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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
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第135話 北方砦


 その侵攻は突然だった……


 前日までは精々1日に2~3体の10メートル級大型鉄機兵と10体前後の2メートル級鉄機兵が押し寄せる程度だった。

 しかし夜が明けたら状況が一変していた。


 今までに見たコトも無いほど大きい20メートル級超大型鉄機兵が確認できるだけでも5体、コチラに向かって侵攻してきた。

 二足歩行をしていた他の鉄機兵とは明らかに違い、足は昆虫のような形状をしており10対20本。更にその上に機械仕掛けの巨人の様な上半身が乗っている…… 足の多いケンタウルスといった印象だ。

 更に一番前の二本の足は鎌のような形状をしており、その長さだけでも10メートル以上ある。


 あんなのが一気に押し寄せたら止める術がない……

 そもそもあのサイズでは、高さ5メートル程の北方砦など跨いで越えられる。


 それだけでは無い、10メートル級鉄機兵も数十体…… 2メートル級鉄機兵に至っては数え切れないほど溢れかえっている……


「コレは…… 一体なんだ?」


 悪い夢でも見ているようだ。北方砦に居た連合軍の全ての人が同じ思いだった。


「クリフ…… どうにか出来そう?」

「そうだな…… 不可能では無いが…… かなり難しい」


 敵の数は圧倒的に多い、しかし砦が健在なら2メートル級鉄機兵はある程度 無視できる存在だ。

 もちろん完全に無視はできない。アレだけの数に押し寄せられたらいずれ堰き止めきれずに決壊する。


 10メートル級鉄機兵は鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)で対処できる、しかし多勢に無勢だ…… こちらの鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)は6体しか配備されていない。

 人形(ゴーレム)の補充が行われるのはだいぶ先の話だ。現地生産できない鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)は自力でここまで歩いてこなければならない、足が遅すぎるのだ。


「あの超大型鉄機兵…… 1体だけなら俺が止めるが、さすがにあの数全てを止めるのは無理だ。

 鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)がどれだけ出来るかにかかってる……

 とにかく援軍を要請しよう、あの数にここを突破されたら獣衆王国は終わるぞ!」

「援軍って…… どう考えても無駄でしょ? 到着するまで持つハズが無い。

 戦闘が始まったら1時間も持たないかもしれないじゃない。王都まで撤退する事も考えた方がイイかもね」

「それは指揮官様が許さないだろ?」

「確かに…… いかにも脳筋って感じだものね……」


 現在、ここ中央大陸北部戦線の最高指揮官は、獣衆王国・現国王 レガリア・マズル・グラン・レイガルド。

 かつてある男にライオンキングと呼ばれていた獣人族(ビスト)の王様だ。


「大体なんで王様が最前線に出てきてるのよ……」

「それは…… まあ、強いからだな」


 なにせあの王様は大型鉄機兵を素手で破壊できるのだ。そんな真似ができる奴は世界中探してもどこにもいないだろう。創世十二使にだってそんな真似出来る奴はいない。


「とにかく援軍が到着するギリギリまで粘るしかない。

 せめて王連授受が揃っていれば何とかなったかもしれないんだが……」

「スケジュールだと剣王連合がそろそろ到着するころだろうけど…… 間に合うかどうか…… 仮に間に合ったとしても、どうにか出来るとは思えないけど……」


 ズシン…… ズシン……


 鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)が動き出した。

 巨大な鉄人形は2メートル級鉄機兵を歯牙にも掛けず一直線に超大型鉄機兵に向かっていく。


「魔王ウォーリアスの元使途か…… ヤツに潰されかけた身としては複雑ではあるが、今は頼りにさせてもらおう」

「そう言えば…… あの話本当なのかしらね? 新しい魔王が現れて第10魔王と戦う様に指示したって話」

「さあな、魔王の代替わりなんてオリジン機関でも一切話題に出なかったし、自分の目で見るまでは信じたくないな。

 もし真実なら穏健派の魔王って事に…… 人類の味方って事に感謝するよ」

「魔王に感謝とか…… 冗談にしても笑えないわよ……」


 ズドォォォン!!!!


 鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)と超大型鉄機兵が接触した。

 端目には怪獣同士の決戦にも見える超々重量級の戦いだ。

 鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)は大きさでこそ負けているが、重量は恐らく超大型鉄機兵を上回っている。その証拠に接触と同時に鉄機兵の進行は止まっている。

 がっぷり四つに組み合った状態で鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)がパンチを打つと……


 ドゴシャッ!!


 超大型鉄機兵の前面装甲が盛大に拉げた。


「もしかして…… イケそう?」

「ああ!! イケる!! 鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)の方がパワーは上だ!」


 超大型鉄機兵を破壊しようと殴りつける鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)にもう一体の鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)が近づいていく、対して敵の大型・超大型鉄機兵は近くにいない。

 各個撃破なら十分イケる。

 そんな時だった……


 シュイイイィィィィィィィィン


「こ……この音は?」


 超大型鉄機兵が前足を高く振り上げる…… その鎌のような形状をした前足の外周を小さな突起が高速で動いている。


「アレは…… チェーンソー?」


 鉄機兵は鎌の先端を鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)の頭部に振り下ろした。

 一瞬だけ火花を散らしたが抵抗はそれだけ、鎌は鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)を縦方向へ貫いた。


「なっ……!」

「ウソ……でしょ?」


 鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)は体を貫かれながらも攻撃を繰り出す。しかし装甲を殴りつけた腕の方が崩壊した。鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)の崩壊が全身に広がり始めると、鉄機兵は左前脚の鎌をパージし迫りつつあるもう一体の鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)に体を向ける。


 キュイイイィィィン


「こ……今度は何だ!?」


 拉げた装甲板の奥に光が見える……

 その光はどんどん大きくなり、ついには溢れ出してきた! その光景はさながらエネルギーを充填しているかのようだ。


「ヤバイ! 伏せろぉ!!」

「!?」


 カッ!!!!


 超大型鉄機兵は人で言う下腹部の辺りから、強烈なレーザービームを放った!

 その威力は迫りくる鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)を簡単に貫き、北方砦の一部を消し飛ばし、遥か遠くに見える小山に直撃! その場で大爆発を起こした。



 ドゴオオオォォォォォォン!!!!



 馬鹿げた威力だ…… 第3階位級魔術を軽く上回る威力…… 高出力魔導兵器に匹敵する威力だ。

 そして超大型鉄機兵はエネルギーが切れた様にその場で崩れ落ちた。


「はっ!? ま…まずい!!」


 今のエネルギー砲で砦の一部が吹っ飛んだ。10メートル程の道ができてしまった。

 長さ100kmにも及ぶ北方砦の極一部に過ぎないが、こちらに向かって来ている全ての敵がその小さな道に群がり出した。


「シャーリーは負傷者の治療に回ってくれ! いつでも撤退できる準備もだ!」

「え…えぇ、クリフは?」

「俺は何とかあの穴を塞いでみる、磁力円陣(コン・パス)を使えば何とかなるハズだ!」


 足の速い2メートル級がすでに防衛線を抜けて第9領域側へ侵入している。

 このままでは撤退する事すらできなくなる……


「マズイぞ…… くそっ! こんな時にアイツ等がいてくれれば……!」



---


--


-



「ねぇ、おにーちゃん、ケムリ上がってるんですけど……」

「アレは味方の損害じゃなく敵に損害を与えた狼煙だろ…… たぶん」


 原初機関の解析データでは鉄機兵は電気的な仕組みで動いている。魔力を術式で電気変換しそれにより駆動させている、つまりデクス世界の機械と非常に似ている。

 電気をバッテリーに溜め込んでいるか、魔力を溜め込んでいるかの違いしかない。


 確かに完全電気駆動で鉄機兵のあの巨体を動かすには大型のバッテリーが必要になるが、魔力充填式なら安物の魔石で事足りる。

 ただし貯めこんだ魔力に異質な魔力が触れると暴発の危険がある。


 その対策として無人の鉄機兵……『自動人形(オートマタ)』を兵力にしているのだろう。


 しかしその兵力が尋常じゃない、見事に地平線の果てまで敵・敵・敵だ。

 どうやら第10魔王がとうとう本気になったらしい。何故このタイミングなのかはこの際置いておく。


「これは……チャンスだな」

「はい?」

「この戦力を全滅させれば第10魔王を丸裸にしたも同じだ、そうすれば魔王討伐作戦の時のような最悪の事態を避けられる」

「あ…… ちょっ…ちょっと待っておにーちゃん! ちゃんと見て!!」


 グイッ!!


 伊吹に思いっ切り首を引っ張られた、耳の奥で「ゴキッ」って音が聞こえた気がする。

 殺す気か?


「見える!? 地平線の果てまで敵がいるんだよ!? 一匹一匹が普通に人より大きんだよ!? 数だって数万はくだらないんだよ!?

 現実見ろ!! 目を覚ませよ!! そしてそんな死地に可愛い妹を連れてくなっ!!」


 ベチベチ!


 伊吹に往復ビンタされた…… 霧島神那は遂に目覚めた!


 …………


 いや、目覚めてなどいない! 俺はずっと正気だ!


「おいおい~♪、我が最愛のアホ妹よ、お前の兄は偉大なる英雄だということを忘れていないか?」

「そういうことは実績出してから言いなさいよね! 最愛のアホおにーちゃん!」


 コレだけ実績出しまくりでもまだ足りないのか…… 俺の初期評価はどれだけ低かったんだ? まさか未だにマイナス評価ってことはないよな?

 う~ん…… 後2~3人は魔王を倒さなければ尊敬してくれないかな?


 さすおにへの道は果てしなく遠いな。


「とにかく俺は増援をすべて始末するから、みんなは砦を超えて第9領域側へ入ってきた奴をなんとかしてくれ」

「…………」

「ん? どした?」

「いや…… おにーちゃんはさ、「さぁ行くがいい!」ってノリで言うけどさ…… この高さから飛び降りたら人は普通に死ぬよね?」

「あ」


 忘れてた…… 最近飛び降りるのが普通になってたが、言われてみれば当然だった。

 死ぬよな、この高さから飛び降りたら……

 俺の感覚もいよいよ人間離れしてきたなぁ…… いや、魔王だって何の準備もなく飛び降りれば死ねる高さだ。

 単純にパラシュート無しのスカイダイブに慣れすぎたんだ。


「あ~~~…… 琉架、『星の御力(アステル)』でみんなの着地のサポート頼む」

「うん、りょーかい♪ でもいいの? 大軍だったら私とミラさんの『対師団殲滅用(ギルバルド)補助魔導器(フォース)』で殲滅した方が早いような……?」

「確かにその方が手っ取り早いけど、ちょっと試したいことがあるんだ。それに目撃者も多すぎる」

「そっか、うん。それじゃ神那に任せるね」


 そしてみんな元気に飛び出して…… 行かなかった。

 約一名残ってる…… サクラ先輩だ。出入り口で下を見ながら固まってる。

 きっとアレだな。バンジーでなかなか踏ん切りが付かない感じだ。一度固まるとなかなか踏み出せないらしい。

 俺はもう慣れたがやはり怖いよな? この間の大空洞ではかなり後悔したものだ…… しかしそんな所で固まってられても迷惑だ。ただでさえ一分一秒を争う事態なのだ!

 ここはベテラン・スカイダイバーとして、そっと背中を押してあげよう。間違っても蹴落とさないように……


 こっそり先輩の背後に近づき、人差し指を先輩の背骨に這わせ、上から下へそっと動かす。


 ツーーーーー


「きゃうっ!!?」


 あ、先輩の可愛らしい悲鳴を初めて聞いた。なかなかグッドですよ。そして……


「へ?」

「あ」


 小さく飛び上がりバランスを崩した先輩は落ちていった…… メッチャ涙目だった。


「おのれ霧島神那!! 許すまじーーー~~~!!!!」


 佐倉桜はドップラー効果と共に消えていった……

 先輩は元気だなぁ…… やっぱり縮こまってるより、あっちの方が先輩らしい。

 あの様子だと、また土下座させられるのかなぁ……

 いつになっても俺に魔王の威厳ってやつは纏えそうにない。


「さて……」


 下はみんなに任せて、俺は雪崩の様に押し寄せる自動人形(オートマタ)の群れを始末するか。


血液変数(バリアブラッド)


 効果範囲は砦より北側の広範囲…… あまり上空からだと味方にまで被害が及びかねない。

 倒しきれなかったらもう2~3発かましてやればいい。


「EMPバースト!!」


 目に見えない波が敵に降り注いだ……




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