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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
132/375

第128話 災器


 シニス世界で最も大きな大陸、中央大陸。

 その大陸を三つの領域に分割しているのが中央大山脈である。


 中央大陸の上をT字に走る山脈は、古来より往来の妨げになっていた。

 それは即ち他領域との交流の阻害であり、大規模な戦争を防ぐ自然の堤防でもあった。

 この中央大山脈を安全に越える事が出来る地上ルートは二つ……


 一つは第11領域・ムックモックと第9領域・レイガルドを繋ぐ『古来街道』。

 永遠に歩き続ける『古代人形(エンシェントゴーレム)』が作り出した平坦な道である。


 もう一つは第10領域・大氷河と第9領域・レイガルドを繋ぐ『氷河道(ひょうがみち)』である。

 こちらは古来街道ほど通りやすくは無いが、幅100kmにも及ぶ起伏の少ない氷原のような場所になっている。


 ただし大空洞を経由すれば山脈を越える必要も無いのだが、大氷河側の出口は分厚い氷で覆われている為、現在使用不能だ。

 そういった事情もあり、第10魔王の軍隊は氷河道に押し寄せてくる。


 古来街道には大要塞が存在したが、氷河道にはソレ程立派な備えが無い。

 高さ5メートル程の北方砦が幅100kmの氷河道を塞いでいる。

 第10魔王が1200年も沈黙していた為、必要が無かったのだ。北方砦は稀にやって来る『カラクリ』と呼ばれる異形の生物を止める為のモノだった。


 今はソコこそが、中央大陸北部戦線。人族(ヒウマ)獣人族(ビスト)連合軍の最前線になっている。

 いつもの様に押し寄せてくる鉄機師団、その様子を砦の上から眺める連合軍…… そしてその中には創世十二使の二人、クリフ・フーパーとシャーリー・アスコットの姿もあった。



「ここに来て半年以上経つけど…… いつまで続くのかしらね?」

「そう言うなシャーリー、ここ2ヵ月で戦況はどんどん好転している。特に炭鉱族(ドワーフ)の参戦が有り難い。彼らの鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)は10メートル級大型鉄機兵を倒す事が出来る!」

「まぁ……そうね、今までは貴方を含めても数人だけしかアレに対抗できなかったんだから、それに比べれば事態は好転したといえるわね」

「あぁ、上手くいけばこちらから打って出れるかも知れない。第10魔王討伐に!」

「それは…… そうだけど、鋼鉄人形(スチール・ゴーレム)は足が遅いから討伐には使えないわよ?」

「守りを気にしなくていい、それが重要なんだ」


炭鉱族(ドワーフ)はどこまで信用できるのかしらね…… いえ、それよりも……)


「クリフはどう思ってる? ここ最近の事件を?」

「うん?」

「ヴァルトシュタイン家打倒に、第6魔王討伐…… D.E.M. がやったって噂だけど……」

「実際D.E.M. は強いだろ? 佐倉以外は創世十二使と比較しても見劣りしない」


 大変革(レヴオル・シオン)以降も何度か同じ戦場に立った事がある。

 その度に、他のどのギルドより頼りになった。


「そこは否定するつもりは無いわ。それでも…… あの子達に第6魔王が倒せると思う?」

「それは……」


 答えは出ない…… 彼らは未だ「魔王殺し」の帰還を知ら無いのだから……


「それでも近い将来、彼らはここに来るよう依頼されるだろう。その時こそ第10魔王討伐が現実味を帯びるんだ」

「実はその事で、ちょっと良くない噂を聞いたんだ」

「良くない噂?」

「勇者がココに来るって……」

「…………マジか?」


 戦力が来てくれるのは嬉しい…… しかし勇者は…… 役に立つのか? むしろ厄を呼ぶんじゃないか?


「こんな時…… アイツ等が居てくれればな……」

「フン」



---



 首都・ガイア

 D.E.M. ギルドホール


「うぉぉぉぉぉ! コ…コレは!!」


 テーブルの上に広がるのは宝石のように煌めくケーキの群れ。

 有名洋菓子店「クラシックス」のケーキ、全種類各3個だ。


 本来は並ばなければ買えないほど人気の品だが、金と権力を駆使し入手した。

 並んでいる人には大顰蹙だろうが、こっちは魔王さまを連れて馬鹿正直に並ぶワケにはいかない。


「ス……スゴイ! コ…コレ、食べてもいいのかのぅ?」


 ウィンリーがさっきから浮かれまくってる。

 背中の小さな翼をパタパタ羽ばたかせながら期待に満ちた目を向けてくる。

 その様はしっぽを振る子犬のようだ。今にもヨダレを垂らしそうだ。


「あぁ、コレはウィンリーのために用意したんだ。幾らでも好きなだけ食べてマルマルと太るがいい!」

「余は真ん丸になるぞぉ! イタダキマスなのじゃー!」


 ウィンリーはとても幸せそうな顔をしながらケーキを貪り食った。

 あ、ゴメン、太るのはヤメテ、フューリーさんに怒られる……


 このケーキはウィンリーの為に用意したものだが、一人で食いきれる量じゃない。女の子たちみんなで食べること前提だ。

 俺は席を外させてもらう、個人的にシンプルなケーキのほうが好きだ、ココのケーキは凝り過ぎだ。

 俺は昨日やって来た暗殺者の全身にイタズラ書きをしないといけないからな。



---



 俺が一仕事終えて戻ると、アレだけ大量にあったケーキは全て消えていた。

 さすが女の子とケーキの組み合わせは強力だ。アレほどの大軍を物ともしないとは……


 全員満足気に脱力している。

 ちょうど良い機会なので今のうちに聞き取り調査を行ってしまおう。


「ウィンリー、チョット聞きたいことがあるんだが?」

「うむ、余のイチオシは『イチゴ尽くしスペシャル』じゃ! まるで真っ赤な宝石のような苺を心ゆくまで堪能できる至極の一品じゃ。

 アレは素晴らしい物じゃ♪」


 喜んでくれて何よりだが、俺が聞きたいのはケーキの感想じゃない。


「ピンク色のクリームとスポンジにもタップリと苺エキスが含まれており、そのシットリとした舌触りは正に大海原を漂うペロピピペッチョンポロのプロプロに匹敵する……」


 ペロピピペッチョンポロのプロプロってなんだ!?

 舌触りの極上さを表現しようとしているらしいが、ペロピピペッチョンポロのプロプロが何なのか想像もできない!

 大海原を漂うって生物なのか植物なのかも分からない。


 別にどうでもいいか……

 ペロピピペッチョンポロのプロプロが何か聞いたら余計に面倒くさい説明が始まりそうな気がするし……


「うんうん、ウィンリーが喜んでくれて何よりだ。……が、今日は先輩魔王様の叡智を賜りたいんだ」

「ほほう、余の叡智を望むか? よかろう! 他ならぬカミナの頼みじゃ、どんな質問にも答えてしんぜよう!」


 ご機嫌でケーキの説明をしていた所をぶった斬っても、先輩魔王を敬う体を装えば簡単に乗ってきてくれる。

 相変わらず扱いやすくて可愛いなぁ。


「今日ウィンリーの知恵を借りたいのは、第10魔王についてなんだ」

「第10魔王とな?」

「あぁ、神代書回廊(エネ・ライブラリー)ですら詳細を調べられない、謎のベールに包まれた魔王だ。

 きっとこの世界で第10魔王のコトを知ってるのはウィンリーだけだ(本人除く)」

「余だけかぁ! うむ、そうかもしれんのぅ…… うん? カミナはあやつを倒すつもりなのか?」

「まだ分からない、が、倒さなきゃならないかもしれない」


 何故かミカヅキが同意するように激しく頷いている…… なんで? 第10魔王に恨みでもあるのか?


「ふむ、余がヤツと最後に会ったのは今から1200年くらい前、第一次魔王大戦の頃じゃ。

 当時、デッカイ大砲を作って浮遊大陸を狙っておった」


 浮遊大陸を……落とせる大砲? そんな事できるのか? 核兵器以上の威力が必要だろ。


「空を漂っているのはスカイキングダムも同じ、そんなので撃たれたら一溜まりもない。衝撃波だけでも大変なことになりそうじゃからのぅ」

「それは…… そうだろうな」


 たとえ直撃しなくても、そんな大砲を近くで撃たれたら衝撃で雲が吹っ飛ぶぞ。


「だから戦うことにしたんじゃ、本当はこっちから仕掛けるような事はしとぉ無かったんじゃが」


 なるほど…… 1200年前、そういった事情があったのか。

 ウィンリーは他の魔王と敵対する事を避けてたが、スカイキングダムに危機が及べばその限りでは無い。


「それで、どんな奴なんだ? 第10魔王ってのは?」

「う~ん…… 余も直接ぶつかった訳じゃ無いから説明し辛いんじゃが……

 見た目は普通の人族(ヒウマ)と変わらなかったのぅ、ただし身長は山くらいある」

「は? 山?」

「なんか透けとったのぉ」


 山くらいデカいって…… 巨人族(ジャイアント)でもそこまでデカい個体はいない。

 さらに透けてたってコトは……


「それは立体映像とかそういうのか?」

「おぉ! 多分それじゃ! りったいえーぞー!」


 映像でしか見ていない…… ふむ……


「その見た目はどうだったんだ? 機人族(イクスロイド)出身の魔王なら体のどこかが機械に置き換わってるハズだが?」

「ふむ…… 特に無かったと思うが…… 1200年前のコトじゃからのぅ……あまり覚えて居らん。

 ただ一つ気に入らないのは、あやつの緋色眼(ヴァーミリオン)が右眼に有ったコトじゃ。余とお揃いだったのが気に入らん!」


 ウィンリーがプリプリ怒ってる。

 その様子は小学生がお弁当のオカズを友達にとられた時みたいだ…… 本当に怒ってるのか?


 しかし機人族(イクスロイド)出身の魔王なら、身体欠損が無いハズがないんだが……

 フェイクの映像と考えるべきか…… 恐らく実物は全く別の姿をしているだろう。


「ちなみにどんな攻撃をしてきたんだ?」

「カラクリ兵によるモノだけじゃ、鉄の鳥みたいなのが飛んで来たり、虫みたいなのが地上から大砲撃ってきたり、中にはやたらデッカイのもいたが、アイツ自身が直接姿を見せる事は無かったな」


 兵器による攻撃か…… これじゃギフトは分からないな。


「まぁ、飛んでる奴はちょっと風を起こしてやれば簡単に落ちていったし、地上の虫っぽい奴等も雷を落とせば止まってしまったから簡単じゃった」

「さすがウィンリー、先輩魔王様は強いな」ナデナデ

「そうじゃろう、そうじゃろう、クフフ♪」


 如何に強力な近代兵器でも自然現象には勝てないよな。

 ウィンリーのギフトは気象兵器だ。カラクリ兵ごときじゃ相手にならない。


 寝ぼけて使ったのはただの突風で良かった。もし竜巻や雷なんか使われたら大惨事だった。

 いや、そこら辺の攻撃は例の雲を発生させなければ使えないか。


「ウィンリーちゃんってホントにそんなに強いの? こんなに小っちゃくて可愛いのに、信じられない」


 今まで黙って話を聞いていた伊吹が割り込んできた。

 そして俺に撫でられていたウィンリーを掻っ攫うと、自分の膝に乗せて撫でまわし始めた……


 俺の嫁が妹に寝取られた……


「とにかくアイツはよう分からん奴じゃ、あの時確かに仕留めたと思ったんじゃが……」

「仕留めた? そういえばウィンリーはその戦いに勝ったんだよな? どんな風に?」

「うむ、奴は一際大きなカラクリ兵に乗っていたのじゃ。そいつの大砲だけは魔力砲だったし、余の眼にもオーラが映っておった。

 だからそいつを竜巻で吹き飛ばし、雷1000本落としてみたのじゃ」


 なかなかに強烈な攻撃…… 相手が魔王じゃなければ完全にオーバーキルだ。


「その攻撃で確かにオーラが消えたんじゃが、未だにアイツは死んでおらんからのぅ」


 跳躍衣装(ジャンパー)のようなテレポート能力か?

 いや、テレポート能力があればもっと戦いようがあるハズ……


 まさかアーリィ=フォレストみたいな不死身系能力じゃあるまい、その謎の能力が第10魔王のギフトと考えた方が良いか…… 情報が少なすぎて推理も出来ないが…… やっぱり第10魔王と戦うのは危険かな?


「最後に一つだけ聞きたいんだが」

「うむ? 何じゃ? どんな事でも聞くがよい」

「第10魔王の名前ってなんていうんだ? オリジン機関でも名前が上がった事が無いんだ」

「おぉ! そうかそうか! 余よりもマイナーな魔王が居ったんじゃな♪」


 あ…… マイナー魔王のコト気にしてたんだ……


「ヤツの名はプロメテウス。

 『第10魔王 “災器” プログラム・プロメテウス』じゃ」


「“災器” プログラム・プロメテウス……」


 プログラム? それ名前なの?

 脳裏にはR2-◯2とかアナ◯イザー見ないなマスコット的ロボットが浮かぶ…… なんか微笑ましいが、それは無いか……

 だとしたら…… ディスプレイとボタンとメーターが大量についていて、赤と青と緑の光が不規則に表示されて、穴の開いてる細長い紙…… たしか鑽孔(さんこう)テープとか言ったか? アレを大量に垂れ流してる感じか?

 「地球ニ人類ハ必要ナイ」とか言って人類殲滅プログラムを実行するイメージの……


 …………


 なんで俺のイメージはこんなに古臭いんだ?


 取りあえず他のカラクリと同じで、雷に弱いという事が分かった。

 もっとも1200年の間に対策を取っている可能性もあるが……


 まてよ? 相手が機械兵器なら結構簡単に倒せるかもしれない…… 少なくとも機械だけなら……


 情報の無い魔王とは戦いたくない、レイドもウォーリアスもミューズもそれで苦労した。

 しかし体の一部が機械の魔王なら、その機械を狙えばいい。

 唯一の懸念は魔王プロメテウスのギフトか……


「カミナよ、もしプロメテウスのヤツと戦うなら特攻には気を付けよ」

「特攻?」

「うむ、余の攻撃はあやつに有効じゃった、敵わないと思ったのじゃろう、形振り構わず突っ込んできたのじゃ。もちろん返り討ちにしてやったがのぅ!

 とにかくあやつは死を恐れないのじゃ」


 死を恐れない魔王…… それが魔王プロメテウスのギフトのヒントのような気がする……

 しかしこれ以上は調べようがない。ウィンリーでも相手のギフトまでは知ら無いんだ、他に知ってる奴がいるとも思えない……

 その内、中央大陸北部戦線に行ってみないといけないかもな。魔王軍を見れば何か分かるかも知れない。


 勝算がある様なら…… 討って出る!




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