第127話 暗殺者返し
---霧島神那 視点---
時刻は深夜。
俺の部屋に招かれざる客が訪れた。
何者かの気配がする…… 俺は息を殺し様子を窺う……
一瞬、誰か女の子が訪ねて来たのかと思った。
例えば琉架が、俺に深夜の告白をしに来てくれたのかと思った……
例えば白が、俺と一緒に寝たいと枕持参でやって来たのかと思った……
例えばミカヅキが、お仕置きをされに来たのかと思った……
例えばミラが、寝ぼけて夜這いを掛けに来てくれたのかと思った……
だが違う…… 初めてみるオーラだ。更に言ってしまえばコレは成人男性のオーラだ。
深夜に男の部屋に男が訪ねてくる…… 悪夢のナイトパレードの始まりだ!
物音一つ立てる訳にはいかない!
俺は恐怖に怯えながら気配を消し、ただジッと堪えていた…… 男が去るのを……
何故なら俺は下半身丸出し状態だった。
新たに設置したお楽しみ部屋で一人エレ○トリ○ルパレード開演中だったからだ!
大丈夫だ! この隠し部屋は簡単には見つからない!
突如現れたホモが犬並みの嗅覚でも持っていない限りは!
男は何やら小声でブツブツ呟いている…… 暗殺者のジンクスが如何とか……
独り言で自己紹介どーも。
何だ、ただの暗殺者か…… ビックリさせやがって……
男はしばらくすると静かに部屋を出ていった。
くそっ! クライマックスで突然大雨でも降ってきた気分だ! 折角の夢の時間に水を差された!
あのヤロォ! この恨み、晴らさでおくべきか! 一族郎党皆殺しにして、関係者を血祭りにあげてやろうかっ!
フィニッシュ直前に邪魔されて、俺の高まっていたテンションは、そのまま怒りのボルテージに変換された。
今ならマリア=ルージュとだって戦える!
……もちろん嘘だけど。
あのクソ暗殺者を追って部屋を出るとミカヅキが控えていた。
「マスター、侵入者のようですね?」
「みたいだな」
今は伊吹の部屋に入っている……
今日はウィンリーが遊びに来ていて伊吹が一緒に寝ると言って譲らなかった。
その直後、伊吹の部屋から猛烈な風に押されてクソ暗殺者が転がり出てきた。
「マスター、この侵入者をどうしましょうか?」
「取り敢えず…… 生け捕りかな?」
ミカヅキの手際はそれは見事なモノだった。
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― 翌朝 ―
ギルドD.E.M. で物置代わりに使っている窓のない部屋。
憐れなる暗殺者は椅子に手足を縛り付けられてる。もちろん切断不能の血糸でだ。更に自害用の毒薬を回収し、口にはハード系エロ漫画でお馴染みのボールギャグを噛ませている。
断っておくが私物ではない。自殺されたら困るので血液変数で作ったのだ。
部屋にいるのは俺とミカヅキと白、そして憐れな暗殺者の男。
コレから楽しい尋問タイムだ。
男の態度如何では目を覆いたくなるほど凄惨な拷問タイムに変わるだろう。
いつか女暗殺者が送られてくればと考えていたが、やって来たのは男暗殺者…… 俺の期待は裏切られたわけだ。
溜まった鬱憤も、コイツでついでに晴らしてしまおう。そうしよう。
ボールギャグを外してやる。
「さて…… これより尋問を開始する。最初に言っておくがこちらの質問に沈黙や偽りで答えた場合、お前は地獄を見ることになる。心して答えろよ?」
「…………」
早速の沈黙…… これは質問じゃないからペナルティーは無しだ。
しかしなかなか強情そうなヤツだ、これは楽しめそうだ。
女暗殺者だったらもっと楽しめただろうに…… 残念でならない。
「まずは名前を教えてもらおうか? それくらいは素直に答えても良いだろ?」
「…………」
沈黙…… まぁ、答えないと思ってたが……
尋問は開始わずか3秒で拷問に変わることになった。
「早速罰ゲームだな、こちらの質問に答えなかったり嘘をついた場合、お前の頭髪を1000本没シュートする」
「なっ!!?」
「ん? 話す気になった?」
「っ…………」
流石! それでこそ楽しみがいが有るというモノ!
「心配しなくてもイイぞ? 取り敢えず苦痛を与えるつもりはない。局所麻酔と毛根殺しでツルッと抜けるから。当然二度と戻ってこないけど」
「っ……っ……!」
男暗殺者はプルプル震えてる。
フハハハハ! 恐怖に打ち震えておるわ!
「さて、ドコから毟ってくかな?」
「やはり前髪のど真ん中からいかれるのが宜しいのでは無いでしょうか?」
「だよなぁ? やっぱソコだよな?」
「っ……っ……!」
「では1000本の友に別れを告げろ!」
ブチッ!!
「っーーー!!」
躊躇を見せずに一気に引き抜く。できるだけ冷徹に…… 笑わないように気を付けて……
右手には今まで元気に生い茂っていた約1000本の屍達…… ちょっと少なかったかな? 気持ち悪いのでさっさと捨てるとミカヅキが瞬時に掃除してくれる。
男の額の上に5平方cm程のハゲが出現した。
その光景を目の当たりにして思わず震え上がる…… 我ながら何と恐ろしい拷問をしているのかと……
見た目はとてもユニークで吹き出しそうになるが。
「さて…… もう一度同じ質問をする。名前は?」
「…………」
「2000本目没シュート♪」
「まっ…待て!」
「ん? 言う気になった?」
「タ……タナトスだ……」
「誰が通り名を答えろと言った? 本名に決まってんだろ?」
「うっ…………」
「2000本目没シュート♪」ブチッ!!
「ギャーーー!!」
叫ぶなウルサイ、肉体的苦痛はないだろ? 精神的苦痛は想像を絶するが。
「さて、質問の続きだ……」
「ジャ……ジャックだ……」
「ん? なんだって?」
「俺の名前は…… ジャック・ベインだ」
「白?」
「うん、嘘」
「はい!残念! 嘘は沈黙より罪が重い! 今度は両手で没シュートします!」
「なっ!? ち…違う!! 俺は本当にジャック……!!」
「いや、いいって。ホントはお前の本名なんか知ってるし。白?」
「ニコライ・カーン……」
「!!??」
暗殺者ニコライの髪の毛を両手で掴む。
「お前の嘘のためにカミは死んだのだ…… アーメン」
「やっ……止めろーーー!!!!」
ブチッ!!!!
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その後、何度も核心に触れない質問を続けては毟り取るを繰り返す。
どうでもいいような質問ばかりだったのに、一回も口を割らないとは見上げた根性だ。
おかげでニコライさんの額から頭頂部へ掛けて登山道ができてしまった。もうチョット幅が広ければ完全に落ち武者だ。
そういえば、この僅かな時間の間に彼は随分やつれた気がする。如何にも落ち武者の雰囲気が漂ってる。
しかしこの拷問もそろそろ終わりだろう。これ以上続けても効果は見込めない。
あんな登山道を作られたら、今後の人生を坊主頭で生きていく覚悟を決めている頃だろう。
そうなると、これ以上、山で芝刈りしても大した心痛を与えることはできない。それじゃ面白くない。
そもそもこんな拷問で、暗殺者が口を割るとは始めから思ってない。
これは完全に俺の憂さ晴らしだ、俺のお楽しみを奪った償いを彼の毛根で払ってもらった。
ここからが本番だ。
コイツはウチの嫁たちを殺そうとした、一部お目こぼしを貰ったがソコはスルーで。
とにかくコイツは万死に値する罪を犯した、全身の生皮を剥いで塩水に漬け込んでそのまま火にかけて沸騰させた後、コトコトじっくり煮込むくらいの罰を受ける程の大罪だ!
もちろんそんなキモいコトをする気はないが、玉を潰すくらいはしてもいいと思うんだ。
それでもコイツは口を割らないだろう……
この落ち武者はプロだ。
きっと家族を殺されたって話さない。たぶん家族とかいないだろうけど。
正直に言うと、コイツに暗殺を依頼した黒幕の正体は白の能力によって割れている。
この拷問には、俺の憂さ晴らしの他にもう一つ大きな理由がある。
もう二度と、ホモ暗殺者を送られないようにする為の見せしめだ。特に男には容赦しないという事を知らしめる必要がある。
コイツの尊厳を踏みにじるのに最も有効な手段は…… あまりやりたくなかったが仕方ない。
「さて…… これからが本題だが、お前に暗殺を依頼したのは誰だ?」
「…………」
「答えないか…… しかしそろそろ髪の毛を抜くのも飽きてきたな」
「?」
「次は…… 『下の毛』の永久脱毛、逝ってみようか♪」
「っ!!??」
「マスター、手術用ゴム手袋をどうぞ」
「うむ、ありがとうミカヅキ」
手術用ゴム手袋とマスクとゴーグルを装着し、ミカヅキと白に後ろを向かす。
こんな汚い現場を見てはいけません。
「ちなみにココからは局所麻酔無しで行くんで、覚悟しておけよ」
「や……やめろ!! 貴様悪魔か!!」
惜しい! 悪魔じゃなくって魔王でした。
「では大人のニコライさんさようなら、子供のニコライ君こんにちは」
「やめろぉぉぉーーーーー!!!!」
ブチブチブチッ!!!!
「ギャアアアァァァアアーーーーー!!!!」
愚かにも魔王に逆らった暗殺者の悲鳴がこだました……
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その後も色々やってみた……
股間をツルツルにした後、残ったちぢれ毛を胴体に強力接着剤で移植。
乳首を目にして眉毛と鼻と口を表現してみた。遠目にはなかなかアーティスティックな芸術に見えないことも無い。
後、ケツを接着剤でくっ付けたり、額に超浸透油性マジックで肉と書いたり……
イタズラと呼ぶには少々やり過ぎだが、肉体欠損系以外の拷問を粗方やってみた。
欠損はあくまで毛根のみで、出血は皆無だった。
「ふう…… こんなモノか」
暴虐の限りを尽くされたニコライ君の目は死んでいた…… いや、目が死んで見えるのは目蓋に描かれた絵の所為だが。
既に気を失っている……
ちなみに超浸透油性マジックはどんなに洗っても半年は落ちない代物だ。
注意書きにもイタズラに使用しないで下さいって書かれている。
俺は魔王だからそんなルールには従わないけど。
「それで白、コイツに暗殺を依頼したヤツって誰なんだ?」
「ハウネス財閥……ゲオルグ・ハウネス。おに~ちゃんとルカを……殺したかったみたい」
「ハウネス財閥か…… 名前だけは聞いた事がある」
一瞬、琉架のじーさんが差し向けたのかと思ったが、それならターゲットは俺だけのハズだからな。
「よし、ミカヅキ、ミラを呼んできてくれ」
「畏まりました」
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「暗殺者…… なんですか? この変な髪型した人?」
ミラが来るまでの間に一応服は着せておいた。
首から上は逆キ○肉マンみたいになってるが……
「この人はカミナ様を……いえ、皆様を殺そうとしたのですね?」
「ミラの所にも行ったと思うけど、気付かなかったか?」
「はい、夢を見ていましたので…… せっかくあと少しだったのに……」
良い夢を見ていたトコロを邪魔されたのかな? ほんのりと頬が赤い所を見ると、ロブスター喰い放題の夢でも見てたのかな?
ちなみにコイツの犯行ルートは、まずジークを殺したつもりになって、次にミラの部屋へ侵入、何故か何もせずに出てきた。ミラの寝顔を見ただけでも、もう2~3個10ENハゲを作りたくなる。
その後、先輩の部屋をスルーして、琉架の部屋へ侵入を試みる。
琉架はたまに自室を停止結界で覆う事がある。こうなると外からの干渉は事実上不可能、実際アレだけ大騒ぎになったのに朝まで起きて来なかった。
一体中で何が行われているのか分からないが、昨夜はたまたまそのタイミングに当たったらしい。
そして俺の部屋に侵入するもターゲットを発見できず、次の伊吹の部屋へ入りウィンリーに吹っ飛ばされた訳だ。
コイツホントにプロか? グダグダじゃねーか。
「それで私は何をすればいいのでしょうか? 水責めですか? それとも全身の骨をスカスカにしますか?」
「いや、苦痛を与えるのはもう充分だ。それよりもこういう不穏な輩は毛根みたいに根元から処理するべきだ」
「根元から?」
「コイツを操って依頼人に罰を与える」
「それは…… 殺させるんですか?」
「いや、今回こちらには被害者は出なかった。復讐するにしても殺す必要は無いだろう。
ただし! D.E.M. を敵に回した事を後悔してもらわなければならない!
コイツにやってもらう事を具体的に言うと……」
…………
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翌週……
ハウネス財閥は突如解体されることになった。
寝耳に水…… 青天の霹靂…… 誰一人予想だにしない事態だった。
ハウネス財閥の総裁ゲオルグ・ハウネスは会見すら開かず、突然 財閥の解体を発表。
他の二大財閥に処理を丸投げする形で姿を消したという……
これにより、経済は一時的に大混乱に見舞われる。
ガイア政府までもが乗りだし後処理に追われた。
ゲート再稼働の混乱と重なり、かなりの経済的損失が出た。
ゲオルグ・ハウネスはデクス世界へと渡るために財閥を処分したとの噂すら流れた。
しかし…… ゲオルグ・ハウネスの行方については全く別の噂もあった……
彼は決して手を出してはいけない存在に逆らった為、全てを失ったのだという……
財閥解体が発表される前日、まだ夜も明けきらぬ暗闇の中、ゲオルグ・ハウネスは自らの屋敷からたった一人、人目を避けるかのように逃げ出したのだという。
たまたま、犬の散歩がてらジョギングをしていて、その人影を見たAさん(32)は、その時の事をこう語る。
『えぇ、あのハウネス御殿と呼ばれるでっかい屋敷の裏口から、大きなかばん一つを持った初老の男が周囲を窺いながら出てきたんです。
場所が場所だけに泥棒かと思って顔を確認しようと思ったんです。
その顔は確かにゲオルグ・ハウネスのモノでした、しかし頬はコケ、目の周りにはクマができ、まるでマジックで顔に骸骨の落書きでもされたかのようなヤツレようでした。
しかも挙動が不審で、まるでお尻に何か挟んでいるかのようなヨチヨチ歩き、とてもゲオルグ・ハウネス本人とは思えませんでした』
その後、彼の行方は分かっていない……
ガイアで三番目に金持ちと言われた大富豪に何が起こったのか……
その真実は、神のみぞ知る……