第123話 クレムリン
炭鉱族、第二次魔王大戦・参戦!!
そのニュースは大空洞平定後、僅か一週間で世界中へ広がった。
思っていた以上に早い…… 正直、参戦時期は一ヵ月後ぐらいだと思ってた……
きっとキリマンジャロが張り切ったんだろう。脳筋だからな。
とにかくこれにより、苦しい戦いを強いられていた連合軍に余裕ができた。
何でも炭鉱族は積極的に前に出て、タンク役を買って出るらしい。
もしかしてドM?
いや、罪滅ぼしの意識が働いているのだろう。
この仕事っぷりは悪くない、中央大陸はともかく、トゥエルヴでは第8魔王の被害は元々そんなに多くなかった。海を挟んでいたからな。
つまり炭鉱族の評判もすぐに上がる。
そうすれば、第8魔王の一番の被害者であった獣衆王国も、いずれは許してくれるだろう。
ライオンキングやオルフェイリアは簡単に許してくれそうな気がする……
その内顔を出してみるか、炭鉱族の参戦をプロデュースした魔王として奴らのフォローくらいはしてやってもイイかな?
ただあの国に行くと結婚話が出てきて我がギルド内の空気が悪くなるんだよな……
オルフェイリアだけに会ってこよう。ライオンキングが出てくる前に逃げる!
うむ、このプランで行こう。
そんな訳で街中の空気もどことなく明るい。
最近はいいニュースが連続しているからな。
第6魔王の死…… 浮遊大陸・アリア墜落…… そして炭鉱族の参戦……
俺と琉架が戻って来てから、シニス世界はいい方向へ回り出した気がする…… きっと女神の加護だな!
とにかくこれで帰還計画に手を付けられる。
まずはゲート設置予定地、魔王城・クレムリンの調査だ。
---
魔王城・クレムリン
悪夢の魔王2連戦の記憶が甦る……
魔王レイドの跳躍衣装を封じるために、出血多量で死にかける……
上空10000メートルから魔力枯渇状態での、パラシュート無しスカイダイブで死にかける……
魔王ウォーリアスに目を付けられ、過重力で潰されかけて死にかける……
更に太くて黒光りしてて反り返ってるアレを刺されそうになり、色んな意味で死にかける……
要するにこの城での思い出は常に死と隣り合わせだった訳だ…… なんで俺はココに戻ってきたんだろう?
しかしココは第11魔王城・クレムリン…… つまり第11魔王の居城だ。
それって俺の城って事じゃないのか?
自分の家だと思えばロクな思い出がないこの場所でも、気持ち輝いて見える…… ワケねーか。
この城では何千人って人が死んでいる…… 要するに事故物件みたいなモノだ。
さすがにココで『絶対天国計画』を発動する気には成れない…… あまりにも不謹慎だ。
やっぱり新築が良いな、どこかに余ってる浮遊大陸とか無いかな? 島サイズでイイんだけど……
デクス世界の楽園村も昔は浮き島だったって伝承が残ってたし、探せばどこかにあるかもな。
とにかく俺はこの城に住む気は無い。
自分が魔王だと宣伝しているようなものだからな。
そんなワケで一年とちょっと振りにクレムリンに戻ってきた。
「なにか…… すごく懐かしいなぁ…… ここで魔王と戦って、気付いたらデクス世界に飛ばされてたんだよね?」
「あぁ…… 完全に予定外だった。まさかあんなコトになるとは……」
とにかくココには嫌な思い出ばかりある。さっさと済ませてしまおう。
「………… おに~ちゃん…… 手、出して」
「ん?」
白が手繋ぎを要求してきた。
普段から白と歩く時は手を繋ぐのがデフォルト設定なんだが?
「こうしてれば…… 突然居なくならないから……」
あら可愛い、どうやらこの場所に嫌な思い出があるのは俺だけじゃ無いらしい。
ミカヅキもミラも…… ついでに先輩にとっても悪夢の場所なんだ。
大丈夫! 女子高生に人気在りそうな歌の歌詞並みに、繋いだ手離さないから!
現在クレムリンには連合軍の駐留部隊がいる。
俺達が妖魔族のヴァルトシュタインを倒したおかげで、クレムリンを取り返す事が出来たからだ。
もう二度と奪われたりしないように、ココと古来街道大要塞の間に有線でホットラインが引かれるそうだ。
何故に有線? 魔導通信はこっちの世界にも存在してる。
いきなり敵の大軍が現れたら駐留部隊だけでは守りきるのは難しいだろうが、籠城して助けを待つのが基本方針らしい…… いきなりホットラインを切られたらどうするんだろう?
まぁ、定時連絡が取れなくなれば大軍を寄越すか……
まだ可能性の話だが、もしここでゲートを常時開放できたとしたら…… 更にデクス世界でも同じような場所が見つかったら……
ここは二つの世界を繋ぐ交易の玄関口として大きく栄えるだろう。
もっとも魔王リリス辺りに邪魔されそうな気がするが……
いや…… まずは第一歩から。
未来の事は脇に置いておこう。
クレムリンの地下、通称『転移の間』は今でも学者たちが色々と調べ回っている。
しかし未だに何一つ掴めてはいないらしい。税金の無駄遣いだな。
本来は特別な許可を得た者しか立ち入る事が出来ないが、そこはSSランクギルドのネームバリューを存分に使わせてもらう。
今日一日は我らD.E.M. しか転移の間に立ち入る事は出来ない。
床や壁、天井が薄暗く発光している地下通路を地図通りに進むと、巨大な扉に行き当たる。
「ジーク、頼む」
「うむ」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
やたら重苦しい音を立てて扉が開かれる…… そこに奇妙な形の部屋が現れた。
「ピラミッドみたいな形の部屋…… いや、違う…… 下もか? 正四面体の部屋?」
奥行100メートル位ありそうな正四面体の部屋…… 青白い光で満たされたソコは、魔王城でありながら神聖な雰囲気が漂っている。
床は透明度の高いガラスのようなモノで出来ていて、まるで空中に立っているかのようだ。
ちなみに光量が足りないのか床に映る自分の姿はしっかりとした像を結ばない…… つまりパンツは見えないってコトだ。残念。
てか、広いな! こんなに広大な地下空間が魔王城の下に存在していたとは…… 異次元空間ってワケじゃ無さそうだが……
「これは…… うっ! うぷっ……」
部屋に入った瞬間、ミカヅキが体調を崩した。
俺でも理解る…… この部屋に充満している魔力濃度は異常だ。
「しゅこー…… しゅこー……」
ミカヅキは初めて出会った時に着けていた魔力マスクを装着していた。
魔力酔いは鬼族の子供にみられる症状だと言ってたが、まだ克服できてないのか。
しかし懐かしい姿だ…… ミカヅキと初めて出会った時の事を思い出す…… いきなりゲロ吐かれたっけ。
もう遥か昔の出来事のようだ、具体的に言うと物語100話分くらい昔だった気がする。
「辛かったら部屋から出た方が良いぞ? この魔力濃度はきついだろ?」
「いえ…… マスクさえ付けてれば平気です。ご心配お掛けしました……」
まだきつそうだが、さっきよりは落ち着いてるか…… ならば本人の意思を尊重しよう。ヤバそうだったらマスター権限で退出を命じればいい。
それにしてもこの部屋…… 魔力濃度が濃いと言うより、淀んでいる感じだ。
これはミカヅキじゃ無くても健康に悪そうな感じがする。
「この部屋何も無いよ? そもそもゲートはどこにあったんだろう? やっぱり中央かな?」
「そういえば学校で習ったのはこの部屋までのルートで、部屋の内部については触れられて無かったなぁ」
「この感じは…… ふ~む……」
伊吹と先輩とジークは勝手にどんどん進んで行ってしまった。
協調性が無いと言うか…… 警戒感が無いと言うか……
しかし何もない訳じゃ無い、よく見れば壁に大量の魔法陣が描かれている。
そして足元の透明な床、ここにも目を凝らさなければ見えないであろう巨大な魔法陣がある。
この魔法陣の中心、この部屋の中心に恐らくゲートがあったんだ。
「ジーク、お前魔法陣に詳しいだろ? この部屋に描かれてる魔法陣が何だか分かるか?」
「ん? 何処に描かれてるのだ?」
「は?」
そこでようやく気付いた、この魔法陣は普通のヒトには見えないんだ。
緋色眼を通さなければ見えない魔法陣だったんだ。
どうりで研究が進まないハズだ。存在すら気づかない、見えないモノを調べられるはずが無い。
面倒臭いが魔法陣を一つデッサンしてそれを見せる。
「これは…… 永続型魔法陣の一種だな」
「永続型魔法陣?」
「うむ、永続型魔法陣とはその名の通り、周囲の魔力を自動で集め、稼働し続ける魔法陣の事だ。
この文様は魔力溜まりを作るためのモノだろう」
「魔法陣を稼働させるには魔力が必要なんだろ? それで魔力溜まりなんか作れるのか?」
「永続型の術式は少量の魔力で効果を発揮する。問題無く魔力溜まりを作れるだろう」
魔力溜まりを作る魔法陣、そんなものがココに設置されてる理由はやはりゲートに関係しているからだろう。
一度ゲートを発生させて、魔力の流れを見てみないといけないな。
その前に、せっかく魔法陣の専門家がいるんだから確認しとかないと……
「カミナよ、何故お前にだけ魔法陣が見えるのだ?」
「俺だけじゃない、多分琉架とミラにも見える」
「! 魔王の力か?」
「この眼だ、緋色眼は魔力やオーラといった普通は見えないものが見えるんだ」
ジークに朱い左眼をガン見される…… 筋肉ダルマと見つめ合うとか勘弁してくれ……
「なんと…… そんな便利な眼があったのか…… 是非とも一つ欲しいところだな」
「だったら魔王を倒すんだな。そうすりゃ漏れ無く付いてくる。但し狙うのは五大魔王同盟以外にしろよ?」
「それは…… なかなかリスクが高いな……」
おい、まさか本気で魔王を目指すとか言い出さないだろうな? 魔王同盟に男はいらないんだけどな……
あ、別に同盟組まなくてもいいのか、困った時に醤油の貸し借りが出来る程度の付き合いでも良いんだ。
魔王同盟のお隣さんだな。
それなら魔王を目指すことを許可してやろう。
「…………」
「…………」
そしてなぜか白とミカヅキがジークを睨んでる…… あの不能筋肉! 俺の嫁に何しやがった!
後でタイキックの刑、決定!
---
琉架とミラにも手伝ってもらい、壁に描かれている魔法陣を模写する。
くそっ! どうして魔法陣ってのはこう凝ったデザインなんだ! 統一感がある様でない様な、ハッキリ言って面倒臭い!
二重丸に縦線一本とか楽なデザインにしろよ!
…………
いや、そのデザインはダメだ。今の無し!
部屋の壁に描かれてる魔法陣は大小様々だが、大きいモノで1つが直径1メートル程……
そんなモノがこれでもか!ってほどある。恐らく1000はくだらない。
本来なら早々に諦める所だが、壁に描かれている魔法陣は殆んどが同じモノだ。細部が極僅かに違うが、種類は同じモノに分類されるだろう。
壁に描かれていた魔法陣は以下の4つ……
永続型・魔力収集魔法陣
周囲から自動的に魔力を集めてくる魔法陣。これが一番数が多い。
永続型・魔力停滞魔法陣
集めた魔力を外に漏らさないようにする魔法陣。
永続型・魔力対流魔法陣
部屋の中で魔力を対流・攪拌するための魔法陣。この魔法陣だけ永続型であるにも拘わらず、機能を停止しているらしい。だから魔力が淀んでたんだ。
永続型・精製阻止魔法陣
コレが一番重要な魔法陣。この高濃度の魔力溜まりが魔宮を創り出すのを阻止するためのモノだ。
本来魔法陣とは、魔力を別のエネルギーに変換したり、精霊を召喚したり、転移したりする為に用いるモノだ。
しかしココにある魔法陣は全て魔力をこの場に留める為のモノだ。
あのイタズラ者のクソガキ、魔王レイドにこれほどのモノが作れたとは思えない。
だとすればこの部屋は、古代神族の遺産。彼らが次の世代の為に残してくれたものかもしれない。
あと一つ、床に掛かれた巨大魔法陣か…… 100メートル近くあるコイツもデッサンしなきゃいけないのか……
こんな事ならアーリィ=フォレストでも連れてくるんだった……
---
「ねぇ~、神那ク~ン! お腹空いたんですけどぉ~?」
「おにーちゃーん、まだ終わらないのぉ? 飽~き~た~」
くそっ! ムカつく! 先輩と妹が俺のイライラを増幅させる!
ハーレム除外メンバーは「がんばって」の一言も掛けてくれない…… そんなだから除外されるんだ。
模写を始めて既に3時間、みんなには休んでいてくれと言ってある。
嫁達は俺の方を心配そうに見て、時折り優しい言葉を掛けてくれる。ウチの嫁は良妻揃いだ。
問題は嫁以外の奴等だ。
先輩は寝っころがってボ~っとしてる……
伊吹は携帯ゲームで暇つぶしだ。
ジークに至っては寝てる…… うるさくしないだけコイツが一番マシだ。なんかムカつくけど……
そして……
「ふぅぅぅ~~~! 終わったぁーーー!!」
ようやく模写が完成した。
途中、何度もこの城ごとぶっ壊してやりたい衝動に駆られるも、精神力で抑え込み、何とかやり遂げた! 俺……頑張ったよ……
しかし溜め込んだストレスが爆発寸前だ、どこかで発散しなければ…… 勇者はまだ入院してるかな?
「神那、お疲れ様」
「…………平気?」
「ご苦労様でした。どうぞお休みになって下さい」
「だ……大丈夫ですか?」
嫁達の優しさが俺を癒してくれる…… 疲労時にはタウリン1000mgかコレに限る。
除外メンバーとはワケが違うぜ!
「ようやく終わったか、どれ、見せてみろ」
待ってましたとばかりにジークが起きだしてきた…… 何か偉そうでムカつく……
「ふむ…… これは……」
「どうだ? 何か分かるか?」
「…………分からんな」
俺の三時間の苦労の結晶が一瞬で無駄になった。
キレちゃおっかな? イイよね? キレても…… どうせコイツ死なないし!
歯ぁ食いしばれぇ! 超絶破壊をぶち込んでやる!
「これは召喚の魔法陣だが、こんな複雑怪奇な術式は見た事が無い…… いや、かつて一度だけ似たモノを見た事がある……」
「なに?」
「地下迷宮『ラビリンス』の最下層でだ。結局その魔法陣の正体は掴めなかったがな」
ラビリンスの最下層…… 似たモノってコトは、これとは別物ってコトだ。何の参考にもならん。
やっぱり超絶破壊かな?
「コレは少なくとも生物召喚では無い。さらに巨大魔法陣特有の、魔力注入点も見当たらない。謎だな」
「魔力注入点?」
「うむ、従来の魔法陣はどこからでも魔力を注入できるのだが、一定の大きさを越えると注入点が必要になる。この魔法陣にはそれが無い」
要するに起動方法すら分からないってことか…… これは魔法陣の専門家だけじゃ手に負えない案件だ。
遺跡の専門家が必要だ、やはりアーリィ=フォレストを連れてくるんだった……
巨大魔法陣は置いておくとして……
これだけの魔力濃度があればしばらくはゲートを開きっぱなしに出来るかもしれない。
「試してみるか……」
「ん?」
ゲートを発生させてみる。
この場所でどれだけ開いていられるかを確認するために。
コレで良い結果が出れば数週間の内に帰還計画が実行できるかもな。