表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
130/375

第126話 暗殺者


 D.E.M. ……


 誰もが知る世界最強ギルドだ。

 嘘か真か幾人もの魔王を倒したと言われている……


 結成から僅か2年足らずの若いギルド、しかもメンバーはたったの7人。

 1万人神隠し事件のすぐ後に現れ、あっという間にSランクに登りつめた……


 彼らは目立ち過ぎた。


 真実は分からないがあまりにも強力な力を持つ者は、時として権力者に目を付けられる。

 自らの思い通りに動けばよし。従わなければ敵になる。


 そもそもココのギルド…… と言うより、ギルマスはあまり良い噂を聞かない。

 やれ…ヒトの皮を被った悪魔だとか……

 やれ…魔王より危険な人類だとか……

 やれ…ハーレムを作っている男の敵だとか……


 英雄的な働きをしてきた相手にこの評価の低さは同情に値する。


 第12領域(トゥエルヴ)は民主主義国家だ。しかしそんな国家にも既得権益を持つ奴らはいる。ガイア3大財閥の一つハウネス財閥。

 他二つと見比べると少々規模は小さいが、それでもシルバーストーン財団に匹敵するほどの規模を誇っている。

 そう、このシルバーストーン財団が問題なのだ。


 一般には明かされていないが、ギルドD.E.M. 中核メンバーの一人はシルバーストーン財団と繋がりがあるという……

 もちろんそれだけなら問題は無い、表だった支援は無いし、便宜を図っている形跡もない。

 しかしハウネス財閥のゲオルグ・ハウネスはこの繋がりを危険視した。


 要するに色々な思惑が絡み合った結果、D.E.M. には消えて貰おうという結論に至る……


 なんともやるせない話だ。相手は殆んどが10代の子供。

 しかしD.E.M. 自体は世界で唯一のSSランクギルド。圧力でどうにかできる相手では無い…… ならばどうするか? もう物理的に消えてもらうしかない。


 そこで白羽の矢が立てられたのがこの俺、暗殺者・タナトス。もちろん本名では無い。

 俺は対冒険者専門の暗殺者だ。かつてはSランクギルドに席を置いたこともあり、高い自衛能力を持つ冒険者という生き物を知り尽くしている。

 俺は今までに何人もの冒険者を暗殺してきた。たとえどれだけ強くても、ヒトである以上必ず隙は存在する!

 まして、相手は殆んどがガキ。ギルドセンターなんかに住んでいる所も甘い!

 素人考えでは安全な住処に思えるが、プロの目から見ればセキュリティーは穴だらけだ。


 今回の仕事は楽勝だな。



---



 6月某日 新月


 月の無い真っ暗な夜が本番だ。彼らは明日の朝日を見ることなくその人生を終える…… 目立ち過ぎた為に…… 少々可哀相ではあるがコレも運命だ。

 侵入経路はどこでもいい、彼らはギルドセンターの最上階に居を置いているので防犯意識が低い。


 カラカラ……


 ご覧の通り、ベランダの無い窓には鍵など掛けていないのだ。

 コレこそが俺を一流の暗殺者にしたギフト『蜘蛛男(スパイリー)』だ。指先から粘着力のある糸を幾らでも出せるのだ。昔の仲間からは何故か「手首からだろ」とよく言われた。


「ぐおぉぉぉ~…… ぐおぉぉぉ~……」


 真っ暗な部屋から大きめのイビキが聞こえてくる。この豪快なイビキはギルド唯一の大人、召喚師のジーク・エルメライだ。肩書は召喚師だが、前衛職顔負けの肉体を誇っている。

 これだけ豪快なイビキをかいているなら音を殺して侵入する必要すら無い。


「ぐおぉぉぉ~…… ぐおぉぉぉ~……」


 このギルドの運営は実質この男の手によって行われていると言われている。つまり最低でもこの男を殺すだけでD.E.M. はお終いだ。

 ガキを殺すのは気が咎めるが、まぁコイツならどうでもイイ。


 スラッ―――


 ターゲットの横に立ち短刀を抜く。


「ぐおぉぉぉ~…… ぐおぉぉぉ~……」


 平和な顔をして寝ていやがる、この様子なら殺気をぶつけても気付きもしないだろう。

 このガタイで頭脳労働専門という事はないだろうが、あまりにも緊張感が無さすぎる。余程の大物か、ただの馬鹿か…… どちらでも関係ないか!


 ドスッ!!


「ぐおっ!!」


 肋骨を避けて心臓を一突きにしてやる。まずは一人目…… さて、次は?


---


 男は気配を殺して部屋を出ていった。

 そこに残されたのは…… 心臓を一突きにされたジークが安らかに眠っている……


「うぅむ…… もう蚊の季節か?」


 ポリポリ……


 心臓を一突きにされたジークは…… まるで蚊に刺されたかのように傷口を掻き、そのまま安らかに眠り続けた……



---



 この部屋は金髪の美しい少女の部屋だ。名前はミラ・オリヴィエ。

 最近になって実は人魚族(マーメイド)だったと噂されていたな…… 全員が美人と言われる種族だ、それならば納得の美しさと言える……


 それよりも人魚族(マーメイド)が地上で暮らしている事実に驚く。

 見た目も美しく、非常に珍しい地上暮らしの人魚族(マーメイド)…… コイツは高く売れそうな気がする。いや…… 最強ギルドの一員で有名人だ。買い手はいないか? フッ、関係無いか、どうせ地下室に閉じ込められて飼われる運命だ。金になるなら攫ってみるのもアリか?


 いや……止そう。俺は一流の暗殺者、人身売買は専門外だ。

 俺はただ黙々と仕事をこなすだけだ。


『んん…… ダメで…… そこは……』


 ん? まだ起きてるのか?


『そんな…… こんなトコロ…… あっ……』


 ………… 寝言か? 見た目は清純だったんだが、随分とお盛んな夢を見ているらしい。


 鍵を開け、音を立てずに部屋へ忍び込む。


 ターゲットはベッドの上だ。

 少女は時折り寝言を洩らしながら、巨大な枕に抱きつきクネクネ動いている…… くそっ! こっちまで変な気分になりそうだ。


「ダメですよ…… だ…だって人が見てるじゃないですか…… そ…そんなの……」


 一体どんな夢を見ているんだ…… かなり特殊なプレイなのか?

 こんなに清純そうな女でも、一皮剥けばこんなモノなのか? 女と言う生き物を信じられなくなりそうだ。それともこれが人魚族(マーメイド)の特徴なのか?


「せめて人払いをお許し下さい、それさえ叶えば後は貴方の望むままに…… せめて初めては二人っきりで……」


 初めてなのか? 経験も無いのにこんな夢を見ているのか? 女って……


神曲歌姫(ディリーヴァ)小夜曲(セレナーデ)』」


 少女は突然、この世のモノとは思えない美しい旋律を口遊んだ……

 まるで脳が痺れるような感覚に陥る……


「アナタは出ていってください、私たちはこれから忙しいので…… ウフ♪ フフフ♪」


「ハイ……カシコマリマシタ」




---




「ハッ!?」


 俺は一体何をしていた!? いくら深夜とはいえ仕事中に居眠りとは…… くそ、記憶が曖昧だ。

 ジーク・エルメライとミラ・オリヴィエは始末した…… 始末したよな? したハズだ!

 何故か精神が思い出すことを拒否する様な不思議な感覚に襲われる。死体を確認しようという考えは浮かんでこなかった。


 とにかく次だ! 次は…… この部屋…… ギルド創設メンバーの一人佐倉桜の部屋だ。


 佐倉桜…… この個性的なメンツだらけで構成されているギルドの中で、良くも悪くもその噂が全く聞こえてこない人物……

 事前調査の結果、俺の行き着いた答えは…… 『普通』だ。

 歳の割には優秀な魔術師ではあるが、他のメンバーと比べると格段に見劣りする。別に擁護するつもりはないが、彼女は他のギルドへ行っても普通にやっていけるくらいの実力はある。ただしこのギルドでは埋もれがちだ…… いや…… ハッキリ言おう、埋没している。

 そんな彼女はこのギルドが無くなれば…… やはり普通の冒険者になるだろう……


 正直殺す必要性を感じない…… 危険じゃないのだ……


 彼女は…… まぁイイか。

 俺は一流の暗殺者、不要な犠牲は出さずターゲットのみを仕留める!



 こうして佐倉桜は暗殺の危機を脱したのだった……



---



 この部屋は、黒髪の美しい少女、ギルド創設メンバーの一人有栖川琉架の寝室だ。

 今回の暗殺任務で絶対に殺さなければならない最重要ターゲットの一人だ。

 彼女こそがシルバーストーン財団と繋がりがある人物なのだ。


 しかし問題が発生した。

 どうやっても部屋へ入れないのだ。

 押そうが引こうが扉はピクリとも動かない、全体重を掛けてもノブすら回らないのだ。まるで壁に掛かれた絵の様に、何をしても何の効果も無い…… 何なんだコレは!


 あまりここで時間を費やすわけにもいかない、大きな音が立つような手段は試せない。

 仕方が無い…… 後回しだ。

 有栖川琉架は最重要ターゲットの一人! 絶対に仕留めなければならない!

 他のメンバーを皆殺しにしてからもう一度こよう。

 最悪、朝、自分で部屋から出てくるのを待つしかない。


 どうにも嫌な予感がする…… 暗殺の予定が狂った時、良くない事が起こる。これはジンクスだ。

 正直、今すぐ撤退したい所だ。

 しかし既に他のメンバーを手にかけている、二度目は無いのだ。今日全てのケリを付けなければいけない。


 ならばもう一人の最重要ターゲットを先に始末しよう。



---



 有栖川琉架のとなりの部屋…… D.E.M. 創設メンバーの一人、ギルマス霧島神那の部屋だ。

 悪い噂が多い人物だが、その実力は本物らしい。

 魔法を無効化する技術を持ち、ダブルスペルの使い手だという。


 そういえば昔、この男の暗殺を個別に頼まれた事があった…… 依頼人は顔を隠していたが赤い髪の毛が印象的だった…… まったく金を持って無かったので話にならなかったが、霧島神那の悪い噂はあの男から聞いたんだったな…… 人の皮を被った悪魔だとか何とか……


 悪魔かどうかはともかく、用心はした方が良さそうだ。本物の実力者であるならば……

 全ての気配を消し、男の部屋へ侵入する。


 !?


 い……いない!?

 バカな!! 今日は出かけていないハズ、数時間前まで部屋の明かりはついていた。

 ま……まさか、他のメンバーの部屋へ行ってるのか?

 だとしたら、あと可能性があるのは狐族の少女の部屋か、妹の部屋か、メイドの部屋か…… メイドの部屋かな?

 マズイな…… もしそうなら、まだ起きている可能性がある。

 コトの最中なら隙をつけるが、相手は素人じゃ無い。SSランクのギルドメンバーだ! 不意打ちで一人殺せても、残ったもう一人と真正面から戦う事になる! それは危険だ!

 いや待て! もしかして有栖川琉架の部屋に居たんじゃないのか?

 二人が恋人同士だという噂も聞いた事がある…… ゴリラのような老人がその噂の出処を探っているという話も一緒に聞いたが……

 もしこの噂が事実ならマズイ事になる、有栖川琉架の部屋に侵入できない以上、不意打ちが出来ないのだ!


 くそっ! やはり暗殺者のジンクスが悪い方向に当たってしまった!


 いや、まだだ! まだ決まったワケじゃ無い! 他の部屋も調べてみるんだ! 結論は他の奴等を皆殺しにしてからでも遅くない!



---



 霧島神那の向かいの部屋、先頃D.E.M. に加入した霧島神那の妹、霧島伊吹の部屋だ。

 彼女は強力な風属性の力を使うという、規格外の実力の持ち主だと…… 野放しにはしておけない恐ろしい兄妹だ。

 たとえ相手が幼くても、最大の警戒レベルで挑む。


 どうやら彼女は部屋で寝ているらしい…… しかし何か妙だ?

 ベッドの上の影が一人分じゃ無い! ま…まさか兄妹で一緒に寝ているとでも言うのか!?


 いや…… 何か違うぞ? もう一人の影は……何か浮いてないか?


 暗闇の中、目を凝らすと……

 もう一人の人物の背中には小さな翼がある! アレは有翼族(ウィンディア)だ!!

 バカな! いつの間に! そうか、有翼族(ウィンディア)なら空から直接訪ねて来る事が出来る。俺の監視を掻い潜ってくるとは…… なんて運の悪い奴だ。よりにもよって今日訪ねてくるとは……


 ターゲット以外を殺すのは俺の主義に反する。

 影を見る限り、あの有翼族(ウィンディア)は子供だ。朝起きた時、一番に見るのが友人の死体だとは…… 可哀相だが仕方が無い。


「う~~~ん…… ウィンリーちゃんカワイイ~~~♪」


 ん? ウィンリー? はて? どこかで聞いた名前だが……?


「フハハハハー! 余は今までに食べたパンの枚数を覚えているぞぉー」


 一体どんな夢を見れば、そんな寝言が出てくるのか…… 有翼族(ウィンディア)にはパンを数える風習でもあるのか?

 次の瞬間、小さな翼がパタパタ羽ばたかれ、猛烈な風が発生した!

 気付いた時には部屋の外まで吹き飛ばされていた!


 ゴロゴロゴロゴロッ ドン!!!!


「ぐはっ!!??」


 強烈に壁に叩き付けられ呼吸が止まる。一体何が起こったのか!?


「マスター、この侵入者をどうしましょうか?」

「取り敢えず…… 生け捕りかな?」


 いつの間にかすぐ脇に二人の人影がある! マズイ! 脱出しなければ!


「畏まりましたマスター。有栖川流メイド術・痴れ者捕縛の陣!」

「おぉ~! スゲェ!」

「ぐっ!? な…何だこれは!!」


 パジャマ姿のメイドが放ったロープはまるで生き物の様に自由自在に動き俺を拘束した。

 最後に口を拘束され、自害用の切り札である毒薬すら使えなくされた…… 完璧な拘束術だった。

 そこに立っていたのはメイドのミカヅキと…… 霧島神那だった。


「おぉ、見事な腕前だなミカヅキ」

「お褒めに預かり光栄ですマスター」

「しかしウィンリー…… 寝ぼけるとこんな事になるのか…… ウィンリー用の客間を用意した方が良いな」

「では早速、明日にでも業者に発注を掛けましょう」


「いったい何の騒ぎですか? あと少し…… せっかく良い所だったのに……」


 !?

 目を擦りながら現れたのはミラ・オリヴィエだった! バカな! 俺は確かに殺した……ハズ……だよな?


「あぁ、ミラか…… ってオイ!?」

「ミラ様、御召し物が乱れております。こちらへ……」


 メイドのミカヅキがミラ・オリヴィエを連れて廊下の奥へ消えていった。

 それと入れ替わるように、廊下の奥の暗闇から巨大な人影がこちらに向かってくる…… ア…アレは……!


「なんだ賊か? D.E.M. に入るとは運の悪い奴だ」


 現れたのはジーク・エルメライ!

 あ…あり得ない!! 確かに心臓を一突きにしたハズ!! 生きている筈が無い!!


「どうやら暗殺者みたいだぞ? あの表情を見るにお前の部屋にも行ったみたいだが?」

「ん? そうか、蚊に刺された訳じゃ無かったのか」ポリポリ


 どうやら明日の朝日を拝めないのは俺だったようだ……




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ