へ舵を切る。

 もちろんEMPバーストも忘れずに……




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