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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
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第132話 第2魔王・前編


 第2魔王 “神殺し” グリム・グラム=スルト……


 俺が初めてその名を耳にしたのはオリジン機関で将来倒すべき“敵”として語られていた時だった……

 その名前を聞いて真っ先に浮かんだのは……


 なんだそのごった煮みたいな名前は?


 ……だった。


 グリムなのか、グラムなのか、スルトなのか…… 色んな所から持ってきて組み合わせたみたいな名前…… そんな印象だった。


 もっともデクス世界では“神殺し”の二つ名は知られていなかったようだ。

 さらにこの魔王の事は、ウィンリーと同じく授業で取り上げられることは殆んど無かった。

 第2魔王は無害な魔王に数えられている…… 敵として教えられてはいたが討伐優先度は低い…… と言うより討伐の必要は無いのだ。


 当時の俺はぶっちゃけ魔王の事などどうでも良かった……


 俺の思い描いていた人生プランでは、創世十二使になるも、神隠しに遭うことも無く30歳で定年。

 その後、後進の育成に携わり子供たちを鍛えながら高給を取り、ユルイ生活を送る…… 要するに師匠に似た生活を送ると思っていた。

 もちろん俺はあそこまでアグレッシブに中学生を鍛えるつもりは無かった。

 せいぜい男子生徒には地獄を見せ、女子生徒には依怙贔屓する…… そんな女子にだけ人気の先生とかになりたかったなぁ……

 可愛い女の子を教育して放流する。数年後に鮭みたいに立派に成長して俺の所に帰って来てくれればなぁ、なんてゲスな事を考えていた時期がありました。


 それがどうだ! オリジン機関を終了して3ヵ月と待たずに神隠しに遭う運の悪さ!

 その時点で俺の夢の人生プランは瓦解した。


 もっともそのおかげで、俺は複数の嫁を持つという新たな夢に出会ったのだが……

 しかしその夢へと続く道のりは困難を極めた! なにせ魔王と戦わなければならないのだから!

 神隠しに遭った時点である程度は覚悟していた、だが決して譲れないモノもある。


 上位種族出身の魔王とは決して戦わない!


 上位種族…… 即ち序列第一位・龍人族(ドラグニア)、第二位・巨人族(ジャイアント)、第三位・妖魔族(ミスティカ)だ。


 この上位種族出身の三魔王は、他の魔王とは一線を画す…… そう言われている。

 アリアの雨を見た時に思った…… あんな事をする魔王と敵対したら命がいくつあっても足りないと。


 第1魔王はずっと眠っている……

 第3魔王は先頃めでたく行方不明になってくれた……


 そして……


 第2魔王に呼び出しくらった……








「ふ……浮遊大陸…… おい、ネフィリム。手紙の差出人ってまさか……」


「そうです。我が主はここ浮遊大陸・ラグナロクの支配者。

 第2魔王 “神殺し” グリム・グラム=スルト様です」


 魔王界の番長に校舎裏へ呼び出された気分だ…… 今すぐ職員室に駆け込みたい……



 高さ50メートルはある巨大な門を見上げてみる……

 門も扉も、いや、城全体がシンプルなデザインだ。城というより要塞って感じか。

 至る所に魔法陣が刻まれているが、恐らくは攻撃か防御の為のモノだろう。


 一体何に備えているのだろう? それとも終末戦争の頃の名残か?


 背後を見る…… どこまでも続く雲海の為、ココが何処だか分からない。しかしさっきまで日が暮れた直後だったのに今は太陽が上にある……

 第12領域より遥か西…… 大森林よりも更に西か…… もしかしたらギルディアス・エデン・フライビの辺りかもしれないな……


 よし、飛び降りるか!


「なんと…… ここが浮遊大陸・ラグナロク…… よもや足を踏み入れることになるとは夢にも思わなかったぞ」

「ふふっ、この大陸は転移以外では出ることも入ることもできないんですよ? ここに人族(ヒウマ)の身で招かれたのは有史以来、あなた達が初です」


 約3名は人の身では無いがな…… ある意味ジークもか。

 てか、いきなり侵入も脱出も不可能だと宣言された。もしかして逃げ出さないよう釘を差したのかな?

 しかし俺は転移能力者だ。跳躍衣装(ジャンパー)を使えば脱出可能だ。そして今の発言から俺のギフトは知らないようだ…… ならばコレは切り札にしよう。

 いつでも脱出可能だという事実があれば、心に余裕が生まれる。


「か…神那ぁ~」

「うぅ、背に腹は代えられないか…… 神那クン、失礼します」


 琉架が俺の左腕に縋り付いてきた。やはり第2魔王との対面は不安なのだろう。

 素晴らしい…… コレだけでもこんな所までわざわざ来てやった甲斐があるというモノ!

 反対の右腕には何故か先輩が縋り付いてきた……

 なんで? そこは白の指定席なんですけど? チケットのない人は勝手に座らないで下さい。


 そう思い辺りを見渡してみる、すると、白に限らずミカヅキもミラも、ついでにジークも平然としていた。シニス世界組とデクス世界組で反応が正反対だ。

 因みに伊吹は琉架に抱き着いている…… まぁ、お約束だな。


「何をそんなに緊張している? 第2魔王は穏健派で有名だからな、必要以上に恐れることもないだろう?」


 穏健派は俺も知ってる。問題なのはその穏健派がバーサーカーっぽい刺客を派遣し、拒否権無しの呼び出しを掛けたところだ。

 従わなければ殺す…… と、言ってるようなものじゃないか。警戒するなってのは無理な話だ。

 むしろ何故そこまで安心しきっているのかが疑問だ。


「それでは皆さんこちらへ…… 主がお待ちです」


 巨大な門が開かれる…… 地獄の門にならなければいいが……



---



 俺は今まで魔王城をいくつも見てきた。

 『クレムリン』『スカイキングダム』『ローレライ』『キング・クリムゾン』『エメス』そして……


 浮遊大陸・ラグナロクはそれそのものが魔王城なのだという。

 つまり魔王城・ラグナロクなのだ。


 実際の大きさはスカイキングダムのほうが遥かに大きいが、あの城は大部分が有翼族(ウィンディア)の街になっていた。

 王の住む場所としての城は最上層部と最下層の門くらいだろう。


 しかしここラグナロクは違う。

 大きな山程のサイズが有るこの浮遊島全てが城なのだ。

 無骨な外観とは裏腹に、内装は灰色と黒で統一されており、高級感であふれ、シックな空気が城全体を満たしている。殆どが黒にもかかわらず、決して陰気臭くない。


 スカイキングダムが天国のイメージなら、ラグナロクは地獄帝国のイメージだ。


 通路の両脇には時折、身の丈20メートルはある巨大な鎧の置物…… あ、違った、あれ中身入ってる。巨人族(ジャイアント)の騎士だ。

 そんな巨人騎士達は俺達が通り過ぎる間、胸に拳を当て敬礼のポーズをとっている…… アレは俺達にしてるわけじゃ無いよな?


 だとすると…… ネフィリム?


 そうだ、よく分からないのがこの女だ。人族(ヒウマ)としては規格外にでかい女だが、巨人族(ジャイアント)としては有り得ない小ささだ。

 一般的に巨人族(ジャイアント)の体格は人族(ヒウマ)の10倍以上と言われている。今まで見てきた巨人族(ジャイアント)は全てその範囲に収まる。

 2メートルクラスの巨人族(ジャイアント)など見たコトも聞いたコトも無い。


 その謎もついて行けば分かるのだろうか? てか、いつになったら着くんだ? 既に1時間近く歩いているが何時になっても到着する気配が無い。

 元々巨人族の城だ。一般的な魔王城の10倍のサイズがあるらしい…… 城の中にも転移魔方陣を用意しておけよ……



---



 更に歩くこと3時間…… 巨人族(ジャイアント)の足なら30分程の道のりをようやく歩き終え、またしても馬鹿でかい扉の前に着いた。

 恐らくここが謁見の間だろう…… 城門の扉とは正反対に繊細なレリーフが掘り込まれている。如何にもこの先にラスボスが待ってますって感じだ。

 しかしラスボスとご対面する前に先輩と伊吹が死にそうだ。基本ずっと上り坂だったからな……


 魔王である俺と琉架とミラは特に疲労を感じていない。

 普段から体を鍛えまくってるジークも涼しい顔をしている。

 白とミカヅキは多少疲れた顔をしているが……


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」


 この二人ほど酷くは無い。途中ずっと俺にもたれ掛かってたクセに……


「だいぶゆっくり歩いたつもりだったんですが……」

「いや、そもそも…… 歩幅が違…… 誰が短足だってぇーーー!?」


 俺じゃ無くてあのでっかい女戦士にキレろよ。我がギルドで一番歩幅の短い先輩。


「落ち着いて下さいサクラ様、少々お待ちを……

 神曲歌姫(ディリーヴァ)追走曲(カノン)』」


 お? 癒しの歌『追走曲(カノン)』、肉体疲労にも効果があるのか、さすが万能スキル。


「おぉ! ミラちゃんスゴイ! 疲れが引いてくよ♪」

「ミラさんスゴイ…… 肝心な時にいつも役に立たないウチのおにーちゃんとはワケが違うよ」


 確かに俺のギフトは使い勝手が悪いけど、いちいち俺を攻撃するんじゃない、アホ妹め!



「さて、皆さん宜しいですか? 我が主がお待ちですので……」

「うむ、頼むぞネフィリムよ」


 おいコラ、ジーク! 何でテメェがギルマスみたいな顔して仕切ってんだよ! 肉壁の分際で!


「それでは皆さん、粗相の無いようにお願いします」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 ネフィリムが高さ50メートルもある巨大な門を軽く開けていく…… 城門は内側から開けられたが、この門は自力で開けるのか…… よく開けられるな、数十トンはくだらないだろ?



 謁見の間はとにかく広かった…… ドーム球場が丸ごと収まる程の広い空間、天井は100メートル以上ある。

 バックスクリーンの位置には10メートル程の祭壇があり、その背後は一面ガラス張り、そこから西日が差しこんでいる……

 ここまで歩いて来る間にすっかり日が暮れていたらしい。何という無駄な時間……


 強い西日の影響で良く見えなかったが、祭壇の上には玉座があり、そこに一人の男が座っているのが分かる。

 顔は見えないが理解る……


 あの男が『第2魔王 “神殺し” グリム・グラム=スルト』だ……


 今まで見てきたどの生物よりも巨大なオーラを纏っている。

 その男の左後ろに一人、祭壇の手前に一人、計2名が控えている。恐らく側近だろう。


 ネフィリムが前に出て片膝をつく。


「四天王が一、ネフィリム・G・アースブールただ今戻りました」


 え? 四天王? このビキニアーマー・ウォリアーが第2魔王の側近なの?


「ご苦労」


 低い声…… 威厳を感じる落ち着いた声…… そして普通の声だった……

 思えば今まで魔王達には期待を裏切られ続けてきた。

 中には想像通りの奴もいたが、第2魔王の声は正にイメージにピッタリだった。

 コレでもし可愛らしいアニメ声や裏声がでも響いてこようものなら、どうしていた事か……


 もっとも俺も琉架もミラも魔王らしくないからあまり人のことは言えない。


「こちらがギルド『機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)』の皆様です」


 ぶっ!!?

 その名を未だに覚えている奴がいたとは!! 確かにギルドの正式名称だけど、こんな所で黒歴史を掘り起こされるとは思いもしなかった!


「『機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)』?」チラ


 伊吹に見られて思わず目を逸らす…… あぁ、あの日の俺を殺しに行きたい。




 日が祭壇の影に隠れ、ようやく逆光から開放される。

 巨人族(ジャイアント)出身の第2魔王グリム…… 小さいな……


 人族(ヒウマ)に比べれば遥かに大きいが、一般的な巨人族(ジャイアント)とは比べ物にならない。座っているから正確には分からないが、恐らく2メートル50くらいか……


「ギルド『機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)』…… そして、お前たちが新しき魔王か」


 未だに影で顔は見えないが、朱く光る緋色眼(ヴァーミリオン)は確認できる。ウィンリーと同じで右眼が朱い……

 やはりそうか…… 右眼が朱い魔王は恐らく次代神族(ネオ・ディヴァイア)側 出身者なのだろう。


「我こそが第2魔王 “神殺し” グリム・グラム=スルトだ」


 やっぱり…… 自己紹介しなきゃいけないのか…… はぁ……


「第11魔王 “禁域王” 霧島神那だ」

「えっと…… 第8魔王…… “女神” 有栖川琉架……です」

「っ…… 第6魔王 “人魚姫” ミラ・オリヴィエです」


「そうか、まずはよくぞ我が招きに応じてくれた、礼を言う」


 あれ? 礼を言われた? もっと高圧的に来るかと思ってたが、よくよく考えれば俺達は同格の魔王だ。ネフィリムの所為で脳筋魔王を想像していた。

 上下関係にウルサイ、体育会系魔王と……


「楽にするがいい、お前達は客であると同時に我と同格の魔王だ。故に我に頭を垂れる必要も無い」


 お…おぉぉ! 大人だ! 極めて礼儀正しい常識的な大人の対応だ!

 今まで見てきた魔王が、幼女だったり…… クソガキだったり…… 性格破綻者だったり…… 引きこもりだったり…… 淫乱糞ビッチだったり……

 兎に角キャラが濃かったモノだからそっちに慣れ過ぎていた! まさかこんな普通の魔王が存在するとは思って無かった。

 そうだ彼は巨人族(ジャイアント)出身の魔王、俺の中で種族好感度上位の“良い種族”巨人族(ジャイアント)だ。

 まだ油断はできない、威圧感が凄まじいから…… しかし問答無用でケンカ売ってくる魔王では無いようだ。

 さすが巨人族(ジャイアント)! 妖精族(フェアリア)とはワケが違う!


「既に日も暮れた、用件だけ先に伝えておこう」

「ん?」


 そうだ…… 何か用件があるから呼び出したんだ…… まさか顔が見たかっただけじゃあるまい。

 一体何を言い出すのやら…… もしかして魔王同盟関係か? 男魔王は要らないんだが、第2魔王と同盟が結べるならそれに越した事は無いな。


「お前達に…… お前達のギルドに依頼したい事がある」

「依頼?」


 ギルド全員を呼び付けたのは、魔王に用があったのではなくギルドに用があったからか。


「単刀直入に言う。魔王を討伐して欲しい」


 …………


「は?」




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