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レヴオル・シオン  作者: 群青
第三部 「流転の章」
129/375

第125話 人工精霊


 ゲート再出現!


 新たなビックニュースがガイアに流れる……

 最近は2週間に一回くらいのペースで大事件が起きている。

 しかし、それにも拘わらずガイアの住人はお祭り騒ぎに興じている…… 元気だなぁ……


 未だ戦争は終局を見ていないし、これからどうなっていくのかも分からない。

 もしこのゲート再出現の噂が魔王の耳に入ったら、クレムリンに本格的に侵攻してくる可能性だってある。

 まだまだ予断を許せない状況だ。


 にも拘らず、ギルドセンター本部は人でごった返している。

 最近は人も少なくどことなく寂しい雰囲気が漂っていたのに、今は大賑わいだ。

 集まった人々の九割は人族(ヒウマ)だ。


 帰還希望者の受け付けが始まったのだ。


 予想以上の盛況ぶり…… 様子見をしようってヤツが殆んどいない。

 しかしそれも当然か…… 1年ちょっと前の魔王討伐作戦で帰れると思っていた人たちは、ゲートが消失していた為、その機会を失ったのだ。

 いつ、またゲートが消失するとも限らない…… このチャンスを逃せば次の機会は無いかも知れない。


 そんな思いが人々を駆り立てるのだろう。

 こんな不確かな噂にまで飛びつく…… 藁にも縋る思いなのだ。


 ギルド幹部連は予想以上の反響の大きさに、この情報を中央大陸北部戦線に知らせない事に決めた。

 確かに前線の神隠し被害者たちが同じように帰還を目指したら、いくら炭鉱族(ドワーフ)が参戦したとはいえ、戦線を維持できないと判断したのだ。

 最前線で命がけで戦っている人たちにはちょっと可哀相だと思うが、正しい判断だと思う。


 しかし人の口には戸は立てられないモノ…… いずれこの噂は最前線で戦う兵の耳にも入るだろう。

 その時までに第10魔王を抑え込めるか…… 押し返す事が出来るか……

 正直、かなり難しいと思う。


 まぁ、そんな時の為の炭鉱族(ドワーフ)だ。存分に働いてもらおうじゃないか。


 こっちはこっちで、ゲートの自動制御法を探そうと思う。

 何故なら…… まだ帰還作戦を一回も実行していないにも拘らず、すでに面倒臭いと俺が思い始めているからだ。

 この分だと、半年と持たずに帰還作戦は終了するだろう。

 だってメンドクセーじゃん?

 こっちは善意でやってるんだ、文句を言われる筋合いはない! とか思い始めている……


 これはマズイ兆候だ。


 この帰還作戦、俺に責任が無いのがいけないんだろう。サボっても文句を言われることが無い、だったらちょっとくらいサボってもイイか…… と。

 コレは俺の悪い癖だ、一度サボったらゲートの開放は2ヵ月に一回になり…… 3ヵ月に一回になり…… いずれ打ちきられる。


 そうなる前にゲート自動制御法を探したい所だ。本当にそんな方法があれば良いのだが……



 魔王能力関連で知りたい事は、魔王に聞くのが一番いい。


 そんなワケで、本日はミラを連れてアーリィ=フォレストの所へ向かう。

 魔王同盟の顔合わせ、紹介の意味もある。


 いきなり攻撃してこないといいんだが…… 信じてるぞ! 魔王アーリィ=フォレストよ!


---

--

-


『ようこそ御出で下さいました。魔王カミナ様、そして新・第6魔王のミラ・オリヴィエ様ですね?

 私は魔王アーリィ様の身の回りのお世話をしております上位精霊(ハイ・スピルト)のドリュアス・グ=リーフです。以後お見知りおきを……』

「は……はい! 先頃、お母様より魔王の力を継ぎ新たな魔王になりましたミラ・オリヴィエです。

 コチラこそよろしくお願い致します」


 相変わらず固いな…… 本来なら相手は魔王では無く一介の精霊なんだ、そこまで畏まらなくてもイイのに……

 もっともドリュアスはこのキング・クリムゾンの実質的な支配者といっても過言じゃ無い存在だ。

 敬意を持って丁寧な態度で当たるのは悪くない。


 そして名目上の支配者であるアーリィ=フォレストはと言うと……


「…………」


 柱の影からこちらを窺う家政婦スタイル…… 絶賛、人見知り発動中だ。


 警戒してるなぁ…… 仕方ないか、ミラは不倶戴天の敵の娘だ。

 中身は聖女でも見た目は母親そっくり、すぐに受け入れることはできないか?


「え……と、アーリィ=フォレスト様ですね? その節は母がご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」

「…………」


 返事はない…… その目は「ダマされるもんカ!」とでも言っているようだ……

 いや、実際に思っているだろう。

 ミラに対する警戒感がパネェ…… 以前から知り合いだったウィンリーはともかく、初対面だった琉架にもここまで警戒はしなかったんだが……

 やはり先代・第6魔王の影響、受けまくりだ。


 まぁ、攻撃してこなかっただけマシと考えよう。

 無理やり仲良くしろと命令しても逆効果だろうし、なにかプレゼントでもすればアーリィ=フォレストは案外単純だからその内馴れるだろう。

 人魚族(マーメイド)秘蔵の百科事典でも贈れば一発だ。


「あ……あのぅ……」

「……………………」


 まともにコンタクトを取れそうにない……

 さっきからずっと無言でミラを睨み続けている。この場に留まり続けているのは俺の手前、逃げる訳にはいかないという心理が働いているのかもな……

 そんな心理が働くなら、もう少し俺のメンツの為に頑張ってくれよ。


『申し訳ございませんミラ様。我が主は思い込みの激しい所がございまして、一度固定観念が固まってしまうとなかなか新しい価値観を上書きする事が出来ない性質なのです』

「いえ、いいんです。コレはお母様が今までしてきた所業の結果です。お母様の後を継いだ以上、その責任は全て私にあります。

 人に嫌われる事も、恐れられる事も、全て覚悟の上で魔王を継いだのです。ですから謝らないで下さい」

『ミラ様……』


 あぁ…… ドリュアスが何を考えてるのか予想が付く…… きっと「この人が私の主だったら……」とか考えてるな、あの目は…… うん、間違いない。

 ミラとアーリィ=フォレスト、どちらかの下で100年働けとか言われたら…… 間違いなくミラの下を選択する。

 考えるまでも無い。


 仕方ない、本当は神術について色々聞きたかったが、また今度にしよう。

 最低限ミラに敵意を向けない所まで行ったら、次のステップに進もう。

 アーリィ=フォレストはきっと色々な事を同時に出来ないタイプだ、ミラとの関係が良くないのに他の事を始めたらずっと改善されないままになる。

 今日は必要な事だけ聞いて、後は自分で検討しよう。

 つまりゲートの自動制御法について……


「ドリュアス、俺はアーリィ=フォレストに聞きたい事があるんだけどさ……」

『心得ております、あの引きこもりにガツンと言ってやって下さい』


 いや…… 俺アイツの親じゃないんだから、そういう教育的指導は……


「はぁ…… ちょっと話してくるからミラの相手を頼んでいいか?」

『お任せください! 私の持てる全てを駆使し、ミラ様にご満足いただけるよう心がけます!』


 なんだこの気合いの入りようは?

 どうやらミラはドリュアスには気に入られたようだ。

 自分の主より明らかに対応が丁寧だ。アーリィ=フォレストならもっと適当に扱われてるだろう。

 敬われて無いなぁ…… 哀れなりアーリィ=フォレスト。



---



「がるる~~~」

「威嚇するんじゃない、獣じゃないんだから」

「カミナ君! あの子は魔性の女の匂いがします! 間違いありません!」

「魔性の女って…… その根拠は何だ?」

「見た目です! だって淫乱糞ビッチにソックリ!」


 見た目だけかよ…… 仮にも“探究者”と呼ばれてるのなら、もうちょっと理論武装しろよ。


「彼女は人魚族(マーメイド)だ。見た目が似るのは当然だろ? ましてや実の娘だ」

「それは淫乱糞ビッチの遺伝子を継いでいるということ…… やはり危険です! ある日いきなり牙をむいて、カ……カミナ君に襲い掛かるかも知れません!」


 ………… それこそ望むトコロだ。むしろ早く来てほしいくらいだ。ウェルカム!

 もっとも酔っ払ってでも無い限り、ミラがそんなことするとは思えないがな。今度酒飲ませてみようかな?


 まぁ、それは置いといて……


「今日はアーリィ=フォレストに聞きたい事があって来たんだ、門を開きし者(ゲートキーパー)関係で」

「聞きたい事? 私なんかでお役にたてるのでしたら……」

「アリガト、知りたいのはゲートの自動制御方法についてなんだ」

「自動制御方法?」


 実在するかどうか分から無いモノだが、魔王レイドの性格からしてそれに近いモノが存在すると思う。


「自動制御ですか…… 可能性があるとすれば使途が制御を行っていた場合ですかね?」

「使途が?」

「はい、使途とは魔王の力の極極一部を持っています。もちろん門を開きし者(ゲートキーパー)を使う事は出来ませんが、制御だけなら不可能ではないかと……」


 確かに転移の間でならゲートサイズをコントロールするだけで常時展開状態に出来るかもしれない……

 普段はゲートを限りなく小さくして、魔力消費を極限まで抑える。そして必要な時だけ大きくする……

 この方法なら可能かもしれない。


 しかし使途か……


 使途は魔王程の不老不死性を持ってる訳じゃ無い。

 生物である以上、不眠不休で制御を行える訳でも無い。


「もしかしたら人工精霊による無機物使途かも知れませんね」

「人工精霊? 無機物使途?」


 何だそれ? いや…… 無機物使途は何となく理解る。

 以前、使途作成方法をウィンリーに教えてもらった時に聞いた、宝石の使途の話…… アレが恐らく無機物使途だろう。

 だったら人工精霊ってのは何だ?


「人工精霊とはその名の通り、術者が自分で創り出した精霊の事です。

 従来の精霊とは、例えばドリュアスの様に自我を持ち、術者が召喚する事により呼び出し、使役するモノです」

「人工精霊は呼び出すモノじゃ無い?」

「はい、精霊とは魔力そのものといえる存在です。人工精霊とは創り出した人の魔力とプログラムによって動くものです。

 精霊と人工精霊はその本質が「魔力により存在する」という共通点があるだけで、全くの別物なんです。

 ただし人工精霊は魔力濃度の濃い場所でないと、長生きできないですけどね」


 つまりプログラムに沿って動く魔力システムと言ったトコロか……

 機械的なシステムじゃ無ければ魔王レイドのグレムリン特性・マルファクションの影響で壊れることも無い……ってコトかな? 魔道具をもう一段階発展させた感じか……

 更にそれを使途化すれば、魔王が死なない限りずっと働き続けてくれると……


 確かに色んな意味で条件に合ってる。

 人工精霊の使途、コレがゲートの自動制御の正体の可能性が高い。


「アーリィ=フォレストは人工精霊を創れるのか?」

「やろうと思えばできますけど…… その為には精霊魔法を習得する必要がありますね」


 つまり魔法の使えない俺には創れないって事か…… まぁウチには精霊魔法の専門家がいるからそこはイイか。


「後、人工精霊を創るには特別な“(コア)”が必要になります」


 (コア)…… 最近たまに聞く単語だな。


「精霊とは魂に魔力が宿った存在と言われています。人工精霊には魔力とプログラムを入力するための“(コア)”が必要なんです」

「なるほど…… あと一つだけ、無機物使途の作り方って分かるか?」

「いえ、歴史上 無機物使途を作り出したのは第10魔王だけです。

 アイツの情報ってとにかく出てこないんです。1200年も大氷河に閉じこもっているような奴ですから。

 神代書回廊(エネ・ライブラリー)にも情報が載らないとか異常ですよ、アイツは!」


 …………


 コレはツッコミ待ちか? 彼の魔王同様、1200年間引きこもり、神代書回廊(エネ・ライブラリー)にも情報が載らなかった魔王が、今、俺の目の前にも一人いるんですが……

 いや…… ツッコまないでおこう。

 本人にも自覚が無いようだし……


 第10魔王は1200年ぶりに出てきて、戦争を始めた。それに比べればアーリィ=フォレストは実に立派だ、人に迷惑を掛けてない。

 俺には多少の迷惑が掛かっているが、それは…… うん、可愛いから許す。ブスだったら許さんがな。


 それにアーリィ=フォレストは普段のダメっぷりからは想像も出来ない程、丁寧にモノを教えてくれる。決して悪い子じゃ無い。ミラに対して殺気を放つのをヤメテくれれば言う事なしなんだが……

 とにかく、第7魔王と第10魔王を同列に語るのは止めるべきだ。


「しかし第10魔王か…… アイツを倒せと誰かに強制されてる気分だ」

「あ! もしアイツと戦ったなら色々教えて下さいね! ぜひ知りたいです!」


 更に第10魔王を倒せという意見が増えた……


「アーリィ=フォレストもアイツの事は知ら無いのか?」

「そうですね…… とにかく外に出てこない奴だったので…… 少々癪ですが、ウィンリーの方がアイツの事を知ってるでしょう」


 やはりそうか…… 今度ウィンリーが遊びに来た時に聞いてみよう。



---



『もうお帰りになられるのですね? 残念です、ぜひまたお越しください』


 お見送りをしてくれるドリュアスはとても残念そうだ。

 そしてアーリィ=フォレストは柱の影から覗き見してる…… 先は長いな……



 ガイアに帰る前、アトランティスに寄り道する。

 その為にわざわざ属性変化魔法を掛けて貰ったんだ。


 目的はドリュアスに頼んでおいた人魚族(マーメイド)耳長族(エルフ)の友好について。

 ……と、言うのは建前で、美しい人魚が舞い踊る国に行ってみたかっただけだ。




「セイレーン! それとカミナ君だっけ? 久しぶり!」


 シャーマンみたいな恰好をしたマリーナに出迎えられた…… 何か勘違いされてるようだ。

 コイツのこの格好の所為だろうか? 人魚族(マーメイド)は一人も近づいてこない…… みんな遠巻きに奇異の視線を送ってくるだけだ。

 またしても、俺の野望は邪魔された! くそっ! コイツ何でこんな痛々しい格好してるんだよ!


「私は魔王様の意思代弁者だから、普通の格好をしてても誰も話を聞いてくれないから、威厳とか神秘性を出そうと思ってこの格好に至ったの。

 地上の人たちはこの格好をする者を神の声を聴くもの呼んでるらしいわね!」


 なるほど…… そういうことか…… コイツ天然だったんだ。


 ミラがマリーナと人魚族(マーメイド)の今後について話し合っている側で、俺はその人魚族(マーメイド)を見て目の保養を測る。

 そこで気付いた。

 避けられてるのはマリーナだけじゃ無く、俺自身も避けられていたのだ。


 当然だった。

 人魚族(マーメイド)だけの国に、何の装備も無い人族(ヒウマ)の男が来たら警戒するのは当たり前だ。


 彼女たちと仲良くなるには何度も来るか、地上で親交を深めるのが絶対条件だった。

 しかし何度もここに来るということは、その度にアーリィ=フォレストに借りを作る事になる気がする…… それは何かヤダ。

 ミラを訪ねてくる人魚族(マーメイド)が狙い目か?


 ふと視線を移すと、そこにいるのはシャーマンルックのマリーナ……

 あんなのに何度も訪ねて来られるのは迷惑だ。


 ちなみに人魚族(マーメイド)秘蔵の百科事典など存在していなかった。

 1200年前のアトランティス沈没の際に失われたとか……


 因果応報…… 人生ってままならないな……




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