第130話 彼方からの招待状
第一回帰還作戦から一週間たった……
帰還・移住希望者は無事旅立っていった。
問題無くデクス世界に辿り着いたことだろう…… その後無事かどうかは分からないけど。
南極にワープアウトして全滅した可能性だって僅かながらある。
さすがにそこまで面倒は見きれない、一応どんな状況に直面しても対処できるだけの用意はさせた。
戦闘能力の高い者を先に飛ばすよう指示も出しておいた。
後は運任せだ、それでも足りなければ知恵と勇気を駆使してください。
次の帰還作戦実行前に、一度向こうへ行って帰還者の様子を確認してこようかな?
誰一人帰り着いてない…… なんてコトになってたら、さすがに帰還作戦は中止した方がいいかもしれない。
いや、大丈夫だとは思うんだけど……
転移の間に念の為仕掛けておいた携帯を回収して、帰還・移住希望者たちがゲートをくぐる瞬間を確認してみた。特に問題は無かったと思う。
彼らも100%安全な道じゃ無いことは理解している。それでも自ら望んで行ったんだ…… 何かあっても俺が気に病む必要は無い…… と、自分に言い聞かせておく。
そう…… 彼らは自己責任でゲートを使った。何かあっても俺の所為じゃ無い。
やはり確認は必要ないな。
往復実験は多大なリスクを伴う、こちらに戻ってきた時に立入禁止の場所に飛ばされる可能性があるからな。
決して彼らの行く末を知るのが怖いから確認しない訳では無い。
彼らの行く末を知るために自分が危険を冒すのが嫌だからだ。
帰還・移住希望者の事で一喜一憂するのは止そう、精神衛生上良くない。
もっとも直ぐにそんな事を気にしている余裕は無くなった。
主人公には休む間もなくトラブルが舞い込むものだ……
エロいトラブルだったらどれ程良かったコトか……
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一通の手紙が届いた……
我がギルドD.E.M. には結構手紙が来る。
受取人ランキングは俺、霧島神那宛てが1位。2位が有栖川琉架宛て、3位はミラ・オリヴィエ宛てだ。俺と琉架が1年不在にしていたにも拘らず……だ。
俺に送られてくる手紙の内容の9割が不幸の手紙だ……
殺害予告だったり…… 呪いの手紙だったり…… 架空請求だったり……
正直ウンザリする、裁判起こすとか書かれているとちょっと引くけど……
それとは逆に琉架とミラに送られてくる手紙は9割がラブレターだ。
告白の手紙だったり…… ストーカーの手紙だったり…… ドン引きするほど気持ち悪い贈り物が添えられている事もある……
こっちはこっちで大変そうだな。
白やミカヅキにもそういう手紙が多く来る…… この街は変態だらけだ。
ちなみに先輩への手紙は少ない、あの人は色んな意味で人の恨みを買う人じゃ無いからな。
伊吹は今のトコロ手紙被害には遭っていない、まだこちらに来て間もないからだな。
意外にジークの所への手紙も多い、500年も迷宮に潜ってた癖に…… きっと賢者ネットワークの会合とか、通販雑誌からのダイレクトメールだろう。
俺の所にもラブレターが送られてこないかな? 不幸の手紙はもう飽きた。
実害が無いから放置してきたが、何かあった場合には報復もしなければ。
その時は暗殺者ニコライ君に依頼でも出そう。嫌とは言わせない。
そんなD.E.M. に彼方から届けられた一通の手紙……
普段なら放置するトコロだが、いつもの手紙とは趣が違っていた。
その手紙にはただ一文、こう綴られていた。
『後日、迎えを出す』
これだけだ…… 間違いなく招待状だ。
他に何も書かれていない。
もちろん白いジャムや剃刀の刃なんかも付いていない。
しかし問題は封筒の方にあった。
蝋で封がされ刻印が押されていた。ジークやアルテナにも確認してみたが、見た事の無いモノだという。
いつもの悪戯とは違う…… それだけは確かだ。
俺達の知り合いでこんなモノを出しそうなのは…… 琉架のじーさんか?
いや、あのゴリラが招待状を送るなら、ギルドメンバー個別に出すハズ、そして俺の所にだけ届かない…… そんなショーモナイ嫌がらせをするバズだ。
後、可能性があるのは獣衆王国のライオンキングとオルフェイリアからか?
確かに俺と琉架の無事を知れば、招待状の一つでも送ってきそうな気がするが、こんな謎めいた手紙を送る小細工をする奴等じゃ無い。
こんな貴族っぽい事をするのは…… 妖魔族とか?
考え過ぎか、ヴァルトシュタイン家は滅びたし、他の三大貴族は浮遊大陸・アリアと共に消息不明。こんな形で接触を図るとは思えない。
結局これだけでは何も分からない。
しかし後日って何時だ? 消印も何も無い所を見ると、直接ギルドセンターに持ち込まれたか、依頼を受けた冒険者が届けたモノか……
ただ嫌な予感がするのも事実だ、ココに記されている後日がいつかは分からない。
だったらちょっと温泉旅行にでも行ってこようかな? 留守にしておけば不快な思いをしないで済む。日付をきちんと指定しない方が悪いんだし。
「それはいくらなんでも失礼だろう? 誰が送ったモノかも分からんのに、わざわざ敵対する様なことはするべきでは無い」
俺のアイデアをジークが否定してきた。だったらお前が留守番してろ! それで問題解決だ。
さっきのアイデアを上回るグッドアイデア! 女の子たちと温泉旅行、筋肉不在で男は俺だけ…… 完璧じゃないか!
手紙には後日とある、ならば今日明日にいきなりやって来る事もあるまい。
冒険者の多いこの世界なら、予約無しでも宿は取れる。豪華な部屋や食事には期待できないがそこは金次第だ。
そうと決まれば善は急げだ。旅行雑誌を買ってきて今夜中には目的地を決めよう。
そして明日から一週間ぐらい禁域王プレゼンツ! 女だらけの温泉旅行! を開始する!
「よし、俺はコレから本屋へ行って旅行雑誌買ってくる」
「おいカミナ、話を聞いていなかったのか? おい!」
留守番要員のジークの言葉を無視し部屋を出た。
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俺が部屋を出ていくのを察知した白がついてきた…… 子犬みたいで実に可愛い。
「おに~ちゃん…… 旅行…… 行くの?」
白が俺が見ている雑誌を覗き聞いてくる。
「そうだな、白はどこか行きたいところあるか?」
「おに~ちゃんが居るなら…… どこでもイイ……」
あらイヤだ、添い寝してあげたくなるくらい可愛い!
そうだな、行く場所なんてどこでもイイ。白が……みんなが居ればそこが俺のパラダイスだ。
適当な雑誌を一冊購入し店を出る。このまま少し遠回りして白とのデートを楽しみながら帰るか。
いつもは自然と繋いでいる手を差し出さず腰に置き、肘を突きだしてみる。
白はいつもと違う俺の行動に一瞬戸惑ったが、直ぐに意味に気付いたようだ。
顔を赤くし、オズオズと俺の腕に自分の腕を絡ませてきた…… ヤバイ! 超可愛い! 眠りにつくまで手を握っていてあげたくなるほど可愛い!
こうして俺はまた一つ魂のステージを上げることに成功した!
これで周囲から兄妹のおつかいとは見られないハズだ! もう生暖かい視線を向けられるコトも無い!
……と、思ったが果たして本当にそうだろうか?
未だに周囲からは微笑ましいモノを見る目をされている…… 少なくともイチャついているカップルを見る目じゃ無い。
やはりまだ俺達が若すぎるせいか…… まぁいい、今日はこれで満足だ。
白と腕を組み遠回りして帰る。なんとなくいつもより楽しい気がした……
しかしそんな楽しい時間は長続きしないモノ…… ギルドセンターの前、道のど真ん中に立ち尽くす人物を発見。昔2ヵ月もバカに付き纏われた嫌な思い出が甦る……
海の底と病院で、アレだけ色んな所をヘコませたんだ、まさか違うよな? そう思い立ち尽くしている人物に目を向ける。
その姿に思わず目を奪われる!
そこに立っていたのは女戦士だ。どっからどう見ても女戦士だ。誰が見たって女戦士だ。
何故ならビキニアーマーを装備しているからだ! 初めてリアルで見た……
しかし俺が目を奪われたのは一瞬だけだった。
その女戦士は尋常じゃ無い気配を纏っている…… 身長は2メートルを越えるほどの巨体、腹筋なんかはバッキバキに割れてるシックスパックだ。きっと鋼鉄のような手触りだろう。
しかしそれ以上に感じられる事がある、コイツは強い! それも尋常じゃ無く……
見た目は人族だが、放たれる圧力は上位種族顔負けだ。
どっかの魔王の使途かと思ったが、そうでは無いらしい…… しかしただの人族とも思えない。
どんなに鍛錬を積んでも、人族がこのレベルに到達できるとは思えない。
その女はこちらを見止めると近づいてきた…… 威圧感がパネェ……
「その眼…… あなたがキリシマ・カミナだな?」
!?
いきなり眼の事を言われた。
俺と琉架はこっちに戻ってきてまだ間もない。
仮にこのビキニアーマー・ウォリアーが以前から俺の事を知っていたなら緋色眼の事を口に出したりしないハズだ。以前はオッドアイじゃ無かったんだから……
こいつ…… まさか……
「あなたを迎えに来た、我が主がお呼びだ」
え~~~……
「もしかして…… あの手紙にあった迎えって……?」
「私の事だ」
後日じゃねーじゃん!
手紙届いたの今日だよ? もしかしてお前が自分で持ってきたんじゃねぇのか?
「え~と、手紙には後日とありましたが……」
「そうだ」
「手紙届いたの今日ですよ?」
「なに?」
睨まれた…… 嘘なんて吐いてないのに……
「そんな筈は……いや、そういうモノなのか?」
何かブツブツ言ってる…… もしかしてあの手紙、結構前に出した物なのか?
「どうしよう? 出直した方が良いのだろうか?」
「…………」
どうしようはこっちのセリフだ。
纏っている威圧感はハンパ無いのに、この人ちょっとアホの子だ……
取りあえず温泉旅行はキャンセルせざるを得ないようだ。まぁまだ予定の段階だから別に問題無いけど…… でも筋肉不在の温泉旅行…… 行きたかったなぁ。
「え~と、呼ばれてるのって俺だけですか?」
「いや、ギルド全員だ」
「2~3時間で帰って来れますか?」
「2~3日はかかるかも知れない」
うん、取りあえず手紙を出すならもう少し詳しく書こうよ。あの手紙の内容じゃ無視されても文句は言えないぞ?
もっとも迎えに来たのが世紀末の覇者みたいなお姉さんでは怖くて文句も言えないが……
それと2~3日で往復できるならそんなに遠くないな……
どうしたモノか……
「とにかくしばらく待ってもらってイイですか? まだギルドメンバー全員に手紙の事を話してないので」
「ふむ…… それは仕方ないな、こちらの不手際だ。しかしなるべく早く頼む」
ある程度、融通は効くみたいだな。
断ったら殴り飛ばして麻袋に詰め込んで誘拐しそうな雰囲気を漂わせているのに……
一週間、温泉旅行へ行くのでその後で良いですか? とは流石に怖くて聞けないな。
しかたない、今夜皆に聞いてみよう。
「あと、主って誰ですか?」
「それは行けば分かる」
そりゃそうだろうさ、行って分かるのは当たり前。だからこそ行く前に知っておきたいんだろ。
「え~と、ウチのギルドには年頃の娘さんが多くいます。そんな子達を危険な事に巻き込めません。
ギルドの年長者を差し出しますんで、そいつを煮るなり焼くなり好きにして構いませんが如何ですか?」
「勘違いしている様だが、危害を加えるつもりは無い。安心していい」
そんな事言われてもなぁ…… 主の正体も明かさない、行った先で待っていたのは第3魔王でした。とか、勘弁してほしい。
そもそも迎えに来たのが「趣味はドラゴンを素手で殺す事です」って自己紹介されても何の違和感も無さそうな女戦士だ。
危機を感じるのも無理はないだろ?
「あなた達の身の安全はこの私、ネフィリム・G・アースブールの誇りにかけて保障しよう」
ビキニアーマーの女戦士・ネフィリムさんの誇りがどれ程のモノかは分からんが、あまり迂闊なことは言わない方がいいですよ?
もし第3魔王が襲ってきても俺達を守り切れないでしょ?
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その夜、全員を集めて第9回定例会議を緊急開催する。
その席で、彼方からの手紙を見せ、とんでもない女傑が迎えに来た事を明かす。
「え~と…… バックレる事は可能ですか?」
「可能だと思います。ただし地の果てまで追われる事になるかもしれないですが……」
「つまり選択肢は無いって事か……」
「?? 何を言ってるんですか? 身の安全は保障されてるんですよね?」
俺と先輩が割と真剣に思案していると、琉架が不思議そうな顔をして聞いてくる。
相変わらず琉架は素直だな、全く疑ってない。
俺が「大事な資料を落として200万必要なんだ」って電話したら、きっと全財産を持って駆けつけてくれるだろう。
そんな琉架だからこそ、俺が守らなければ!
「行くしかあるまい、手紙の差出人に興味があるしな。それに余程の事が無い限り、我々が窮地に陥る事など有り得まい、魔王が三人もいるんだからな」
ジークは最初から行くつもりだったからな…… 結局そこに行き着く。
「はぁ…… ジークの言う通り断る事は出来そうにない、しばらく待ってもらっているが近日中には出向くことになる。まぁ準備だけはしておいてくれ」
結局この怪しさMAXの招待状に応じる事になった。嫌な予感がする……
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翌日……
まだ日も登らぬ早朝に、ジークにたたき起こされた。
何なんだこのヤロォ! 俺のアイデアに反対したり、俺の惰眠を妨害したり! 宣戦布告と受け取るぞ! コルァ!!
「下で例の女傑が待ち構えているぞ」
「なに?」
ジークに言われバルコニーから下を覗いて見る。
女戦士のつむじが見えた気がした……
ビキニアーマーの女戦士は昨日と同じ位置で立っている。
肩幅に足を広げ、腕を組み、仁王立ちでギルドセンターの入り口を睨み続けている…… 新聞配達の少年が怯えて近付けない……
俺だってあんなのに出くわしたら迂回する……
「まさか昨日からずっとあそこで待ってるのか?」
そのまさかだろう…… あんな所であんなオーラを放っていたら、ギルドセンターの営業妨害になる……
そして俺がリルリットさんに文句を言われるだろう…… その光景が容易に想像できる。
「これは急いだ方が良さそうだな」
ジークが呑気な声音でそんな言葉をこぼした……
「しばらく」じゃ無く「数日」って言っとけばよかった……