第133話 第2魔王・後編
「単刀直入に言う。魔王を討伐して欲しい」
…………
は? ナニ言ってんだコイツ? 嫌に決まってんだろ。
俺も魔王、貴方も魔王、嫁も魔王! 討伐なんて出来るハズ無い!
こいつは五大魔王同盟と敵対したいのか? それとも自殺願望でもあるのか?
いや待て、落ち着いて考えろ。
これは依頼だ、ギルドD.E.M. への…… つまり少なくとも俺と琉架とミラは除外されるハズ……
依頼主も除外していいだろう。
こいつが五大魔王同盟を知っているならウィンリーとアーリィ=フォレストも外していい。
いや、討伐対象が五大魔王同盟じゃないからって引き受ける訳じゃ無いけど……
「う~ん…… その依頼は承諾しかねます」
ザワッ――
謁見の間の空気が変わった。殺気と言うよりは怒気って感じか……
放っているのは魔王グリムでは無く、その側近の一人だ。
文句があるなら自分で殺れ。
「ご存じ無いかも知れませんが、我がギルドの三魔王と、第5魔王ウィンリー・ウィンリー・エアリアル、そして第7魔王アーリィ=フォレスト・キング・クリムゾン・グローリーは同盟関係にあります。
彼女たちに敵対するつもりなら、同盟関係にある我々とも敵になります」
側近のオーラが濁ってきた…… 第2魔王と敵対はしたくなかったが、こればっかりは譲れない。
「…………」
ネフィリムにも睨まれた、敵って言葉は使わない方が良かったかもな。
「ウィンリーとアーリィか…… あの二人なら問題は無い」
「?」
「我が討伐を依頼したいのは、運命の刻に敵になる者だ」
運命の刻? ウィンリーとアーリィ=フォレストは除外されるのか? 暗黒臭い事言ってないで誰の事だかハッキリ言えよ。
「運命の刻に敵になる者……
第3魔王マリア=ルージュ・ブラッドレッドと第10魔王プログラム・プロメテウスだ」
………… 聞くんじゃ無かった……
「第4魔王スサノオは説得中だが、どうなるかは分からない……
だが第9魔王ジャバウォックは恐らく無駄だろう」
おい、一体何の話をしてるんだ? 説得? 魔王の最終決戦とかやるつもりじゃないだろうな? 真の魔王決定戦みたいな…… 俺の見て無い所でやってくれ。
「第3魔王は現在行方不明ですが?」
「アリア消滅の話は聞いている…… しかしあの女が簡単に死ぬとは思えない」
あぁ、やっぱりそう思うよね…… 俺もそう思う。
まさか探し出して殺せとか言わないだろうな? やはり今回の依頼は辞退させてもらおう。そうしよう。
「さしあたって障害になるであろう者は第10魔王プログラム・プロメテウスと第9魔王ジャバウォックの二人か……」
勝手に話を進めるな、しかしなるべく穏便に断りたい。少なくともコイツとは敵対したくないし……
「この二人を見事討伐してくれた暁には報酬として望むモノを与えよう」
ピク……
望むモノ? それはつまりどんなモノでも手に入るって事か?
いや、モノと言う以上物品に限られるのか、例えばギャルのパンティーとかでも?
「私の望むモノ……」チラ
「…………」チラ
「望む……」チラ
「……モノ」チラ
何か視線を感じる…… 俺が欲しい子は遠慮なく言ってくれ、俺もDT貰ってくれる子募集中です。
「ん~~~…… 少し考えさせてください」
「そうだな、長旅で疲れている所済まなかった。まずはゆっくり休んでくれ、ヴァレリア」
「はい……」
第2魔王は思いのほか丁寧な対応をしてくれた。もっと高圧的で頭ごなしな命令とかしてくるかと思ってた。しかし相手は巨人族出身の魔王。
案外いい人なのかもしれないな、あの呼び出し方はどうかと思うけど……
魔王グリムの斜め後方に控えていた人物が前へ出る、ヴァレリア……女か? 隣の大男と縮尺がおかしいからよく分からないけど、俺達とそんなに変わらない身長に見える。
それ以前に変なお面をつけてる、鳥のくちばしの様な形をした面が顔の上半分を覆っている。ガッ○ャマンっぽい…… その面のおかげで口元は見えるのに目元は見えない。
彼女も四天王の一人なのだろうか? 他の二人と違い怒りのオーラは纏っていない。
「それでは皆様、こちらへどうぞ……」
初めからこの人を迎えに寄越せよ、少なくともビキニアーマー・ウォリアーよりは警戒しなかった。
お面を外していればの話だが……
---
ヴァレリアに連れて来られたのは人族サイズの客室だった。
しかし客室と呼ぶには質素すぎる、いかにも巨人族の兵士宿舎を無理やり小分けにして人族サイズにしただけって感じだ。
人を招いたことは無かったみたいだし、今回の為にわざわざ用意したのかな?
……てか、もしかしてご宿泊決定? 有難くない部屋用意しやがって…… 四天王が夜這いかけて来そうでなんかヤダな、夜這いと言うより夜襲…… 夜襲と言うより闇討ちか……
「何か分からない事など御座いましたら、何なりとわたくしめにお聞きください」
宿泊に関する事を一通り説明し終わったヴァレリアが聞いてきた。
この申し出は有り難い。聞きたい事は山ほどある。よもや宿泊関係の事しか聞いちゃ駄目ってコトは無いよな?
「それじゃ遠慮なく、根本的な事なんだけど…… 第2魔王 “神殺し” グリム・グラム=スルトは巨人族出身の魔王なんだよな?」
「はい、間違いございません」
「だったら何で小さいんだ? 巨大な人族って感じだったが?」
「それはご自身に『強化身体圧縮』を掛けておいでだからです。自身の身体を10分の1に圧縮する事によって、身体能力を10倍に高める技術です」
巨人族の身体能力10倍…… とんでもない技術があったモノだ。
明らかに巨人族専用の技術だが、もしかしたら次代神族は最初からそれが目的で戦闘特化の巨大種族を創ったのかも知れないな……
「すると、ネフィリムも巨人族なのか?」
「えぇ、左様でございます」
やはりか…… あの威圧感は人族に出せるモノじゃないよな。
しかし誰にでも使える技術ってワケじゃ無さそうだ。
巨人族はデカすぎて他種族と一緒に生きていくのは難しい、シニス世界版楽園村みたいな所は稀だろう。
にも拘らず、城内には通常サイズの巨人族も生息してたからな。
選ばれし者のみが使える『強化身体圧縮』ってワケか……
「それじゃ『運命の刻』って何だ?」
「いずれ来る最後の一柱との戦いでございます」
…………
え? 説明終わり? それだけじゃ分からん!
いや待て…… 一柱って次代神族の事か? そう言えば暗黒臭が醗酵したように香ってくるヤツの二つ名“神殺し”ってのは……
確か創世神話では次代神族には三柱の神がいて、一人は終焉の子の恩恵を受けて死んだはず…… 残りの二人は…… 最後の一柱との戦い……
そう言えば昔ウィンリーが言ってたな…… 第2魔王は「アンチ神様」だって……
「ま……まさか第2魔王は自らの創造主に反旗を翻したのか?」
「おや? よく御存じですね、その通りでございます」
新しき神々の一柱を殺したから“神殺し”なのか…… あの神話の続きがこんな所で聞けるとは。
「ねぇ神那、何の話? 創造主って?」
「あ? あぁ…… 一種の昔話……神話だ」
そう言えば創世神話の話はみんなにしてなかったな、俺自身半信半疑だったから開示する必要のない情報と思っていた。
しかし嫁に隠し事はいかんな、時間ができたら情報をまとめておこう。
「それじゃ敵になる魔王と、ならない魔王の違いって何だ? 俺達だって時と場合によっては敵に回る可能性だってあるぞ?」
「それは…… 残念ながら私の口から説明する事は出来ません。いずれグラム様からお話しいただけるでしょう」
それはどうかな? なんでもかんでも説明してくれるとも限らないし…… 言葉通りに受け取れば、最後の一柱との戦いでアイツが何をするかによるな。
人類に仇名すことじゃない…… と、思いたいな……
「一番素朴な疑問なんだけど、上位種族出身の魔王なら他の魔王を倒すくらい自分で出来るんじゃないのか?
なぜわざわざ依頼なんかするんだ?」
「それは…… そうですね、グラム様は運命の刻に備えて準備中……力を蓄えている状態だと思って頂いていいです。
故に他の魔王とは戦えません」
力を蓄えている……か、嘘では無さそうだが、それならご自慢の四天王を使えばいいんじゃないのか?
それとも四天王も温存しなければならない程、ヤバイ事態なのだろうか?
「以上でよろしいですか?」
「あ、ちょっとまって、後一つだけ、アンタは何者だ?」
「? と、仰いますと?」
「アンタは巨人族じゃ無いだろ? むしろその気配、似た人物を以前にも……」
「………… さすが“禁域王”カミナ様、女性を見る目は一級品の様ですね?」
おい、ちょっと待て、なんだその認識は? 俺って一体どんなふうに噂されてるの?
「確かに私は城内唯一の巨人族以外の人種です」
そう言ってお面を外したヴァレリアの目は…… 金色に光っていた……
この特徴的な目…… 龍人族だ。
「改めまして自己紹介いたします。
第2魔王 “神殺し” グリム・グラム=スルト 配下、四天王が一。
龍人族・第4龍ファフニールのヴァレリア・ドラグニアと申します」
………… 何てカッコいい自己紹介だ…… 禁域王とはワケが違う。
いや、それ以前に魔王に匹敵する力を持つ龍人族が第2魔王の配下?
そもそも巨人族と龍人族は神話時代からの敵同士のハズ! あ、第2魔王は次代神族に反旗を翻したんだから味方なのか?
くそっ! 何が何だかさっぱり分からん!
「実は皆様の事は以前、キングズリイから伺っておりました」
「キングズリイ?」
「要塞龍の第一管理者。龍人族・第5龍バラウールのキングズリイ・ドラグニアです」
あぁ、幻の塔に居たじーちゃんか…… そんな名前だったのか。
あれ? そう言えば龍人族って人の心が読めたよな? もし俺がココでドエロな妄想をしたらそれが筒抜けになって赤面してくれるのか?
「それでは私はこれで失礼させていただきます。何か御用がお有りでしたら遠慮なくお呼び下さい」
どうやら魔王の心は読めないらしい、ホッとしたような……ガッカリしたような……
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その後、食事を持ってきたネフィリムにちょっと睨まれた…… オカシイな? 巨人族はもっと友好的な種族だと思ってたんだが……
体感時間ではもう深夜だ、軽い時差ボケの影響もあってみんなオネムの時間だけど、第9回定例会議・延長戦を開催する。
重要な事だからな。
議題はもちろん第9・第10魔王討伐を受けるか否かだ。
「まずは単純に、この依頼を受ける事に賛成の人は挙手をお願いします」
スッ――
え? なんで?
意外な事に、俺、琉架、ミラの三魔王以外全員が手を上げた。
マジで第10魔王討伐ブームが来てるのか?
「断る理由も無かろう、第9魔王はともかく第10魔王は人類に仇なす魔王だ」
コレはジークの意見だ…… 至極真っ当な意見だが、何故かネフィリムに良い恰好を見せたいために言っている気がする…… 邪推だろうか?
しかしみんな忘れてるのか? 魔王と戦うという事は命がけだという事を。
俺は魔王と3回戦って3回死にかけた…… 出血多量で死にかけたり、黒光りするアレで刺されて殺されそうになったり、終いには操られてミラをレイプしそうになったんだぞ? 俺の鋼の意思(煩悩)で回避されたが……
「神那クン、これはもう多数決で決定なんじゃないの?」
「先輩は反対派だと思ってたんですけど、どういう心境の変化ですか?」
「いや、ほら、第10魔王が討伐されれば色んな人が向こうへ帰るでしょ? その中には私と同じように1万人神隠し事件の被害者で、留年した人も多いと思うんだ」
要するに道連れが欲しいのか…… 実に先輩らしい意見だ。
白とミカヅキは最初から第10魔王討伐に乗り気だったし…… 伊吹の理由だけが分からないが、伊吹はもともと魔王の危険度を知ら無いからな。
「確かに…… 第10魔王だけなら、比較的安全に倒せるかもしれない」
「おぉ! 珍しく神那クンが頼りになる発言を!」
珍しくは余計だ。
「琉架とミラの意見は?」
「私は神那の決定に従うよ、大丈夫、神那のコトは私が守るから」
「わ……私も多数決の結果には従います、私も及ばずながら力になります」
良くデキた嫁が頼りにならない夫を支えてくれる、どうやら反対意見を言ってくれる人はいなさそうだな。仕方ないか……
「分かった。第9魔王ジャバウォックは居場所が分からないから取りあえず置いておくとして……
第10魔王プログラム・プロメテウス討伐をD.E.M. の総意とする」
どうにも誰かの手の平の上で弄ばれてる気がしてならない…… しかし倒すべき理由はいろいろあるからな…… 仕方ない。
ついでに褒美に付いても話し合った。
しかしウチの嫁達は実に謙虚だ、第2魔王の褒美で本当に欲しいモノは手に入らないと辞退したのだ。俺が代わりにご褒美上げたいくらい良い子達だ。
もしかしたらジークはネフィリムを要求するんじゃないかと思ったが、さすがに第2魔王の四天王は要求しないか。
それから先輩の「才能が欲しい……」の一言に思わず涙がこぼれそうになった……
それはさすがに無理だ。
しかし無給で働くのは気に喰わない。何か要求しよう、魔王討伐は命がけなんだからそれに見合う対価を。
---
翌日 謁見の間――
本日はネフィリムも向こう側に並んでいる、ヴァレリア以外の四天王が俺を睨んでいる…… と言うか、三人しかいない、四天王最後の一人はどこに居るんだ?
まぁ四天王最後の一人は勿体ぶるのがお約束だからな。
しかし何て心の狭い連中だ、ちょっと敵になるかも知れないよ?って言っただけなのに。
あの二人はとにかく魔王グリム様LOVEらしい、残念だったなジーク、お前の恋の道のりは果てしなく険しい…… 俺の発言の所為かもしれないけど頑張れ!
「結論は出たか? 考える時間が足りないのなら、また後日でも構わんぞ?」
「結構。結論は出ました」
「ほう…… では聞かせてくれ」
昨日はよく見えなかったが、魔王グリムのご尊顔は映画俳優の様な渋いオジサマ顔だ。
その眼光は鋭く、右目の上下には傷がある…… 海賊っぽい感じの奴だ。恐らく魔王になる前、終末戦争の頃のモノだろう……
その纏っている雰囲気は悪役か、主人公に技を授ける師匠的ポジションが似合いそうだ。
「我々D.E.M. は第2魔王グリム・グラム=スルトの依頼を受け、第10魔王プログラム・プロメテウスを討伐する事を決めました。
ただし第9魔王ジャバウォックはその行方を知る術が無いので保留させてもらう事と、第3魔王マリア=ルージュ・ブラッドレッドに関する討伐依頼はキッパリと断らせてもらう。
それでよろしいですか?」
第3魔王の討伐依頼を断るといった辺りで、四天王たちがムッとした顔をする。
そんな顔するくらいなら自分たちでヤレよ、何かムカついてきた……
「十分だ。ジャバウォックの捜索は続けさせるが、見つかった時には討伐してくれるという意味で受け取っていいのか?」
「時と場合に寄ります、第10魔王との戦いでどれだけ消耗するか分からないから」
「なるほど…… もっともな話だ」
納得してくれたかな? しかし報酬の事を切り出しにくい空気だ。どうしよ……
「それで? そなたらは対価に何を要求する?」
おぉ! 向こうから聞いてきた! ラッキー、もしかしたら俺の顔色を見て察してくれたのかもな。
「そうですね…… 浮遊大陸が欲しい」
「なっ!!?」
「っ!?」
「取りあえず依頼料の半分として先払いで浮遊大陸を、残りの半分は成功報酬で……そこに城でも建てて貰おうかな? ちなみに失敗しても浮遊大陸は返さないけど」
……………………
沈黙が周囲を包んだ……
そんなにおかしな事を言ったか? 映画や漫画で見た暗殺依頼の報酬はこんな感じだったと思ったんだが……
「おいカミナ…… その要求はいくらなんでも……」
「貴様一体何様のつもりだ!!」
わが社の社員からは困惑の声が…… 取引先の社員は大激怒……
やり過ぎたかな? 確かに今までの魔王討伐報酬よりは吹っ掛けたけど……
「少し黙れヤクト……」
ゾク――
魔王グリムが初めて怒気を放った…… さすがの威圧感だ、ビキニアーマー・ウォリアーとは比べ物にもならない。こちらに向けられてたら何人か気絶してた所だぞ?
「も……申し訳ございません、グリム様……」
四天王の一人が素直に謝ったが…… いや、謝る相手が違うって。
お前は俺に謝るべきだ、別にいいけど……
「別にラグナロクを寄越せって言ってる訳じゃ無いぞ? だったら城を建てろなんて言わない。
ただ今後、新魔王の象徴が必要だと思ったから頼んでいるだけだ」
「どういう意味だ? 話してみろ」
「いずれ魔王が代替わりした事が世間に知られることになる、穏健派の魔王だという情報は既に流してあるが、どこに居るのか分からなければ民衆は不安を感じるモノだ。
つまり新魔王はココに居るって象徴が空に浮かんでいるのは都合がいい。
それに広さもいらない、小さな島レベルでいい、俺も琉架もどこかの領域を支配する気はないからな」
「なるほど…… 色々考えているのだな、よかろう、モノがモノだけに直ぐに用意は出来ないが、こちらで何とかしよう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ふっ…… 上手くいったな、コレこそが俺の新プロジェクト『禁域王宮』計画の始まりだ!