第134話 中央大陸北部戦線
ラグナロクから出る為には転移魔方陣を使用しなければならない。
その為には4時間もかけて来た道を戻る必要がある…… 帰りはずっと下りだから少しは短縮できるだろう。
それでも遠い…… 果てしなく……
城内にも移動用の魔法陣を! ダメならせめて自転車! それもダメならキャスター付きの椅子でもいい!
お見送りに来てくれたヴァレリアに要求してみる。
いずれまたココには足を運ばなければならないのだから。
「転移魔方陣の技術は遥か昔に失われています。人類の手で新たに設置する事は出来ません」
……と、いうことらしい。
魔宮等に現れるモノはどうなるんだ? 人が設置したモノでないのは確かだが、自然発生したモノなのか? それを解析できないのだろうか?
……出来ればとっくにやってるか……
神族の一角のクセに役立たずにも程がある! それとも知ってるのにやらないのだろうか?
龍人族は神の居なくなった世界の管理者として創りだされたんだっけ? もしかしたら力の行使に制限があるのかもしれないな。
なんで第2魔王の四天王やってるのか謎だけど……
とにかくこれ以上歩くのは勘弁願いたい、せっかく城の中がバカみたいに広いんだから、擬似飛行魔術で飛んでいこう。一応許可を取って使用する。
快適だった……
来る時は4時間も掛かった道のりが、僅か10分で到着だ。
無駄に高い天井とほぼ一直線だったのが良かった、あと城内だから気流が安定していて飛びやすかった…… 地べたを歩いて登山したのが馬鹿馬鹿しい。
次に来る時はコレで登ろう。そう心に誓った。
「カミナ様は飛行魔法が使えるのですね?」
「擬似的なモノだけどね、龍人族は使えないのか?」
「種族的に魔力量が多いのでコントロールが難しいのです。そもそも必要が無いですから……」
そう言えば龍人族の本来の姿は龍だと言われている。
変身すれば自力で飛べるのか。
「そうでした、皆さんに第10魔王と戦う為のアドバイスが一つありました」
「え?」
何か情報くれるのか? さすが神族の一角、頼りになる!
さっきは役立たずとか思ってゴメン。
「アルヴァをお探しください。必ず力になってくれる筈です」
「アルヴァ? って誰? 人の名前だよな?」
「残念ながら私の口からそれを説明することはできないのです、この言葉だけで察して頂ければ幸いです」
ズルい言い方をするなぁ…… 察せない奴は馬鹿って事じゃないか。
しかし龍人族である彼女の言動を制限できるのは、同じ龍人族か魔王くらいなものだろう。当然前者だな。
ただ、せめてどこに居るかぐらいは教えて欲しかった……
ヴァレリアに別れを告げ魔王城・ラグナロクを後にした……
次にココに来る時は俺も城持ちだ、一国一城の主ってヤツだ。やはり上が城で下が半球状の超兵器でも付いてるんだろうか? 俺も自己紹介の時にロカミナ・キリシマ・ウル・ラ○ュタって名乗ってみようかな?
…………
止めよう…… バ○スされたらヤダし、視力も失いたくない……
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これから我々は中央大陸北部、第10領域『大氷河』へ向かう事になる。
北半球はこれから冬だ。ただでさえ寒そうな大氷河だ、防寒対策を整える。
コレでしばらく琉架の生足が拝めなくなるのか…… 冬の時代の到来だ…… 一日も、一秒でも早く魔王プロメテウスを倒さなければならないな!
それと防寒対策と並行して装備の換装も行う。
昔アルカーシャ王国の魔宮で見たカラクリは電撃に弱かった。魔王軍なら何かしらの対策をしている可能性もあるが、やはりコレが最も有効だろう。
とは言え、俺と琉架は雷撃魔術があるから新たに装備を追加する必要は無い。ジークも雷精召喚が使えるから無視だ。
伊吹も『世界拡張』と『電槍』の併用が凄まじい威力を誇っている事は確認済みだ。
なのでそれ以外のメンバーの装備を充実させる。
白には『雷刃』という名の脇差を持たせる。
大きく振った時のみ雷の刃が10メートルほど先まで届くというモノだ。威力もそれほど高くなく、あまり使い勝手が良くない武器だった為、今まで眠らせておいたモノだが、相手がカラクリなら一撃必殺の威力になってくれるハズだ。
ミラは人魚族が雷撃魔法を苦手としているので、それを補う為に『ミョルニル・レプリカ』を持たせる…… その名の通りレプリカだ。
本物は神器なのだが所在は不明、しかしミラの能力値で使えば本物に匹敵する威力が出せるハズだ。
敵の頭上に投げると『雷槌』という強烈な雷を落とし、自動で手元に帰ってくる。
ちなみに見た目はピコハンだ。ツッコミにも使える。ただし相手は死ぬ。
先輩は雷撃付与魔術が使えるが、遠距離攻撃用として原初機関からパクってきたデザートイーグルを与える。
「………… 神那クン?」
「弾丸に付与魔術を掛ければ強力な武器になりますから」
「いや……そうじゃなくってね?」
「大丈夫です、正しい姿勢で撃てば反動で鼻の骨を折る事も、肩が外れることも無いですから」
「いや……だから……」
「事前に練習しておいた方が良いですね、ジーク辺りに支えてもらって……」
「おい!聞けよ!」
先輩はデザートイーグルがお気に召さないようだった、しかし遠距離攻撃力皆無の先輩には必要なモノなので無理矢理納得させて持たせた。
一体何が気に入らなかったのだろう? カッチョエエのに。
しかし装備換装をするとミカヅキがいつも寂しそうな顔をする、魔力の無い彼女は魔道具が使えないからな。
だからと言ってミカヅキにデザートイーグルを持たせても意味が無い、角気弾で同等の威力が出せるから。
気を多く込めればそれ以上の威力だ。
でも仲間ハズレみたいで可哀相なので、先日修理したばかりの愚か成り勇者よを手渡した。
これは魔力を必要としないバッテリー式なので、鬼族でも問題無く使える。
気で手持ち武器全体を覆ってやれば、さらに威力が上がるかもしれない…… いい機会だから試してもらおう。
「ありがとうございます! マスター! 私の宝物にします!」
「いや、武器だから使うべき時にはちゃんと使ってくれ」
以前渡したホウキよりは好感触だった。
個人的にはメイドとホウキの方が安定感があると思うのだが……
とにかく装備はこんなモノでイイだろうか?
真の敵は魔王軍より寒さだと思ってる。あとは暖房に使える魔道具と燃料か…… コレは現地で調達した方が良いかな? ディーゼル車は現地で給油した方がイイなんて話も聞いた事があるしな。
もっとも今は戦争中だ、物資はこっちから持っていった方が良いかも知れない……
うん、そうするか。向こうで金にモノを言わせて買占めなんてしたら睨まれそうだし……
あとは…… そうだ、リルリットさんに第10魔王討伐のクエストを受けると言っておかないとな。
ついでに燃料の手配と……
バタバタバタバタ……
何か廊下の方が騒がしい。
誰かが走ってくるような音が…… 嫌な予感がする……
バーーーン!!
ギルドホールの扉が勢いよく開かれた。
「み……みなさん! 大変です!」
予感的中!
D.E.M. 専属オペレーターのリルリットさんが現れた……
これから会いに行こうと思っていた所だけど、この奇襲の掛け方は絶対ロクでもない事件のフラグだから。
思わず「うぇ~」って声が漏れそうになった…… もちろん彼女が悪いワケじゃないのは分かっているが。
「どうしたんですかリルリットさん、そんなに慌てて?」
正直聞きたくない…… が、聞かない訳にはいかない。
「中央大陸北部戦線から緊急援護要請です! 北方砦が陥落の危機です!」
「は?」
何で? 戦力増強したばかりだろ? 帰還作戦の事を秘密にして駐留軍を働き蟻のように働かせているのに?
「先日の報告では超巨大な鉄機兵らしきモノを複数見たとの証言もあります!」
超巨大? 鋼鉄人形クラスだろうか? もしそれよりも大きかったら防げるハズない。
「それで……ですね?」
「ん?」
リルリットさんが何やら言いよどむ、いつも言いたい事を溜め込まずに言う人なのに珍しい……
よほど言いにくい事があるのか、だいたい見当はつくが……
「え~と…… この事態にギルド幹部連が…… D.E.M. に指令……というか、特別クエストを発行しました」
「ほぅ、特別クエストですか? それはどういった内容なのでしょうか?」
「え……と、皆さんに第10魔王からの被害を抑える様に……とのコトです」
随分と曖昧な言い方をする、直接的な討伐依頼はしないのかな?
クエスト自体は討伐要請と取れる内容だが、クエストである以上、受ける受けないは各ギルドの判断だ。
なるほど…… 幹部連は恐れているんだな、D.E.M. を色んな意味で。
機嫌を損ねてギルドを畳まれでもしたら事だし、魔王を倒しうる戦力を敵には回せない。
しかしそれだと一つ合点が行かない点がある、この一年、D.E.M. は結構扱き使われてきたはずだ、今になって何故態度が変化したのか……
…………
もしかして恐れられてるのは俺かな? 俺が帰って来た事により素直に言う事聞かなくなったと思われてるのかもしれない……
俺の悪評は幹部連の奴らも知ってるハズだ。そう思われても仕方ない。
確かに宿題やろうとしていたトコロに「宿題やれ!」って言われると、やりたくなくなるよね?
今から行こうとしてたトコロに「魔王どうにかしてこい!」って言われると反発したくなる……
しちゃおっかな? 反発……
まぁ、冗談だけど。
すでに全員の意思を統一してあるのに、俺の一存で駄々をこねたら俺の株が下がる。
「分かりました、D.E.M. はそのクエストを受けます」
「ほ……本当ですか!?」
「えぇ、実を言うとこれから戦争に介入しようとしていたトコロだったんです。ただ、今の情報で急がなければならなくなりましたが」
「それじゃ直ぐに発つコトも出来るんですね?」
「はい、ただし食料や燃料などを直ぐに手配しないといけないですが、リルリットさんにお任せしても良いですか?」
「任せて下さい! 1時間以内にすべて揃えて見せます!」
それだけ言うと走って部屋を出ていってしまった。
え? 1時間で用意できるの? なんて優秀なオペレーターなんだ……
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1時間後……
アホみたいに大量の物資が用意されていた。
やられた…… どうやら俺達に戦線への補給物資を運ばせるつもりらしい。
なんて優秀なオペレーターなんだ……
「よくこの短時間にこれだけ揃えましたね?」
「えぇ…… 物資の管理なんかもやらされてきましたから……」
さすが主任、色んなコトやらされてるんだな。
「皆さんならホープで数時間後には最前線に着けますよね? あまり日持ちしないモノも含まれておりますので寄り道はお控えください」
緊急援護要請が来てるのに寄り道なんかするワケ無いだろ?
コレは明らかに“俺に”釘を刺してるんだ。
やはり確かめないといけないな、彼女の頭の中で俺はどういう人間として描かれているのか。
きっと『不真面目なガキ』ってイメージだろう…… 俺ってそんなに不真面目に見える?
大量の補給物資を4つの魔神器に分けて入れる。
街中でホープを呼び出すことは出来ないからな。
「はぁ…… それじゃ行ってきます」
何か魔王討伐ミッションを始める前からくたびれた……
「あ、ちょっとお待ちください」
「はい?」
「コホン、既に3人もの魔王を討った実績のある皆さんなら心配は無用でしょうが……
それでも決して油断することのないよう、一人も掛けることなく帰還されることを心より願っております」
あぁ、いつものセリフだ。
それって言わなきゃいけない決まりでもあるのか? オペレーターのマニュアルに書かれてるとか?
これは一種の儀式…… 願掛けみたいなモノだろう。
「はい、朗報を期待してて下さい」
こうして俺達はガイアを旅立った。
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要塞龍の乗組員室には窓がない…… いや、窓はあるがガラスがない、要するにタダの穴だ。
代わりにフィールドに覆われており高度飛行でも室温や気圧の変化が起こらない。
……と、思っていた……
どうやらその認識は間違っていたらしい。大氷河が近づくにつれどんどん寒くなる。
直接風に吹かれるワケじゃないから耐えれれるけど、さらに北上すればどうなるか分からない。
ヒンデンブルグの乗組員室は不変膜に覆われており、海の底でも地上と違わない気圧が保たれていた。
こっちも不変膜を張ってみようか? しかし水魔法の不変膜は寒さで凍りそうで……
ホープで魔王城に乗り付けるのは厳しそうだ。
魔王である俺と琉架はどんなに寒くても凍死することはないだろう。ミラに至っては元々寒さに強い。
やはり一番心配なのは寒さに弱い白だな。
こうなったら白を俺のシャツにINするかな? うん、暖かそうだ。
なるべく白のことを気に掛けよう。妹が凍えていたら行って暖めてあげるのが兄の使命だ。
もちろん伊吹が寒がってたら同じことをするぞ! 確実に抵抗されるだろうが……
眼下に広がる山々が雪をまとい始めた、俺自身が北方砦に来たことがないから正確な位置が分からん。すると……
「そろそろ第9領域と第10領域の境界だ」
ジークが教えてくれた、お前は来たことあるのか? よくよく考えたらこの1年で防衛任務に就いたことがあるのかもな。
前方の山脈に一部が削り取られたように低くなっている場所がある。
あそこが恐らく目的地の北方砦…… なんか…… 黒煙が上がってるぞ!
ヒーローは味方のピンチに現れるのがお約束だが、魔王が三人も含まれるD.E.M. はヒーローとは呼べないだろう……
着いた時には全滅してました…… なんてコト無ければいいんだが……